核燃基地六ケ所村「核のごみ」封印 道遠く
中日新聞 特報 2012/02/22 Wed.
原発から出る使用済み核燃料を再処理するための核燃料サイクル基地・青森県六ケ所村。再処理の過程では危険な高レベル放射性廃棄液が残されるが、安全管理が課題だ。事業者の日本原燃は先月から、ガラスに混ぜて固める最終試験に再び挑んだものの、不具合で今月3日に中断した。ここには原発の推進、反対を超えて、わたしたちが避けて通れない「核のごみ」の重い現実がある。その行く末を議論する前に、再処理工場の実態を紹介することから始めたい。(小坂井文彦)
■ガラス固化 失敗続き
〈前段略〉
中核施設「ガラス固化製造溶融炉」は、炉内の温度を上げる「熱上げ」を先月10日にスタート。同24日朝、ガラスを溶かす試験が始まった。稼働試験はトラブルが続発し、2008年12月から中断。昨年中に再開を予定していたが、東日本大震災後の電力不足と、地震に対する安全性の再点検に追われ、今年にずれ込んでいた。
溶融炉はバルブのような突起物の付いた3?四方の大きさ。内側は耐熱煉瓦で造られており、下部は円錐形で「流下ノズル」と呼ばれる排出口がついている。
ここで作られるのが、将来、地下深い最終処分場に埋設される予定の「ガラス固化体」だ。高レベル廃液とガラスを混ぜた液を、ステンレス製容器に流し込んで固めたものだ。円筒状で高さ1・3?、直径0・4?の大きさだ。
高レベル廃液は、使用済み核燃料棒を溶かし、原発の燃料として再利用するプルトニウムとウランを抽出した後に残ったごみだ。人体に危険なセシウム137などの核分裂生成物が含まれる。
製造工程は、粒状のガラスビーズを溶融炉に入れて、タンクからパイプを通じて廃液も投入。側面の主電極と底部の電極の間に高電圧の電流を通して、炉内の温度を1000度以上にすることでガラスを溶かす。
廃液とガラスが混ざったら、流下ノズルから流す。混合液が排出中に冷えて固まらないように、ステンレス容器の間には、電熱線を巻いたような高周波加熱コイルが設置されて熱する。
なぜ、ガラスなのか。日本原燃の赤坂猛広報部長(57)は「紀元前の工芸品が現在も原形をとどめるほどガラスは安定した物質。割れても廃液は流れ出さない。放射性物質を閉じ込めるのに適している」と説明した。
■純国産技術進まず
だが、このガラス固化体を作る純国産の技術を日本原燃は確立できないでいる。各電力会社は技術のある英仏の会社に再処理を委託してきた。同24日からの試験は廃液を入れないガラスを溶かすだけの「最終試験をするための試験」なのに、“悲願”は翌25日未明に早くもつまずいた。
排出口から流れるガラスの速度が低下した。炉内の上から直棒でかくはんしたが回復しない。排出口が詰まったとみられるが、炉からはがれた煉瓦か、結晶化したガラスかを確認するために結局、試験は中断された。
溶融炉の作業は全て、中央制御室からの遠隔操作で行う。工程ごとに6つのグループに分かれ、それぞれ約80人が三交代で昼夜を問わずに作業を続ける。職員は排出口近くのカメラを監視し、炉内に増やした5つの温度計を見て電流を変えて溶融の度合いを調節する。今回のトラブルに、経産省原子力安全・保安院の検査官もいたが焦りは感ていなかったようだ。
しかし溶融試験のトラブルは過去に9回も発生している。何とか119本のガラス固化体を作り上げたが、一部は水に溶けやすい化合物が混じった“不良品”だ。試験の中断により24万?の高レベル廃液がタンクに残されたままになっている。
「既に99%完成している」(日本原燃関係者)が、最後の1%をクリアできない。トラブルが最初に起きたのは、初試験の2007年11月の直後。今回と同じくガラスが排出される速度が遅くなった。廃液をガラスに混ぜていたが、炉内の温度が安定せずに、廃液の金属製の元素が底部に固まり、排出口をふさいだ。
08年7月は、排出口にガラスがこびり付いて固まり、排出自体できなくなった。同年12月には、混合液をかき混ぜる金属製の棒が曲がり、天井のティッシュ箱大のレンガが炉内に落ちた。レンガは10年6月、新設したクレーンゲーム機に似た機械で回収できた。
また09年1〜10月は3回にわたり、パイプのつなぎ目から150?以上の高レベル廃液が漏れ出した。廃液が気化し、放射性物質が溶融炉のある部屋全体に付着してしまった。全ての機器を水で洗い流す除染作業に追われ、実験は長期間の中断を余儀なくされた。
溶融炉は実は2つある。それぞれA系とB系と呼ばれ、昨年までの実験は全てA系で行われた。A系がトラブル続きだったため、今回はB系を使用したのだが、結果は同じに。B系の炉中には3年以上、ガラス原料が入れられたままだったことがトラブルを招いたという可能性もある。
同じ様式の小型溶融炉の試験を、現在の日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で成功させている。その上で、原燃が導入したが、生産性を高めるために5倍の大きさにした。「大型化にトラブルの原因があると言われても否定できない」(日本原燃関係者)という。
再処理工場は08年5月の当初予定を大幅にずれ込み、今年10月の完成を予定している。本格的な稼働後は、A系とB系で年間500体ずつのガラス固化体を作る予定だ。
しかし、試験の再開は3月上旬以降となり、高レベル廃液を入れた安定稼働と性能が確認される条件の10月の完成は事実上厳しい。
与党内から再処理工場の凍結を求める声も上がる。一方、自前でガラス固化体を作れない場合、使用済み核燃料の再処理はもとより、高レベル廃液も処理できず、最終処分問題を含め混迷が深まることが予想される。
<日本原燃> 青森県六ケ所村に核燃料サイクル施設を建設するために、1980年に設立された株式会社。原発のない沖縄電力を除く国内の電力会社9社が出資し、資本金は4000億円。従業員約2400人のうち、3割を電力会社からの出向が占める。歴代社長は主に東京電力出身。再処理工場は93年に着工され、既に約2兆2000億円が投じられている。
===========================
◆原発の「ごみ」行き場なく/「核半島」六ヶ所村再処理工場/東通原発/大間原発/核燃料 中間貯蔵施設2011-04-28 | 地震/原発
------------------------------------------
◆映画「100,000年後の安全」地下500? 核のごみ隠すオンカロ/原発から出た放射性廃棄物を10万年後まで保管2011-06-01 | 地震/原発
【特報】 中日新聞2011/5/26Thu.
地下500? 核のごみ「隠す」
大惨禍を引き起こすまで「思考停止」に陥っていた原発政策。「推進」「脱」を超えて、目をそらさないでほしいのが核燃料廃棄物の最終処分問題だ。最終的には地下深い岩盤に埋めるが、受け入れ先は決まらず、「地震大国」ゆえに半永久的に安全管理する適地も多くない。原発を稼動し続ける限り、危険な放射能の害はたまり続ける。先々の世代にまで核の後始末を押しつけていいのか。
フィンランド最終処分場
雪が降り積もった凍土を、トナカイがゆったりと歩く。壮大な自然の光景に見とれていると、カメラは洞窟のような工事現場に移る。地下500?まで強固な岩盤を掘削して建設される、フィンランドの高レベル放射性廃棄物の最終処分場だ。
今、話題のドキュメンタリー映画「100,000年後の安全」は、世界初の最終処分場がテーマ。原発から出た大量の放射能が無害になるとされる10万年後まで、果たして廃棄物を銅と鉄の特殊な容器に入れて安全に保管し続けられるのか。マイケル・マドセン監督が政府関係者や専門家にインタビューを重ねる。
処分場は首都ヘルシンキから北西240?、オルキルオト原発から東に約1?の場所にある。名前は「オンカロ」。フィンランド語で「隠し場所」という意味だ。現在は調査施設を造り、2020年から操業予定だ。
放射能の危険から未来の人類を守るにはどうすればいいか。映画の中で専門家らは「隠し方」を大真面目で議論する。
無害になるまで“10万年”
「10万年後は次の氷河期をへて別の人類がいて、危険標識の言葉は通じないかも」「恐怖感を感覚で伝えるのにノルウェーの画家ムンクの絵『叫び』を使っては」・・・。
配給元のアップリンク(東京都渋谷区)によると、福島第1原発の事故で4月の上映開始から東京など17館で約2万人が鑑賞した。今後、シネコンも含めた全国60館で上映が予定され、自主上映の問い合わせもひっきりなしだという。
中部地方でも、名古屋市千種区今池の「名古屋シネマテーク」で28日から6月17日まで、浜松市中区田町の「シネマe-ra」で8月13日から3週間上映予定など主要都市で公開される。
映画の中である専門家は「原発への賛成、反対は関係ない。放射性廃棄物という、現存する危険に取り組む必要がある」と語る。政治的なメッセージはない。伝わるのは「十万年」という永遠と同等の時間の重みだ。
「廃棄のリスクがあまりにも大きすぎることを知り、呆然とした」などと、配給元には観客の感想が続々と寄せられている。
フィンランドは人口540万人。同国在住のジャーナリスト、靴家(くつけ)さちこさんは、「電力の約3割を原子力で賄う原発推進国。今、5基目となる世界初の160万キロワット級新型炉を建設中」と話す。
福島の事故への反応はどうだったか。「チェルノブイリ事故の記憶から『恐ろしいことが起きた』と瞬時に反応した。薬局からは安定ヨウ素剤が消えた。でも、地盤が固く地震も少ない国で、ドイツのような脱原発の動きは出てきていない」
それでも情報隠しが次々と明らかになる日本とは異なり、「情報公開を徹底して、透明性を保とうとしている」と靴家さん。事故があると、地元住民の問い合わせ先として、担当者と携帯電話の番号まで公開される。
最終処分場の存在はほとんどの国民が知っているはずだというが、注目されていない。
建設中のオンカロは「日本の原発立地事情と同じく人口が少ないへんぴなところにある。地元は雇用が増えると賛成した」と話す。
「サイクル路線」日本 行き詰まり
なぜフィンランドが、世界で初めて最終処分場の建設に着手したのか。
「将来起りそうな問題を予見し、事前に処理する。放射性廃棄物についても万全の対策を講じようとした」と語るのは、北欧諸国の事情に詳しい「スウェーデン社会研究所」の須永昌博所長だ。
フィンランドは、独自技術で原発を推進する隣国スウェーデンと連携してきた。最終処分場も、計画自体はスウェーデンのほうが先行していた。同国での着工予定は13年だ。原発は世界30ヵ国に432基あり、フィンランドは4基(世界18位)、スウェーデンは10基(10位)だ。須永氏は「産業を振興していくためには原発が必要と判断した」と解説する。
それでも国民からは未解決の最終処分問題に疑問の声が上がり続けた。両国政府がいち早く処分場の選定に取り組んだことが、国民的議論を巻き起こしたともいえる。
スウェーデンは1980年、国民投票で原発の是非を問い、条件付き賛成が6割、反対は4割。反対の主な理由が処分問題だった。当時の国会は、10年までに全廃する方針を決めたが、09年、現状の10基体制の維持へと転換。フィンランドも、5基体制で行くことになっている。
一方、日本では使用済み核燃料の処分方法が確立されないまま、54基もの原発が立っている。使用済み核燃料から核物質のプルトニウムとウランを取り出し、燃料として再利用する「核燃料サイクル路線」を推し進めてきたものの、行き詰まっている。
青森県六ヶ所村の再処理工場はいまだに稼動していない。六ヶ所村と全国の原発施設には、使用済み核燃料が福島第1原発の事故前で約1万6千300?もたまっている。
仮に再処理ができたとしても、高レベルの放射性廃棄物が残る。再処理せずに捨てる「直接処分方式」のフィンランドと同様、最終処分の問題はついて回るわけだ。
処分事業を担う「原子力発電環境整備機構(NUMO)」の計画では、まず放射性廃棄物をガラスと混ぜて金属容器に流し込み「ガラス固化体」(高さやく1・3?、直径約0・4?)を作る。
これを30〜50年間冷やした後、300?以上の地下の岩盤に埋める「地層処分」とする。その際、鉄製の容器や粘土固めなど「4つのバリアー」で閉じこめて「ガラス固化体と地下水が少なくとも千年間は接触しないようにする」という。
地下水、活断層・・・適地探しは困難
だが、豊富な地下水と活断層に覆われた日本で適地を探すのは難しい。
今、六ヶ所村などに貯蔵するガラス固化体は千7百本。国内の使用済み核燃料をすべて再処理すると約2万4千百本に上り、さらに年間で千3百〜千6百本増えていく。
原発大国の米国でも、使用済み核燃料は行き場を失っている。ネバダ州ユッカマウンテンで処分場建設が決まったが、地元の反対などでオバマ大統領が白紙撤回した。
舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)は「米国は原発の敷地が広いから貯蔵する中間処理施設を造ってためておけるが、日本では地元の理解を得るのは難しい。最終処分場選びはもっと困難だ」と指摘する。
須永氏は「福島の事故を機に原発をやめるのかを徹底した情報公開によって国民に問うべきだ」とし、こう促す。「もし脱原発に向かったとしても、既にたまった放射性廃棄物の処理の問題は残る。日本は技術面、情報公開のあり方などをフィンランドから学ぶべきだ」 *強調(太字)は来栖
=======================
◆高レベル放射性廃棄物、危険性が消えるまでには十万年/文明転換へ覚悟と気概2011-05-09 | 地震/原発