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3月大乱再び/消費税の難しさを誰よりもよく知り、最も前向きに取り組んできた政治家は小沢一郎氏である

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3月大乱再び
田中良紹の「国会探検」

          

 去年の3月11日、東日本大震災の直前に私は「3月大乱」というコラムを書いていた。無論、地震を予見していた訳ではない。前年の参議院選挙で大敗した菅政権が3月には行き詰る事が目に見えていたからである。
 衆議院で過半数を持っていても参議院選挙に敗れた総理が政権を継続する事はありえない。橋本龍太郎氏も宇野宗佑氏も参議院選挙に敗れて自ら退陣を表明した。ところが安倍晋三氏はその常道を破って総理を続けようとし、自民党内から足を引っ張られて無様な退陣劇を演じた。
 菅総理の場合は、「ころころと総理が代わっていいのか」という民主主義とは無縁の情緒的な理由で代表選挙に勝ち、党内から足を引っ張られる事はなくなったが、参議院の過半数を失ったのだから予算を成立させる事が難しい。野党がその気になれば総辞職に追い込まれる事は必至だった。
 それを打開するには、民主党内を結束させ、「ねじれ」を解消する工作に入るのが普通である。具体的には、代表選挙で戦った小沢元代表との関係を修復し、公明党と連立を組めば「ねじれ」は消えて政権は安定する。ところが菅総理はそれとは逆の方向に歩み出した。
 自らを「クリーン」と強調する事で小沢氏との対立軸を作り、民主党を分裂状態に持ち込む一方、消費増税とTPP参加を表明する事で官僚権力とアメリカを後ろ盾に野党第一党の自民党と手を組む姿勢を示したのである。これを国民が見れば自民党と手を組む菅政権には不満が募り、自民党からすれば国民の支持を失いつつある菅政権と手を組むのは得策でなく、公明党は自民党と手を組む民主党はお断りという事になる。
 そうした状況の中で3月に入ると、菅政権のシナリオを揺るがす事態が次々起きた。まず売り物の「クリーン」がブーメランのように菅政権を襲う。前原外務大臣が在日韓国人からの献金問題で閣僚を辞任すると、菅総理にも同様の献金疑惑が持ち上がり、野党から辞任要求が突きつけられた。去年の3月11日、菅総理は絶体絶命のピンチの中にいたのである。
 もう一つ絶体絶命のピンチに立っていたのはアメリカだった。アメリカ国務省のケビン・メア日本部長の発言が日米関係を根底から揺るがしていた。日本では「沖縄はゆすりの名人」という部分だけが強調され、沖縄を侮辱した発言としか受け止められていないが、メア氏は戦後の日米関係についてアメリカの本音を語っている。
 それは「日本国憲法を変える事はアメリカの利益にならない。憲法9条を変えられたらアメリカは日本の土地をアメリカの利益のために利用できなくなる。また日本がアメリカに支払っている高い金も受け取れなくなる。アメリカは日本に関して良い取引をしている」という部分である。
 つまり日本を自立させない事で、アメリカは日本の土地をアメリカの利益のために利用し、さらに日本から金を引き出すことが出来ると言っているのである。この発言に驚いたアメリカ政府は直ちにメア氏を更迭し、日本にキャンベル国務次官補を派遣して謝罪させ、ルース駐日大使も沖縄に飛んで仲井真知事に謝罪した。これほどアメリカが迅速に動いたのは、メア発言がアメリカの本音であり、日本国民が注目する前に押さえ込みたかったからである。
 キャンベル氏来日の2日後に東日本大震災が起きた。アメリカにとって米軍の存在を日本国民に見せ付ける最大のチャンスが訪れた。アメリカの国益をかけた大々的な「トモダチ作戦」が展開され、人員2万人、艦船20隻、航空機160機が投入された。こうして日米同盟の本質はアメリカが日本から経済的利益を吸い上げる事だというメア発言は忘れ去られた。
 「政治とカネ」で倒れ掛かった菅政権は震災によって生き延びたが、所詮は危機に対応できる政権でなかった。国民の目線だけを意識した場当たり対応で逆に国民の支持を失い、夏の終わりに野田政権に交代した。この野田政権がなかなか曲者である。当初は財務省の傀儡という役回りで現れ、しかし細川護熙氏の後押しを受けて代表選挙を戦い、挙党一致を掲げて輿石幹事長に頭を下げ、震災復興と原発事故の収束に全力投球すれば国民の支持率は高止まりすると思うのに、突然、消費増税一直線の強固な姿勢を打ち出して支持率を下げた。
 自らを「捨て石」と言ったようだが、長期政権を狙う姿勢が一向に見えない。そのせいか支持率が下がっても気にする風情なく、国民の人気取りに走る気配もない。そのくせ自民党の谷垣総裁と「極秘会談」をやってすぐにそれをリークする芸当も見せる。メディアに「話し合い解散」と書かせて「解散」をやりにくくし、消費増税は本気なのかと疑いたくなるほどシナリオが見えない。「短期つなぎ政権」を自覚しているからなのか。それとも予想を超えるシナリオを準備しているからなのか。
 政界の中で消費税に最も前向きに取り組んできた政治家は小沢一郎氏である。おそらくその難しさを誰よりも良く知っている。小沢氏は消費税に反対なのではなく、やり方が違うと言っているのだろうが、野田政権と小沢氏の対立の構図にみな目を奪われている。と言うか目を奪うように対立している。その中で今年の3月大乱が起こる。去年の3月より数段に複雑である。
 消費税法案の国会提出を3月と国際公約した野田政権は間もなく鼎の軽重を問われる。そして民主党内の対立に目を奪われている間に、自民党と公明党との関係にきしみが生まれ、自民党内にも様々な対立の芽が生まれている。一方で地方からは消費税を越えた政治課題が叫ばれ、また消費増税を理由に官僚機構への切り込みも行われる。それらがどのように決着するか。今年の大乱は予想が難しい。
投稿者:田中良紹 日時:2012年3月11日02:25  *強調(太字・着色)は来栖
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