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核燃基地六ケ所村 巨額マネー 村を一変/原子力半島 本州最北端の大間 「原発をやめるなら黙っちゃいねぇ」

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 巨額マネー 村を一変 豪華施設・全戸TV電話 核燃基地六ケ所村  
中日新聞 《特 報》 2012/3/6Tue.
 使用済み核燃料の再処理など核燃料サイクル事業施設が集中立地する青森県六ケ所村。過疎で貧しかった村の暮らしを一変させたのが、施設と引き換えに流れ込んだ巨額の「核燃マネー」だった。だが、福島の原発事故後には核燃料サイクル事業の見直しが議論に。経済と雇用を頼る村民はその行方を不安げに見守る。今年は雪も多い。春まだ遠い「核燃城下町」を歩いた。(小倉貞俊)
 電源立地地域対策交付金などの「核燃マネー」の象徴といえる存在が、村役場に近い尾駮(おぶち)沼北側にある「尾駮レイクタウン」だ。核燃施設に関連した事業所などが立地する。核燃料サイクル施設を運営する日本原燃の社員寮には、全社員約2400人のうち約1000人が住む。
 中学校や幼稚園、診療所も。建設費33億円をかけた村の文化交流施設「スワニー」は、国内有数の音響設備のコンサートホールを備え、図書館も併設する。
 「昔と比べ、随分便利になりました」。大型ショッピングモール「リーブ」で買い物をしていた主婦木村たえさん(72)は、感慨にふける。「村には商店街がなくて、みんな数十?も離れた隣町まで買い出しに行ったものです」
 リーブには格安の「村営」学習塾もある。運営する第三セクター「六ケ所地域振興開発」の業務課長秋戸学大(さとひろ)さん(41)は「村の発展も核燃施設があってこそです」と話す。
 村の鷹架(たかほこ)地区には、温泉施設「ろっかぽっか」がある。地下2千?で掘り当てた湯が売りで、レストランや宴会場がある憩いの場。70歳以上の村民は無料で、送迎バスも運行する。日本原燃が建設して村に寄贈した。男性客(60)は「夕方や休日は大にぎわいだよ」と満足げだ。
 村の人口は約11300人、約4500世帯。地上デジタル放送への移行に伴い、村は2010年度にテレビ電話を無償で全戸に設置した。
■除雪充実「一番の恩恵」
 路上では何度も、大型の除雪車とすれ違った。住民にとって核燃マネーの一番の恩恵は除雪という。「昔は、雪が道さ吹きだまって、しょっちゅう車が走れなくなった」と振り返る。
 村は本年度約1億2千万円を計上し、建設業者に除雪作業を委託している。木村英裕財政課長補佐(53)は「昔は村職員が除雪していたが、集落が点在して行き届かなかった。電源交付金のおかげで除雪委託費を出せるようになった」と話す。
 長芋焼酎「六趣(ろくしゅ)」の製造。これも六ケ所地域振興開発が運営する。冷害に強い長芋は特産品。約20年前、日本原燃に出向中の九州電力社員が、山積みに捨てられていた形の悪い長芋を見て「焼酎に利用したら」と発案した。工場で働く荒谷直人さん(31)は「村内での販売が中心のため『幻の焼酎』と人気が出ています」と胸を張った。
福島事故 原燃依存に影
 六ケ所村はその名の通り1889(明治22)年、小川原湖以北の6つの集落が集まってできた。入植者が原野を開拓したが、夏は北東や東から吹く「ヤマセ」と呼ばれる風で常に冷害に見舞われた。その荒涼とした土地から「シベリア」「満州」と呼ばれたことさえもある寒村だった。
 そんな村が「開発」の舞台となるのは、国が1969年に「新全国総合開発計画」を閣議決定してからだ。高度経済成長期、石油コンビナート建設を目指す国家プロジェクト「むつ小川原開発」が動きだす。ところが、70年代の2度の石油危機で計画は頓挫。開発面積は大幅に縮小され、村内に国家石油備蓄基地だけが造られた。
 それがなぜ、核燃基地となったのか。
 県、国、大手企業など官民で設立したむつ小川原開発会社は、土地買収で巨額の借金を抱え、政治問題化した。84年、各電力会社でつくる電気事業連合会は、核燃料サイクル施設の立地協力を要請。県と村は翌85年、受け入れを決めた。それ以前から核燃基地構想は動いていたが、開発会社(98年に経営破綻)救済の側面もあった。
 当時、住民は開発をめぐり、賛成、反対に二分され、激しい闘争が繰り広げられた。受け入れと引き換えに、享受することになったのが潤沢な核燃マネーだった。
 施設建設が始まった88年度から2010年度までの電源交付金は、計約300億円。日本原燃から村に入る固定資産税は10年度で57億円と村予算の半分近い。関連企業の固定資産税も入る。
 村は県内で唯一の地方交付税の不交付団体。村民一人当たり平均所得は県内トップクラスだ。日本原燃などで働く人たちが買い物などで村に落とす金も大きい。
 福島の原発事故後、村の将来に暗雲が立ち込め始めた。政府が核燃料サイクルの見直し論議を始めたためだ。使用済み核燃料の再処理工場も技術的なミスが続いて本格操業には入っていない。
 前出の秋戸さんは「財政が厳しくなり『暮らしが変わるのでは』と不安を抱く村民も多い」と話す。木村財政課長補佐も「村施設の委託管理費だけでも、年間3億円以上。交付金がなくなれば、行政サービス自体もレベルを下げざるを得なくなる」と懸念する。
 かつて漁民を中心に反対運動が激しかった村北部の泊地区。泊漁港には漁船約60隻が係留され、交付金で造られた豪華な荷さばき施設が建っていた。
 漁師の種市信雄さん(77)は「表立って核燃に反対している人はもうほとんどいない」と語る。「海が汚染される」と反対運動を展開した中心人物の一人だ。村長選での反対派候補の敗北や核燃事業の既成化で運動は衰退していった。
 種市さんは「核燃の施設はいつかなくなるかもしれないが、そうなってからでは村は立ち行かない。漁業や農業の加工販売やネット販売などを進めて、核燃マネー依存から抜け出さないといけない」と訴える。
■最終処分場に不安視
 核燃料サイクルの見直しが進んでも、使用済み核燃料の処理問題は残る。脱原発は「脱六ケ所村」とイコールではない。種市さんは、現実を見据え、もう一つの懸念を口にした。「このまま核廃棄物の最終処分場にされてしまう恐れだってある。六ケ所村は国に翻弄されている。これまでも、これからも」
<デスクメモ> 六ケ所村は古来、馬の産地として知られ、源頼朝の名馬「生食(いけづき)」も生まれたところという。しかし、ヤマセのために稲作には適さず、ジャガイモやゴボウなどが採れるだけ。かつて同じ県内の人間からもやゆされるほど貧しかったという。国と電力会社はそこに付け込んだというのは言い過ぎか。(国)
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原子力半島 本州最北端の大間 「原発をやめるなら黙っちゃいねぇ」漁師仲間の飲食・タクシー代まで原発持ち2011-08-17 | 地震/原発 
 原発で波高まる津軽海峡夏景色(上) 「原発をやめるなら黙っちゃいねぇ」
川井 龍介
JBpress2011.08.16(火)
 本州最北端の町、大間。青森県下北半島の突端にあるこの地名は、「大間のマグロ」としてその名が知られている。何百キロというマグロの一本釣りの男らしい漁の様はテレビでもしばしば取り上げられ、ドラマの舞台にもなっている。
*イメージとは遠く漁業の不振にあえぐ町
 いまではすっかりマグロの町、漁師の町というイメージが強く、一般には豊富な海産物に恵まれた土地だと思われている大間だが、全体として見れば漁業は決して順風満帆とは言えず、漁業者と漁業で支えられてきた町は、他の過疎地と同様将来への不安と開発願望を抱えてきた。
 それが形となって現れたのが、電源開発株式会社(Jパワー)が造る大間原子力発電所だ。
 静かな海沿いの土地、約130万平方メートルのなかに、日本で初めてウランとプルトニウムの混合酸化物燃料(MOX燃料)を利用するという、改良型沸騰水型軽水炉を使ったこの原発は、2008年5月に着工し、2014年11月の運転開始を目指して建設工事が進められてきた。
 「マグロに原発は似合わない」と、直感的に思う人もいるだろう。地元でも当初から反対はあった。
 しかし町や県の後押しもあって漁業者もこれを受け入れ、1基の建設が進み、町のなかには“経済効果”をあてこみ2基目も誘致したらどうだろうという声さえ出てきた。しかし、「3.11」の福島原発の事故で事態は一変、工事は中止となった。
*町議会からは工事再開を求める声が
 4月の時点でJパワーでは「現在、地震の影響により建設工事の実施にさまざまな制約が生じたことなどから、保安・保全に係る工事などを除き、本体工事については休止しています」と、アナウンスしている。
 しかし、地元大間では「なんとか早く工事を再開させてほしい」という声が町議会などからいち早く出ている。
 全国的には事の重大性に鑑みれば、稼働中の原発の停止だけでなく工事中の原発についても中断ないしは撤回といった決断を国も電力会社も自治体もとるべきだという世論が高まっている。
 つまり工事中止は当然のことと受け止められており、休止による雇用の不安などの問題は理解できるとしても、もう少し慎重に考えるべきではないかというのが外部の見方だ。
 特に、今回の事故による放射線の被害者からは、「いったい何を考えているんだ」という意見があるのは当然だろう。おそらく東京をはじめ都市部で暮らす人たちも大半がそう考えるのではないだろうか。
 では、実際現地はいったいどうなっているのか、原発についてどういう空気が流れているのか。福島の事故後、原発が単に一地方の問題ではないことを思い知ったいま、津軽海峡に突き出た海の町、大間とその海峡を挟んだ対岸の都市、函館市を訪ねてみた。
*決して誇張ではない「原子力半島」の異名
 まさかりにその形をよく喩えられる青森県下北半島。立てたまさかりの柄の部分に相当する位置には六ヶ所村の核燃料施設があり、そこから北へ上がった東通村には東北電力の原子力発電所1号機があり、同2号機と東京電力の1、2号機が計画されている。
 ここからさらに北へ上がり、まさかりの刃の付け根にあたるむつ市には使用済み核燃料中間貯蔵施設が建設中だ。
 原子力半島とも言われるこの半島で、まさかりで言えば刃先にあたる部分が大間町だ。東京から行くには、三沢空港へ飛びそこから車で3時間半以上、青森空港からは少なくとも4時間半はかかる。
 野辺地駅から始まるJR大湊線を利用する手もあるが下北駅からさらに車で1時間はかかる。私は青森市内から車で約4時間をかけて大間に入った。
 人口6286人、面積52.06平方キロ(7月31日現在)。半島の突端に位置する町の中でも一段と津軽海峡に突き出た大間崎には「本州最北端の地」と書かれた石碑がある。ヨーロッパ大陸の最西端ポルトガルのロカ岬と同じく、“最端”というのはそれだけで売り物になるようだ。
 周辺にはマグロをはじめとした海産物の土産物屋や食堂が軒を連ねる。ここから海岸沿いを南西に下ると函館へのフェリー乗り場があり、さらに国道を進むと右手の海沿いの小高い地に、建設中の大間原発が現れる。
*最盛期に5億〜6億円あったコンブ漁は数千万円に激減
 これを見過ごして海に出て、奥戸(おこっぺ)という漁港の近くに出ると、右手に巨大な体育館といった威容を誇る原発の建屋がよく見える。周辺には巨大なクレーンが立ち上がり、取水口は堤防より長く海に突き出している。
 「昔は、よくあのあたりの海岸で遊んだり、コンブをとっては干したりしていたもんだ」と、地元で育った老婦人が懐かしそうに言う。
 そのコンブは、長年不漁が続き、漁業関係者によれば、10〜20年前は年間5億〜6億円の漁獲があったのがこのところは数千万円に落ち込んでいるという。温暖化が原因かとも思われるがはっきりしたところは分からない。
 一方、マグロ漁は一昨年、昨年と好調に推移している。大分の関サバ、関アジのように、ブランド化して管理したのも功を奏している。いわば大間の看板でもあるマグロだけに、今回の原発事故に関連して、回遊魚であるマグロが放射線に汚染されていないかどうかについても検査するなど神経質になっている。
 また、大間牛という肉牛をブランド化して育てることにも力を入れている。いずれにしても、マグロをはじめウニ、イカ、タコ、ヒラメなどの海産物や農産物、そして観光は町を支える重要な資源である。
*原発のことを話したがらない町民
 それだけに、万一原発が事故を起こした場合を考えると、福島の例を見れば分かるように取り返しのつかない事態に陥ることは想像ができる。しかし、だからといって原発建設を白紙に戻したらどうかという意見は、一部を除いて表に出ていないようだ。
 原発のことについては、町でも積極的に話をする空気がないのは短い滞在でも分かる。
 それは、原発の安全性への危惧を感じながらも、建設に伴って得た漁業補償などによる生計をはじめ、これもまた建設に伴う交付金や税収、加えて就業機会やサービス業の安定をいまさら犠牲にはできないという気持ちの表れだろう。
 匿名を条件に、ある有力な漁業関係者が語ってくれた。
 「福島の原発事故を見て、恐いということは感じるが、みんなのなかではどこかお茶飲み話みたいなもので・・・。電源開発の人と最近でも飲み食いしたけれど、津波に対しては安全対策がなされているというし・・・。原発は大丈夫だと言うから、これからの町の可能性にかけて誘致したんだ。これが中止というなら(町民は)黙っていないと思うよ」
 こう語った後に、「でも、もし原発以外のもので、町が豊かになるなら、原発は誘致しないでしょう?」と尋ねると、「そりゃそうだ。原発は恐いもんだよ。でも・・・」と、複雑な胸の内を明らかにした。
*国策だと信じて地元に戻ってきたのに・・・
 夫が原発の関連事業で働いているある中年の女性は、原発の安全性については不安を持ちながらも、建設を中止すべきだという意見には反発を覚える。
 「国策として原発を造るからということで、誘われて故郷の大間に帰ってきて仕事に就いたのに、ここで建設をやめるというのなら、これまでかけた分の時間を返してと言いたい。私たちは都会の人のために電源を造っているのに・・・」
 同じような話をどこかで聞いたような気がしたと思ったら、群馬県の八ッ場ダムの建設地を昨年取材した際に聞いた地元の人の声だった。
 また、大間在住の中年女性は、漁師町である大間の気風として「もう補償金もらってしまったら何にも言えないし、しょうがないっていう気持ちがあるようです。でも海を売ったことを嘆いている人もいます」と話す。
 これに対して津軽海峡の対岸のまち函館では、大間の動きにどう反応しているのだろうか。

漁師仲間の飲食・タクシー代まで原発持ち 原発で波高まる津軽海峡夏景色(下)
川井 龍介
JBpress2011.08.17(水)

原発が日本中で議論されているいま、現在建設中の原発を抱える本州最北端の町、大間でも、原発についての不安や議論しなければいけないことはあるはずだ。しかし、町の中で積極的に勉強会を開こうなどといった動きはないようだ。教育関係者のなかにもこの問題を提起しようという向きは感じられなかった。
*大間町と函館市は17.5キロしか離れていない
 大間の町のなかにいる限り、原発は表立って話題に出ることはない。陸の孤島だからなのか、外部の情報に揺さぶられないという空気もあるのかもしれない。
 しかし、本州最北端であるということは、北海道との距離が近いということでもある。
 地図で見て気づいたが、津軽海峡を挟んでフェリーが行き着く対岸の函館市は目と鼻の先にある。その距離は最も近いところで17.5キロだ。
 この数字を福島で放射線が問題になっている距離と比べればよく分かるだろう。当然、函館では大間の原発に反対の動きが出る。
 すでに、昨年、函館の市民団体がJパワーと国に対して、大間原発の工事差し止めなどの訴えを函館地裁に起こした。また、福島の事故を受けて、市民による大間原発反対のデモがこれまで3度行われている。
*大間を出て間もなくして函館山が近づく
 さらに、函館市議会や隣の七飯町議会では、大間原発建設の無期限凍結などを国に求める意見書案を全会一致で可決した。デモの規模は150人から300人と数だけ見ればそれほど大きくはないが、革新系団体だけでなく一般市民の参加も数多く見られた。
 函館市側からは望遠鏡で見ればくっきりと原発の建屋が見えるという、この距離感は、季節によっての風向きも考えれば、「原発に隣り合わせ」と言っていいだろう。
 それを実感するため大間からフェリーに乗ってみた。時刻表を見れば函館港まで1時間40分で到着する。幸い、乗船時は天気もよくカモメが付かず離れず飛び交い、爽やかな夏風を受けてうたた寝できるようなのどかな船旅を楽しむことができた。
 大間から近い青森県内の都市と言えば、車で約1時間ほどで人口約6万4000人を抱えるむつ市へ出ることができるが、大きな病院にかかる時などは大間の人たちは函館に出るという。
 旅行者からすると、半島の突端の漁師町から海に出ると間もなく、モダンな都会・函館に出るというのも不思議だったが、大間の人にとってはフェリーは重要な生活の足でもあった。
*大間〜函館間のフェリーを支える原発のお金
 と言っても、この航路は赤字であり存続が危ぶまれてきた。それを救ったのも原発建設から回ってくる町のお金だった。
 老朽化したフェリーに代わる新船が造られることになっているが、その財源は原発からの固定資産税や原発に前向きと見られる県からだ。
 事故などなければこのように、大間町にはもちろん財政的に見ればプラスになる原発だが、函館側にとっては心配の種でしかない。
 大間港に比べるとしゃれた函館港のターミナルを後にして、このデモに参加したという地元函館で畑を耕す半田雅久さんに会った。
 「デモは政党色が出てきて、せっかく参加しようと思って来た普通のおばさんたちが帰ってしまったりして残念だった」と、反原発の運動のあり方に問題ありとする。
*原発推進一色ではない大間町
 その一方で、原発推進の大間の動きには「大間の人たちの気持ちも分からないではないが、原発というものが、この先ずっと将来にまで残していっていいものなのかということを考えてほしい」と、訴える。
 では、その大間では原発への反対意見は全くないのかと言えばもちろんそんなことはない。元町議の佐藤亮一さんは計画当初から反対してきた。
 「かつて陸奥湾のなかに原子力船むつが入った時、関係する漁協が大反対をした。それでいったん、むつは外に出たんだが、その後放射線漏れの事故が起きた時、陸奥湾のホタテの値は暴落した」と、万一の時の甚大な地元への被害を懸念。
 「計画が持ち上がった当初は3分の2くらいは反対だった。今回の事故で、議員のなかにも建設について慎重になってきた」と、過去からの教訓と町の変化を語る。
 反対のシンボル的な存在としてしばしばマスコミで取り上げられてきたのが、原発敷地内に土地を所有しているが、買収に反対してきた故・熊谷あさ子さんだ。
*「あさこはうす」に冷ややかな地元の人々
 この土地に「あさこはうす」という小さなログハウス風の家が建てられ、あさ子さん亡き後は家族が管理をしているという。
 この家にたどり着くには、国道から未舗装の細い道に入る。原発敷地とこの道の境界には簡単な格子のフェンスが続き、曲がりくねった道を進むと小さな畑に囲まれた三角屋根と風車が目に入る。
 この時は声をかけたのだが留守のようだった。
 ここを拠点に反核のロックコンサートも開催されてきたというほど、町外からも注目されている。だた、あさこはうすを中心とする反原発の運動に対して、地元大間の人の反応は冷ややかだ。
 原発建設にかかる漁業補償は、町内にある大間漁協と奥戸漁協に対して支払われ、1軒当たりにすると1000万円前後もらった人が多いという。こうした漁師のなかにも原発に異を唱える人がいる。
*漁師仲間の飲食代をJパワーが支払う
 長年漁師を続けるAさんは、安全性の確保の面から原発建設に慎重な態度を示してきたところ、かつて同じ漁師仲間に「お前がいるから原発が進まない」と脅されたことがあった。
 建設計画が示されてから、漁師仲間が酒を飲んでは会社(Jパワー)の人間を呼んで支払ってもらったり、タクシーチケットを束で会社から受け取り使っていたりしている姿を目の当たりにして違和感を覚えていた。漁師の実情を交えて原発マネーについて彼はこう話す。
 「漁師は10年に1度エンジンを交換したり、船を修理したり、魚群探知機を購入したりしなくてはならず、そのために借金をしている人が多い。補償金が入ればそれを返済できるという気持ちがある」
 「その一方で、一度に1500万円もの金を手に入れれば、車買ったりパチンコや酒に使ったりしてしまう。これが夫婦で汗水垂らして稼いだ1500万円だったらそんなふうには使えねぇよ。全国に原発がないところはいっぱいあるべ。原発で支えられるような今の生活は便利になっている分カネがかかる」
 Aさんは、カネのためにすべき議論もせずに危険性も分からないままに計画が進んできたことに憤る。他の原発建設地と同じように、ここでも原発建設をめぐる民主的な議論が行われる前に、カネの力で、建設の正当性が確保されていった点は否めない。
*津軽海峡波高し
 果たして、休止となっている原発建設は再開するのかどうか。結論はどうあれ、安全性や環境面への影響などについて、過去を反省し開かれた議論が地元でできるだろうか。同時に、海峡の向こうと意見を交換することができるだろうか。
 それとも、あくまで推進しようとする側と凍結を訴える側は、海峡を挟んで力でぶつかり合うしかないのだろうか。この先、原発という風に吹かれて、津軽海峡の波はさらに高くなりそうだ。
・川井 龍介 Ryusuke Kawai
 ジャーナリスト
 慶應大学卒。新聞記者などを経て独立。ノンフィクションを中心に著書多数。代表作に「『十九の春』を探して」(講談社)、「122対0の青春」(講談社文庫)。近著に「社会を生きるための教科書」(岩波ジュニア新書)。サンデー毎日で音楽コラム「Music Cafe」を連載中
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