東日本大震災:出荷停止拡大 知事強調「東電と国は補償を」 県対応に遅れも /茨城
食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたとして、ホウレンソウに続き、新たに県産のパセリと原乳にも国が原子力災害対策特別措置法に基づく出荷停止を指示したのを受け、橋本昌知事は23日午前、県庁で緊急会見を開き、懸念される県産農産物の風評被害について「東電と国に補償を約束してもらいたい」と強調し、「原発事故が収束しないと、次の対策に進めない」といらだちを募らせた。一方、県は22日に原乳とパセリから放射性物質が検出された結果を把握しながら、国の出荷停止指示を待ち、22日に県が独自に出した業界団体への自粛要請を発表しないなど、ちぐはぐな対応が浮き彫りになった。生産者から「数字は早く知らせてほしい」と批判が挙がっている。【大久保陽一】
県によると、水戸市と河内町の原乳から放射性ヨウ素が規制値(1キログラム当たり300ベクレル)を上回る1700ベクレル、鉾田市産のパセリから放射性ヨウ素が1万2000ベクレル、放射性セシウムが2110ベクレル検出された。
このうち、原乳のヨウ素は、いずれも放牧された牛から検出されたもので、牛舎内で飼育された牛の放射性物質は基準を大きく下回っている。橋本知事は「放牧と牛舎で(数値に差があるので)区別してもいいと思っているが、国は一つに設定している。(酪農家への出荷停止の)影響は大きい」との懸念を示した。
また、県は23日、県産の牛肉、豚肉、鶏卵(いずれも20日採取)について、放射性物質は検出されなかったとする独自の検査結果を公表した。
県には生産者からさまざな品目について独自検査を求める声が寄せられており、橋本知事は「必要に応じてやっていきたい」との考えを示しながらも「本来は国が品目を指定して行うべきではないか」と指摘した。
◇「搾りたて生乳捨てた」−−小美玉酪農家
小美玉市の美野里酪農業協同組合には22日午後4時前、県連合会から原乳の出荷自粛要請が伝えられた。同組合に加入し、乳牛30頭を飼育する専業酪農家を営む秋葉昭夫さん(34)は「やっと出荷できるところまで来た矢先なのでショック。搾ったばかりの生乳を捨てました」と無念の思いを語った。
23日午前には33軒の組合員が出席して定例総会を開催。朝倉実行組合長は総会後、「宮崎の口蹄疫(こうていえき)の時のように、牛を殺せと言われたほうがいいぐらい状況が厳しい」と語った。総会には、県酪農業協同組合連合会長の大槻和夫会長も出席し、補償問題などを協議したという。
茨城県南地区の6市町の酪農家が加盟する利根酪農業協同組合では、パイプラインの被災や紙パック不足などを克服し、22日にようやく操業再開した矢先に出荷自粛要請を受けた。同組合加盟の酪農家35戸のうち、地盤の液状化現象で牛舎が傾く被害などに遭った3戸が震災を機に廃業しており、手塚恵博組合長(59)は「予防措置としての出荷自粛は分かるが、長く続けば廃業する人はもっと増える」と危惧する。
水戸市の「いばらく乳業」は震災後、18日に操業再会したが、紙パックなど資材不足などから製造量は震災前の2割程度。出荷停止指示を受け23日は親会社のメグミルクに依頼し、他県の原料乳15トン分を調達した。加藤稔常務は「県内産の牛乳を飲みたいという住民は多い。県内産の原乳の分析結果が安心な値になれば、すぐに県産の牛乳をつくりたい」と話した。
古河市東山田で乳牛20頭を飼育する増田景一さん(63)は「牧草はビニールでこん包し雨に当たらないよう倉庫で保管していた。検出の放射線は空中に漂って来たのが検出されたのでは」と、管理体制に関係なく原乳が出荷停止になったことに不信感を募らせる。原乳は下水道に流すこともできず「現時点は尿ために入れるが、満杯になれば、畑に穴を掘り処理しなければならない」と顔をこわ張らせていた。【橋口正、山崎明子、宮本寛治】
◇「出荷停止は人災だ」−−鉾田のパセリ農家
パセリ産地、鉾田市の「JAかしまなだ」(三保谷二郎組合長)=同市安房=は23日朝、国の発表で数値を知らされた。県の農林水産部の依頼で同市の鹿行農林事務所が畑からパセリのサンプルを採取したのは21日午後6時過ぎ。三保谷組合長は「22日に何度も数値を知らせるよう県に要請したがだめだった。責任逃れのために、県は国の発表を待っていたのではないか」と疑問を投げかけ「素早く数値を公表し、出荷停止の措置を取るべきだったのではないか」と語った。
同市舟木でパセリなどを生産する浅野登さんの妻純子さん(53)は「今年は日照もよく昨年よりも期待していただけに残念。地震と津波は天災だが、出荷停止と風評は人災。農家にとっては本当に深刻だ」と嘆いた。
同市でパセリの生産が始まったのは約20年前。品質の高さで全国指折りの産地となり、06年に県から銘柄産地の指定を受けた。作付面積は約15ヘクタールで、17軒の専業農家が年間17万ケース(5キロ換算)を出荷している。【岩本直紀】 ■発表の現場から
◇国の指示待たず、県は数値公表を
出荷停止品目の拡大を受けた緊急会見で橋本知事は「(国から)指示が出たら記者会見をしなければと思い午後11時まで待っていたが、何度、国に問い合わせしても結論がこなかった」と1日遅れの発表について国の姿勢を批判。県は「22日に出荷自粛を要請しており、実害はない」と国に先んじて対策を打ったことを強調した。
しかし、県は22日には数値も自粛要請した事実も公表していない。県政記者クラブの取材記者の間には同日夜「原乳で特異なデータが検出され、橋本知事が深夜にも緊急会見をする」との断片的な観測が広まり、遅くまで待機するなど緊迫した雰囲気になった。パセリ生産者も数字が知らされないまま不安な1日を過ごしたという。
風評被害対策は重要だ。県は国と足並みをそろえ情報統制しようとしたのかもしれないが、品目や数値の発表を遅らせれば憶測はかえって広がるだけだ。
県は19日のホウレンソウの出荷停止指示では国に先立ち独自判断でデータを公表し、不必要な不安が広がらないよう訴えた。不安を広げないためにも、県は国の指示を待たず、独自に入手したデータは公表し、県民に適切な判断材料を示してほしい。【大久保陽一】毎日新聞 2011年3月24日 地方版
==============
〈来栖の独白〉
おかしなことを、私は云う。原子炉の画像を目にする度に、原子炉が泣いているように見えてしまう。今となっては地上に汚染をもたらし、人間の生命を脅かす元凶。無惨な姿を晒している。哀れだ。
柔らかで目に優しいほうれん草も、泣いているように見える。「山川草木悉有仏性」、日本の仏教ではよくこんなことを言う。聖書においては、「神は陽光を注ぎ雨を降らせて作物を養ってくださる」という概念がある。
神が育ててくださり、農家の皆さまが丹精してくださった野菜や牛乳だが、口にすれば健康を害するから、と捨てる。O157のときも、鳥インフルエンザの時も、口蹄疫の時も、そうであった。痛ましい。「勿体ない」「罰が当たる」と言えば、顰蹙を買うのだろうか。
報道に過剰はないか。いたずらに不安を掻きたててはいないだろうか。
ささやかだけれど私どもも、被災された方々の救いを祈り、具体的に支援の行動も起こした。しかし、いま「震災被害」から離れての言動に暗黙の規制、微妙な後ろめたさを禁じえない、そういう空気がこの国にあるように思えてならない。一方向にしか目を向けることを許さない。この空気が極端にエスカレートしたのが、先の戦争ではなかったか。
菅政権は谷垣氏に入閣を打診し、或いは「復興庁」の新設を口にした。官とメディア(大本営)が一体となって、扇情的な「震災」が日本を覆う。国家・国民総動員だ。国民一人ひとりの自由な発言を規制する。
昨夕は、セントラル愛知交響楽団の演奏を聴きに行った。3月31日が「オーケストラの日」、それに因んでの演奏会。セントラルの、私はコンマスとチェロの奏者のファンである。最前列の中央の席でベートーヴェンを堪能した。至福。セントラルの演奏は、メリハリというのか、私の好みの演奏。
弟が亡くなってからの数年、私の気持ちはバッハしか受け付けず、毎日独りバッハだけ弾いた(ピアノ)。やがてショパンも弾けるようになり、そしてベートーベンも弾くようになった。ベートーベンは私を虜にした。20歳頃から徐々に耳が聴こえ難くなり、自殺も考えたベートーベン。音楽家でありながら耳が聴こえない、なんという苛酷だろう。そういうベートーベンが、音楽で、私に力をくれた。
ここでも、受付で義援金の呼びかけがあり、司会者は先ず震災被災者への気持ちを表白した。
食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたとして、ホウレンソウに続き、新たに県産のパセリと原乳にも国が原子力災害対策特別措置法に基づく出荷停止を指示したのを受け、橋本昌知事は23日午前、県庁で緊急会見を開き、懸念される県産農産物の風評被害について「東電と国に補償を約束してもらいたい」と強調し、「原発事故が収束しないと、次の対策に進めない」といらだちを募らせた。一方、県は22日に原乳とパセリから放射性物質が検出された結果を把握しながら、国の出荷停止指示を待ち、22日に県が独自に出した業界団体への自粛要請を発表しないなど、ちぐはぐな対応が浮き彫りになった。生産者から「数字は早く知らせてほしい」と批判が挙がっている。【大久保陽一】
県によると、水戸市と河内町の原乳から放射性ヨウ素が規制値(1キログラム当たり300ベクレル)を上回る1700ベクレル、鉾田市産のパセリから放射性ヨウ素が1万2000ベクレル、放射性セシウムが2110ベクレル検出された。
このうち、原乳のヨウ素は、いずれも放牧された牛から検出されたもので、牛舎内で飼育された牛の放射性物質は基準を大きく下回っている。橋本知事は「放牧と牛舎で(数値に差があるので)区別してもいいと思っているが、国は一つに設定している。(酪農家への出荷停止の)影響は大きい」との懸念を示した。
また、県は23日、県産の牛肉、豚肉、鶏卵(いずれも20日採取)について、放射性物質は検出されなかったとする独自の検査結果を公表した。
県には生産者からさまざな品目について独自検査を求める声が寄せられており、橋本知事は「必要に応じてやっていきたい」との考えを示しながらも「本来は国が品目を指定して行うべきではないか」と指摘した。
◇「搾りたて生乳捨てた」−−小美玉酪農家
小美玉市の美野里酪農業協同組合には22日午後4時前、県連合会から原乳の出荷自粛要請が伝えられた。同組合に加入し、乳牛30頭を飼育する専業酪農家を営む秋葉昭夫さん(34)は「やっと出荷できるところまで来た矢先なのでショック。搾ったばかりの生乳を捨てました」と無念の思いを語った。
23日午前には33軒の組合員が出席して定例総会を開催。朝倉実行組合長は総会後、「宮崎の口蹄疫(こうていえき)の時のように、牛を殺せと言われたほうがいいぐらい状況が厳しい」と語った。総会には、県酪農業協同組合連合会長の大槻和夫会長も出席し、補償問題などを協議したという。
茨城県南地区の6市町の酪農家が加盟する利根酪農業協同組合では、パイプラインの被災や紙パック不足などを克服し、22日にようやく操業再開した矢先に出荷自粛要請を受けた。同組合加盟の酪農家35戸のうち、地盤の液状化現象で牛舎が傾く被害などに遭った3戸が震災を機に廃業しており、手塚恵博組合長(59)は「予防措置としての出荷自粛は分かるが、長く続けば廃業する人はもっと増える」と危惧する。
水戸市の「いばらく乳業」は震災後、18日に操業再会したが、紙パックなど資材不足などから製造量は震災前の2割程度。出荷停止指示を受け23日は親会社のメグミルクに依頼し、他県の原料乳15トン分を調達した。加藤稔常務は「県内産の牛乳を飲みたいという住民は多い。県内産の原乳の分析結果が安心な値になれば、すぐに県産の牛乳をつくりたい」と話した。
古河市東山田で乳牛20頭を飼育する増田景一さん(63)は「牧草はビニールでこん包し雨に当たらないよう倉庫で保管していた。検出の放射線は空中に漂って来たのが検出されたのでは」と、管理体制に関係なく原乳が出荷停止になったことに不信感を募らせる。原乳は下水道に流すこともできず「現時点は尿ために入れるが、満杯になれば、畑に穴を掘り処理しなければならない」と顔をこわ張らせていた。【橋口正、山崎明子、宮本寛治】
◇「出荷停止は人災だ」−−鉾田のパセリ農家
パセリ産地、鉾田市の「JAかしまなだ」(三保谷二郎組合長)=同市安房=は23日朝、国の発表で数値を知らされた。県の農林水産部の依頼で同市の鹿行農林事務所が畑からパセリのサンプルを採取したのは21日午後6時過ぎ。三保谷組合長は「22日に何度も数値を知らせるよう県に要請したがだめだった。責任逃れのために、県は国の発表を待っていたのではないか」と疑問を投げかけ「素早く数値を公表し、出荷停止の措置を取るべきだったのではないか」と語った。
同市舟木でパセリなどを生産する浅野登さんの妻純子さん(53)は「今年は日照もよく昨年よりも期待していただけに残念。地震と津波は天災だが、出荷停止と風評は人災。農家にとっては本当に深刻だ」と嘆いた。
同市でパセリの生産が始まったのは約20年前。品質の高さで全国指折りの産地となり、06年に県から銘柄産地の指定を受けた。作付面積は約15ヘクタールで、17軒の専業農家が年間17万ケース(5キロ換算)を出荷している。【岩本直紀】 ■発表の現場から
◇国の指示待たず、県は数値公表を
出荷停止品目の拡大を受けた緊急会見で橋本知事は「(国から)指示が出たら記者会見をしなければと思い午後11時まで待っていたが、何度、国に問い合わせしても結論がこなかった」と1日遅れの発表について国の姿勢を批判。県は「22日に出荷自粛を要請しており、実害はない」と国に先んじて対策を打ったことを強調した。
しかし、県は22日には数値も自粛要請した事実も公表していない。県政記者クラブの取材記者の間には同日夜「原乳で特異なデータが検出され、橋本知事が深夜にも緊急会見をする」との断片的な観測が広まり、遅くまで待機するなど緊迫した雰囲気になった。パセリ生産者も数字が知らされないまま不安な1日を過ごしたという。
風評被害対策は重要だ。県は国と足並みをそろえ情報統制しようとしたのかもしれないが、品目や数値の発表を遅らせれば憶測はかえって広がるだけだ。
県は19日のホウレンソウの出荷停止指示では国に先立ち独自判断でデータを公表し、不必要な不安が広がらないよう訴えた。不安を広げないためにも、県は国の指示を待たず、独自に入手したデータは公表し、県民に適切な判断材料を示してほしい。【大久保陽一】毎日新聞 2011年3月24日 地方版
==============
〈来栖の独白〉
おかしなことを、私は云う。原子炉の画像を目にする度に、原子炉が泣いているように見えてしまう。今となっては地上に汚染をもたらし、人間の生命を脅かす元凶。無惨な姿を晒している。哀れだ。
柔らかで目に優しいほうれん草も、泣いているように見える。「山川草木悉有仏性」、日本の仏教ではよくこんなことを言う。聖書においては、「神は陽光を注ぎ雨を降らせて作物を養ってくださる」という概念がある。
神が育ててくださり、農家の皆さまが丹精してくださった野菜や牛乳だが、口にすれば健康を害するから、と捨てる。O157のときも、鳥インフルエンザの時も、口蹄疫の時も、そうであった。痛ましい。「勿体ない」「罰が当たる」と言えば、顰蹙を買うのだろうか。
報道に過剰はないか。いたずらに不安を掻きたててはいないだろうか。
ささやかだけれど私どもも、被災された方々の救いを祈り、具体的に支援の行動も起こした。しかし、いま「震災被害」から離れての言動に暗黙の規制、微妙な後ろめたさを禁じえない、そういう空気がこの国にあるように思えてならない。一方向にしか目を向けることを許さない。この空気が極端にエスカレートしたのが、先の戦争ではなかったか。
菅政権は谷垣氏に入閣を打診し、或いは「復興庁」の新設を口にした。官とメディア(大本営)が一体となって、扇情的な「震災」が日本を覆う。国家・国民総動員だ。国民一人ひとりの自由な発言を規制する。
昨夕は、セントラル愛知交響楽団の演奏を聴きに行った。3月31日が「オーケストラの日」、それに因んでの演奏会。セントラルの、私はコンマスとチェロの奏者のファンである。最前列の中央の席でベートーヴェンを堪能した。至福。セントラルの演奏は、メリハリというのか、私の好みの演奏。
弟が亡くなってからの数年、私の気持ちはバッハしか受け付けず、毎日独りバッハだけ弾いた(ピアノ)。やがてショパンも弾けるようになり、そしてベートーベンも弾くようになった。ベートーベンは私を虜にした。20歳頃から徐々に耳が聴こえ難くなり、自殺も考えたベートーベン。音楽家でありながら耳が聴こえない、なんという苛酷だろう。そういうベートーベンが、音楽で、私に力をくれた。
ここでも、受付で義援金の呼びかけがあり、司会者は先ず震災被災者への気持ちを表白した。