東電 負債の闇 借金返済 毎年1兆円 調達計画 賠償・除染含まず
停止原発も「不良債権」/再稼働、廃炉・・・壁高く
中日新聞《 特 報 》 2012/2/29 Wed.
来月末の東京電力と原子力損害賠償支援機構による総合特別事業計画の作成期限を前に、東電の経営権をめぐり、枝野幸男経済産業相と東電の綱引きが激化している。財務状況をみると、東電の債務超過は必至。それゆえ国有化は必然の流れだが、再稼働については不透明だ。燃料費高騰による電力料金値上げ論が流布するが、停止原発の「不良債権」化にこそ問題の本質がありそうだ。不良債権は切るのが定石。苦し紛れの再稼働は許されない。(上田千秋)
■財務深刻
「苦渋の決断だが、値上げをお願いせざるを得なくなった」。東電は先月17日、大口契約の法人向け電気料金を4月から平均17%値上げすると発表。西沢俊夫社長は会見でこう説明した。
値上げ理由として、原発に代わり、依存度を増した火力発電所の燃料費高騰を挙げた。東電管内の原発は福島第一、第二のほか、柏崎刈羽原発(新潟県)の各基が順次、停止。唯一稼働している同原発6号機も、3月下旬に定期検査のため運転を停止し、全17基すべてが動かなくなる。
これに対し、内閣府の原子力委員会の新大綱策定会議メンバーを務める慶応大の金子勝教授(財政学)は「燃料費は口実」と断じる。
「停止した原発はコストばかりかかって利益を生まない“不良債権”。値上げの本当の理由は、停止した原発の維持費がかさんでいるからだ」
電力各社が3カ月ごとに発表している損益計算書から、一つの事実が浮かび上がる。事故以降、東電など原発を抱える電力9社の大半は当期利益(連結)が減少。原発を持たない沖縄電力と、大間原発(青森県大間町)を建設中の電源開発(Jパワー)は安定した数字になっている。
例えば、震災で運転が止まった女川原発(宮城県女川町、石巻市)と定期検査中だった東通原発(青森県東通村)を抱える東北電力の当期利益は、昨年4〜6月期に約166億円の赤字。赤字幅は4〜12月期の累計で1670億円にまで拡大した。他の原発を持つ各社も、四国電力を除いて4〜12月期はすべて赤字になっている。
東電の財務状況は深刻だ。13日に発表した昨年4〜12月期の連結決算は6230億円の赤字。合計1兆7千億円の政府支援により、ほぼ経営破綻の状態とされる「債務超過」を免れるのがやっとだった。
事故後、金融機関から約二兆円の緊急融資を受け、運転資金を確保したものの、事故処理の総額は不明。その状況下で、これ以上の借り入れや社債の発行は不可能だ。
政府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会(調査委)」(委員長・下河辺和彦弁護士)が昨年10月にまとめた報告書などによると、東電の社債の償還額や借入金返済額もかなり大きい。
その額は、来年度に社債分が7479億円、長期借入金分が2430億円で計9909億円。その後も、2013年度は計9952億円、14年度も計9951億円。毎年1兆円近くの借金を返済する必要がある。
■同意慎重
借り入れが厳しく、料金値上げにも反対が相次ぐ中、東電は原発の再稼働に懸命だ。西沢社長は今月6日、泉田裕彦新潟県知事と会談。「中長期的に柏崎刈羽原発は大事な電源」と述べ、再稼働への理解を求めた。
調査委のシミュレーションを読むと、再稼働や値上げの有無で、東電が必要とする資金調達額の違いは一目瞭然だ。
値上げをしないと仮定すると、20年までに必要となる額は再稼働しない場合は8兆6427億円。再稼働させると、半分以下の3兆7824億円で済む。電気料金を10%値上げする場合でも、再稼働なしは4兆2241億円、再稼働させると7540億円だ。
しかし、仮に再稼働させても、問題は解決しない。調査委の試算には、事故被害者への賠償や除染費用が含まれていないからだ。少なく見積もっても、賠償見込み額は6兆円近くに増幅し、除染費用も1兆円以上になるとみられている。
福島の事故原発の廃炉費用も重くのしかかる。調査委は第一原発の1号機から4号機までの廃炉費用を1兆1510億円と試算。東電はほぼ同額を計上しているものの、いまだ炉心の状態も不明で処理方法も分かっていない。5、6号機、福島第二原発4基もすべて廃炉にするとなれば、費用は大幅に膨らむ。
枝野経産相は原発稼働ゼロでも、夏の電力制限令は回避できる可能性があると見立てる。再稼働に不可欠な地元自治体の同意についても、福島県だけでなく、新潟県も慎重姿勢を崩していない。
なにより、事故原因すら不明確な段階で、もう一度、原発事故が起きたら国が滅びかねない現実を前に、世論も再稼働には消極的だ。再稼働抜きに、福島の被災者らに賠償し、国民負担を最小化する原則は何か。
金子教授は「必要なのは不良債権である原発を損切り(処理)し、経営者や株主、(金融機関など)債権者の責任も問うこと。同時に東電の経営組織の変更や発送電分離などの改革も断行しなくては」と訴えている。
■処理費用含め 詳細試算を
「原発のコスト」の著書がある立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は「東電は完全に経営破綻しており、国有化されるのは時間の問題。むしろ、公的資金が入らなければ存在できない企業の幹部が、いまだに経営の主導権を握りたがっていること自体、理解に苦しむ」と批判する。
その上で、財務官僚が主張するような「国有化=国民負担が重くなる」という単純な図式を疑問視する。大島教授によれば、国が目指すべきは「合理的な国有化」。国民負担を必要最小限に抑えるため、東電が自発的には取り組まない発送電分離など、電力業界全体に波及する改革を断行する必要があるという。
原発の再稼働については「その前にやるべきことは、再稼働と廃炉とどちらを選んだ方がいいのか、国民に判断材料を提供すること」と提言。
政府の調査委が提示したような「再稼働か、電気代の値上げか」という二者択一だけではなく、放射性廃棄物の処理・処分にかかる膨大な費用なども含めた多くの試算が必要だと指摘する。
大島教授自身は「安全対策が確保できない原発から廃炉にして“損切り”し、いずれは全廃した方がいい」と話す。
「いずれにせよ、国民は今後、福島の事故処理のために消費税増税どころではない負担を強いられる。それなのに国有化の論議など現行の話し合いは国民不在。国民のカネを投じる以上、国民には今後の東電や原発のあり方を選ぶ当然の権利がある」(出田阿生)
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