「恐ろしき 事なす時の 我が顔を…」 元オウム幹部の中川被告が短歌3首 最高裁で18日判決
産経ニュース2011.11.17 19:35 [殺人・殺人未遂]
地下鉄、松本両サリン事件や、坂本堤弁護士一家殺害事件などで殺人罪などに問われ、1、2審で死刑とされた元オウム真理教幹部、中川智正被告(49)が17日、弁護人を通じて短歌を発表した。最高裁は18日、中川被告に上告審判決を言い渡す。
短歌は「恐ろしき 事なす時の 我が顔を 見たはずの月 今夜も静(さや)けし」など3首。
「りんご樹を この世の底で 今植える あす朝罪で 身は滅ぶとも」という1首は、死刑執行への覚悟をうかがわせる。
また、「遺(のこ)しおく その言の葉に 身を替えて 第二の我に 語りかけたし」という1首について、弁護人は「(中川被告は)自分のような者を出さないために、精神科医などの協力を得て手記を書いている」との解説を加えている。
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オウム裁判終結へ、中川被告からの手紙
あわせて189人が起訴されたオウム真理教による一連の事件は、まもなくすべての刑事裁判が終わります。サリン製造の中心的な役割を果たし、一審、二審で死刑を宣告され、18日、最高裁判決を受ける元幹部が反省の気持ちと、一方で今も抱える教祖への割り切れない思いを手紙に綴りました。
「被害者の方々、ご遺族の方々にはこの場をお借りいたしまして、心からおわび申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」(中川被告の手紙)
中川智正被告(49)。京都の医大に在学中にオウムに入信。麻原彰晃、本名、松本智津夫死刑囚の主治医として仕え、サリンの製造などで中心的な役割を果たしたとして、11の事件で殺人などの罪に問われ、一審と二審で死刑を言い渡されました。
「ただ、ただ、頭を下げて、おわび申し上げるだけでございます」(中川被告の手紙)
17日、弁護士を通してJNNの記者に届けられた中川被告からの手紙には、ただひたすら謝罪の言葉が重ねられていました。
その中川被告と、事件の被害者という立場にありながら、ずっと向き合ってきた男性がいます。オウム真理教家族の会・会長の永岡弘行さん(73)。
永岡さんは16年前、オウム真理教に入信した長男を脱会させようと奔走していた矢先、猛毒のVXガスを背後から吹き付けられ、意識不明の重体となりました。その後、長男は教団から脱会しましたが、永岡さんの体は今も右半身がマヒしたままです。
「(中川被告に恨みは?) 恨みはない。本当にそうなんです。大人である我々が(事件を)阻止することができなかった」(永岡弘行さん)
永岡さんを襲ったVXガスを製造した男。それこそが中川被告でした。中川被告は、なぜ犯罪に手を染めたのでしょうか。永岡さんは法廷を傍聴し、拘置所での面会を続けて来ましたが、最後の判決を目前にした中川被告の変化に驚いたといいます。
「大きく変わったのは最後。穏やかな顔つきになっていた」(永岡弘行さん)
しかし、かつての教祖、松本死刑囚に対しては、今も割り切れない思いを抱いています。
「麻原氏が何も話さずに裁判を終えてしまったことは、個人的な感情を抜きにしても、同じような事件を2度と起こさないという目的からして、残念でしょうがありません。彼しか分からないことが沢山あったのです」(中川被告の手紙)
教団への本格捜査から16年余り。松本死刑囚は何も語らぬまま、これまでに11人の死刑が確定しました。
「何よりも罪の重さを自覚しつつ、自己を見失わずに残りの人生を終わりたいと思います」(中川被告の手紙)
来週、月曜日の元幹部の裁判で、一連のオウム裁判は事実上終結します。(TBS News 17日16:51)
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◆「自信は未だにないが、麻原について書く」魚住昭/ 最高裁、オウム遠藤被告の判決期日を指定/死刑弁護人2011-11-01 | 死刑/重刑/生命犯 問題
恐ろしき 事なす時の 我が顔を 見たはずの月 今夜も静(さや)けし/元オウム中川智正被告 18日上告審判決
TPP 弱みはアメリカにあり/「交渉の手の内を曝せと迫るメディア」=日本の弱さはその辺りにある
田中良紹の「国会探検」 弱みはアメリカにあり
投稿者: 田中良紹 日時: 2011年11月16日 22:04
TPPを巡る議論を要約すると、「アメリカに国益を侵されるから反対」と「アメリカと組まなければ日本の国益は守れない」の二つに分かれる。一見対立する主張だが、どちらも日米関係はアメリカが強く日本は弱いと考えている。
アメリカとの戦争に敗れて従属的立場に置かれた日本人が、そうした見方をするのは理解できなくもないが、1990年から10年以上アメリカ議会を見てきた私は「本当にそうか?」という気になる。
アメリカは世界最強の軍隊を持ち、ドルは世界の基軸通貨で、世界中の資源を押さえ、世界の情報を操作する力を持っている。しかし第二次大戦以降アメリカは戦争に勝った事がない。朝鮮戦争は引き分けで「思い出したくもない戦争」である。そのコンプレックスがアメリカをベトナム戦争に駆り立て、建国以来初めて戦争に敗れた。
イラクやアフガニスタンでの戦争も勝利したとは言えない。しかもその戦争によってアメリカ経済は蝕まれ、財政赤字が止まらなくなった。かつて盟友のヨーロッパはEUを作ってアメリカと対峙するようになり、ユーロがドルの地位を脅かし始める。おまけにEU諸国間の関税撤廃によってヨーロッパ向け農業製品の輸出もままならなくなった。
冷戦構造を利用してのし上がった日本に「ものづくり」で敗れ、金融と情報産業に特化して世界を支配しようとしたが、金融商品がアメリカ経済を破綻させ、米国民は今や塗炭の苦しみの中にある。アメリカ資本主義に対する国民の信頼は崩れ、経済の建て直しが最優先の課題である。
一方で経済の成長力はアジアにある。アメリカがアジア太平洋地域に目を向けてくるのは当然だ。アメリカにとってアジアは死活的に重要で、この地域で何とか覇権を握りたい。それがTPPに力を入れる理由だが、アメリカ主導でこの交渉をまとめ上げる事が出来るかは予断を許さない。アメリカ議会が日本を参加させる事に慎重なのはその懸念の表れである。日本との交渉では思うにまかせなかった苦い過去があるからだ。
日本はアメリカとの交渉で実にしたたかだった。それを「言いなりになる」と考えてしまうのは小泉政権を見たからである。主張を鮮明にする政治手法は勝つか負けるかのどちらかになる。弱い相手には勝てるが強い相手には言いなりになるしかない。そこがかつての自民党と違う。かつての日本は強い相手から実益を得る術を心得ていた。日米経済戦争に勝ったのはアメリカではなく日本である。
09年の総選挙で民主党は「アメリカとの自由貿易協定の締結」をマニフェストに掲げ、そのセーフティネットとして「農家戸別所得補償」をマニフェストに入れた。そもそも民主党はアメリカと自由貿易をやる方針だった。それが実現しなかったのはアメリカが二国間交渉を受け付けなかったからである。
そしてアメリカはTPPという多国間協議に乗り出した。その真意はまだ定かではないが、一般的には多国間協議の方が交渉は複雑になる。それこそアメリカ主導が実現するかは予断を許さない。一方で成長力著しい中国と技術力世界一の日本が手を組み、そこに韓国が加われば、アメリカはアジアで取り残される。TPPの方が何とか主導権を握れるとアメリカは捉えている事になる。
だから日米の間でつばぜり合いが始まった。ハワイでの日米首脳会談で野田総理が「あらゆる物品を自由化交渉の対象にすると言った」とホワイトハウスが発表し、日本の外務省は「言っていない」と異例の抗議をした。外務省は「ホワイトハウスは誤りを認めた」と言うが、ホワイトハウスは「訂正しない」と言う。「これまで日本側が言ってきた事を総合して発表したのだ」と言う。
つまり菅政権が言った事を野田総理が言った事にしたというのだ。誠に自分勝手な都合の良い解釈だが、これがアメリカの外交のやり方である。アメリカと付き合う時には常に相手が二枚舌である事を腹に収めておく必要がある。アメリカの言った事を鵜呑みにすると判断を誤る。
これを見て「日本はアメリカに勝てない」と思う者は、「だから交渉に参加してはならない」と言う事になる。しかし参加しないとどうなるか。アメリカが黙っている筈はない。江戸の仇を長崎でという話になる。どこでどんな報復を受けるか分からない。予想のつかない攻撃を受けるのは交渉するより始末が悪い。
私は今回のアメリカの態度を「弱さの表われ」と見る。野田総理の参加表明の仕方を見て、アメリカのペースにならないと判断したホワイトハウスが、アメリカにとって都合の良い菅政権の方針を勝手に付け加えたのである。そうしないとアメリカ議会や国民を説得できないからだ。
「だったら徹底して抗議し、発言を訂正させろ」と言う者もいるが、それでは政治にならない。そんなところで肩をいからせたら利益になるものも利益にならなくなる。ここは弱い者の顔を立てて「貸し」を作るのが得策である。
それもこれも日本国内に強い反対論のある事が一定の効果を挙げているのである。それをうまく使いながら、アメリカ主導に見せかけて、日本がアジアから利益を得られるようにするのが日本の国益である。中国やインドも参加させる方向に持ち込めればTPPも意義が出てくる。
TPPをアメリカが中国に対抗するための安全保障戦略だと言うピンボケ論議もあるが、中国やインドを排除したらアメリカ経済は立ち行かない。中国やインドをアメリカンスタンダードに持ち込みたいのがアメリカである。それがTPPの行き着く先だと私は思っている。そのプロセスで各国が国益をかけた交渉を繰り広げる。
アメリカの二枚舌とやりあうには、こちらも二枚舌で対抗すれば良い。にっこり笑って相手の急所を刺すが、しかし決裂するほどは刺さない。それが外交である。ところが国内には敵を間違えている連中が居る。二枚舌とやりあう自国の総理を二枚舌と批判する野党や、国民に本当の事を説明しろと迫るメディアである。交渉の手の内をさらせと迫るメディアが世界中にあるだろうか。この国の弱さはその辺りにある。
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15兆ドル・・・米国の新たなワーストレコード
2011/11/17Thu.「ロシアの声」
米国の国家債務の規模が15兆ドルを超えた。それは米国のGDP(国内総生産)にほぼ匹敵する値だ。専門家らは当面、投資家の間での懸念を呼び起こすことはないと考えているものの、将来的にはすべての金融市場を巻き込む新たな危機が起きる恐れもある。
米国の債務は、15兆336億725万5920ドル32セントというとんでもない数字になっている。オバマ政権の3年間の間に、国家債務は1.5倍となり、それはうれしいニュースではない。専門家らは今年中にも国家債務がGDPと同額にまで膨れ上がると予測している。
一方、米国が常々批判している欧州諸国に関してみれば、国家債務はGDPの60%以下に抑えられている。工業通信銀行のアントン・ザハロフ・アナリストは次のように指摘している。
―最近の共和党および民主党の発言を見ていると、最終的にはコンセンサスが達成されると思います。ですから、8月にスタンダードアンドプアーズが米国の格付けを引き下げた時のようなことにはならないかもしれません。しかし、最悪のシナリオもあり得るということも忘れてはなりません。今年末までには市場に否定的な影響を与えるような知らせが入ってくる恐れもあるわけです。
最近の状況を見ると、共和党と民主党は国家債務を1兆5000億ドル削減するための計画調整の最終段階に入っている。それは支出の抑制と増税でもってまかなわれる見通しだ。また軍事費の余剰金を、雇用対策や医療支援に向けることも検討されている。
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◆TPP参加を巡って国内の意見が二分された事は、実は交渉の舞台づくりに役立っている/実利はしっかり確保2011-11-11 | 政治(経済/社会保障/TPP 田中良紹の「国会探検」
◆小沢一郎裁判=「官僚支配に従う者」と「国民主権を打ち立てようとする者」とを見分けるリトマス紙である2011-10-10 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
リトマス試験紙 田中良紹の「国会探検」日時:2011年10月9日
◆「小沢一郎氏を国会証人喚問」の愚劣2011-10-20 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
国会証人喚問の愚劣 田中良紹の「国会探検」
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◆TPP 重要品目/アメリカに対して異議申し立てをきちんとする野田佳彦首相を外務官僚は全力で支えよ2011-11-16 | 政治(経済/社会保障/TPP)
【佐藤優の眼光紙背】
16年目の終結 オウム裁判/河野義行さん/滝本太郎弁護士/元裁判長 山室恵氏/中川智正被告
【16年目の終結 オウム裁判】
(4)妻の命奪った実行犯 面会続ける河野義行さん
産経ニュース2011.11.14 22:01
「『恨み』を持ち続けながら生きていくことは不幸だ」と考えている。被害者にとっても、加害者にとっても…。だからこそ、松本サリン事件を起こし、自らの家族を苦しめ、妻の命を奪った実行犯らに対して、寛容な態度で接してきた。
一昨年と昨年、東京拘置所で井上嘉浩死刑囚(41)、新実智光死刑囚(47)、そして最高裁判決を前にしている中川智正被告(49)、遠藤誠一被告(51)の教団幹部4人と面会し、謝罪の言葉を受けた。
「何が変わるわけでもないが、彼らの気持ちが、少しでも穏やかになればいい」と面会の意図を語る。
遠藤被告との面会では、松本事件でのサリン噴霧車の構造図を見せられた。手書きの図だった。「噴霧装置じゃない?」と答えると、「結構詳しいですね」と返ってきた。
「現実感がないというか。まるでドラマで悪役を演じた役者と会ったような感じ」と振り返る。
10代で入信し“オウムの申し子”と呼ばれた井上死刑囚からは、死刑に対する認識を聞いた。仏教は輪廻(りんね)転生を説く。「終わり(死刑)は終わりなの?」と問うと、井上死刑囚は「自分の終わりは始まりです」と応じた。「人生をやり直すという考えがあるなら安心しました」と返すと、笑顔をみせたという。
サリン噴霧車を製造し、懲役10年の刑を受けた元受刑者とも「友達」になった。出所後、申し訳なさそうな顔で自宅前に現れた元受刑者。服役中に学んだ職能技術をいかし、河野さん宅の庭木の手入れをし、釣りにでかける仲になった。「あいつはもうオウム(アレフ)には戻らない」
なぜそこまで寛容になれるのか−。「それは私も『被疑者』扱いされたからだ」と即答する。
平成6年6月27日の事件発生後、警察は河野さんの家から複数の薬品を押収。本来は被害者である河野さんを“犯人視”する報道が相次いだ。
犠牲者の遺族らから「殺してやりたい」「お前がサリンで死ね」と書かれた手紙が何通も届いた。
そんな経験を通じ、「恨んで、恨んで…。死刑が執行されて晴れ晴れするかといえば、そんなことは絶対にない。恨みを持ち続けながら生きていくことは不幸だ」と思うようになった。
「人を恨むより、私にとっては妻が命をつないでくれたことへの感謝のほうが大きかった」
事件の後遺症で意識の戻らないまま、ベッドの上で過ごす妻の澄子さん=享年(60)=を14年間、介護し続けた。「家内を回復させる。それが私の戦いだった」。体は動かないが声は聞こえる。呼びかけに対し、涙を流し、顔をゆがめ、反応があるたびに希望がわいた。
澄子さんの三回忌を迎えた昨年、鹿児島市に移り住んだ。いまはマンションの一室で隠居生活を送る。「私にとってのオウム事件は、3年前に妻が亡くなったとき、すべてが終わったんです。いまは少し離れたところで人生をリセットしたい。最後に笑って終われるように」(伊藤鉄平)
◇
*松本サリン事件 平成6年6月27日夜から翌未明にかけ、長野県松本市の住宅街でオウム真理教が猛毒のサリンを散布、8人が死亡、660人が重軽傷を負った。教団松本支部の立ち退き訴訟を審理していた、裁判所松本支部の官舎を狙った犯行だった。
警察は当初、現場近くに住み、事件の第1通報者だった河野義行さんを取り調べ、河野さんを犯人視する報道が続いた。オウムの犯行と分かったのは平成7年の地下鉄サリン事件後のことだった。その後、警察、報道各社が河野さんに謝罪した。
(5)滝本太郎弁護士「信者なくなるまで戦う」
産経ニュース2011.11.16 11:37
今月3日、翌日の命日を前に鎌倉・円覚寺で営まれた坂本堤弁護士=当時(33)=一家の二十三回忌法要。滝本太郎弁護士(54)は墓前に手を合わせた。「21日で全員の判決が確定しちゃうよ。どうしたらいいかな」
オウム被害者弁護団の活動をするなかで、教団の凶行の犠牲になった坂本弁護士とは彼の司法修習時代から、酒を酌み交わす仲だった。
「坂本だけをオウムに立ち向かわせてしまった」
猛烈な後悔の念が、滝本さんの人生を変えた。
滝本さんは一連の裁判で、教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(56)以外の死刑執行反対を訴えてきた。一連の事件は、麻原死刑囚によるマインドコントロールのもとで起きたと考えるからだ。だから、教団施設の調査や、信者の脱会活動を積極的に展開した。
そんな熱心な活動ぶりが「『魔法』を使って滝本をポア(転生の意。殺人を正当化する教団用語)する」(麻原死刑囚)と標的になるまで、時間はかからなかった。
平成6年5月、車のフロントガラスからサリンを流し込まれた。太陽が「縁だけ赤く、黒っぽく」見え、間もなく嘔吐(おうと)。
それでも、「オウムをなくすのが坂本の無念を晴らすこと」という信念は揺るがなかった。7年6月、信者の脱会後の生活をサポートする「カナリヤの会」を発足。裁判の傍聴や、拘置所にいる幹部らへの面会も積極的にした。
「信者がマインドコントロールされる過程を知り、再発防止につなげたい」という一心からだ。
「カナリヤ」には元出家者100人以上が訪れたが、麻原死刑囚の呪縛から解き放たれるまでに10年の歳月を要するケースもあった。3人に1人は精神科に通院した。苦悩の末に命を絶つ元信者もいた。
オウム事件の実相に近づくほど、「洗脳」の深刻さは実感を増した。多くの命を奪った教団幹部たちでさえ、そんな“被害者”と考えるようになった。
印象に残る幹部の一人が上告中に拘置所で面会した林泰男死刑囚(53)だ。地下鉄サリン事件で、他の実行役がサリンの入った袋を2つ持ったのに、林死刑囚は3つ持ち込み“殺人マシン”と言われた。
「少しは悪い感じのやつだったらよかったのに…」。当時の様子を率直に振り返る話しぶりからは、死刑を言い渡した1審判決ですら「人間性自体を取り立てて非難できない」と表現した素朴な人柄がにじみ出た。
「悪意の殺人には限度がある。善意の殺人には限度がない」。素朴な人柄の“善人”ですら、殺戮(さつりく)に駆り立てるカルトの恐ろしさを改めて実感した。
「アレフ」「ひかりの輪」などオウム後継団体の信者からは、現在も連絡があり、話を聞いている。そこには、「先生はうまいことポアされなくて、残念でしたね」と無邪気に笑いかけてくる若者たちの姿がある。事件前同様、カルトにのめり込む若者たち…。
「麻原を信じる人間がただの一人もいなくなるまで、自分の戦いは終わらない」。天国の友に思いを馳せ、決意を繰り返す。(時吉達也)
◇
*洗脳と脱会信者支援
オウム真理教のようなカルト教団の中では、信者らは「洗脳」あるいは「マインドコントロール」といった状態になり、正常な判断能力を失う。そのため、脱会活動や脱会した信者らには手厚いケアが必要となる。平成7年の強制捜査以降、脱会者は急増。信者の親などで組織される「オウム真理教家族の会(旧被害者の会)」や、元信者が相互カウンセリングをする中で完全な脱却を図る「カナリヤの会」、カウンセラーや宗教学者らによる「日本脱カルト研究会(現協会)」などが支援や情報交換をしている。
(6)元裁判長の山室恵氏「懺悔の涙、本物だったか」
産経ニュース2011.11.16 21:47
自分の下した判決は正しかったのか。慟哭しながら懺悔を繰り返した被告の涙は“本物”だったのか。地下鉄サリン事件の実行犯、林郁夫受刑者(64)を無期懲役とした元東京地裁裁判長の山室恵弁護士(63)は、判決から13年を経た今、ふと思う時がある。
「やはり、生きていちゃいけないと思います」。法廷で対(たい)峙(じ)した林受刑者は、医師である自分が人を救うどころか殺害に手を染めたことへの悔悟の念と、死刑への覚悟を何度も口にした。被告の号泣に法廷は静まり返った。
だが、裁判官席から見つめる山室さんの視線は冷静だった。「泣こうがわめこうが反省しようが、『こいつを死刑にするんだ』と思っていた」と告白する。
林受刑者の散布したサリンで2人が死亡、地下鉄事件全体で犠牲者13人という事実は重かった。
しかし、検察側の求刑は「無期懲役」。林受刑者の自供が教団の組織犯罪解明につながったことなどが酌まれたためだ。
極刑やむなしと考えていた山室さんは、この時の衝撃を「天井を打たれた」と表現する。求刑を超える判決を言い渡すことも可能だが「懲役を1年増やすのと、無期を死刑にするのでは訳が違う」。
判決に頭を悩ませる日々が始まった。たばこと酒の量は増え、眠れない日もあった。書き上げた判決文を、宣告までの2週間で数え切れないほど読み返した。「ほぼ空で言えるまでになった」。平成10年5月、無期懲役の宣告に林受刑者は深々と頭を垂れた。
最近、気になる話を耳にした。「林受刑者が、服役中の千葉刑務所で座禅を組んでいる」という。真偽は不明だが、教団のヨガが頭に浮かんだ。「結局はそこに戻っていったのかなぁ」
判決後、公判に立ち会った地裁職員から「山室さん、だまされてるんじゃないですか?」という言葉をかけられたことがある。当時は気にしなかったが、今になって心が重い。
「あの時、あの日本という場で、あの事件で判決するとしたら、やっぱり同じようにしたと思う。それについて反省はない」。そして、こうも続けた。「でも、違う物差しで振り返ってみれば、本当によかったのかなとも思える。これが『歴史が裁く』ってことなんだろう」
林受刑者への判決の5カ月後の10年10月、坂本堤弁護士一家殺害事件の実行犯、岡崎一明死刑囚(51)に、オウム真理教事件で初めてとなる死刑判決を言い渡した。これを皮切りに、他の幹部らへの死刑判決が相次いだ。
「死刑は必要」という考えだが、「オウム事件によって、社会の死刑に対する感度が鈍くなった。死刑というのはまさに極刑なんだという認識が少し薄れた」との危機感も抱く。
オウム裁判の終結には「長い年月がたったんだなぁ」。刑事裁判官生活を振り返り、「死刑に関与するっていうのは嫌なことだよ。『あんた死ね』というんだから。重いことだよ」とつぶやいた。(滝口亜希)
*オウム裁判での死刑と無期
189人が起訴された一連の裁判で、すでに死刑判決が確定したのは11人。このうち地下鉄サリン事件に関しては、散布役となった5人のうち4人が求刑通りの死刑判決となった一方で、林郁夫受刑者だけは求刑通りの無期判決となった。検察は林受刑者の供述が「自首」に相当すると判断した。死刑と無期をめぐる判断の相違では、井上嘉浩死刑囚に関して、1審で死刑求刑に対して無期判決、2審、最高裁で死刑判決となった。
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オウム裁判終結へ、中川被告からの手紙
あわせて189人が起訴されたオウム真理教による一連の事件は、まもなくすべての刑事裁判が終わります。サリン製造の中心的な役割を果たし、一審、二審で死刑を宣告され、18日、最高裁判決を受ける元幹部が反省の気持ちと、一方で今も抱える教祖への割り切れない思いを手紙に綴りました。
「被害者の方々、ご遺族の方々にはこの場をお借りいたしまして、心からおわび申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」(中川被告の手紙)
中川智正被告(49)。京都の医大に在学中にオウムに入信。麻原彰晃、本名、松本智津夫死刑囚の主治医として仕え、サリンの製造などで中心的な役割を果たしたとして、11の事件で殺人などの罪に問われ、一審と二審で死刑を言い渡されました。
「ただ、ただ、頭を下げて、おわび申し上げるだけでございます」(中川被告の手紙)
17日、弁護士を通してJNNの記者に届けられた中川被告からの手紙には、ただひたすら謝罪の言葉が重ねられていました。
その中川被告と、事件の被害者という立場にありながら、ずっと向き合ってきた男性がいます。オウム真理教家族の会・会長の永岡弘行さん(73)。
永岡さんは16年前、オウム真理教に入信した長男を脱会させようと奔走していた矢先、猛毒のVXガスを背後から吹き付けられ、意識不明の重体となりました。その後、長男は教団から脱会しましたが、永岡さんの体は今も右半身がマヒしたままです。
「(中川被告に恨みは?) 恨みはない。本当にそうなんです。大人である我々が(事件を)阻止することができなかった」(永岡弘行さん)
永岡さんを襲ったVXガスを製造した男。それこそが中川被告でした。中川被告は、なぜ犯罪に手を染めたのでしょうか。永岡さんは法廷を傍聴し、拘置所での面会を続けて来ましたが、最後の判決を目前にした中川被告の変化に驚いたといいます。
「大きく変わったのは最後。穏やかな顔つきになっていた」(永岡弘行さん)
しかし、かつての教祖、松本死刑囚に対しては、今も割り切れない思いを抱いています。
「麻原氏が何も話さずに裁判を終えてしまったことは、個人的な感情を抜きにしても、同じような事件を2度と起こさないという目的からして、残念でしょうがありません。彼しか分からないことが沢山あったのです」(中川被告の手紙)
教団への本格捜査から16年余り。松本死刑囚は何も語らぬまま、これまでに11人の死刑が確定しました。
「何よりも罪の重さを自覚しつつ、自己を見失わずに残りの人生を終わりたいと思います」(中川被告の手紙)
来週、月曜日の元幹部の裁判で、一連のオウム裁判は事実上終結します。(TBS News 17日16:51) *リンクは来栖
関連;元オウム真理教幹部井上嘉浩被告の上告棄却2009-12-10 | 死刑/重刑/生命犯 問題
【社会部発】オウム裁判終局 「真相」なお疑問
産経ニュース2009.12.10 21:19
約190人が裁かれたオウム法廷は、4被告を残すだけとなった。中でも麻原彰晃死刑囚の側近だった井上被告の判決確定は、オウム裁判全体が終局にあることを象徴する。
井上被告を含む一連のオウム判決は、事件が教祖だった麻原死刑囚の指示・首謀で起こされたことを事実認定することで、刑事上の責任を総括していった。
しかし、法廷を取材した経験を持つ者として一連の裁判が、前代未聞の大量殺人がなぜ起きたかの真相に肉薄したかについては、若干の疑問が残っている。何人もの被告の1審を傍聴した宗教学者が「凶行は教祖と弟子の欲望、感情がドロドロに重なりあったところに生まれたという一面もあるはず。刑事手続きには表れない生々しいオウムの部分を知りたい」と話していた。
そんな中にあって、井上被告の法廷での様子や、接見した人から伝わる拘置所での様子は、教団のドロドロぶりや、1人の若者の心の葛藤(かつとう)、心の弱さが色濃く出たという点で異彩を放っていた。
「オウムの申し子」「修行の天才」と評価され、1千人を入信させたという逸話もある被告。1、2審では、教祖夫妻の痴話げんかなどを饒舌(じようぜつ)に暴露しながらも、遺族から「格好いいことばかり言って」と批判されると激しく狼狽(ろうばい)。「申し訳ない」と何度も涙を流した。1審で「無期」宣告された時には、死の緊張感から解き放たれたためか、激しく泣いた。
弁護人は最近の様子を、「16歳で入信、子供のままだった被告が、ようやく少し大人になってきたように感じる」と語る。他の教団元幹部らの死刑確定を聞くと、絶句し、言葉が出ない状態という。
井上被告が法廷や接見者らにさらした生々しい姿。酌み取れる部分があれば、カルトによる悲劇を繰り返さないための教訓にしなくてはいけない。
ただ、オウム裁判全体を見たときに、麻原死刑囚が何も事実を語ることなく裁判を終えてしまったことが返す返すも残念だ。(赤堀正卓、酒井潤)
.......
井上嘉浩被告の死刑確定へ オウム事件で9人目
2009年12月10日 16時36分
1995年の地下鉄サリン事件など10事件で殺人罪などに問われた元オウム真理教幹部井上嘉浩被告(39)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は10日、被告の上告を棄却した。一審の無期懲役判決を破棄し、死刑とした二審東京高裁判決が確定する。
一連のオウム事件での死刑確定は、松本智津夫死刑囚(54)=教祖名麻原彰晃=らに続き9人目。うち一審が無期懲役だったのは井上被告だけだった。元幹部新実智光被告(45)ら4人は上告中。
井上被告は京都市出身。16歳で教団の前身「オウム神仙の会」に入り、教団では「諜報省大臣」を務めた。弁護側は「二審は地下鉄サリン事件での役割を過大視し死刑の結論を導いた。被告の反省も深まっている」として、死刑回避を求めていた。
判決によると、井上被告は松本死刑囚らと共謀し95年3月20日、営団地下鉄(現東京メトロ)でサリンを散布し、乗客や職員12人を殺害するなどしたほか、94年の元信者ら2件の殺人事件に関与。95年には目黒公証役場事務長を拉致し監禁、死亡させた。(共同)
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〈来栖の独白2009/12/10〉
オウム真理教に拉致されて死亡した目黒公証役場元事務長の長男、仮谷実さんは、本日のNHKの報道の中で「井上被告は、判決が無期懲役から死刑に移ってからは、自らを語らなくなった。自分ひとりで完結させてしまった。真相を知らないでは、遺族は、終わることが出来ない」と云った。井上被告、死刑と無期刑との間で烈しく揺れているようだ。
井上被告同様、先般確定した豊田・広瀬死刑囚たち皆に、事件について、生死について、人生について、そして仏法について、心ゆくまで考えさせてあげたい。若すぎる彼ら。本来優れた感性の持ち主であったのに、人生のとば口で、散らしてしまった。
仏陀は言う。「法(仏法)に依りて人に依らざれ」と。「私を崇拝するな。法によって生きよ」と。親鸞も、「弟子の一人ももたず」と言った。麻原彰晃という教祖(人間)を絶対視したところから、彼らは過った。法を求めさせてあげたい。道を求めさせてあげたい。
既成の教団は、オウムの若者に道を示しえなかったことを猛省すべきだ。渇くように道を求めた彼ら。純粋な魂の持ち主が、単なる犯罪者として断罪された。既成の教団は腸(はらわた)を動かされなくてはならない。彼ら一人ひとりに、既成教団の鈍感を詫びねばならない。彼らを誰一人として救い得なかったことを、詫びねばならない。
「破産会社」は本当に「優良会社」になったのか。首長としての実績を問う---橋下「大阪府改革」を検証する
「破産会社」はほんとうに「優良会社」になったのか。首長としての実績を問う---橋下「大阪府改革」を検証する
2011年11月18日(金)松本創永田町ディープスロート
11月27日の投開票に向け、白熱する大阪市長・府知事のダブル選挙。知事職を辞して、市長の座を目指す橋下徹が掲げる「大阪都構想」や教育基本条例案、さらには彼の独裁的手法の是非が争点となっている。しかし、その前に問うべきは首長としての手腕ではないだろうか。橋下は知事としてどんな実績を上げたのか。公開されているデータや記事から検証する。(文中敬称略)
2008年1月の府知事選に出馬した橋下徹が声高に訴えた公約の一つが財政改革だった。いわく、大阪府は「破産会社」である。新たな府債発行(借金)はしない。収入の範囲で予算を組み、借金を減らしていく---。選挙のキャッチフレーズ「子供が笑う」は、教育や子育て施策に力を入れるというだけではなく、次の世代へ負担を先送りしないという意味に受け取った府民も多いはずだ。
知事として初登庁した08年2月6日、橋下は就任挨拶で職員に対して「4つのお願い」を述べたが、最初に挙げた項目はやはり府の財政危機についてだった。
「今の大阪は破産状態にあることを皆様方に認識して頂きたく思います。 大変厳しい言い方になるかもしれませんが、皆さん方は破産会社の従業員である。その点だけは、厳に認識をしてください。 民間会社であれば---僕も弁護士として破産管財の業務、破産の申告の業務をやりましたが、破産・倒産という状態になれば---職員の半数や3分の2のカットなど当たり前です。給料が半分に減るなどいうことも当たり前です。(中略) この今の財政が危機状態にある大阪を立て直すには、やはり今までと同じような行政のやり方を継続していては何も変わらないと僕は思っています」
この言葉に象徴されるように、橋下は民間から役所に乗り込んだ「コストカッター」としての役割を自任し、あらゆる場面でアピールしてきた。その感覚は、自治体財政の立て直しというより、企業再生のイメージに近い。
自治体だからこそ抱えざるを得ない"不採算"部門、とりわけ文化や教育・福祉関連の事業や施設については多くを「不要」「無駄」「非効率」と断じ、次々と中止や見直し、補助金打ち切りを決めた。自ら急先鋒となった公務員バッシングを追い風に、人件費も大幅にカット。反対する団体や文化人、あるいは府職員とのやり取りが繰り返し報じられたこともあり、橋下には「改革の断行者」というイメージができ上がった。
手法や事業選別に疑問は残るにしても、府財政がほんとうに持ち直したのなら、それも間違いではないだろう。実際、橋下府政の3年9ヵ月で府財政は劇的に好転したと信じる人も多い。
しかし今、府の財政指標を眺めてみても、「再建した」と言えるような改善は見えてこない。それどころか、借金は増え続ける一方だ。なぜ、これほどイメージと実態がかけ離れているのか。「橋下改革」とはいったい何だったのか。ほんとうのところを検証するべきだろう。
*「3年連続黒字決算」の実態
知事就任からちょうど1年後の2009年2月。橋下は09年度一般会計の当初予算案が11年ぶりに黒字に転じる見通しになったと記者会見で明らかにした。
予算査定段階では最大450億円の財源不足が生じる恐れがあったが、前年度予算で人件費削減や建設費などの歳出抑制に踏み切ったために剰余金が生じ、財源に充てられることになったと説明。「財政再建へ舵を切ることができた」と胸を張った。その後の一般会計実質収支を見ても、08年度に103億円、09年度に310億円、10年度で257億円と、確かに就任以来3年連続で黒字を維持している。
だが、問題はその中身だ。
大阪府の実質収支は、故・横山ノック知事時代の2000年度に約400億円の赤字となったのを底に、徐々に改善されつつあった。橋下が就任する前年の太田房江知事時代には赤字額は12億円まで圧縮され、黒字に転じるのは時間の問題だった。「橋下知事でなくても赤字脱却はできた」と指摘される由縁である。
しかし、その赤字解消は、タコが自分の足を食うような苦肉の策がもたらしたものだった。府は橋下の就任以前から、本来は地方債の返済に充てるべき「減債基金」から一般会計への借入を行っており、その額は多い年で1145億円(02年度)に上った。
それでも、借入分を後で返済できるなら、手法自体に問題はない。だが、大阪府は返済の見込みがないまま借入を続け、自転車操業状態に陥っていた。やがて減債基金が底をつきそうになり、08年の選挙前には、地方債の償還を一部先送りして、浮いた金を一般会計に繰り入れるという赤字隠しが発覚。橋下はこれを強く批判し、今後は減債基金の取り崩しを一切認めないばかりか、一時は「新規の府債発行はしない」という方針まで打ち出した。「歳入の範囲内で予算を組む」というわけだ。
ところが、「11年ぶりの黒字」を正式に発表した後の2009年10月、減債基金とは別の基金からの借入が明らかになった。横山・太田知事時代に6基金から計1533億円の借入があり、うち1479億円が未返済になっていた。
さらに、翌10年2月の外部監査では不適切な会計操作が指摘される。
「府では実態として長期の貸付であるものを、年度末日に一旦全額の返済を受け、翌年度初日に再度貸付を行うという単年度貸付を5法人に対して平成20年度(08年度)中に1193億円行っている。(中略)府の予算編成上、歳入欠陥とならないように、2日間だけ資金を引き揚げているだけであり、実質的には府からの長期貸し付けである」(平成21年度包括外部監査結果報告書)
この操作がなければ、08年度の一般会計決算額は約853億円の赤字になっていたと報告書は断じた。つまり、大阪府の黒字転換は、違法とは言えないまでも、さまざまな辻褄合わせで成り立ってきた、いわば"見せかけ"の数字だという指摘である。
こうした会計の実態が明らかになると、本来はトップとして財政の責任を持つはずの橋下は、「粉飾」「デタラメ」と人ごとのようにののしり始めた。「黒字宣言」を自らの手柄として語ったときとは、180度の転換だ。しかし、黒字宣言自体は事実上撤回せざるを得なくなった。
そもそも、それ以前の問題として、「自治体財政において、単年度黒字などたいした意味はない」という指摘もある。都道府県の歳出は特に人件費の占める割合が高く、大阪府の場合は約3割、9000億円に上っていた。この部分を大幅に削れば一時的に数字は良くなる。
しかし、仮に黒字になったとしても、それで府財政が健全だという話にはならない。ここには府債残高とその返済能力、資産などはまったく考慮されていないのだ。それを知ってか知らずか、「11年ぶりの黒字」「改革の成果」と橋下の手腕を讃えるような報道が「改革者」のイメージを作ってきたといえる。
*大阪府の借金は増え続けている
では、府財政の実態はどうなっているのか、改めて見てみよう。
府債残高は2008年度末で5兆8400億円、09年度末で5兆9220億円、10年度末には6兆739億円。橋下の就任以降も増え続け、過去最高額に上っている。その結果、実質公債費比率(自治体の収入に対する借金の返済ぶりを示す数値。数値が高いほど返済で首が回らない状態)は17.6%(10年度)に達した。人口規模や産業などの条件が近い神奈川県9.9%、愛知県13.4%と比べてもかなり高い。このままでは17年度末に26.4%に達し、早期健全化団体に転落すると府が見通しを示しているほどだ。
一方、橋下がことあるごとに槍玉に上げてきた大阪市の市債残高は10年度末で5兆1048億円。5年前から比べると、約4000億円減った。それに伴って実質公債費比率も下がり、10年度で10.2%。横浜・名古屋・京都・神戸の五大市(最も古い政令指定都市)の中では最も低い。バブル崩壊以降、府市ともに巨額の借金を抱えることになったが、少しずつでも着実に改善されているのは市のほうなのである。
平松邦夫市長をはじめ大阪市側からこうした事実を指摘されると、橋下は「府債残高が増えているのは、臨時財政対策債(臨対債)が原因。府がコントロールできるその他の借金は減っている」と反論してきた。また、「数値が悪いのは過去の知事時代の借金のせい。自分の任期中は改善している」とも主張する。
臨対債とは、国が地方に渡すべき地方交付税の代わりに、自治体の借金を認めて急場をしのぎ、将来的に国が地方交付税として地方自治体に返すという制度。つまり、交付税の前借りのようなものだ。
橋下の理屈では、臨対債はあくまで国の借金であって、府の負担にはならない。だから、この部分が増えても府債残高は増えたことにならない、ということになる。この理屈を前面に打ち出すため、府は臨対債のように国が将来補てんすることになっている地方債を除いた「実質府債残高」という指標を独自に作り、財政状況の説明資料に使っている。
だが、こんな解釈をしている自治体はない。国が補てんするといっても、地方交付税を算定する基準額に計上されるだけ。「これは臨対債の返済用」と別枠にして全額上乗せしてくれるならいいが、交付税は一括でやってくる。他の財政需要も踏まえた必要額が交付される保証はなく、あくまでも自治体の責任において行う借金と認識するのが普通の考え方だ。府がいくら独自の指標を作って借金を少なく見せかけても、実態を表しているとは言い難いばかりか、他の自治体が採用していない現状では比較のしようもないのである。
橋下は就任当初、「府債発行は原則ゼロ」との方針を打ち出したが、「それでは予算を組めない」という職員の説得で撤回した経緯がある。あくまで「自分の責任における借金は増やしていない」と言いたいのだろう。だが、就任後2年間は臨対債以外の府債発行も増えていたし、起債依存度(歳入全体に占める地方債の割合)は年々上昇し、10年度には13.4%に達している。
さらに、金融機関など外部からの一時借入金もかさむ。府の一時借入金の推移を見ると、09年度は月ごとに借りては返済する、文字通り一時的な借入になっているが、10年度には1500億円の資金を1年中外部から借り続けていた。
借金が膨らめば当然、返済が重くのしかかる。減債基金は、過去の借り出しによって、本来積み立てておかなければならない準備額が大きく不足。橋下の就任以降も不足額は膨らみ続けた。今後の返済(公債費)は約20年後に至るまで、現行水準(11年度予算で2865億円)を上回る見通しだ。将来負担比率は266.7%(10年度)。これも、神奈川県や愛知県を上回っている。
大阪府の借金体質は何ら改善されていないばかりか、年々深刻になっている。そして、将来世代へ先送りする構造は変わらず、負担はどんどん重くなっていくように見えるのだ。とても「子供が笑う」どころではない。
■ ■
私学助成金の引き下げ、府立大学運営交付金の削減、国際児童文学館など文化関係施設の廃止や補助金打ち切り、高齢者在宅支援事業の廃止、小規模事業者を支援する補助金の見直し・・・。橋下は、さまざまな反対を押しのけて、こうした部門の予算カットを行ってきた。しかし、府民の暮らしに痛みを強いながら、「本丸」たる府財政は一向に改善が見られないとすれば、「橋下改革とはいったい何だったのか」という疑問が湧くのも当然だろう。
だが、それに対する答えはないままに、橋下は「大阪都」構想、カジノ誘致、関空リニア構想・・・と、派手な(しかし、実現性が極めて疑わしい)話題を次々とぶち上げ、テレビをはじめとするマスメディアはその内容をじっくり検証することなく、表面的な発言や動きを流し続けた。
目立った成果をほとんど上げていないにもかかわらず、橋下がいまだに「改革者」として振る舞えるのは、そうしてでき上がってきた虚像ゆえではないだろうか。
10月31日、大阪府議会議場。任期を3ヵ月残して知事を辞職した橋下は、職員に向けた最後の訓示をこう締めくくった。
「大阪府職員の皆さん。皆さま方は優良会社の従業員であります。このことを厳に認識して、これからの大阪府政、しっかりと良くしていってください。3年9ヵ月、ありがとうございました」
府庁を去る感傷から出た言葉だろうか。初登庁時の挨拶をなぞりながら職員を労い、持ち上げると、橋下は満足そうに、あの人懐こい笑みを満面に浮かべた。
しかし、彼が3年9ヵ月前に「破産会社」と断じた大阪府が「優良会社」に変わったと言える論拠は、少なくとも財政に関しては何一つない。自らを自治体再建の旗手と任じ、「次の挑戦がある」と意気揚々と出ていく橋下を職員たちはどんな思いで見送ったのだろうか。(了)
坂本弁護士一家殺害事件が終結/中川智正被告「宗教が背景に・・・恥ずかしく、また申し訳なく思う」
オウム裁判:坂本弁護士一家殺害事件が終結
オウム真理教による一連の事件のうち、坂本堤弁護士一家殺害事件の公判が18日、終結を迎えた。教団元幹部、中川智正被告(49)を死刑とした東京地裁判決は「反社会的で人命軽視も甚だしい」と断罪したが、幼子まで標的とした事件に、坂本弁護士の同僚からは「結局、謎は解けていない」との声も漏れる。一家が行方不明になって22年。21日には教団幹部で最後の被告に対する最高裁判決があり、事件の「風化」もささやかれる中、関係者には複雑な思いが交錯した。
「裁判が終わったからといって過去のことにはならない。なぜこんな事件が起こったのか、坂本君がどんな取り組みをしたのか、忘れてほしくないというのが率直な気持ち」。坂本弁護士が所属していた横浜法律事務所の同僚で横浜弁護士会会長の小島周一弁護士(56)は18日夕、横浜市内で会見した。
3期先輩として仕事やプライベートで多くの時間を共にした。「自分がおかしいと思うことに素直に取り組む弁護士」と評し、オウム真理教の問題に当たる際には弁護団を組むよう助言。坂本弁護士は若手2人と活動を始めたが、「オウムには彼しか見えなかった。もっと複数で行動するようにアドバイスできなかったか、痛恨の思い」と悔やんだ。
一方で、中川被告への感情の変化を口にする元同僚もいる。
「こいつが殺したのか、という怒りの気持ちがあった。ただ、今は事件への思いをずっと抱え続けて生きてほしいという気持ちだ」。事務所の先輩だった岡田尚弁護士(66)は95年の初公判を傍聴し、その後も通った。中川被告の法廷での発言を聞き、事件と真摯に向き合う姿勢を感じるようになったという。
坂本弁護士は弱者の味方になろうと道を選んだ。「中川被告も人を救うため医師になったはず。ある時点まで坂本と同じ生き方ではなかったか。それがなぜ子供まで殺すようなことに……。結局、謎は解けていない」。岡田弁護士は裁判へのもどかしさも口にした。
同僚だった弁護士たちは毎年、一家の遺体が見つかった9月に新潟、富山、長野各県の現場を訪ねる「慰霊の旅」を続ける。今年は坂本弁護士の母さちよさん(80)も同行、95年11月以来の訪問となった。現地では地元の人たちが慰霊碑を手入れする。さちよさんは「80歳になるので、もう一度見ておきたい。現地を守り続けている人たちにお礼も言いたい」と話していたという。【松倉佑輔】毎日新聞2011年11月18日20時50分(最終更新11月18日21時36分)
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「独善、極端な形で出た」=手記でオウム中川被告
オウム真理教元幹部中川智正被告(49)は、18日の上告審判決を前に時事通信社に寄せた手記で、宗教の独善性などが事件の背景にあったとする考えを示した。
手記で中川被告は、「宗教は肯定的な作用がある半面、自らの正しさを強調するあまり独善的になったり排他的になったりする。それが極端な形で出たのがオウム真理教が起こした一連の事件であったと思う」と振り返り、「宗教が背景にあったからこそ事件がこれだけ大きくなってしまった」と分析。「このような内容を自らの体験に基づいて語らなければならないことを恥ずかしく、また申し訳なく思う」と謝罪した。(時事通信2011/11/18-16:27)
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<来栖の独白>
彼の深い孤独が心に響く・・・。
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オウム中川被告「寝耳に水」=仮谷さん殺害示唆を否定―きょう上告審判決・最高裁
2011年11月18日15時6分
オウム真理教による1995年の公証役場事務長仮谷清志さん=当時(68)=監禁致死事件をめぐり、教団元幹部中川智正被告(49)=一、二審死刑=が事件直後、殺害を示唆する発言をしたとされる問題で、中川被告は時事通信の取材に対し、「寝耳に水の話で全く事実ではない」と発言を否定する内容の手紙を18日までに寄せた。
中川被告の上告審判決は午後に言い渡される。オウム事件の裁判は21日の元幹部遠藤誠一被告(51)=一、二審死刑=の上告審判決で終結する見通し。
手紙は13日付で、手書きで便箋に3枚。元幹部井上嘉浩死刑囚(41)が今年8月、遺族に対し、中川被告が事件直後、「殺害できる薬物の効果を確かめようと点滴したら、亡くなった」と発言したと伝えたことについて、「真偽は別にして、井上君が彼なりの真実を述べるのであれば、ご遺族の方々の関心の高い内容だけにもっと早く話してほしかった」と不快感を示した。その上で「井上君が述べている話は、私の記憶とも実際にあったこととも違う」と改めて否定した。[時事通信社]
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オウム真理教:井上死刑囚が仮谷さん「殺害」示唆の手紙
オウム真理教による東京・目黒公証役場事務長の監禁致死事件(95年)で、事件に関与した井上嘉浩死刑囚(41)側が、被害者の仮谷清志さん(当時68歳)の遺族に対し、事件が殺人だったことを示唆する手紙を送っていたことが分かった。遺族は「『告白』を機に、事件の真相を知りたい」と話している。
仮谷さんの長男実さん(51)によると、井上死刑囚の話を家族が代筆した手紙で、今年8月に届いた。仮谷さんの死後、中川智正被告(49)=1、2審死刑=から「ポア(殺害)できる薬物を点滴したら死亡してしまった」と聞いた、などと記されていた。
手紙には「中川被告の刑が確定すれば面会もできなくなると考え、この時期に伝えた」との記述もあった。ただ、実さんが先月21日に中川被告と面会した際には、「積極的に何かをしたわけではない」と殺害を否定したという。実さんは「裁判が終わった後でも、改めて関係者から話を聞きたい」と話している。中川被告の上告審判決は18日、言い渡される。
これまでの確定判決によると、井上死刑囚や中川被告らは教祖の松本智津夫死刑囚(56)の指示を受け、信者の居場所を聞き出そうと95年2月28日、東京都品川区の路上で、信者の兄の仮谷さんを拉致して監禁。3月1日、全身麻酔薬の副作用による心不全で死なせた。遺体はマイクロ波焼却装置で焼かれた。
毎日新聞 2011年11月12日 20時45分
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◆16年目の終結 オウム裁判/河野義行さん/滝本太郎弁護士/元裁判長 山室恵氏/中川智正被告2011-11-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆恐ろしき 事なす時の 我が顔を 見たはずの月 今夜も静(さや)けし/元オウム中川智正被告 18日上告審判決2011-11-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
「公務員宿舎」問題で古賀茂明氏
痛快!!エラソーな財務高級官僚がヤリ込められた
日刊ゲンダイ2011年11月18日
「公務員宿舎」問題で古賀茂明氏が国民の気持ちを代弁
蓮舫大臣の無意味な仕分けよりも、よっぽど有意義だった。衆議院の決算行政監視委員会の小委員会が、16、17の両日、事業仕分けを行った。国民の関心の高い「公務員宿舎」も対象になり、改革派の元経産官僚・古賀茂明氏が参考人として出席。自己弁護する財務官僚に、容赦のない批判を浴びせた。
「公務員宿舎は不要です。日本の国は非常時。国家財政が破綻するかもしれない。増税をお願いしますと言っている時に、『我々の福利厚生をどうしましょうか』という議論が出てくることが非常に不思議です」
古賀氏は初っぱなから「宿舎不要論」を大展開。さらに、財務省のやっている「宿舎のあり方検討会」についても噛みついた。「人選が財務省主導」「非公開なので議事概要は役人がいかようにも作り替えられる」「結論は一切参考にしない方がいい」と切り捨てたのだ。
傍聴人の多くがうなずいていた。
元キャリア官僚だからこそわかる、「高給取りのくせに格安宿舎に入っている幹部」の問題にも切り込んだ。
「緊急時に(参集しなければならない)と言いますが、幹部はものすごい給料をもらっている。宿舎なんてなくても、自分の給料で十分近くに住めます。民間以上の給料をもらっています。『残業が多い若手を近くに住まわせてあげたい』という話がありますが、実際には若手は遠くに住んでいて、幹部が近くに住んでいます」
一方の財務官僚。仕分けには5人が出席していたが、マトモな反論には程遠かった。
議員に、「この中で緊急参集要員は?」と聞かれると、国有財産調整課長は後ろの席を振り返り、部下とゴニョゴニョ。驚くべきことに、自分が緊急要員なのかどうかわかっていないのだ。
どんな場合に緊急出動が必要なのかをたずねられると、理財局長は「国債の発行と国庫の管理をしている。金融市場の混乱時は適正な政策を打たなければならない」と言い、理財局次長は「東日本大震災では、被災者に公務員宿舎の空き部屋を探したり、帰宅困難者向けに庁舎をあけたりした。今回は昼間だったが、深夜でも同じことをしなければならない」と説明した。だが、格安宿舎でなければならない理由としては説得力ゼロだ。
そのうえ、財務省本省の緊急参集要員6979人のうち、「3時間以内に参集できるとされる9キロ圏内」に住んでいる職員は3分の1だけだったことも明らかになった。
やはり財務省の言い分はヘリクツだ。小委員会の与野党国会議員14人のうち、仕分けの結果は「全廃」3人、「縮減」9人。今後、政府に是正勧告をすることになるが、国家公務員のお手盛りを絶対に許さないためにも、大マスコミはもっと騒がないとおかしい。
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◆事業仕分けで凍結が決まった公務員宿舎建設 野田首相「現地視察し、私が判断したい」2011-09-30 | 政治
◆官僚・古賀茂明氏の出処進退にみる 公務員制度の摩訶不思議2011-07-14 | 政治
◆原発問題の裏にある経産省・東電「天下り・利権の構図」/退職勧奨を受けた古賀茂明キャリア官僚2011-07-12 | 地震/原発
中国でにわかに高まるTPPへの警戒と関心
中国でにわかに高まるTPPへの警戒と関心=大和総研
サーチナ 2011/11/18(金) 10:36
日本がTPPへの交渉参加に向けて関係国と協議するとの方針をAPECの場で表明したことを契機として、TPPに対する中国の警戒感が強まっていると内外で伝えられている。本件については、すでに5月26日の本コラム「中国は日本のTPPへの関心をどう見ているか」で、中国はTPPを米国の「戻ってきたアジア太平洋戦略」と見ている旨指摘した。APEC会議前後の中国メディア、中国の研究者等の本件の取り上げ方を見ると、こうした見方に基本的に大きな変化はないが、中国国内でも様々な意見が出てきているようにも見受けられるので、現時点で整理しておくことが有益と思われる。
11月14日付中国広播網は、社会科学院世界経済政治研究所研究員の分析を引用しつつ、米国の「APECを骨抜きにし(打架)、中国に圧力をかけようとする(打圧)意図は実現できるのか?」として、米国が中国をTPPに招き入れる意図があるかどうかは重要でない、中国抜きのTPPは実質的な意味を持たず、中国は急ぐ必要はない、米国はTPPの見通しについて意味もなく楽観的だが、日本の農業問題などを考えると疑問符が付く、米国はTPPを経済問題として捉えるだけでなく、米国の価値観をもってアジア太平洋地域を統一しようとしているが、これは極めて非現実的なことあると論評している。同じく14日付(香港)も、環境保護関連製品の関税引き下げ、GDP比エネルギー消費量の抑制、国有企業も民間企業同様の商行為とすべき等、最初から中国の影響力を抑え、中国を排除することを意図したものであることは明らかだが、中国の貿易額や市場規模から考えて、中国抜きのTPPにどれだけ意味があるかの疑問であるとしている。さらに、TPPの交渉参加国は体制や発展段階などが大きく異なっており、米国はこれを無視してAPECを分断すべきでない、仮にTPPが進んでも、これと中日韓FTA,ASEAN+3、+6等は矛盾せず、同時並行的に進められるべきもの(并行不悖)だとしている。
中国の入らないTPPはあまり実質的な意味はないとする見方の一方で、中国への影響を深刻に捉える見方も散見される。たとえば14日付経済参考報は、TPPは疑いもなく米国が改めてアジア太平洋地域への影響力を強化しようとする試みで、中国としてもその影響を重視すべきで戦略的対応が必要であるとし、中国自らが巨大な市場であるという優位性を活かし、日中韓FTAの推進や内需主導型成長への転換を促進し対外依存度を下げていくことが必要とする。またその影響を深刻に捉える論者からは、中国としても主体的にTPPに関与していくべきとの主張も展開されていることが注目される。上記経済参考報は、自ら主体的・積極的にTPP交渉に入っていく必要があり、そうしなければ、TPPが出来上がった時には、中国はこの地域で新たに大きな障壁に出会うことになると警告、また中国国際経済交流中心の研究者は、17日付第一財経日報評論の中で、アジア太平洋地域での中国の発展・影響力の拡大を阻止しようとする米国の戦略は明らかだが、TPPが将来的に同地域の自由貿易の基礎になる可能性があり、中国としても早い段階から交渉に参加すべきである、中国抜きでTPPの交渉が進められるのは、アジア太平洋地域にとっても望ましくないとしている。
TPPをむしろ中国にとっての挑戦・機会と捉えるべきとの論者も見られる。上海国際問題研究所の研究者は、17日付第一財経日報評論で、ASEAN諸国の半数近くがTPPに交渉参加し、その中国への影響は無視できないとしても、これら諸国の購買力から見て、TPPによって、直ちに米国のこれら諸国向け輸出が急増すると考えるのは楽観的すぎる、米国がASEANを重視してこなかった間に、中国とASEANの貿易投資関係は大きく拡大強化してきており、むしろTPPを挑戦・圧力と捉え、対米国との関係でさらにこの地域での中国の競争力を高める機会にすべきとしている。
中国は、従来から多国間経済連携の枠組みを進める上で、以下のような原則を掲げてきている。すなわち、開放性(参加する意思のある経済体すべてに開かれていること)、実質性(実質的な自由化基準を具備していること)、平等性(交渉ステータスが平等で、連携によって相互に利益を享受できること)、漸進性(交渉分野の範囲や自由化の程度は、段階的に拡大・深化)、包容性(異なる経済体の個々の事情・特殊性に配慮、特に発展段階の低い経済体や小国に配慮し柔軟な対応をとること)である。中国商務部部長はAPEC会合時、「TPPに関してはどこからも招待がない」と発言したが、その際、同時に「そうした招待があれば真剣に研究する」とし、「TPPのような多国間枠組みは、包容性、開放性、透明性を持つべき」とも発言し、こうした中国の原則にも言及している。
11月初、民間レベルでの日中のある会議(中国側はシンクタンクや国有企業幹部等)が開催されたが、同会合でも、TPP等地域経済連携に関して議論があった。地域経済連携の話は、好むと好まざるに関わらず、各国にとって、経済問題であると同時に、政治安全保障上の問題としても捉えられている面がある(あるいは、結果的に地域経済連携は当然、地域安全保障上も一定の意味を持つことになる)が、そうした場合、仮に日本がTPPに参加した場合、あるいは参加しない場合、各々、日中韓FTAなどの取り組みにいかなる影響が考えられるのかとの日本側の問いかけに対し、中国側は一般論と断りつつ、(1)遠くの親戚より近くの友人が重要(中国語にも同様の言い回しがある)、(2)既存の枠組みなりルールなりを尊重すべき、(3)地域経済協力に政治的な要素を持ち込むべきでない、の3点を指摘、慎重な言い回しではあるが、やはりTPPに関心を示す日本に対して、明確な牽制を投げたものと解釈された。
今後の展開として、(1)中国もTPPへの交渉参加意図を表明する、(2)TPPとは距離を置き、これまで議論になってきている日中韓FTAやASEAN+3あるいは+6をベースにした地域協力を中国主導で加速させようとする、が想定される。(1)の可能性は、上記中国が多国間経済連携で掲げている原則、特に漸進性、包容性との関係からすると低いと見るのが自然ではあろうが、可能性が全くないとは言えない。中国としては、米国が中国のこうした原則を理由にして、交渉参加を拒むことを見越した上で、あえて参加希望を表明し、対立点を浮き彫りにすることにより、性急な自由化に慎重な多くの新興国・途上国を取り込むといった戦略も考え得る。また、仮に中国も交渉に入るとなった場合には、事実上、過去に頓挫したアジア太平洋広域連携構想(FTAAP)に似た状況に逆戻りすることになり、それはそれで既存のAPECの枠組みを尊重すべきとしている中国にとってむしろ望ましいことだ。いずれにしても、上記中国の研究者の指摘にもあるように、(1)、(2)は必ずしも2者択一ではなく、中国としては、(1)を表明するか否かに関わらず、(2)を従来以上に強力に主導していくことになろう。今後、TPP、日中韓FTA、ASEAN+3、+6といった動きが、同時並行的に複雑にからんでくることになろうが、その中で中国の存在は否応もなく、日本に対しても、本件について、経済面のみならず、外交・安全保障面からの戦略を要求することになろう。
(執筆者:金森俊樹 常務理事 株式会社大和総研)
「覚せい剤取締法違反事件」安西喜久夫被告 最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)、年明けに弁論
二審の逆転有罪、見直しか 裁判員裁判初の全面無罪
覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われ、一審千葉地裁の裁判員裁判で全面無罪となった後、二審東京高裁で逆転有罪とされた会社役員安西喜久夫被告(61)の上告審で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)が年明けに弁論を開くことを決め、検察、弁護側双方に通知したことが17日、関係者の話で分かった。
最高裁は通常、二審の結論を見直す場合に弁論を開くため、裁判員裁判の判断を覆した高裁判決が破棄される可能性が出てきた。今回の事件は、裁判員裁判として一審の全面無罪と二審の逆転有罪のいずれも全国初のケースだった。
2011/11/18 08:12【共同通信】
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関連;「覚せい剤取締法違反事件」安西喜久夫被告 無罪(裁判員裁判)⇒有罪判決(東京高裁)⇒上告(弁護側)2011-03-30 | 被害者参加・裁判員裁判
オウム坂本堤弁護士一家殺害事件/死を一人称で考える/中川智正被告の母/坂本堤さんの母さちよさん
オウム裁判:「死を一人称で考える」…中川被告が手紙
中川智正被告は判決前の11月8日付で毎日新聞に宛てた手紙に心情をつづっていた。手紙の要旨は次の通り(表記は原文のまま)。
16年という月日が事件の後遺症に苦しまれている方、御遺族の方にはどれ位の年月だったのだろうか思いますと、言葉がありません。何人かの被害者の方とお会いし、おわびさせて頂きましたが、私の起こした事件の傷あとの深さを改めて感じました。私は何とお話して良いか分からず申し訳ございませんと申し上げるばかりでした。
人は一人称では死を考えられないとよく言われます。しかし、私は、自分のやった事が原因で、それを考えざるを得ない立場になりました。
私が医師をしていた頃、大部屋にいる癌の患者さんの容態が悪くなると、個室に移していました。そこで患者さんは亡くなっていたのです。私には直接伝わってきませんでしたが、患者さん同士は、「個室には行きたくない」と話していたそうです。当時は癌の告知をしないのが普通で、患者さんの不安は大きかったろうと思います。ある日、突然、個室に移された患者さんや隣のベッドが空いた患者さんはどう思っていたことでしょう。自分が犯した罪が原因なので比較するのは不適切だとは思いますが、これからの自分の身とあの患者さん達を重ね合わせてしまいます。
ともあれ、いろいろとお心遣いありがとうございます。事件を起こしてしまったことには申し訳ない気持ちで一杯です。
◇中川智正被告
京都府立医科大を卒業後、勤務医から89年に出家。松本智津夫死刑囚の主治医の一人で、出家2カ月後の坂本弁護士一家殺害事件など11事件に関わり、25人の犠牲者を出した。
毎日新聞 2011年11月19日 0時20分(最終更新 11月19日 0時51分)
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オウム裁判:「中川被告と面会続ける」…被害者の永岡さん
「中川君は麻原(彰晃=松本智津夫死刑囚)という男に利用されただけ。死刑が確定しても執行停止を求め、本人との面会も可能な限り続けられるようにしたい」。中川被告らが起こした猛毒のVXガスによる襲撃事件の被害者で、「オウム真理教家族の会(旧称・被害者の会)」の永岡弘行会長(73)は判決後、目を潤ませながらそう語った。
永岡会長は最高裁での弁論後の10月26日、東京拘置所で中川被告と面会。約1年半ぶりの顔合わせだった。
チェックのシャツにベージュのズボン姿で現れた中川被告の体調は良さそうで、以前より太った印象を受けた。服が窮屈に見え、「お母さんに3サイズ大きい服を差し入れるよう伝えておくよ」と話すと、被告は「ありがとうございます」と礼を言った。母親が時折面会に来ていることに触れ、「母親も健康そうです」と気遣う言葉も漏らしたという。
「私たち大人があなたのような若者の軌道修正をしてやれず申し訳なかった」。永岡会長が語りかけると、中川被告は穏やかな表情を浮かべて「周囲のいろいろな人に迷惑をかけたので、命ある限りの償いを続けていきたい」と答えたという。
永岡会長はオウムに入信して家に戻らなくなった長男を取り戻すため、89年に他の父母らと被害者の会を結成。会には中川被告の母親も名前を連ねていた。90年に自身の長男を連れ戻すことに成功したが、今も信者の脱会支援活動を続ける。
会長になって22年。周囲からは「もうやめたら」と言われたり「目立ちたがり屋」とささやかれたりしたこともあった。だが、オウムの後継教団に入信する若者は後を絶たず、必要性は失われていないと信じている。
「世の中には誰かがやらなければいけないことがある」。共にオウムと闘った坂本堤弁護士の口癖が心の支えだ。【伊藤一郎】毎日新聞 2011年11月19日 0時17分
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弁護士一家殺害審理終了:募るやり切れない思い
カナロコ(神奈川新聞)2011年11月19日
判決が言い渡された最高裁第2小法廷には中川智正被告の母(76)の姿があった。
傍聴席の最前列、死刑を告げる判決をじっと目を閉じて聞き、閉廷の際には小さな体を折り曲げ、正面におじぎをした。
覚悟して久しいことを示すように開口一番、「当然の結果です」と言った。
遠く西日本の地方都市から拘置所の息子への接見に向かい、その際には鎌倉・円覚寺の坂本弁護士一家の墓に参ることもあった。それでも救われない心。
この日も「たった一人の命ですが、少しでも償いになれば。でも、大勢の命を奪い、償いにはなりませんが」。自らに向けるように「わが子を(死刑で)失い、少しでもご遺族の気持ちに近づくことができれば」と静かに話し、タクシーに乗り込んだ。
オウム真理教家族の会代表の永岡弘行さん(73)は、1カ月前に中川被告と接見したことを明かした。「太ったなあ、表情が穏やかになったなあ、と声を掛けると、笑みを浮かべていた」
かつて自身の長男も入信。わが子を教団から取り戻す親たちの運動の先頭に立ち、中川被告の母とも行動を共にした。やがて母は「加害者の母」に。一方の永岡さんはVXガスで教団に殺されかかった。この日、目に涙をため「一連の事件を食い止められなかったわれわれ大人の責任。死刑判決に申し訳ない気持ちだ。お母さんにも掛ける言葉がない」とやり切れなさを募らせていた。
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弁護士一家殺害審理終了:「生きる者の義務」坂本堤さんの母さちよさん
カナロコ(神奈川新聞)2011年11月19日
事件が起きた時、記者は小学生だった。坂本堤弁護士の母さちよさん(80)にお会いするのは初めてだった。思いを伝えられるのだろうか。葛藤を抱え、ペンを動かした。
9月中旬。さちよさんは、息子堤さん一家が遺体で発見された新潟、富山、長野の3県に慰霊に訪れた。碑の前に立つ決意をするまでに、16年の歳月が流れていた。
さちよさんは話した。
「これまで本当に多くの方にお世話になり、今もまた、たくさんの方が息子一家を思い出し、親しんでくれています。けじめとして、命あるうちに礼を尽くさなければいけない。それが、生きている者の義務だと思いました」
事件発生から約6年後の1995年9月。堤さん、都子さんの遺体が発見された時、さちよさんは「対面することはできなかった」という。「見てしまったら、どうしたってその姿が焼き付いてしまう。生きていかなければならない私にそんな勇気はなかった」
96年、裁判が始まった。「自分がどんな精神状態になってしまうか不安」で、法廷に足を運ぶことはなかった。何が語られ、何が明らかになろうと、3人は戻ってこない。「つらくて、悲しくて、やりきれなくて、憤怒と憎しみの中にあり、気持ちのやりようもなく、それでも頭の中で、こらえて、こらえて生きてきました」
裁判開始から15年。坂本弁護士一家殺害事件で起訴された実行犯5人と首謀者の松本智津夫死刑囚。18日の中川被告の最高裁判決で、6人全員の死刑が確定することになり、同事件の裁判は終わった。
「死刑が執行されても、ただ、むなしいだけ」
10月中旬。さちよさんは漏らした。どんな判決が下されようと、事件から逃れることはできない。「私が息を引き取るまで(事件は)終わらない。いいえ、あの世まで持っていかなければと思っています」
事件を知らない世代は増えた。若い人は知る由もなく、それも仕方ないことと、さちよさんは言った。「それでも」と言葉を継いだ。「どこかで、誰かに、事件を記憶しておいてほしい」
考え続けたい。事件がなぜ起きたのか。被害者遺族がどんな思いで生きてきたのか。さちよさんが言った「生きている者の義務」として。
一連の刑事裁判は、21日に上告審判決予定の遠藤誠一被告(51)=一、二審死刑=を残すだけとなり、上告が棄却されれば事実上全て終結する。
中川被告の弁護側は刑事訴訟法に基づき、判決翌日から10日以内に手続きができる判決訂正の申し立てをする方針だが、量刑が覆った例はなく、退けられれば正式に確定となる。判決は一連の犯行を「教団の組織防衛を目的に、法治国家への挑戦として組織的、計画的に行われ、反社会的で人命軽視も甚だしい」と指摘。
「正当な職務上の活動をしていた弁護士を家族ごと殺害したり、殺傷能力の極めて高いサリンを散布したりするなど、残虐で非人道的な犯行態様と結果の重大性はほかに比べる例がない」と指弾し、「一連の犯行による被害者や遺族の被害感情も厳しい」とした。
その上で、被告自身の行為について「弁護士一家殺害では妻子の首を絞めて窒息死させ、両サリン事件でも共犯者の医療役やサリンの合成役として犯行に不可欠な役割を積極的に果たし刑事責任は重大だ」と判断。大半が松本死刑囚の指示に従った犯行だったことを考慮しても、死刑はやむを得ないと結論付けた。
一審東京地裁は2003年10月に求刑通り死刑を言い渡し、二審東京高裁は07年7月に控訴を棄却。被告側が上告した。
上告審で弁護側は「さまざまな異常体験をし、精神疾患が犯行に影響した」と完全責任能力を否定。松本、地下鉄両サリン事件については「実行の謀議に加わっていない」と主張していた。
一、二審判決によると、中川被告は1989〜95年、松本死刑囚らと共謀。弁護士一家殺害や両サリンなど五つの事件で計24人を殺害、目黒公証役場事務長の監禁致死事件と併せ、25人の死亡に関与した。京都府立医大在学中の88年に入信。松本死刑囚の主治医だった。
*坂本堤弁護士一家殺害事件 オウム真理教の信者脱会支援などに取り組んでいた坂本堤弁護士=当時(33)=、妻都子(さとこ)さん=同(29)=、長男龍彦ちゃん=同(1)=が1989年11月4日未明、横浜市磯子区の自宅アパートに押し入ったオウム真理教の教団幹部らに殺害された。5年10カ月後の95年9月、新潟県で堤さん、富山県で都子さん、長野県で龍彦ちゃんが、遺体で発見された。殺害は松本智津夫死刑囚(56)=教祖名麻原彰晃=の指示によるもので、松本死刑囚をはじめ、実行犯の早川紀代秀死刑囚(62)ら6人が殺人罪などに問われた。すでに5人の死刑は確定。中川智正被告(49)の上告審判決で同被告の死刑も確定する。
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余録:オウム裁判終了へ
「赤い毛糸にだいだいの毛糸を結びたい だいだいの毛糸にレモンいろの毛糸を レモンいろの毛糸に空いろの毛糸も結びたい この街に生きる一人一人の心を結びたいんだ」。夫・堤さん、長男・龍彦ちゃんと共に殺された坂本都子さんの詩だ▲この詩が刻まれた坂本弁護士一家殺害事件の慰霊碑が、遺体発見現場の山中から山麓(さんろく)に移設された。落石で現場が危険なためだが、その移設作業が終わったきのう、犯行に加わったオウム真理教元幹部、中川智正被告の上告が棄却され死刑が確定する見通しとなった▲「恐ろしき事なす時の我が顔を 見たはずの月 今夜も清(さや)けし」は中川被告の歌という。坂本さん一家が殺害された22年前から6年後の地下鉄サリン事件にいたるオウム真理教による一連の犯罪だ。その裁判が21日の遠藤誠一被告への最高裁の判決をもって終了する▲だが公安当局によればオウム真理教の後継教団の信者数は1000人を超え、教祖だった松本智津夫死刑囚への崇拝は続いている。そもそも事件を知らぬ若い入会者が増えていると聞けば、過ぎた年月にむなしさも覚える▲教祖の途方もない妄想はなぜ若者の心を、また幾多の人命まで現実から奪い去れたのか。裁判は終わっても、答えはなお薄明の中にとどまった。そして心配も胸を刺す。今日の現実は若者の心をつなぎとめる理想や物語を事件当時よりさらにやせ細らせてはいまいか▲いや、カルトの灰色の妄信を過大評価してはなるまい。人々が生きる色とりどりの現実を結び合わせ、彩り豊かな世界を編んでいく都子さんの夢は、きっと今の若者にも引き継がれていこう。
毎日新聞 2011年11月19日 1時10分
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◆坂本弁護士一家殺害事件が終結/中川智正被告「宗教が背景に・・・恥ずかしく、また申し訳なく思う」2011-11-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆16年目の終結 オウム裁判/河野義行さん/滝本太郎弁護士/元裁判長 山室恵氏/中川智正被告2011-11-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆恐ろしき 事なす時の 我が顔を 見たはずの月 今夜も静(さや)けし/元オウム中川智正被告 18日上告審判決2011-11-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
『小沢一郎 語り尽くす』TPP/消費税/裁判/マスコミ/原発/普天間/尖閣/官僚/後を託すような政治家
小沢一郎 すべてを語る TPP、消費税、政治とカネ、原発… 聞き手;鳥越俊太郎(サンデー毎日2011/11/27号)
「僕なら米国と率直に話し合いをし、普天間問題にケリをつけられる」。意ならずも法廷に立たされた小沢一郎元代表(69)は健在だ。TPPから消費税、原発、あの「4億円」――。?剛腕?とジャーナリスト・鳥越俊太郎氏(71)が縦横無尽に語り尽くす。
「尿管結石が見つかって、その後、何にもないから変だなと思ったら、医者は『(結石が)砕けて(体外に)出たんですかね』と言うんですよ」自身の資金管理団体・陸山会の土地購入をめゞる政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で、政治家として初めて検察審査会によって強制起訴された小沢氏。初公判があった10月6日の夜、尿管結石のため腰の痛みを訴え、日本医科大病院(東京都文京区)に一時入院した。その音、小沢氏は甲状腺がんを、鳥越氏は肺がんを患った経験がある。対談は、小沢氏の冗談めいた語り口で始まった。
鳥越:心境はどうですか?
小沢:体は元気です。ただ、何でもないと思っていても、やはりストレスがたまるんでしょう。肩が凝ったりね。
鳥越:政治情勢にストレスを感じませんか。
小沢:それはもう、ちょっとしんどいですね。
鳥越:民主党の政権運営については、期待通りにいっていないように国民に映っています。自民党はダメだが民主党もダメだな、という雰囲気を感じます。
小沢:事実その通りでしょうね。ですから、非常に危険な状態だと思います。政党不信、政治不信というか、政党はどっちもダメとなると、左であれ右であれ、極端な議論が出てくるんですね。日本人は情緒的ですからバーッと走る可能性がある。今、その境目に来ている。これ以上おかしくなると、本当に悲劇になっちゃうんじゃないか。
鳥越:米国でも、共和党もダメで民主党もダメ。何となく世界中、既存の政党がダメになっている。
小沢:欧州もそうです。極右、極左の政党が票を伸ばす。米国も2大政党ですが、共和党の中のティーパーティー、民主党サイドといわれる若い人のデモも現象のひとつじゃないでしょうか。既成の政党、既成の体制、既成の秩序に対する不信感。
鳥越:今、TPPが一番の問題になっています。国民はあまり知らされていないというか、知らないんですよね。
小沢:直接的に、すぐ実害が国民の懐に及ぶ問題と捉えにくいですからね。
鳥越:どういうふうにご覧になっています?
小沢:ひとつは自由貿易という基本的な経済原則の要素。もうひとつは米国特有の思惑があります。自由競争、自由貿易の原則は誰も否定できない。できる限り世界中で自由な経済取引が行われることは良いことですが、今、米国が主張しているTPPをそのまますぐ受け入れることとは別問題。日本の国民生活をちゃんと守るシステムをつくったうえで、吟味してやらなければならない。(現時点で交渉に参加すれば、米国の)意のままにやられてしまいます。(参加国の間で)経済の深化の程度、レベルの差があったり、国情・民族の差があったりしますから、お互いうまく障害を取り除きながら、合意できるところからやっていくことしかない。米国の場合はちょっと金融で走りすぎて失敗しました。何とか挽回しなきゃいけないと、またもや米国のシステムでみんなを統一しちゃおうという思惑があるものですから、米国にビシッと言わないといけないと思いますね。
鳥越:まったくその通り。関税を100%撤廃するやり方は米国の戦略ですね。農業も医療も日本には固有の事情、歴史や伝統がある。急に100%関税を撤廃してやっていけるのか、ちょっと難しいな。
小沢:米国は農業でも自分の都合の良いことを言っているんですよ。自分の大事なものは保護しておいて、他国には「全部撤廃しろ」と。なんぼでも議論できるんですよ。農業だけじゃない。
次に分かりやすいのは医療です。米国は国民皆保険ではありませんが、日本は皆保険。その制度を自由診療などで崩そう――という意図があるわけです。制度そのものが崩壊に導かれる可能性もあるし、米国の健康保険、医療制度でよいとは思えません。
鳥越:民主党政権になれば米国に対し、もう少し対等に、言うべきことは言う姿勢で臨んでくれることを国民は期待したと思います。でも鳩山由紀夫元首相は別にして、菅直人前首相や野田佳彦首相は、ほとんど米国の言いなりですね。
小沢:米国の注文を聞いてくる窓口は官僚ですが、彼らの言う通りでは、おっしゃるように、何のための政権交代かという議論が出てくるのは当然です。僕が民主党の一員として見れば、やはり政治的な経験が非常に浅く、まだ実践を踏んでいませんからどうしても役人に頼るところがあるんです。もう少し勉強し、勇気を持たないといけません。
鳥越:民主党にとっては試練、訓練の期間だったということでしょうか。このままだと次の衆院選はどうなるか分からない。
小沢:それが怖い。自民党が政権を取って代われるくらいピシッとしているのかというと、自民党もダメですね。このままだと、どこも過半数を取れない。悲劇ですね。カオス(混沌)の状態になっちゃう。
*基礎訓練なしに偉くなっても
鳥越:そういう中で、政権の組み替え、政党の再編成は考えられますか。
小沢:民主党が2年前に国民が期待したことをやろうと一生懸命頑張っている姿を見せさえすれば、支持は戻ると思う。悪戦苦闘しているけれども進もうとしている姿に、国民は良い感情を持つのではないか。みんな自覚を持って頑張らないと。それぞれの部署の人が責任を持ち、決断してやっていくということじゃないでしょうか。責任を持たないと、結局、役人の言う通りになっちゃいます。
鳥越:次期衆院選や民主党次期代表選について考えることはありますか。
小沢:野田総理も(安住淳)財務大臣も、消費税(増税)をやるって言っているでしょ?来年1月の通常国会に(関連法案を)出すとなると、来月にはおおよその成案を作っておかなければならない。消費税は直接、個々の国民全部に響きますからね。まして今は世界的大不況が来るかもしれないという時、国内では東日本大震災の影響がある時に、消費税増税というのは、僕は納得できない。もうひとつ、2年前に「(衆院議員任期の)4年間は(消費税増税を)やりません」と約束して政権がスタートしたわけですから、それを反故にすることにもなる。両方の面で、ちょっとどうかなと思います。
鳥越:小沢さんは消費税を上げることには反対?
小沢:今、現時点で上げることには賛成できないですね。ただ、総理と財務大臣が(消費税増税を)言っちゃってますからね。12月には成案、来年1月の通常国会には法案を出すと、よその国まで行って話しているわけですから、ちょっとこれはしんどい。このまま衆院選をすれば問題にならない。ベタ負けですね。
鳥越:あまり明るい材料がありませんね。
小沢:初心に帰ることだと思います。人間ですから約束したことが100%できないのは仕方ない。しかし、約束を守ろうと努力する姿が尊い。最初からやれないとというのでは「一体、何のための政権交代だったんだ」ということになる。真摯な努力の姿を原点に返って取り戻すというのが、いいのではないでしょうか。
鳥越:しかし、小沢さんがそう言っても松下政経塾出身の政治家たちは全然違う動きをしています。
小沢:彼らもそういう公約の下で当選してきた。
鳥越:でも公約がほとんど実行されていません。
小沢:それがちょっと問題でしょうね。困ったことですけど……。
鳥越:困ったとおっしゃいますが、国民も困っているんです。
小沢:そう。そのツケが国民に行くから、国にとっても国民にとっても困ったことになっちゃうということ。非常に心配です。
鳥越:小沢さんがもう一度、政権運営に携わる道はないのでしょうか。
小沢:僕自身は別にどうでもいい。問題は、民主党の場合はみんな基礎的な訓練をしないままポッと偉くなっていること。ベースがないので、何か問題に突き当たった時に「これはこうしよう、ああしよう」という判断ができなくなっているのではないか。仕方ない面もありますが、世界、世の中は待ってくれない。
鳥越:ギリシャに端を発した金融。経済危機ですが、良いのは中国くらいで、ほとんどダメですね。
小沢:欧米がダメになれば中国にも影響するでしょう。中国のバブル経済が弾けそうになっていますが、本当に弾けたら動乱です。中国は政治的動乱を伴うので大変ですよ。
鳥越:経済や金融がグローバル化した結果、一国の問題が世界に波及する事態になった。ギリシャがデフォルトでダメになれば欧州の銀行や米国の銀行がダメになり日本も影響を受ける。そういう時に国民にしっかり支持されている政権がないと困ります。打つ手はありますか?
小沢:妙薬というのはないですね。国民との約束を守る姿勢で政権を運営することからですね。
鳥越:強制起訴による裁判が続いています¨行動の自由を奪われているということはありますか。
小沢:「そんな立場なのに何だ」と、また批判されますからね。あまり過激な言動をするわけにはいかないし、多少は制約されますね。元私設秘書の石川知裕衆院議員ら3人に対する東京地裁の有罪判決は、びっくりしました。
鳥越:驚きました。全部「推認」でした。「多分そうだろう」と(笑)。
小沢:ハッ、ハッ。
鳥越:三重県の中堅ゼネコン・水谷建設の社長(当時)が5000万円ずつ2回、運んできたということが認定されています。
小沢:推認ね(笑)。ただびっくり。前代未間の法廷じゃないでしょうか。(通常の裁判は)裁判官が捜査機関の証拠資料を見て判断しますが、「多分そうなんだろう」ということで判決を出されちゃうとねえ……。
*マスコミ報道は日本の悲劇だ
鳥越:マスコミからも批判が出ました。ただ、その中でどうしても引っかかるのは(陸山会による土地購入の原資になった)4億円のカネの出所の説明が二転三転していると思えることです。胆沢ダム(岩手県奥州市)建設をめぐり、建設業者からの裏金が渡って原資の一部になった、それがはっきり言えないので説明が二転三転した―― マスコミを含めて、いろいろな人が指摘しています。僕らには真相が分からないのでお聞きしたい。あの4億円の出所、原資は何ですか。
小沢:僕のお金です。今のお話も全部、多分そうじゃないかという類いの話。マスコミも国会も忘れているのは、僕も後援会も秘書たちも、2年近くにわたって国家権力によって強制捜査されているということ。僕の知らないことや忘れたことまで(東京地検特捜部は)全部分かっています。捜査機関が強制捜査したにもかかわらず、不当“違法な金銭の授受はないことが明らかになったんですから、個人が勝手に説明する以上に確かな説明じゃないだろうか。あとはまったくのプライベートな話。何も悪いことがないのにプライベートを全部、説明しなきゃならないという理屈はおかしい。
鳥越:すると4億円の出所についても検察の事情聴取はあったと?
小沢:ぜ〜んぶ(笑)検察は知っています。預金通帳から何から、銀行の原簿まで持っています。強制捜査ですよ、鳥越さん。
鳥越:一部説明をしていましたが、お父さんからの遺産も……。
小沢:もちろんそれもあります。親からの相続は(4億円の中では)大きかった。僕自身だって稼いでいます。印税だけでも1億何千万円もありますし。
鳥越:あの本(『日本改造計画』)は売れましたから。
小沢:本はそれだけじゃないですから(笑)。
鳥越:そこに建設業者からの裏献金が紛れ込んでいることは?
小沢:絶対ありません。第一義的には、後援会のお金と私有財産は絶対混同しないようにずっと心がけてきていますし、もし違法献金があるなら、これだけ調べたら必ず出てくるでしょう。検察は噂の類いから全部、全員を呼んで調べているんですから。それでも出ないんですから。ないものは出るはずがありません。カネがなくなっちゃうということだから、用立てしたということ。
鳥越:そのお金の流れが、何となく不審を感じたところかもしれない。
小沢:「(土地を)買うと、事務所の運転資金、運営費がなくなっちゃう」と。それでは、僕の手持ちのカネを当面、用立てようと。
鳥越:それを抵当にして、また銀行からお金を借りている。
小沢:事務的な話です。(事務所に)まったく任せていますから。強制捜査した結果として何もないにもかかわらず、どうして「違法なカネに違いない」ということが、マスコミをはじめ無関係の人に分かるのでしょう。
鳥越:では、小沢さんは新聞・テレビの報道をどのようにご覧になっていますか。
小沢:日本社会の悲劇ですね。これが戦前、「一億玉砕」を唱えたこともあり、一度は国を滅ぼした。これから戦争が起きるということではありませんが、このままだと民主主義の否定になります。政治不信は民主主義の否定ですから。一体どういう社会をメディアは望んでいるのか、僕にはまったく分からない。ただ悲劇だと思う以外にないですけれど。
鳥越:明るい材料はないですかねえ……。今日は小沢さんに明るい材料をいただかないと(笑)。
小沢:日本人が豊かな情緒と精神文化を持っているのはいいのですが、国際社会の中で生きているのですから、民主主義をきちんと理解することが大切でしょう。それから、もう少し理性的。論理的な発想で自立しなければダメですね。政治でも、みんなで何となく決めるでしょ?誰が決めたのか分からないうちに決まってくる。
日本の合議制というのは、誰も責任を取らなくていいシステムなんです。うまくいっている時はそれでもいいが、問題が起きた時には「誰も決めない」ということになっちゃう。だから、さらに激変が予測されるような時は、論議を尽くしたうえで、その立場にある人が最終的に自分の責任で決める――「自立と共生」を僕はずっと主張しています。自分で考え、自分で決断し、自分の責任でやる。その要素をもう少し身に着けないといけません。
鳥越:時間がかかりますね。小沢さんと僕とはそんなに年齢が変わらないけれど、われわれが生きている間は無理かも(笑)。
小沢:無理ですね。日本人の中身まで変わるのは無理ですが、頭の中だけでも……。ただ、こう言うと笑う人がいるけど、僕も本質は情に樟さして流されるタイプの典型的日本人なんですよ。でも、政治家はそれではいけない、理性で考えて結論を出さないといけない、と常に言い聞かせています。「冷たい人間だな」とは言われますが(笑)。
*原発は過渡的…反省してます
鳥越:ところで、今回の震災については?
小沢:原発事故は深刻ですね。1970年代、僕が科学技術政務次官だった頃に原発が始まりましたが、過渡的なエネルギーとしては仕方がないと最初から主張していた。新エネルギーを見いださないといけないという思いは、ずっと持っていました。今も原子力の結論は出ていないんですよ。高レベル廃棄物の処理はどこの国もできていない。一局レベルは、どこも受け入れないでしょ?
鳥越:将来的には原発をなくしていく方向でしょうか。
小沢:最終処理が見いだせない限り(原発は)ダメ。新エネルギーを見いだしていくほうがいい。ドイツには石炭などの資源がありますが、日本はない。ですからドイツのように10年で原発を止めるわけにはいかないかもしれないが、新エネルギー開発に日本人の知恵とカネをつぎ込めば十分可能性はあります。思えば、過渡的エネルギーだと分かっていながら原発に頼りすぎました。「もう少し強く主張しておけば良かった」という反省はあります。
鳥越:日本人のモノ作りの伝統からいうと、新エネルギーをつくり出すことについて僕は悲観的ではありません。太陽光発電や風力発電、水素エネルギーなどいろいろあります。それにしても(福島第1原発を)廃炉にするだけでも、時間もカネもかかりますね。
小沢:残滓をどうするかが一番の問題です。使用済み核燃料棒をどうやって取り出すのか、取り出したものをどこに置くのか。できないことを言っても仕方がない。何十兆円かかろうが、何とか封じ込める策を講じないと日本の将来はありません。「冷温停止」と言いますが、爆発しないようにするだけで汚染はどんどん進むし、未来永劫、水をかけっ放しになっちやいます。これを解決しないと日本はダメでしょうね。
鳥越:東京電力だけでなく、国、政治の責任でもある。
小沢:東電を矢面に立て、国が後ろから支援する今のシステムはダメだど思います。国が前面に立ち、その下に東電や原子炉メーカーなどを付け、全力でやるようにしないと。原発の封じ込めは東竺電だけではできません。
鳥越:今、どうしても言いたいことは何でしょう。
小沢:やはり原発問題。これを抱えていたのでは日本の未来はない。どんなにカネがかかっても衆知を集めて封じ込めないといけない。これが第一。それから役所中心の日本の仕組みを改める。そのためには、みんなが民主主義を正確に理解しないとね。個人の自立と民主主義。これがないと、いくらテクニカルな話をしてもダメ。日本に民主主義が定着するかどうか、今が胸突き八丁、境目だ。
鳥越:「官から民へ」と言いますが、官僚は同じ場所で勉強して政策に通じ、優秀です。民主党の若手議員は負けていますね。
小沢:官僚と闘うレベルを間違えているんです。もっと高い次元の理念・見識で闘わないといけない。細かいことは、専門家である官僚のほうが知っているに決まっています。「この理念に基づいて社会をつくりたい。だから協力しろ」と筋道の通った議論がなされれば官僚は抵抗できません。
*中国にもズケズケ言ってるよ
鳥越:では、具体的に聞きます。沖縄県の普天間(飛行場移設)問題です。
小沢:僕は、いつでも米国とケリをつけられると思っています。あの沖縄のサンゴの海を埋め立てるなんてバカげたことをする必要はない。普天間(に駐留する米軍)の必要はないですよ。前線から実戦部隊を引ぐのが米国の軍事戦略の基本。欧州からも兵力を引いている。米軍が引くと中国の軍事力にやられるというのは一面の事実ですが、日本が「こういう役割を果たすから、この部分はいなくていい」と言えない。これこそが問題ですね。沖縄は日本の国上ですから日本が守るのは当たり前。3K(きつい、汚い、危険)はやらずにカネさえ出していればという感覚だから、米国人にバカにされちゃう。
鳥越:鳩山由紀夫元首相が突き当たった「抑止力」ですね。これについてはどう考えますか。
小沢:僕も必要だと思います。米国のプレゼンス(存在)が極東アジアからまったくなくなるのは良くないっよく「日米同盟」と言いますが、だったら、それなりの役割を日本も果たさないといけない。「日本の領土はちゃんと日本が守る、トータルな抑止力の一部は担う、緊急の時には米軍が来てください」と。
鳥越:米軍はグアムなリハワイなりで……。
小沢:十分。情報を探ったり警戒・監視したりすることは日本でできる。尖閣諸島も日本の領上で、一度も中国の領土になったことはない。中国にも面と向かって言ってますよ。「どの王朝の時に、お前らの領上になった?」「ここは琉球王国の領上で琉球は日本と合併した」と。「その問題は?小平(元最高指導者)先生が『後世に任せようと言った』」と言うが、あれから20年も30年もたっているじゃないか(笑)。
鳥越:それは誰に?
小沢:唐家璇(とうかせん)が国務院国務委員の時かな。中央対外連絡部(中連部)なんかともズケズケやってますよ。
鳥越:日本人は、米国にも中国にもモノが言える政治家がほしいんです。
小沢:僕は日中も日米も、政治家としても個人としても、友好促進のための草の根交流などを何十年も一生懸命やっています。彼らはそれを知っていますから、僕がズケズケ言ったって怒らない。
鳥越:モノを言わないことは国益を害しますね。
小沢:言うと責任が生じるから言わない。官僚はともかく、政治家は言わなくちゃいけないんです。
鳥越:民主党内で、小沢さんが後を託すような政治家は出てきていますか。
小沢:基礎的な勉強をさせなければダメですね。トップリーダーも、若ければ良いというものでもない。実務的な実践を段階的に積んでいかないと、イザという時の判断ができない。30代、40代で良い人たちはいると思いますよ。ただ、基礎的勉強をしなきゃね。すぐに偉くなることばかり考えていてはダメです。
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◆菅原文太「日本人の底力」 ゲスト小沢一郎:百術は一誠に如かず2010-12-27 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
菅原文太「日本人の底力」 ゲスト小沢一郎 2010年12月26日ラジオ(ニッポン放送22日収録)
菅原 今年最後の放送は、民主党元代表、小沢一郎さんにお越しいただいて、政治の話、日本のこれからの話、そんなことを聞こうと思います。あの、小沢さんは日ごろあまりご自分のことは言われませんね(笑)。
小沢 あはは。
菅原 座右の銘なんてものはありますか?
小沢 はい。僕は「百術は一誠に如かず」という言葉が好きで、どんなに策を凝らしても一番大事なのは誠を尽くすということで、今風に言えばパフォーマンスよりは誠を尽くすことの方が大事だと。そういう意味だろうと思うんですが・・・。
菅原 もう一度言ってください。百に技術の術ですか?
小沢 百ぺんの術策よりも、唯一つの誠より優れたものはないと。
菅原 一つの誠、はあ〜なるほどねえ。今日のしてきたネクタイをいうと、紺色と白で・・・。
小沢 あはは。
菅原 色はそういう色が好きなんですか?
小沢 色は背広でも何でも紺が多いですね、我が社は(笑)ただ最近は、紫がはやっているものですから「お前も同じようなものじゃなくこういうのもつけろ」つって、ネクタイを何本か頂きました。
菅原 そんな小沢さんの人柄がなんとなく伝わったかなというところで、あの、政治というか、なぜなんでしょうか、あの沖縄の問題。承知をされているんですけど、鳩山さんもついに断念してしまった。なんであのときにずーっと行かなかったかなと思うんだけども、政治家・・自民党も民主党も僕も含めて、アメリカにね、私のような素人、門外漢から見ても日米同盟なんて言葉だけはきれいなことを言ってるけども、どこかね、怯えてるんじゃないのと。そういう風に見えるんですよ。アメリカの何に怯えてるんですか。
小沢 そうですね・・・アメリカの経済力を含めた巨大な力でしょうね。怯えと同時にですね、アメリカの言うようにしてれば楽だと。そういう意識があるんじゃないでしょうかねえ。食うには困らないというとこでやってれば。ですから、そういう意味で、独立国家としての日本はどうあるべきかとか、そういう類の問題はできるだけ考えないようにして、言うとおりにしてると。そうしてればまあ、なんとか生きていけるんじゃないかと。という、二つの要素があるんじゃないですかね。
菅原 小沢さんと同じ党だけど、今の政権の人たちはね、ほとんどみな普天間・辺野古問題は県外、国外と言ってたじゃないですか。ところが今は全部ひっくり返ってしまった。政治家として情けないなと思っているんですけども、その一方で、それじゃあ中国と親密に仲良くかと思うと、中国に対しても肩肘張って。
小沢 基本的に事なかれ主義なんですね。中国に対しても経済力でつながっていて非常に強くなって大きくなっていますが、まあ、あまりゴチャゴチャしないようにと。尖閣の領土侵犯のときも経団連なんかが「早くこれケリつけてくれないと企業経営にひびく」とか、そういう観点だけなんですね。そういうことですから、アメリカからも中国からも実は全く相手にされてないですね。ロシアだって同じですわね。そういう意味で、国は国民と領土で成り立っているものですから、そういうきちんと国民の生命、それから日本国というそのものをきちんと自分で守っていく、そういう考え方、政治的な姿勢、スタンス、そういうものが全く・・・これ自民党時代からですけども、なかったと。今もないと。そういうところが、彼らに軽んじられる最大の原因だと思っています。
菅原 本来なら、戦いに敗れたのですから、しばらくは家来でいても仕方なかったにしても、65年たっても自立、独立されてないとしたら、こんなに情けないことはないんで。小沢さんは以前からアメリカとも対等に、中国とも対等に、正三角形でいかなきゃいかんと。特に中国を中心とした東アジア同盟というか、そうした形でこれからの日本はやっていかなきゃいかんと、小沢さん除いてそういうことを言う人が一人もいないんじゃ、これは困ったもんだなと思っているんですが。
小沢 そういう発言すると角が立つと議員はみな捉えるんですね。ほんとの事なかれですから、(外国から)まず軽蔑されますね。官僚、政治家、それぞれの職分を守ること。政治がきちんとビジョンを示し責任を取れば役人は理解してくれる。
菅原 そういう話を聞くと、結局政治家は官僚に取り込まれてしまっている。こっちから見えない。官僚のね、これはもういろんな人が言ってるんだけど、明治維新から続いている官僚制度ですよね。(太平洋戦争終戦で)改まるかと思ったら官僚のシステムだけは生き残ってる。官僚制度の問題さえ片付ければ、自ずと普天間の問題も、日米同盟の問題も、日中の問題、アジアの問題、いろんな問題が収まってくると思ってるから。小沢さんがもしこの先政治の中心に立ったとしたら、どのようにされようと思っていますか?
小沢 明治以来の官僚機構。戦後、ぼくは、戦前以上に官僚統治が行き渡っていると思ってるんですね。それと同時に日本の官僚というのはアメリカと密接に結びついています。外務省だけじゃなく。そういう面もあるんですよ。
ただ、僕は官僚を否定してるんじゃなくて、日本の官僚は国家レベルのことをやりなさいと。国会議員も国家レベルのことをやりなさいと。それぞれの職分を守りなさいと、それだけのことを言っているんですが。
官僚の人もね、大部分の人は既得権を奪われるんじゃないかという恐怖感でいますけれども、優秀な人ほどこのままではいけないんじゃないかと思っています。腹の中では。だから僕はその人たちがきちんと表に立ってやれるようにするためには、政治家が「こういう国づくりをしたい」と、だから「この方針に従って、具体的な行政をあんたらやってください」と、「その結果はオレが責任とる」と、言えば彼らはやりますよ。
その、「何かお前たち考えろ」と、役人の考える範囲というのは今までの基本方針を大変更するということはできませんから。既存の積み上げということになります。それでその中で何か知恵を絞って持ってって、うまくいかなければ「お前らけしからん」「役人けしからん」と、役人のせいにされちゃう。これじゃあたまったもんじゃないというのが彼らですね。これは全部のことに共通することで、政治家自身がやはり自分のビジョンと主張を内政でも外交でもきちんと申すと、そういうふうにすればですね、僕は必然的に役人はついてくると思っています。
菅原 小沢さんからそういう風な話を聞くと簡単なのになあ・・・と。素人から見るとねえ、できないのかなあと・・・。
小沢 官僚の既得権を奪うだけではダメなんで。必要なことは、僕は、もっと権限を強化しなきゃいけないところもあると思うんです。例えば危機管理とかテロだ金融危機だ天然災害だといろんなことあるでしょう。そんなときにもっと政府は強力な権限持たないとダメですよ。阪神大震災みたいに、総理大臣が来るまで三日間かかって何かかんかしつつ、その間に人が死んでしまうなんて。その意味では素早くパッと対応できるような、国の権限を強化しなきゃいけない面も、あります。それはもう事柄に応じてありますけども、そういう役割をきちんと付与すれば、私は役人は大丈夫、理解してくれると思います。
菅原 これから小沢さんがね、政治生命をかけて、特に、来年、裁判も待ち受けていますね。政治とカネという問題は、政治にカネは必要である。
小沢 以前からずーっと僕が主張してるのは、政治資金の問題、私個人のこと云々ということをこの場で申し上げるつもりはございませんが、政治資金の問題を筆頭にして、行政であれ、一般の会社であれ、日本は非常に閉鎖的、クローズドな社会ですよね。菅さんはオープンオープンとおっしゃってるからもっとほんとはオープンにしなきゃいけないんですが。
僕は、政治資金も、誰から貰ったか、極端に言えばですよ、誰だって浄財くれるっていえば貰ったっていいと思う。それで、何に使ったか、収入と支出を全部、1円からオープンにすると。それで国民みなさんが「あんなやつから貰うなんてけしからんじゃないか」とか「こういうところでこれを使うのはけしからん」と、そういうふうに思えばそれは選挙の際にきちんと判断すればいいんで。
今は、オープンオープン言いながら・・・私自身は全部オープンにしてますけども、オープンにしなくていい部分が残ってますし、それから行政でも、機密事項的なことはほとんどクローズドですよね。大臣だって知らされていないし。会社だってそうです。ほんとの機密事項は株主であれ従業員であれ誰も知らない。僕は、アメリカみたいになんでもかんでもオープンにするというのは弊害も出てくると思います。少なくとも、ヨーロッパ並みのオープンな社会にしていかないといけないと思っています。
菅原 あの、国会議員は(政治献金ではなく)国民の税金で賄ってますよね、給料から政治活動費も。
小沢 日本はそのパーセンテージが高いですね。
菅原 そうですよね。それであるんなら、政治資金も、政治に本当に使うためのものをね、アメリカ式に、広く集めたらどうなんだろうと。こないだ、岡田さんが経団連から献金を、あれだけダメだって言ってたのに(笑)、もらうことにね、そのために法人税5%下げるなんて(笑)それがひとつのアレなのかなと思わざるを得ないようなね、かえって国民から見てもおかしいなということが、清潔に、クリーンにと言いながらあらたまってこない・・・。
小沢 大きな変革をしようとすれば、今までの旧体制で既得権を持っていた人からすれば脅威ですから、「あの野郎さえいなければ」ということになりがちなのは、歴史上でも仕方のないことなんですけども。
ただ、僕は、質問していないのは、国民の皆さんは、いま、テレビ新聞だけじゃなくて、ネットやいろんなもの、媒体が普及してきましたよね。ですからものすごく意識が変わってきている。このラジオだって、いっときテレビやなにかで押されたみたいであれしてますけども、ラジオ聴いてる人っていうのは意外に多いんですよね。いろんな意味で情報を知ることが出来るようになったので、僕は国民の皆さんは、かなり意識が違ってきてると思っています。
ですから、さらにもう一歩進んで、今お話したように、自分も、百円でも千円でも、献金して政治活動を助けてやろうというようなことまで行けば、いろんな問題は少なくなりますよね。僕の場合はね、ワーワーワーワーメディアに騒がれるたびに個人献金が数百人規模で増えてるんですよ(笑)。
菅原 ほお。
小沢 もちろん、アメリカみたいに何万何十万という人じゃないですから、トータルの金額はそんな大きいわけじゃないですけども、それでも、去年も、今年も、300人、400人ずつ個人献金者が増えてます。
小沢 だから僕はメディアの非難が集中してますけども、お金のことであれ何であれ、不正行為がね、あったならば、それは政治家であれ一般人であれきちんと罰せられなきゃいけないと。それはその通りだと思うんですが、ただなんとなくね、そのときそのときで、一人を悪者にして、肝心な世の中の仕組みや政策やそういうものが全然改革されないで終わっちゃってるんですね。その場その場で。そこが僕は非常に問題だと思っていますね。で、何か起こるたびに、規制が強化されるんですよ。規制強化というのは官僚の権限を大きくするだけなんですよ。これがほんとに繰り返しなんですよ、日本の。
菅原 我々のようなね、政治に縁のないところで生きてるでしょう、それでも規制はひしひしと迫ってきています。だからね、戦後のどの時代よりもいま窮屈でね、「これもダメ、あれもダメ」、ね。そして税金の増税を堂々と言いかけて止めてしまったもんだから、なんかね、ズルくね小さく、ここから取ってあっちから取ってね(笑)気がつかないところで取り上げてるんですよ。そういうのをね、改めてもらいたい。
菅原 あの、金の問題が長くなりすぎたんで、ここで、これからの日本の国の姿、そして政治をどういうふうに、特に、来年、政治的な動乱が起きるんじゃないかと思っているんですが。そういう中で小沢さんは何を考え、何を目的として、この先、やっていかれるか。その話を聞かせていただいて終わりにしようと思います。
小沢 はい。私が言っているのは、自立した日本人と、自立した日本人の集合体である自立した日本国。それが私の、抽象的な言葉でいうと目標で、要するに、自分自身で考え、自分自身で判断し、自分自身で責任を取ると。ということでないと、個人も国も成り立たないし、誰にも相手にされないということだと思っているんです。
アメリカは日本の最大の同盟国ですけども、同盟国であるに相応しい日本は、じゃあ日本の役割はなんなんだと。そして、アメリカは、なんなんだと。現状はそれでいいのかと。そういうことを日本人がしっかり持って、それでアメリカにも言わなきゃいけない。
中国も、僕これ既に言ってんですけども、尖閣列島は、数千年の中国王朝の支配に入ったことは、歴史的にないんですよ。間違いない、日本の正真正銘の領土なんですね。そういうことについて、しっかりした・・・僕はもう中国の人にも言ってますけどね、あれは歴史上見ても争うことは何もないと。その問題であれ何の問題であれ、しっかりと自分のあれを相手に伝えられるような日本人に、そして日本の国にしたいなあと、そう思っております。
菅原 さて、そうは言っても、何年になりますか(笑)、言い続けてもね、みんな腰倒れといいますか、小沢さんも今年は68歳、まあまあ、私なんか10個も上ですけどもね、今のままでは、私のような門外漢でも不安でね、どうなんだろうこの国は。
もう孫もいるもんだから、特に孫なんか見てると、いま中学、これから高校に行こうなんてものだから、これからの日本はどうなるんだろうと。細かく言えば教育はどうなるんだろうね食料はどうなるんだろう、いろんなことがやっぱり・・そしてそれは殆どが今までの政治の官僚組織のね、具体的に暖かい手を差し伸べてやってくれてないんですよ。
政治家としての小沢さんは実績があり度胸があるんだからね、ひとつ・・・まあ、そういう人が何人かいるじゃないですか、亀井静香とかね(笑)。
小沢 仰るようにですね、今の日本は老いも若きもですね将来の不安、将来の見通しが全然たたない、これは経済であれなんであれね、そこに僕は日本の社会の不安定なそして不安な要素があるんだと思うんです。ですからやっぱりあらゆる意味で、少なくともリーダーが「こういう日本を作りたい」と「このために皆で頑張ろうや」というやっぱり自信を持ってですね、言えるようにしなきゃいけないと思いますですね。
菅原 お互いにあの東北のね、岩手と宮城の県境で、歩いても行けるところで(笑)。生まれてるんだけども、明治維新をもう一度振り返ると、「白河以北一山百文(『白河の関所より北の土地は、一山で百文にしかならない荒れ地ばかり』という侮蔑表現)と言われてね、ずぅっと蔑視されて、そういうやっぱり薩長土肥、西側の、私なんか薩長土肥と、向こうは敵だって言うんだけども、西郷さんも好きだし、大久保利通も。ねえ、でもそういった維新のときの精神がだんだんだんだん山縣有朋あたりになってくるとやっぱり別のものに変わってしまって・・・。
小沢 官僚機構がどんどん強くなってきてしまいましたからねえ。だから官僚のシェアの中でみんな結局は悲惨な戦前の歴史になってしまうんですよねえ。明治のリーダーが偉かったのは「白河以北一山百文」という言葉がありますけども、明治のリーダーが偉かったのは、敵であった徳川幕府の中からも優秀な人材はどんどん登用していますね。これはね、僕はえらかったと思いますね。
菅原 五稜郭榎本ね。
小沢 ええ。誰であっても。それでね、うちの大先輩の原敬であっても・・あれ東北の方ですからね、それが立憲政友会幹事長になって総理大臣にまでなったわけですから。いろんな人を、白河以北の人材であっても優秀なら採用したんですね。それだけの、やはりトップリーダーに人を見分ける目があったんでしょうね。
菅原 必ずしも薩長全部が悪いわけではなくて。だけどやっぱり東北は悲惨だった。賊軍と言われたりしてね、長いこと雌伏してた。その雌伏から、ひとつ、小沢さんが・・・。
小沢 あははは。
菅原 立ち上がりました。
小沢 あはは、はい、そうですね。
菅原 今日は本当にありがとうございました。(強調=太字は、来栖)
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◆民主党大会 小沢氏演説=この理念に沿った政治をこの国が渇望しないはずがない2010-09-15
(前段略) しかし、私は官僚無用論を言っているわけではありません。日本の官僚機構は世界に冠たる人材の集まっているところであると考えております。問題は政治家がその官僚をスタッフとして使いこなし、政治家が自分の責任で政策の決定と執行の責任を負えるかどうかということであります。 (後段略)
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◆ケビン・メア著『決断できない日本』 普天間から福島まで、代償の大きい日本の優柔不断2011-08-20 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
◆WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)2011/5/27 小沢一郎元民主党代表インタビュー「天命に遊ぶ」2011-06-03 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
◆小沢一郎が語った「原発/衆愚の中からは衆愚しか/マスコミは日本人の悪いところの典型」 〈悪党?〉2011-09-19 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
「小沢一郎×田原総一朗 徹底生討論 『日本をどうする!』in ニコファーレ」〈後〉
「小沢一郎×田原総一朗 徹底生討論 『日本をどうする!』in ニコファーレ」(後)
〈前〉からの続き
■「ただ安いからといって闇雲に"海外"というのは考えもの」
田原総一朗(以下、田原): そこで、今日一番お聞きしたいことはこの次なんです。これも釈迦に説法ですけれども、日本は法人税が40%と高い。こんな国は先進国では無いですね。中国で25%、韓国25%、シンガポール17%、ヨーロッパはみんな30%と高い。法人税が高い、しかも円高。企業はどんどん海外へ出ていきますよね。これからどんどん中小企業も出ていくでしょう。出ていったら、日本は産業が空洞化するじゃないかと。ここが一番の問題だと思うんですよ。ところが民主党も自民党もこういうことを国会でまったく論議しない。どうすればいい?
小沢一郎 (以下、小沢): 法人税本体が高いことは間違いないんですが、社会保障関係の経費なんかを入れますと、必ずしも日本の企業が高いというわけではないですね。
田原: そうですか。
小沢: そうなんです。GM(ゼネラル・モーターズ)などが潰れそうになったでしょう。向こうは年金など負担が猛烈に高いものですから、あの時はそれで大変になったんですよ。
田原: 日本は厚生年金、つまり会社に勤めている人たちの年金ですね、これは自分が払う分と会社負担があるんだけど、日本は会社負担が多くない。アメリカ、ヨーロッパは・・・。
小沢: (日本は)ほかに比べればね。
田原: だからアメリカやヨーロッパで会社をやったほうがもっとドーンと高いと。
小沢: そうです。ですからそれを含めると、必ずしも法人税のトータルが日本の方ほうが高いというわけではないんですよ。法人税本体は高いですけどね。
田原: いずれにしても今どんどん企業が(海外に)出ている。産業空洞化が起きて就職ができない。2〜3日前の新聞でも、大学生の就職率が50%、高校生はもっと低いと・・・。
小沢: そうですね。
田原: 就職ができないということになって深刻なんですが、この産業の空洞化問題はどうすればいいですか。
小沢: やっぱり1つは輸出にばかり頼る経済ということから、成長率が低くてもある程度内需でやっていける、内需で回せるような体質に転換する必要が僕はあると思いますね。
田原: これもご存知じゃない方が多いと思いますが、1980年代後半から90年代初めに日米経済摩擦というのがあった。当時小沢さんは自民党で幹事長もやっていらした。この時にアメリカは、「アメリカに輸出ばっかりしないで内需拡大をやれよ」と盛んに言った。あれで内需拡大はできたんですか?
小沢: もちろん、それでいわゆる財政出動したりしました。だけど財政の出動をずっと続けるわけにはいきませんから、産業そのものをもっと国内需要でもってやりくりできる産業にしていかなければならないと。
田原: トヨタにしても、ホンダにしても、日産にしても、全部輸出でもっているんですよね。
小沢: そうです。
田原: どうすればいいんですか。国内で車を売ろうといったって、そんなに売れないじゃないですか。
小沢: それはそうです。だけど基本的に海外で輸出ということももちろん必要ですけれども、最低限の国内需要というものをきちんと抱えておれば、そんなに海外が悪くなったからといって、すぐバタッと影響が起きるということは無くて済みますから。今、タイの洪水で大変になっちゃっているでしょう。
田原: これもまた面白いですね。今、中小企業の部品屋さんがみんなこれで潤っているんですよ。大企業はタイで駄目になってしょうがないから、国内の中小企業に発注しているというね。
小沢: だから大企業自身も、ただ安いからといって闇雲に「海外、海外」というのも考えものだと思いますよ。
田原: 僕は小沢さんを除いて、政治家はその辺を言えないと思うんですよ。やっぱりいくら資本主義といったって、儲かればいいというもんじゃないでしょう。
小沢: そう思います。
田原: どうですか。
小沢: 今、政治家のモラルだけ問われますけど、経済人にもきちんとそれなりの、商売人として一国民として、また国内の企業としてのモラルはきちんと持っててもらわないといけない。
田原: どこが欠けていますか。
小沢: 要するに当面、何でもいいから儲かればいいという、あの感覚は僕はやっぱり・・・。
田原: 何でそうなっちゃったんですかね。
小沢: ある意味、日本社会全体の戦後の風潮でしょうかね。そう思います。
田原: でも戦後のそういう風潮がそうなったとしたら、やっぱり小沢さんもいた自民党が悪いんですよね。
小沢: そうです、そうです。
田原: そういう風潮を作っちゃった。
小沢: そうです。やっぱり戦後政治の一番の問題点です。
田原: どこが戦後政治の一番の問題点だった?
小沢: 戦後政治の問題点は、1つは政治行政を全部官僚に任せちゃったということ。
田原: それはある。さっきから仰っている。
小沢: 任せたけれども、任せていい時代だったんですね。
田原: 高度成長で。
小沢: 高度成長、右肩上がりで。余計なことを政治家は言わんほうがいいというような。
田原: 明日の生活は今日より豊かになる、明後日はもっと豊かになる。みんながそう思っていた。
小沢: はい。だから、そういう時代で官僚に任せ過ぎちゃったというのが、1つの大きな日本のあれ(戦後政治の問題点)だと思います。
田原: そうか、官僚がいる。
小沢: それからこれはよく言われますけれども、やっぱり高度成長の中で物質万能の価値観が国民・社会の間に根付いてしまったというのも大きいと思いますね。
田原: そこで、僕は小沢さんに申し上げたい。つまり、高度成長があって、バブルがあった。バブルが弾けたのは宮沢(喜一)内閣の時です。まさにこの時に小沢さんたちは自民党に愛想を尽かして出ていかれて、細川(護熙)連立政権をお作りになった。これは100%小沢さんのせいだと思いますよ。
小沢: (笑)。
田原: まあ、いいや。ところが細川連立政権を作ってからそれ以後ずっと、やっぱり日本の体質は変わっていないじゃないですか。
小沢: 変わってない?
田原: 変わってない。これは何ですか。
小沢: やっぱり日本人の意識が変わってないんでしょうね。
田原: それをやっぱり政治家が何とかしなければいけない。
小沢: 政治家の責任ですけどね。もちろんその通りですが、やっぱり国民自らが(何とかするのが)民主主義社会ですから。国民以上の政治家が出ないとよく言われるんですよ。だから、国民がやっぱり賢明にならないと。
田原: 賢明になるというのはどうすればいい?
小沢: 自分自身で考えることです。自分自身で考え、自分自身で努力し自分自身で決断して、行動するということです。
田原: いやそう仰るけど、これは極めて難しいですよ。
小沢: ええ、難しいです。
■米軍基地の辺野古への移転は「できないでしょうね」
田原: 今の日本がどうすればいいかというのを、自分で考えろと言ったって難しいですよ。
小沢: 例えば選挙で誰を選ぶか、どうするか。それをマスコミがこう言うからとか、そういう話じゃなくて、自分自身でちゃんと検討して、こいつは政治家に値するかどうか、そういうことを自分でいいです。自分なりの判断できちんとやらないとダメですね。
田原: 僕は選挙にかけては小沢さんは大天才だと思う。日本でずば抜けている。だって、小沢さんが選挙をやったら全部勝つじゃない。
小沢: いやいや、そんなんじゃないですけど。
田原: だって、(元総理大臣の)安倍(晋三)さんの時の参議院選挙も小沢さんが勝ったし、それでまた衆議院選挙も小沢さんが勝った。小沢さんがいなくなったら、菅(直人)さんは参議院選挙でボロ負けに負けた。小沢さんは天才だと思う。だけど、小沢さんが当選させた連中は日本を変えてないじゃないですか。
小沢: うーん。やっぱり僕はいつも常に国民の中に大衆の中に入れと若い人らに言うんです。やっぱりそこで一言でも二言でも言葉を交わし、話を聞いて、触れて、それで初めて政治の何たるかというものがわかってくるんだからと言うんですがね。やっぱりそこのところが、政治家にも国民のサイドにもちょっと欠けているんじゃないですかね。
田原: 僕は小沢さんにも欠けていると思う。
小沢: うーん。
田原: そういうことを言っているんじゃダメだと思う。
小沢: そうですかね。
田原: もっと具体的に、まるで新人の議員、あるいは議員になりたい人を指導するように、もっと心を込めて・・・。
小沢: いや、だから僕は屁理屈ばっかり言ってたってダメだと。ちゃんと「国民の中へ入って、国民皆さんと話をして、それでこそ初めて政治家だ」と。そう言ってるんですよ。
田原: ところが、例えば僕はこのあいだ北海道で講演したんですが、北海道はTPP皆反対なんですよね。北海道選出の自民党議員も民主党議員も北海道へ行くとTPP反対と言ってる。世論迎合なんですよ。
小沢: そうそう。
田原: 困ったもんですね。
小沢: だからそれは政治家が有権者と本当の意思疎通ができてないんですよ。
田原: そう、そこなの。
小沢: 口幅ったい言い方ですけど、僕はもう20数年選挙区にも帰ってないですよ。
田原: 帰ってないんですか?
小沢: 帰ってないです。選挙の時も1日も帰らないです。そして僕は自分の主張を曲げないです。それでもみんな付いて来てくれている。僕は感謝してますが、やっぱりそういう信頼関係が無いと、その時その時で右往左往しちゃうんですよ。だから僕が選挙活動、日常活動が大事だというのはそこなんですよ。政治家が選挙に強ければ何も怖くないですよ。
田原: そりゃそうだ。最後に時間もありませんが、ちょっと質問の前にもう1つ聞きたい。最後の質問なんですが、普天間です。
小沢: はい。
田原: 沖縄の米軍基地ですね。鳩山さんの時に、問題があるんだけど、鳩山さんは最低でも普天間の基地を県外に移すと言っていた。言いながら、結局去年の5月末に沖縄を騙す形で、本人は騙すつもりは無かったかも知れないけど、アメリカと辺野古にするという協定を結んじゃった。それで今も(総理大臣の)野田(佳彦)さんが辺野古だ、辺野古だと言っています。これはできますか?
小沢: できないでしょうね。だって地元が反対してるんですから。
田原: だからどうします?
小沢: ですから、僕は鳩山さんも本気で一生懸命努力されたと思いますよ。その努力をやっぱりもう少しアメリカと率直にやることですね。
田原: 誰が?
小沢: 為政者が、トップの人が。
田原: 野田さんが?
小沢: 野田さんであれ、誰であれですけれども。
田原: でも野田政権は、やっぱり未だに辺野古でいこうとしてますよね。
小沢: そうそうそう。僕はあまり賛成じゃないですね。
田原: どうすりゃいい?
小沢: みんな日米同盟と世界戦略のあれとちょっと混同して勘違いしてるんですが、アメリカはいま最前線に大きな兵力を置く必要はないという世界戦略に変わりつつあるんですよ。
田原: だから現にオーストラリア・・・。
小沢: いや、オーストラリアはまた別なんですが。ドイツやヨーロッパから5万、6万の兵を引き揚げてます。沖縄の海兵隊もほとんど事実上8千人なんかいないんですよ。残ってるのはもう千人か2千人なんですよ。ですからいざという時に緊急出動出来る体制さえ取っていれば、アメリカの戦略は後方に実戦部隊を置いておくというのに変わってるんですよ。
田原: そうすると普天間の基地は無くてもいい?
小沢: ただ、沖縄は日本の領土であり近辺は領海です。日本自身が守らなきゃいけないんですよ。
田原: 本当なら自衛隊が守らなきゃいけない、そこなんですよ。
小沢: だからアメリカがいることによって、アメリカのプレゼンス(存在)が極東の平和を守っている1つの要因であるということも事実です。アメリカが後退すれば、ある程度の空白ができることも事実です。それは日本の領土であり日本の平和のためなんだから、日本がやりゃいいんです。
田原: だから鳩山さんが総理になった頃、あるいはなる前かな、「常時駐留なき安保」と言ってましたね。沖縄に米軍がいつもいることはないと。どうですか?
小沢: だけど、いざという時の緊急体制のシステムだけは無きゃいかんでしょうね。
田原: だけど、そんな日本の勝手は・・・。
小沢: だけどアメリカも実戦部隊を前線にへばり付けておこうという気はもう無いんですから。
田原: 無い?
小沢: 無いですよ、だからみんな引き揚げてるんですよ。緊急の時にだけ来られるようにしている。
田原: じゃあ本当は普天間にはもう基地が無くてもいい?
小沢: 軍事的にはもっとしゃべらなきゃわからないですけど、僕は可能だと思っています。
田原: ということは、野田さんはむしろその線で行けばいい?
小沢: アメリカと話すことですね。
田原: それまったくやってないね。
小沢: アメリカにそんなに遠慮することないんですが。なぜ今まで日本の政治家が、野田さん云々じゃなくて、それをアメリカに言えないかというと、じゃあ「お前がその分の責任を持て」と言われるからですよ。それが嫌なんですよ。
田原: 責任持つのがね。
小沢: 責任持つのが。
田原: 特に安全保障で。
小沢: そうそう。だからアメリカはいないほうがいい、でも責任は持たない。じゃあどうするんだと言う話になっちゃう。
■米軍基地問題「米軍が引いてできた空白は日本が担えばいい」
田原: 悪い言葉で言いますと、日本はアメリカに守ってもらって、中はドリームランドになっている。
小沢: だから自分は何もしないで、必要な時に金だけ出して、それで済めばいいなということですから、アメリカ人からものすごく軽蔑されている。
田原: そうなんですよ。だからどうすりゃいい?
小沢: だから極東の平和、日本の平和と安全のために、米軍が後方へ引いてできた空白は日本が可能な限り担えばいいんですよ。
田原: 小沢さん、この安全保障論、また改めてやりましょう。
小沢: いいですよ。
田原: (司会の角谷氏に向かい)どうぞ。
角谷浩一(以下、角谷): この後は日本をどう立て直すかというテーマに変わっていきますけど、その前に、最後でもいいんですけどここで(質問を)扱いましょう。愛知県の「ステイメン」さんからです。「09マニフェストを事実上破棄したのに続いて、消費税増税やTPP協議参加など、今の民主党は国民の生活が第一という理念を完全にドブに捨てている。そして民主党に期待した国民も、そんな民主党を見限っている。今、国民の多くが小沢さんの新党立ち上げに期待しているのではないか。小沢さんの真意はいかがか」と。
田原: どうですか?
小沢: 僕は後から民主党に合流した者ですが、それでも自分が先頭に立って政権交代を実現させてもらいました。だからできれば新党云々ではなくて、民主党が本来の原点に立ち戻って、国民の皆さんの信頼をもう一度回復できるようにしたいというのが私の最大の・・・。
田原: 立ち戻らないでしょう?
小沢: いや戻れますよ。
田原: 鳩山さん、菅さん、野田さんとね、3代続いて立ち戻らないのにどうして立ち戻れますか?
小沢: やればできますよ。
田原: ということは、小沢さんに言わないでおこうと思ったけど、やっぱ小沢さんが代表にならなきゃダメなんだ。
小沢: いやいや(笑) それはまた別問題ですけど。
角谷: 次のテーマにいきます。日本をどう立て直すかというこれからの話をします。
田原: それはさっき言ったでしょ?
角谷: でももう少し広いテーマでいきましょう。
田原: 今、円高不況と、さっき仰った安全保障もいい加減、そういう日本をこれからどうすりゃいいんですか?
小沢: 僕が本に書いたり、あっちこっちでしゃべってるのは、さっきも言いましたけど、やっぱり日本人の自立ですよ。
田原: 自立ってどういうことですか?
小沢: 自分で考え、自分で判断するという習性を付けないと、とにかくその時その時で、マスコミだなんだかんだに影響されてフラフラするというのでは、本当に日本を立て直すことは僕は出来ないと思いますね。
田原: 「自立」というと、真ん中より右の方が2つのことを言うんです。「日本も核兵器を持つべきだ」と。これはどうですか? アメリカも中国もロシアもイギリスもフランスもみんな持ってると。最近はインドもパキスタンも持ってる、北朝鮮まで持ってると。やっぱり持つべきじゃないかと。
小沢: 核兵器の保有は軍事的にも政治的にもあまり意味は無いです。
田原: 意味無い?
小沢: 意味無いです。
田原: だって北朝鮮はあんな国なのに持ってるじゃないですか。
小沢: いやだけど、そのために日米安保(日米安全保障条約)があるんですから、日本が核を持つ政治的軍事的意味は薄いです。
田原: 薄い?
小沢: だから僕は賛成ではありません。
田原: 小沢さんが言い切られたのはいい。亡くなられたけど、実は(経産大臣、財務大臣などを歴任した自民党の)中川昭一さんが、核兵器を持つかどうかはともかく、持つかどうかという論議はすべきだっていうことを盛んに言ってましたね。
小沢: 論議はいいですよ。だけど今言ったように、僕の論理では軍事的にも政治的にも核兵器を持つということにはあまり意味は無い。
田原: もう1つ、「憲法を改正すべきだ」と。今の憲法9条が専守防衛だと。やっぱり日本もちゃんと爆撃機を持てるように、例えば今よく言われているのは、北朝鮮のノドン200基が日本に向いていて、いつでも撃てるようになっている。でも日本はどうしようもない。本気で向こうが撃つ、あるいは撃とうとする、それをどうやって判断するんだと専門家に聞いたら、その判断はアメリカに任せてるんだと言うんです。日本じゃ判断できない。もし向こうが撃とうとしたり、撃って来たらどうするんだということもアメリカにお任せしていると。こんな安全保障ってあるんですか?
小沢: 即核兵器や核兵器搭載の弾道弾を持つという話ではなくて、今の科学ですと、北朝鮮からどこを狙って発射したかというのは即座にわかるわけですから。そういう意味の防衛の体制というのは当然作っておくべきだと思います。
田原: 迎撃するミサイルは持つべき?
小沢: それはそうです。防衛のための迎撃ミサイルは持たなくちゃ。
田原: 例えば、北朝鮮がミサイルを撃った。その基地はやっぱり日本は攻撃しちゃダメですか?
小沢: だからそれは、世界状況全般、あるいは日本のその時の状況全般によりますけれども、いわゆるそうすると、だんだんエスカレートしちゃいます。
田原: だからそこなんです。
小沢: それでは「先制攻撃がいいんだ」という話になっていっちゃうんですよ。そうすると、ゴタゴタの元の木阿弥になっちゃいますから。僕は多少不利であっても、先制攻撃の論理は取るべきじゃないと思います。
田原: 僕は、小沢さんが海部(俊樹)内閣の時に、イラクがイランに侵入した湾岸戦争が起きた。あの時に小沢さんは確か、やっぱり湾岸戦争には自衛隊は参加すべきだと仰った。
小沢: そうです。
田原: ところが自民党の反対もあってできなかった。そこなんです。だから本当は、小沢さんは民主党の中で、今の日本がああいうものに自衛隊が参加すべきだという論議を国民的に巻き起こすべきだと思う。
小沢: だから僕はあの時も、自民党と言うよりも内閣が決断できなかったんです。
田原: できなかった。そうです。
■平和は「金で買える話じゃない」
小沢: 僕はとにかく難民を運ぶための飛行機とか、エジプトに了解を取ったり、いろんなことをしてゴーサインが出ればやれたんです。だけども結局、問題は内閣なんです。
田原: 海部さん?
小沢: 党うんぬんというんじゃないです。
田原: 海部さんだ。
小沢: あの当時は海部さんでした。
田原: でも海部さんなんて、小沢さんがどうにでもできたんじゃない?
小沢: いえいえ、そうじゃないです。やっぱり行政というのは、その指揮命令系統で動きますから。総理大臣なり国務大臣が命令しなきゃ動きませんから。
田原: では、やっぱりこの国を変えるためには、小沢さんが総理大臣になるしかないじゃないですか。
小沢: ははは(笑)。
田原: だって本当に、幹事長がダメだと言うんだから。
小沢: あの時も驚くべきは、誰が反対したかと言ったら、海部さんもそうですけど、外務省、防衛庁、この2つが一番反対したんです。
田原: 大体そうなんです。
小沢: 後になってから、ワアワア言い出しましたけど。
田原: だから、あの後にせっかく金丸(信)さんが小沢さんに「お前、総理になれ」って言った時、何で断ったんですか。
小沢: ははは(笑)。それはまた別問題。
田原: あれ断るべきじゃない。だから宮沢(喜一)さん(が総理大臣)になっちゃった。
小沢: とにかくそういう問題も、憲法の問題も、憲法改正と言うとギャアギャア感情的議論になっちゃうんです。「右だ左だ」と言ってね。
田原: またエスカレートするから。
小沢: そうじゃないんですよ。他の国はその都度変えていますから。
田原: 変えています。ドイツなんて何度も変えている。憲法を作らなかったですね。
小沢: 憲法は、日本の国民が安心して安定した生活をできるためのルールですから、状況が変われば変えていいんです。
田原: 小沢さんは憲法改正は賛成。
小沢: 僕は賛成ですよ。
田原: 賛成ですか。
小沢: すべきところは(改正)した方がいいと思う。
田原: (日本国憲法)9条は?
小沢: 僕は、9条の精神を変える必要はないと思う。ただ、国連の活動について、あるいは自衛権について曖昧なところがありますから、そこは補足したほうがいいと思います。
田原: 小沢さんは前から仰っている。「国連軍」というものができれば、日本はそれに参加すべきだと仰っている。
小沢: 今でもそう思います。
田原: 湾岸戦争は、残念ながら国連軍ではなかった。
小沢: いや、だけど国連が了解、了承した、認めた多国籍軍ですから。
田原: あれは参加すべきだと。
小沢: すべきです。
田原: 今後起きたら?
小沢: ただ、僕がそう言うと、あいつはすぐなんだかんだと言われますが、あの時だって「実戦部隊に参加しろ」と言ったんじゃなかったんです。例えば、物資を輸送してくれ、あるいは赤十字の役割を後方でやってくれとか。そういう類いの話なんですよ。自衛隊は実戦の経験がないですから、行ったら邪魔なんです。主として、そういった補完的な役割でいいからやってくれというのがアメリカの要求だったんです。
あの時に補給船をやろうと、あるいは飛行機を飛ばそうと(言ったら)皆、民間会社から拒否されたんです。その時に僕はアメリカの人から、「日本というのは本当に身勝手な国だ」と(言われた)。あの時ペルシャ湾に「日本のタンカーが20何隻いる」と言われたんです。それなのに「何でそれを守るための作戦に参加できないのか、おかしいじゃないか」と本当に言われました。
田原: なるほど。おかしい。
小沢: それから、戦争が終わってから掃海艇が行きましたよね。
田原: 掃海艇が行きました。
小沢: あの時、帰ってきた人に聞いたんだけど、「日本のいろいろな事情で、戦争が終わっちゃってから来て申しわけない。ただ、日本は国民1人当たり1万円、1兆何千億円・・・もっと出しました」と言ったら、相手のアメリカ軍の司令官が、その時で1人100ドルずつなんですね。「じゃあ僕はあなたに100ドルやる。俺の代わりに戦ってくれ」と。
田原: 言われた。
小沢: 言われて、ぐうの音も出なかった。
田原: そうですね、そこですね。
小沢: 金で買える話じゃないんです。「自分たちと平和を守るために足並みを揃えてくれ」という話なんです。
田原: あの後に、アメリカで「日本はNATOだ」という話があった。「No Action token」というのは、つまりアメリカの地下鉄の金、小銭なんです。「Token Only」と。日本は大変な金を出したにも関わらず、アメリカは「ちょっと金を出した」と(言った)。
小沢: そうそう。それでクウェートからは戦後、感謝されないんです。
田原: 感謝されないんだから。
小沢: 日本はそういう国になっちゃっているんですよ。
田原: そこを直すためには小沢さんが総理にならなきゃ。
小沢: そのためには国民皆さんが、きちっとした日本人としてのプライドを持った意識を持たなければいけないです。
■「若い人たちには夢、志を持ってほしい」
田原: (司会の角谷氏へ)はい、どうぞ。
角谷: 会場にいる方々から、アンケートを事前に取りましたのでそれを少しご紹介します。ご質問をいただいています。早稲田大学の「サナエ」君、2年生の方です。(会場内に呼びかけて)サナエ君、いる? 「今後の日本を建て直すにあたって若者、大人、それぞれに必要なこと、何を成すべきと小沢さんは思いますか」と。
小沢: それは何度も言うように、自立心を持ってもらいたい。自分自身で考えて、いろいろな人の意見を聞くのはいいんですよ。だけど最終の判断は自分でやる。自分の責任で決断し行動するという習性を身につけてもらいたいというのが基本。それからもう1つは、夢を持ってほしいね。
角谷: 夢。
小沢: うん。「志」と言ってもいいけど。そういった今の若い人たちに、とんでもない夢でも何でもいいんです。自分がこういう夢を追うと、努力しないとダメですよ。遊んでいちゃダメだけど、その夢を追って努力するという。若い人たちはもう無限の可能性があるわけですから。もう我々になると、どうもダメですけど。
田原: ちょっと小沢さん、そこの問題ね。今の若者は夢を持てないんですよ。どういう夢があるのかわからない。
小沢: どういう夢だっていいんですよ。だから自分で考えて、自分の思う夢を追求すべきですよ。
田原: 良くわからないと思う。ピンと来ないと思う。
小沢: そうかしら。
田原: うん。
小沢: だからこの間、柔ちゃん(=谷亮子議員)とね・・・。
田原: あれは天才だから。
小沢: いやいや、天才だけど、その夢に向かった、目標に向かった努力というのは大変なことなんですよ。それでその目標を達したら、次の夢に向かってと。彼女は7歳の時から柔道をやっていたそうですから。やっぱりその時から、自分の行く道をちゃんと持っていた。(若い人たちは)どんな夢でもいいです、志を持つべきだと思う。
田原: ここでまたマスコミに注文したい。新聞やテレビが、もっと夢を持った、夢を実現した人間の紹介をしてほしい。なんか悲観的なものばかりやっている。これが悪い、あれが悪いとね。そうでしょう?
角谷: そうですね。でも、今ここに来ている学生さんたちは、もちろん将来、就職活動のことを考えている。もちろん就職だけが夢ではないし、就職とは関係なく夢を持つことは大切だと思いますけれども、一方で社会に出る前に、社会の魅力だとか日本の魅力を感じさせるようなことがなくて、田原さんが言うように考えられなくなっているところがあるんじゃないかと。
小沢: だからそういった環境をきちんと作るということは、大人の責任ですよ。それはその通りだけど、やっぱり「世の中が悪い、だから・・・」というのでは若者ではない。人のせいにするなと僕は言いたいんですよ。自分自身で夢を描いて、その夢に向かって努力すると。どんな夢でもいい。僕はそう思いますね。
田原: ちょっと言うと、小沢さんが最初にお書きになった本はやっぱり自己責任ということを盛んに仰った。最近、民主党に来てから、自己責任とあまり仰らなくなった。
小沢: いやいや、そんなことは(笑)。
田原: さっきの子ども手当にしても、なんとなく小沢さんは前向きになったなと。自己責任だったら、そんなこと言わないんじゃないかと。
小沢: そんなことない。
田原: 子ども手当を出せとか、無償化にしろとかね。
小沢: 僕は子ども手当は本気で(必要だと)思っている。だって田原さん、子ども手当はフランス、ドイツでも10年以上前から出しているんです。日本は今、人口が減ってるでしょう? フランスはもう2、3年前に、出生率が2(人)になった。
田原: 2(人)を超えた。
小沢: それは金だけの話じゃないけども、やっぱり子どもたちを次の世代の民族を育てようという大事なことだと僕は思う。
田原: そこ最後に聞きたい。フランスも一時は1.37(人)くらいまで落ちるんです。
小沢: そうそう。
田原: これが2を越える。日本は超えない。いまだに1.37(人)とか。日本とフランスとどこが違う?
小沢: 金だけではないですよ。子ども手当を出したから2を超えたと(しても)、それがすべてだとは思いません。だけれども、それも1つです。だから20代、30代のお母さんたちだけに調査したら、圧倒的に子ども手当を喜んでますよ。それと関係なくなった人はどうでもいいって言うけれども。それともう1つは、やっぱりさっき言った大人の責任だと思うけれども、子どもを産める環境、育てる環境。そういったものを社会が政治が作ることでしょうね。
田原: それと子どもたちが夢を持つためには、親の教育も大事なんですよね。
小沢: 親のね。
田原: 親の教育。
小沢: そうです。
田原: 親が夢を持てと。やれよ、頑張れよと言わなきゃ。親はちょっと甘やかしすぎじゃないかな。
小沢: やっぱりこれも戦後の・・・特にお母さんかな。一生懸命勉強して、いい会社に入れとか言って。そういう思考方法というのはちょっとね。
田原: 今、一番僕が言いたいのは、いい会社に入ることが目標になっているんですよ。こんなものは目標じゃないでしょう? そこからがむしろ勝負なんでね。ところがいい大学に入っていい会社に入ったら、目標達成だと思っちゃうんです。
小沢: だから、そのこと事態が悪いとは言わないけれども、その会社に入って、自分の能力をどうやって生かして、それでどうしたいのかという意味で皆が思っていればいいと思いますよ。
角谷: はい。もう少しメールをいきます。「バカボンパパ」さん、埼玉の方です。「半世紀に渡り、政治の中心にいた小沢さんですが、理想実現にはあと一歩及ばなかったように思います。ではそれはなぜかと。初めは国や国民という大きなスケールで活動していたものが、権力が近付くにつれ、同志や盟友とこじんまりしたスケールに矮小化し、彼らとの友情を重視したからではないか。理念、信念が自由党や民主党などの同志や盟友への情に負けてしまう。それが小沢さんの政治がいつもあと一歩で失敗してしまう原因だと思う。小沢さんは周囲の人に優しすぎるんですよ」というメールをいただきました。どうですか?
小沢: 僕は理(ことわり)ということ、合理性、論理性、それを非常に必要だと思っていますし、政治は絶対情緒でもって判断しちゃいかんと思っていますけれども。ただ、所詮僕も日本人だから、今仰られるような浪花節みたいなところもありまして・・・だけど、自分自身としてはそういうものに負けちゃいかんと常に言い聞かせています。
田原: 小沢さんだから、もう少しあえて言いたい。どうも小沢さんは優しいと思う。小沢さんと組んだ首相が、あまりだらしよくない。細川(護熙)さんでしょ、鳩山(由紀夫)さんでしょ、まあ菅(直人)さんはちょっと・・・皆甘えている。
小沢: 首相?
田原: 首相。厳しいのがいないじゃない。
小沢: ですけど、それは、皆が選んだんだから。
田原: いや、そう言わないで。小沢さんはやっぱり。
小沢: 俺一人で決めたわけじゃない。
田原: 大政治家だから。
■「原発は過渡的なエネルギーだと言ってきた」
角谷: はい。スタジオにいます「オカムラシザワ」さんという、法政大学の学生さんです。「小沢さん自身が先頭に立って、被災地支援に打って出るという考えはないのですか」ということです。
田原: 何?
角谷: 被災地に、先頭に立って行くということはないのか。
小沢: 僕がいつも言うのは、先頭に立ってという意味なんですね。だから特に僕の立場では、何をすべきなのかと。今でも第三次補正(予算)なんて言っていますけど、今のやり方では有効に金が生きないという声が地方から一生懸命来るんですよ。今までの官僚主導の仕組みでは、どうしようもないです。だからそれを被災地のためにより有効にするためには、その仕組みを変える以外にないです。この震災だから、本当は今がチャンスなんです。「暫定的」と言ってもいいんです。だけど、そこがなかなかできないで、結局お金の額ほど、本当の意味で被災者の皆さんのために有効に使われてないということは事実だと思いますから、僕の役割は、そういう仕組みを変えて、本当に被災者の皆さんに、あるいは国民一般の皆さんに役に立つお金の使い方をできる仕組みに変えることが僕の仕事だと思う。
角谷: 政治家が先頭に立っていかなくても、それぞれの役割があるはずだという(視聴者コメントの)書き込みも、今来ているようですね。(何か)ありますか、田原さん。
田原: うん。ただ、小沢さんはそう仰るけど、民主党の幹部たちは、地方がだらしないと(言っている)。岩手も宮城も福島もやるべきことをやらないで、ただ国に「何とかしてくれ、何とかしてくれ」と言うと。地方に行くと「国が何もしていない」と(言う)。お互いに「相手の責任だ」となって喧嘩になっていることが問題。どうすればいいと思う?
小沢: だから、僕らの主張は、霞が関(=中央官庁)でお金を分配する、この仕組みを変えようと言っているわけです。変えようと言ったわけです。
田原: 変えるとは、どうする?
小沢: 地元の身の回りのことは、お金も権限も地元に任せちゃおうと。
田原: 権限もね。
小沢: そうすると「中央は何もやってくれない」なんて地方は言えなくなるし、中央は余計な干渉をしなくなる。だからこれが、国民主導政治の根本なんです。
田原: 一番問題は、民主党は「地方主権」と言ったと。
小沢: そうそう。
田原: 何もやってないじゃないかと。
小沢: だからそこを変えていないからダメなんですよ。
田原: なんで変えないの?
小沢: まあ、難しいんですけどね。
田原: いや、そう言わないで。小沢さんは大政治家なんだ。菅が悪いとか鳩山が悪いとかで済む話じゃない。
小沢: ですから、必ず何とか実現したいと思っています。
角谷: もう1ついきます。こちらはニコニコネーム「ポン」さんです。「小沢さんの原発についての意見を聞かせてください」というお願いが来ています。
小沢: 40年近く前ですが、ちょうど僕が科学技術政務次官をやったんですよね。原発(問題)は、その時からボチボチ始まっていたんですが、これは日本だけではないんですが、最終の高レベルの廃棄物の処理方法というのは無いんですよ。
田原: 世界中、無い。
小沢: 無いです。ですから、この処理方法が見つからない限りは、原発にずっとおんぶしていくということは不可能なんです。だから私は最初から「原発は過渡的なエネルギーだ」と言ってきたんですが、そうやっているうちに、原発の依存度がどんどん高くなった。新エネルギー開発が十分でなかったという点については反省していますが、僕はやはり処分の技術ができない限りは、原発は過渡的なエネルギーとして新しいエネルギーに変えていくべきだと思います。
田原: でも、そうは言っても、アメリカもフランスもイギリスもロシアも、それから中国も皆、原発をどんどんやっているじゃないですか。
小沢: やっています。
田原: これは何。彼らはバカ者だってこと?
小沢: いや、だから原発のほうが・・・彼らは軍備、軍事力とも結びついてますからね。だからそれは離すことはないんでしょうけれども。それから安全でいる限りは最も安上がりでいいんですけど。
田原: 事故が起きなきゃね。
小沢: 事故が起きなきゃ。それで「安い」と言われてきたんですけど、今度のことで・・・。
田原: 高くなった。
小沢: これほど高いものはないってことになっちゃったわけです。だからその意味では日本の福島の問題は、世界中に大きなあれを投げかけているんじゃないでしょうかね。
田原: だけど福島の(原発事故)が起きて(原発を)やめようと言ったのはドイツだけなんですよね。イタリアはその前からやめていますけども、他はやめないじゃないですか。
小沢: やめない。
田原: ベトナムなんて、そういう日本から原発が欲しいと言っている。
小沢: ですから後進国であれ先進国であれ、事故がない限りは原発が一番安上がりでいいということでしょう。
田原: 彼らは、そういう意味では間違った方向に向いていると。アメリカやイギリスやフランスや中国やロシア。
小沢: 僕はいずれやめることになると思います。ロシアみたいに広いところは、そこら辺に捨ててもいいのかもしれませんけど。
田原: チェルノブイリ(原発事故)が起きたって、まあいいじゃないかと。
小沢: 今は(原発から半径)30キロは誰も行かなければいいんだという話かもしれません。だけど、そう言っていられない時が来るんじゃないでしょうかね。
■岩手出身の小沢氏はこれからの東北をどう見る
田原: なるほど。そろそろ終わりましょうか。
角谷: はい、22時の約束(の時間)になりましたけど、あとちょっとメールを読んで終わりにしたいと思います。「放射能、TPPと問題山積の農業です。特に東北地方は大きなターニングポイントに来ていると思います。岩手出身の小沢さんは、今東北の農業が復興するには何が必要だと思いますか」。
小沢: 農業は東北とかなんとかという問題よりも、日本の農業、そして日本人の自給体制、これをどうやって作るかということです。当面の震災の問題は、何度も言いますけど原発です。これはチェルノブイリの何十倍の燃料があそこにあるんです。冷温停止、水をぶっ掛けていて「爆発の危険は当分ありません」と言っていますけど、ウランはずっとあそこ(福島第1原発)にあるんですから。どこへどう処理するんだと。だから本当に知恵を集めてあそこを完全に封じ込めない限り、これは未来永劫続いちゃいますよ。
田原: 封じ込めるには、少なくとも30年かかると言っています。例えば、今東電の福島(第1原発)の1号(機)から4号(機)を廃炉にして、きちんとこの中にある燃料棒、あるいは使用済み核燃料もいっぱいあるわけだから。
小沢: いっぱいあります。
田原: これをやるのは大変なことですよね。
小沢: 持って行きようがないです。どこへ持って行くんですかという話です。ですから第一義的に責任者は東電ですが、こんな事態になったら一企業でやれないです。だから僕は国家が政府が正面に出て、政府の責任で建て直しをやるべきだと。
田原: だけど、どっちかと言うと政府は、東電を悪者にしてその責任にしようとしている。
小沢: だから、もう東電どうのこうのの問題じゃないです。
田原: ない。
小沢: それで、今の知恵でもいろいろ聞きますと、あれ(福島第1原発)を封じ込めるのはやれないことはないという。ただ莫大な金が掛かる。だけど、もう金の問題でもないんです。
田原: 安全の問題だからね。
小沢: そうですよ。将来ずっとですから。ですから僕は、政府が腹を決めて国民にもちゃんと説明をして、これに何十兆円掛かってもやるということで対応しないとダメだと思いますね。
田原: そうですね。
角谷: 最後の質問になります。これは僕も興味があるんですけれども、ニコニコネーム「ドタドタドタ」さんからです。「小沢さん、尿管結石はもう大丈夫なんでしょうか?」というメールが来ていますけど。
小沢: 今月の始め頃、また検診でCTスキャンをやったら消えて無くなっていたそうで。
田原: 良かった。
角谷: いつの間にか、もう出ちゃったということですかね。
小沢: なんかそうらしいです。
角谷: なるほど。いいですか田原さん、その件に関して。
田原: ありがとうございました。
角谷: はい、ありがとうございました。
小沢: ありがとうございました。
田原: 聞きたいように聞いてすみませんでした。
角谷: いろいろ話をしてきましたけれども、もともとTPPの話から憲法の問題から民主党の将来から・・・。
田原: 大体聞きたいことは全部聞きました。
角谷: 大体のことはうかがいました。
田原: 安全保障をやりましょう。
小沢: やりましょう。
田原: 別にね。
角谷: 改めてその問題をこってりまたやるということも含めて、ニコニコ動画でもまたよろしくお願いしたいと思います。
小沢: ありがとうございました。
角谷: このままこちらに、田原さんも小沢さんも立っていただいて。最後に・・・こっちのカメラですかね?
小沢: 下へ降りるの?
角谷: いや、これで結構です。ということで、この様な番組をまた企画させていただきたいと思います。パソコンの前でご覧になった皆さん、いかがだったでしょうか。また感想などもいただければと思っております。小沢さん、田原さんに皆さん盛大な拍手をお願いします。どうもありがとうございました。
小沢・田原: ありがとうございました。(了)
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]全文書き起こし部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv70481074?po=news&ref=news#00:51:48
・小沢一郎「消費税増税は国民に対する背信行為」 小沢×田原対談全文(前)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw148941
(協力・書き起こし.com)
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◆『小沢一郎 語り尽くす』TPP/消費税/裁判/マスコミ/原発/普天間/尖閣/官僚/後を託すような政治家は 2011-11-20 |(サンデー毎日2011/11/27号)
小沢一郎×田原総一朗 徹底生討論 『日本をどうする!』in ニコファーレ〈前〉
「小沢一郎×田原総一朗 徹底生討論 『日本をどうする!』in ニコファーレ」(前)
ニコニコニュース(オリジナル)2011年11月20日(日)15時01分配信
【前段 略】
角谷: 休みなく1時間くらいやろうと思っていますから、どうかひとつよろしくお願いしたいと思います。ただ、とにかく聞きたいこと、やらなければいけないことがたくさんあるものですから。それをどういう風にするかなんですけれども、まずは、お2人は2007年7月8日の『サンデープロジェクト』以来の対談と。7月8日の4年振りということになりますと、小沢さんは当時は民主党の・・・。
小沢: 何でしたかね。
角谷: 代表ですかね。
小沢: 代表でしょうかね。
角谷: 2007年ですから、そうですかね。
田原: 代表前かも知れませんね。
角谷: それ以来ということで、久しぶりになりますね。そんなことを言っているよりも、どんどんいきましょうかね。
田原: 僕は、今日非常に緊張しています。
角谷: 緊張している。
田原: 僕にとって、日本の政界で一番怖い人は小沢さんです。あとは大したのがいない。
角谷: 大したのがいない。
田原: ということは、日本の政治家で最も政治力があるのは小沢さんです。
角谷: なるほど。
田原: 怖いですよ。
角谷: 怖い。
田原: うん。顔でにこにこ笑っても、何考えてるかと・・・。
角谷: わかんない。
田原: そこが異様に・・・悪いけどね、怖い。緊張してます。
角谷: なるほど。久しぶりですけれども。今、日本はいろんな問題抱えてますからね。
田原: いっぱいある。
角谷: 野田(佳彦総理大臣)さんに聞くより小沢さんに聞きたいことが、まず田原さんはいっぱいある?
田原: いっぱいある、いっぱいある。そんなの野田さんに聞いたって、(自由民主党総裁の)谷垣(禎一)さんに聞いたって答えが出るはずがない。全部小沢さんに聞く。
角谷: ということで、小沢さんと田原さんの徹底討論。今日はテーマをいくつか用意しました。まずはこちらをご覧下さい。
会場: (討論テーマが表示される)。
角谷: 討論テーマをこちらで考えてみました。まずは「小沢裁判とは何なのか」ということ。それから「民主党はこれからどうなっていくのか、どうするのか」。そして「日本をどう建て直すか」と。これは大きなテーマが、続きますけどね。
田原: 民主党はどうするって、これは小沢さん次第ですよ。いや、それは余計だったな。ただ順番がこうなってますけど、私はまず小沢さんに今もう大騒ぎになっているTPP(環太平洋連携協定)、新聞でもテレビでも国会でも、むちゃくちゃになってるでしょう。あれからまずお聞きしたいと思ってます。
角谷: ではその前にちょっとこちらの事務連絡をさせていただきます。今日は時間の許す限り、お2人に徹底的に討論してもらいますけれども、ぜひ番組をご覧の皆さんも、ご意見をコメントやメール、そしてツイッターで、聞かせていただきたいと思います。メールはご覧のページの投稿ツイッターフォームから送ることができます。ツイッターのハッシュタグは「#nicofarre」という風になってます。小沢さん田原さんへの質問でも構いません。そして、会場では日本の未来を担う現役の大学生たちが、2人の討論を見守ることになっています。時間に余裕があるようでしたら、質問の場を設けるということも考えています。では、「小沢一郎×田原総一朗 徹底生討論 『日本をどうする!』in ニコファーレ」、スタートとなります。
田原: よろしくお願いします。
小沢: はい、よろしくお願いします。
田原: この間13日に野田総理がハワイで、いわゆるTPPで参加すると言ったのか、あるいは各国の協議に参加か・・・極めて曖昧なんですね。だけど新聞は一面トップでドーンと「交渉参加」とうたった。日本が参加することがきっかけになったように、カナダもメキシコもフィリピンも、もちろんベトナムやマレーシアも参加するという方向へ行き、中国まで慌てに慌てたと。私は野田さんはもっと自信を持ってりゃいいと思うんだけど、帰ってきて国会で何を言ってんだかさっぱりわかんない。参加するんだかしないんだか曖昧だし、アメリカ側、つまりオバマさん側が言ったことを「違う」と言いながらアメリカに訂正も要求してない、訂正もしてない。何でこんなに曖昧で自信がないんだろうと。ここをちょっと小沢さんにお聞きしたい。
小沢: 今度のことで、野田さんがどうこうって個人的なことを言うわけじゃないんですが、今までと同じようないわゆる「使い分け」をしてるんですね。
田原: 使い分け?
小沢: 使い分け。官僚、特に外務官僚のね。要するにアメリカへしゃべることと国内で言うことを、ちょっと違ってしゃべってるわけですね。
田原: そうなんだ。あの人(=野田総理)元財務大臣だし・・・そうすると財務官僚に言われたままに言ってるんだ。
小沢: 外務(省)のほうでしょうね、担当するのはね。だけどもこういうやり方はずっと以前からなんですよ。
■TPP交渉参加議論「アメリカにはアメリカの思惑がある」
田原: 日本は、あるいは野田さんは・・・。
小沢: 僕がアメリカとの交渉に行った時も、この使い分けにアメリカはものすごく怒ってるわけです。目の前では皆いいようなことを言って、国内向けではいろいろ問題があるからといって、また違う言い方をするという。このやり方はアメリカからも信用をなくすし、国内的にもいま田原さん仰ったように「一体どっちなんだ」ということで国民から信用を失うし、私は本当に今までと同じようでよろしくないなと思ってます。野田さんがやるというなら、もう「やる」とはっきり言っちゃえばいいんですよね。信念として。
田原: 今までアメリカと日本を使い分けてきたのは、自民党ですよね。ずっと自民党政権。野田さんは民主党(政権)になっても自民党と同じことをやってるんですか。
小沢: だから役所なんですね。
田原: 役所がね。
小沢: 役所なんです。基本的に事なかれ(主義)ですから。そしてアメリカの言うことは聞く以外しょうがないという観念でおりますから、アメリカとの話の時にはアメリカにいいようにしゃべる、しかし日本でそのまま言うとどうも具合悪いなと思う時は変えてしゃべると。僕はこれが一番良くないと思いますね。
田原: 実は、僕はそこを野田さんのわりと近い人に聞いたの。何で曖昧なんだと。さっき小沢さんが言ったように、使い分けてるんじゃないかと。何で使い分けるんだと聞いたら、やっぱり日本では使い分けないと具合悪い、怖い人がいるって。誰と言ったら小沢さんだって。
小沢: いえいえ、そんなことないです(笑)。
田原: 要するに、もっと小沢さんの前に、日本では例えば前の農水大臣の山田(正彦)さんとか、それから今の鹿野(道彦農林水産大臣)さんたちが、特に山田さんが中心になってTPP反対運動、民主党でも100何人も運動してますね。だから山田さんや鹿野さんたち、反対の人たちを刺激するのが怖い。だから向こうではアメリカにはちゃんと言っても・・・ちゃんとかどうかわかんないけど。日本では使い分けてんだと言うんですよ。そうですか?
小沢: そうだと思います。常に。
田原: 山田さんたちが怖いんですか?
小沢: いや、怖いというか。山田さんとか何とかという個人個人の政治家というよりも、その背景のいろんな利害関係の団体やらいろんなものがありますから。
田原: 農協とかね。
小沢: 農協であれ何であれですね。
田原: 医師会とかね。
小沢: そういうものに対して、反発されるのはちょっと怖いから、どっちつかずの話ということになっちゃうんですね。これは非常に良くないと思います。
田原: ところが、その良くないのはね、やっぱり本当に怖いのは山田さんや鹿野さんじゃなくて、小沢さんだっていうんですよ。
小沢: いや、はは。
田原: 小沢さんはTPPに賛成ですか、反対ですか。
小沢: TPPは表の顔と裏の顔と二面持ってるんですよ。
田原: そこ来た。うん。
小沢: 自由取引、自由貿易、これは誰も反対する人はいないし、日本はそれで利益を得てるんですからいいことなんです。ただ、このTPPというのを強く主張してきたのはアメリカでしょう? アメリカにはアメリカの思惑があるんですよ。
田原: ほう。
小沢: ですから、アメリカときちんと話さえすれば、これは解決する問題なんですよ。
田原: うん。
小沢: そこをきちんと言えないと、おたおたあたふたという話になっちゃうんで。そういう意味ではアメリカでも、農業問題でも、アメリカはアメリカで国内でもいろんなことを持ってるんですよ。
田原: 持ってますよ。
小沢: それからアメリカの自動車業界が反対したとかって伝えられてるでしょう? だからアメリカでもいろいろ議論があるんですよ。
田原: だって、もしTPPが決まって関税障壁がなくなったら、日本の自動車は関税なしでドーンと行きますからね。向こうの業者は怖いですよね。
小沢: あらゆるものがね。ですから、本当に完全にフリーにしちゃってどっちが得かということはわかんないわけです。アメリカも自分に都合の悪いところはフリーにしたくないし。そういうところはそれぞれの国が国益と国民を抱えてるんですから、事情はいろいろなんです。だから話し合いができるんですよ。
田原: ということは、使い分けていいんだということですか?
小沢: いえ、使い分けてじゃなくて・・・。
田原: 野田さんがアメリカに言うことと日本の国内に言う時は使い分けるわけですね。
小沢: いや、それはいけないと言ってるんです。
田原: どうすりゃいい?
小沢: それはきちんと正直に言えばいいですよ。アメリカと正直に議論すりゃいいんです。
田原: そう。何でできない?
小沢: だからそこがやっぱり・・・1つは官僚依存の体質がずっと続いてきてますしね。官僚は事なかれ(主義)ですし。アメリカの言う通りにしてたほうがいいという意識が強いですから。
田原: アメリカに対してはアメリカの言う通りにすればいいと。
小沢: ええ。
田原: それで日本で都合が悪ければ、言い換えればいいと。
小沢: え?
田原: いや、別のことを言えばいいと。
小沢: そうそうそうそう。
田原: 使い分ければいいと。
小沢: 日本の国内のいろいろな議論に対しては、ほどほどにうまく使い分けてしゃべればいい。
田原: ということは、官僚というのは日本の国民を馬鹿にしてるわけですね。
小沢: いや。馬鹿にしてると・・・。
田原: 国民なんて馬鹿だから、いい加減に使い分けても・・・。
小沢: だけど、それは官僚を責められないんですよ。
田原: ほう。
小沢: なぜかって言うと官僚は所詮スタッフですからね。決定する責任を持つ人じゃないんですよ。
田原: それは政治家が決定。
小沢: 政治家なんですよ。だから政治家が責任を持つということがはっきりすれば、官僚だってちゃんとしますよ。
田原: 野田さんは代表選挙に出たってことは、責任を持つ覚悟があるんじゃないですか。
小沢: ですけども往々にしてやっぱり、野田さんだけじゃないですけれども、役所に頼るという面が多くなっちゃうでしょう。それが、いろいろ今言われてるところなんですけどね。
■田原「小沢さんをはずして予算を組むなんてメチャクチャ」
田原: もう1つあります。実は、野田さんが本当に怖がっているのは、山田さんや鹿野さんだけではないと。実は野田さんは、例えば2010年代の中頃、大体(20)15年ぐらいには消費税を10%にする。あるいは東日本大震災の復旧復興のために、10.5兆、法人税と所得税を増税する。これを今年いっぱいには多分やろうとしている。これには小沢さんが反対で、それが怖いから、何とか小沢さんの気に沿わないことを言わないようにという風にやってるんだと。こういう具合に新聞記者で野田さんなんかに食い込んでる連中が言ってるんですから。
小沢: だけど野田さんは外国に行ってもどこに行っても、消費税(の増税を)やるって言ってるでしょ。
田原: 小沢さんは反対でしょ?
小沢: 僕は今やるということは反対です。
田原: そこそこ。だから、小沢さんの顔色うかがって、いい加減にごまかしごまかししやったら、小沢さんも消費税増税を呑んでくれるんじゃないかと(野田総理は)思っている。
小沢: 消費税については我々は選挙の時に何て言ったかというと、行政、財政、この抜本的改革をして無駄を省いて、それを我々の新しい政策の財源にしますと。そして4年間は消費税増税はしませんということを国民の皆さんに言って来た。
田原: 確かに当時の首相の鳩山(由紀夫)さんはそう言いました。
小沢: そして、今まだ行財政の抜本的改革というのはほとんどできていないわけですよ。それをやらないでいて、お金がないから消費税(増税)というのは国民に対しての背信行為だと。だから僕は「賛成できない」と。
田原: 確かに、鳩山さんはあの政権を取る前からマニフェストを発表しました。そのマニフェストには仰ったように4年間は増税しないと。さらに子ども手当が月に26,000円、段階的に高速道路無料化、あるいは公立の高校の無償化、さらには農業に対する個別補償の問題ということを約束しました。ただし、その時に鳩山さんは、9月16日の記者発表で、実は自民党の予算は無駄が多い、だから民主党が政権を取ったら初年度で7兆円減らすと。それで、4年間で16兆ないしは17兆円減らすと約束したんですね。初年度全然減ってないじゃないですか。
小沢: うん、ですからなぜかというんですね。
田原: そう、そこ。
小沢: 民主党政権になって、そこは僕もなかなかもどかしいところなんですが、予算編成はどうやって作られているかというと、結局今の民主党政権になっても自民党時代の時とずっと同じようにやられてるんですね。
田原: どういうことですか?
小沢: 要するに各省がそれぞれの今までの自分たちの視野の範囲内で、自分たちで全部原案を作って来るわけです。そしてそれを全部集めたのが総予算で、政府内閣・大蔵省(財務省)を主導して、枠は決めますよ。だけどこれは一律のカットなんですね。例えば100兆円なら100兆円と決めれば、全部集めると120兆円なれば20兆円削るというだけで、政策的に「この政策は生かそう」、「この政策はボツにしよう」という選択をせずに、各省から上がってきたものを全部集めて予算を作ると。だから絶対お金が足りるわけないんですよ。
田原: いや、だからね。何で鳩山さんは首相で、「7兆円減らして来ない。ダメだ、やり直せ!」って言えないんですか?
小沢: だからそこが、なかなかその通り行かなかったというところは本当に・・・。
田原: ちょっと言っちゃいけないんですが、当時小沢さんは幹事長ですね。だから小沢さんが「やんなきゃダメだ」と言えば・・・。
小沢: いや、野党の時には「国民主導・政治家主導の政治を実現するんだ」と。
田原: 言ってました。
小沢: 言いました。そのためには、まず1つの方法として、政府与党一体の仕組みを作ろうということで、僕は幹事長として、また副代表やなんかも、党の幹部もみんなシャドーキャビネット、ネクストキャビネットに入ってたんですよ。ところが政権を取った途端に、結局党の幹部は「もう入らない」と。
田原: 何?
小沢: その政府に。
田原: 政策にはタッチしない?
小沢: ということに仕切りされたんですよ。
田原: なんで? そんな馬鹿な。だって民主党で一番の政策通が小沢さんじゃないですか。小沢さんを外して、予算組むなんてむちゃくちゃじゃないですか。
小沢: いや、僕は別に。そういう方針だということですから。
田原: 誰がそんな方針決めたんですか?
小沢: それはたまたま、その時は鳩山総理でしたけども。
田原: 鳩山さんが勝手に決めたわけ?
小沢: いや、勝手というわけじゃないでしょうが。そういう方針だということだったので、僕もああそうですかということで。
田原: そんなに小沢さんって大人しい人ですか。
小沢: いや、大人しいですよ(笑)。
田原: だって本当に、日本の政治家で一番政策に詳しいんだから、キャリアも十分あるし、自民党でも幹事長もされたわけだし。そういうところは鳩山さんに言ってあげればいいと僕は思う。
小沢: ですから、そこをごちゃごちゃにして混乱させてはいけないと思いましたから。
田原: でもその結果大混乱じゃないですか。つまり「7兆円減らす」と言って減ってないと。もう今年なんて何兆円減らすかもなくなっちゃった。16兆円も17兆円もどこかいっちゃった。めちゃくちゃじゃないですか。
小沢: ですから、今までと同じやり方、同じ予算編成、予算配分の仕方をしてたら、お金が出てくるはずないんですよ。
田原: ないですよ、それは。
小沢: みんな役所が目一杯、俺のほうがいっぱい取ろういっぱい取ろうという話ですから。だからそれを取捨選択して、政策の優先順位をつけていくのが政治家の役目なんですね。
田原: だからそれは、各省で言えば大臣の役割だし、そのために小沢さんは大臣だけじゃなくて副大臣、それから政務官を置いて、役人の言う通りにしないでおこうと、ちゃんと政治家主導をやろうと。それで、大臣がいて総理大臣がいたと。何もできなかったのはどうしてなんですか?
小沢: いっぺんでも描いた通りにできなくては、私はやっぱりそういう努力をしていかないと国民から見放されると。言ってることと、現に政権取ったらやってることと違うという話になっちゃうんで。
■「官僚も馬鹿じゃない。今までと同じでいいとは思っていない」
田原: そこなんですよ。でね、鳩山さんが(総理大臣を)辞めた。菅(直人)さんになった。また何もやってない。これは何ですか。
小沢: ですからどうしても、そこは少し経験不足の面もあると思います。やっぱり役人さんは知識もあるし、官僚機構としては強大ですしね。ついついそこにおんぶしちゃうということになっちゃってるんですね、きっと。
田原: だけど、小沢さんが一番尊敬されてらっしゃる田中角栄(元総理大臣)さんは、その官僚を使うのが実にうまかった。そういう意味では実は小沢さんも非常にうまいんだと思う。
小沢: ただ僕の主張している革命的なことというのは、行政官僚にとっては改革ですから、必ずしも賛成ではないんですよ。
田原: それは腹の中ではそうだけど、小沢さんは力が強いから「反対」って言えませんよ。
小沢: だけど官僚も馬鹿じゃないですし、今こういう難しい時代に今までと同じやり方でいいとは思ってないですよ。優秀な奴ほど。
田原: そうですか。
小沢: それは絶対そうです。もちろん自分たちの利害もありますけどね。ですから、筋道の通った政治家がきちんとした理念と見識を持って政策決定をしていけば官僚も従うんですよ。そこをどうしてもついつい・・・。
田原: 何でできないんだろう? 自民党はそれができなかった。だから国民は自民党を見放して、民主党なら小沢さんがいらっしゃるからできるんじゃないかと思って、民主党政権にしたんですよ。
小沢: だけど僕一人でできるわけじゃないですからね。
田原: だけど今も、さっきの言葉では野田さんもまた官僚任せと。困っちゃいますね。
小沢: ですからTPPの話にしても、野田さんが多少反対があろうがこれはやるんだと、その決断はそれはいいと思うんですよ。それだったら、そう言ったとか言わないとかごちゃごちゃしないで、その筋道を通してもらうのがいいと思うんですがね。
田原: だから僕は、野田さんがやっぱり小沢さんのところにやってきて「やります、よろしくお願いします」と言えばいいのに言ってないんですか?
小沢: 僕に言わなくたっていいですけど。
田原: 言えばいいじゃないですか。
小沢: アメリカにきちんと言ったら、それと同じことを日本でも言わなきゃダメですね。
田原: アメリカではすべての物品およびサービスを自由貿易のテーブルに載せると野田さんが言ったと言っている。(野田総理は)「そうは言ってない」と言いながら、アメリカは訂正をしていないし、日本も訂正を要求していない。
小沢: そうです。ですからそこが日本流の使い分けなんですね。それは絶対いけない。アメリカも、日本のことを馬鹿にして信用しなくなっちゃうんです。それで国内でも、何やってるんだとなるでしょう。
田原: うん、そうです。
小沢: どっちにとってもいいことがないんですよ。
田原: それでね、TPPもさることながら、野田さんは財務省がバックにいるせいか、2010年代の中頃には消費税を10%にすると。多分これやるつもりですよ。さらにさっき言った東日本大震災の復興・復旧のために10.5兆円、これを法人税と消費税で取ると。これに小沢さんは賛成しますか?
小沢: ですから、消費税は僕は賛成できません。
田原: 復興のほうはいい?
小沢: 特に復興のほうはいわゆる原発がありますから。これはお金がある無しの問題じゃないです。この原発、放射能の大量のウラン燃料を抱えていて日本の将来なんかは無いですよ。だからこれこそ何十兆円かかろうが完全に封じ込めて、安心した日本列島にしないと何やったってダメです。
田原: それは良くわかりました。こういうことをはっきり言う人いないんだ。
小沢: いやいや。
田原: それはいい。そうすると消費税は反対ですね。
小沢: 今やることはね。
田原: だから今やろうとしてるんですよ。
小沢: だからそれについては僕は賛成しません。
田原: だったら、野田さんも小沢さんの所へやってきて「消費税をやろうと思います、よろしくお願いします」って何で言わないんですか?
小沢: 言われても賛成できないですね。
田原: でも言わなかったらもっと賛成できないでしょう。
小沢: それはそうですけれども(笑)。
田原: どうするんだろう。小沢さんが反対すれば、きっと民主党の百何十人かは反対しますね。自民党も反対。通らないじゃないですか。
小沢: 消費税については、例えば僕の親しい人たちというだけじゃないと思います。そして消費税というのは都市も農村も無いですからね。
田原: 無いですよ。
小沢: 農村は特にひどいですけども。だから、今どの行財政改革も思い切ったことを何もやらずに、「財源はやっぱり無いそうですから消費税を上げます」というのは、僕は国民には通用しないと思いますがね。
田原: そんなことはあり得ない。
小沢: はい。
■「マスコミは客観的な報道をしないと国を潰す」
田原: ただ、もう1つ言いますと、もともと消費税は自民党時代にもっと上げなきゃいけなかったんです。消費税を上げないで来たから1,000兆円も借金、国債ができちゃったと。このまま、また消費税を上げないでいったら日本はギリシャに、イタリアになっちゃうんじゃないかと。
小沢: ですけど、僕らが言う行財政の抜本改革を本気になってやれば、一定の財源は出るんですよ。さっき言ったみたいに、例えば今の予算編成でも「補助金はちょっとしかありません」と言いますけど、政策経費を全部合わせると33兆円から34兆円あるんですよ。予算の中で各種全部合わせると。
田原: そうですか。
小沢: はい。ですからこれを、本当に無駄なものを省き、地方に任せるものは全部任せちゃって、もちろん介護だの老人医療も含みますけど、これもきちんと地方に任せれば、現実に地方はやってるんですから、そんなにお金を無駄に使わなくたってできるんですよ。
田原: 小沢さんがはっきりこう仰るのに。
小沢: 僕はそこからお金は何兆円でも出ると思いますよ。
田原: そういう風に仰るのに、何で野田さんあるいは今の財務大臣や総務大臣でもいいんですが、そういうことをちゃんと言えないんですか?
小沢: それは官僚の既得権を奪うことになりますから。
田原: クビになりますか。下手すると小沢さんみたいに、検察か何かが手を回してみたいなことになるんですかね。
小沢: いや、だからそういうことをやる。しかし、それで国家の官僚は何をするのかということをきちっと提示してやればいいんですよ。
田原: これから裁判の話にいきたいんですが、小沢さんがやられたのは、やっぱり小沢さんがそういう風に官僚に対して本当に抜本的な改革をやるべきだと言い過ぎてるからじゃないかという気もする。まあいいや。それでやっぱり小沢さんは消費税は反対ですね。
小沢: 現時点でやるのはね。抜本改革を何もしないで、ただ増税するというのは反対です。
田原: わかりました。さあ、ここで裁判に、どうぞ。
角谷: はい。では裁判のことにいきましょうか。「小沢裁判とは何なのか?」というテーマでいこうと思います。
田原: そうですね。よろしくお願いします。さて、小沢さんは今、裁判を抱えていらっしゃる。その小沢さんについて、世の中では「小沢悪人論」が強いんですよね。小沢さんは汚いとか黒いとか金権だとか。非常に強い。何でこんなに強いかと言えば、これは小沢さんが仰らなくても、僕が説明しますよ。これはやっぱり小沢さんのことを検察が盛んにマスコミにリークした。「小沢は汚い」とかいろいろなことを。これを新聞やTVがドーンとそのまま書いた。これで世の中がそう思った。こういうマスコミをどう思います?
小沢: いや、僕はマスコミにはオピニオンリーダーとして、やっぱり本当に公正な、客観的な報道をしてもらわないと、やはりまた国を潰すことになると本当に心配してます。僕個人のことじゃなくてね。
田原: うん、だけど何でマスコミはこんなに検察に弱いんですか? 小沢さんが汚いとか書いてるマスコミは裏取ってるならいいですが、裏も取らないで検察の言うままじゃないですか。
小沢: 僕は、検察との繋がりは別として、マスコミも改革の例外ではないという考え方ですから。
田原: どういうことですか?
小沢: ですから、日本のマスコミは最も旧体制の中で既得権を持ってるところですよ。
田原: なるほど。
小沢: 官僚に勝るとも劣らないくらいの既得権を持ってるところです。
田原: しかも日本の新聞はみんなTV局を持ってると。
小沢: そうそうそう。
田原: あれは免許事業だと。
小沢: 免許は本当は5年かな? ・・・ごとに更新されるはずでしょう。だから欧米では競争入札してる所もあるんですね。ところが日本では一度取れば、ずっとでしょう。それから新聞は再販制度で全部保護されているでしょう。その意味で競争が無い。非常に既得権を持ってるのはマスコミなんですね。
田原: 官僚と同じだ。
小沢: そうです。
田原: (官僚)以上かも知れない。
小沢: はい、そうかも知れない。そして批判する人がいないでしょう。
田原: なるほど。
小沢: だからその意味で、今までの体制が一番いいんですね。それを変えようとするのは、僕みたいなのはけしからんという話になってくる。
田原: やられちゃうわけだ。
小沢: はい。
田原: だけど、小沢さんのようになれば、僕はマスコミもちゃんとした記者たちはやっぱり、小沢さんとちゃんと話をすると思うんだけど。だって本当のことを知ろうと思えば小沢さんに会わなきゃどうしようもないじゃないですか。
小沢: だから最近は全然僕もやらないけれども、僕の話を聞かずに、全部僕の記事が出てるんですよね。
田原: 何ですか、それは。
小沢: 本当にわからないんですけれども。
田原: そう。例えば新聞社の名前は言いませんけど、いろいろな大新聞の大記者が小沢さんには会いに来ないですか?
小沢: だから、僕のことに関する記事でも僕が直接取材を受けるということは一切ないですね。
田原: そうですか。
小沢: はい。今は僕はそういうマスコミをあまり相手にするのも馬鹿馬鹿しいからしないんですが、しかし僕はインターネットなんかを通じてフルオープンの記者会見もちゃんとやってますし、ネットのように本当にそのまま報道してくれるんなら僕はいくらでもやるんですよ。(このことを)僕がいくら言ったってダメなんですよ。
■田原「検察審査会って何をやっているのか。さっぱり公開しない」
田原: 今、別に小沢さんに約束をしてもらおうとは思わないけど、僕の番組は本当に小沢さんの言う通りやりますよ。また申し込みますから。・・・いや、それは余計なこと。それで僕は小沢さんの問題は、初めからシロだと言っている。TVでも言ってるし、雑誌でもどこでも書いてるんです。つまり、プロ中のプロである東京地検特捜部が、小沢さんを何とかやっつけようと思って必死になったけど、ついに起訴できなかった。そうですよね。
小沢: はい。
田原: 起訴できないということはシロということですよ、やっぱり。
小沢: はい。
田原: ところがそれを検察審査会という、ちょっとよくわからない集団なんだけど、それが2度にわたって小沢さんを「起訴相当」と出した。2度にわたって起訴相当になると「強制起訴」になって、小沢さんは起訴されちゃってるんですね。
小沢: はい。
田原: よくわからないのは、検察審査会って何をどうしてるのか、さっぱり、一切公開しないんですね。これはどう思いますか。
小沢: そうなんです。それで国会議員の仲間でも、おかしいということで問い詰めて、資料要求なんかをやった人がいるんですよ。ところが一切資料を出さないんですよ。それで最初、審査会の委員の平均年齢が31歳だとか、いや、間違えました、31.何歳などということでしょう? そうすると、どうやってその人を選んでいるのか。31歳を平均年齢とすれば、ほとんど20代の人が半分以上いるということですよね。人口構成からも変だし、いろんな意味で変だと仲間の議員がいろいろ聞いたんですが、一切資料を出さないんです。
田原: 出さない?
小沢: 出さない。
田原: 一切資料出さないで、いきなり起訴されたってことに対して、小沢さんは、「こんな裁判ないじゃないか」って問題提起しないんですか?
小沢: だから僕はいま制度として検察審査会があるから、それについてどうこうじゃないです。ただ、法と証拠に基づいて運用を公正にっていうのが法治国家・民主主義国家の原則ですから。それをきちっと、少なくとも守ってやってもらいたかったと思っていますね。
田原: ところで、東京地検特捜部が最終的にやろうとしたことは虚偽記載ですよね。小沢さんの帳簿に金を入れたのは実は平成16年10月なのに、これが17年1月になっていたと。2ヶ月ですかね。これを虚偽記載であると言った。もう1つは、虚偽記載であるかどうかも問題で、そこは後で答えて欲しいが、虚偽記載をやったのは当時の秘書官の(元秘書の)石川(知裕)さんだと。ところが石川さんがやったとして、小沢さんがそれを「共謀した」と。共謀なんてことは良くないんだけれど、小沢さんが許可を与えたあるいはそれを認めたということになってるんですね。この2点はどうですか?
小沢: まず、この政治資金収支報告書というものですが、これは言わば収入と支出の家計簿みたいな話ですから、極々事務的な話なんです。
田原: なるほど。
小沢: ですから、石川はじめうちのスタッフはちゃんと記入してますと言ってますが、それが仮に間違っているとしたら、今までの例では政治資金規正法上は修正報告でみんな良しとされているわけですよ。
田原: ちょっと待ってください。仮に2ヶ月ずれたことが事実あったとしても、修正報告すればいいんですか?
小沢: 仮にそれが虚偽報告に当たるということであれば修正して、みんな今まで全部そうやって、今でもそうやってきていますよ。
田原: 話は違うんですが、税務署もそうですね。何かに使ったとして「使ってなかった」と(報告したとき)、そういう時には修正報告すればそれでいいわけですね。
小沢: ですから、それを脱税とかいろんな事実上の犯罪があれば別ですよ。
田原: だけどこれは検察が犯罪だと言ってるんだから。
小沢: いえいえ、報告書自体が違うのが犯罪だと言ってるわけですよ。そうじゃなくて、例えば僕が違法な金をもらってるとか、何か脱税してるとかそういうことがあれば別ですが、いま争われているのは、ただ単なる収支報告書の見解の相違なんです。だからこれは、従来から全部修正報告で済まされてきたものなんです。
田原: そういうものなんですか。
小沢: 全部そうですよ。だから今まで問題になった人でも全部他の実質犯罪が無い限りは、政治資金収支報告書の修正で「OK」とされてきたんです。
田原: 小沢さんの場合だけが、検察が動いて有罪かどうかとやってるわけですか。
小沢: そういうことになります。だから僕は冒頭の意見を言って良いということになりましたので、それも言いました。なぜ私だけがこんな事務的な問題で、何の証拠も無しに強制捜査になるのかと。私個人ということより、あの時はどういう状況だったかと言いますと、もう半世紀以来、初めて1対1の戦いで政権が交代するかも知れないという予測がされていた時点です。その総選挙の直前に、何の証拠も無しに野党の第1党の党首を、そのスタッフ・政治団体を強制捜査するっていうのは、これはもう民主主義の世界では考えられない。
田原: この事件とは直接関係なかったけれども、(同じく元秘書の)大久保(隆規)さんを逮捕しちゃいましたね。
小沢: だからあれも何の証拠も無しに。
田原: あれはまさに、いつ選挙が行われてもおかしくなかった。
小沢: そういう時期ですよ。確証無しに逮捕した。
田原: まあそれはともかく。もう1つ、特に今度の裁判では小沢さんが共謀だと、つまり石川さんにそうしようと言った、あるいはそれを認めたと。この点はどうですか?
小沢: だから今言ったように、これはまったくの事務的な問題なんですね。国会議員で収支報告書を見てる人なんかいないですよ。
田原: そうですか。
小沢: そうですよ。今言ったように、収入と支出を書いて出せばいいだけの話ですから。極々事務的な話なんです。ですからその意味ではスタッフ・秘書が全部それは責任をもってやるのはどこの事務所でも同じなんですよ。
田原: ただ、これは世の中に言いふらしてるんですが、検察は4億円もの金を虚偽記載する、そんなことを秘書が勝手にやれるはずがないと。当然小沢さんに相談しているはずだと、今はこうなっています。世の中の人も相当それを信じています。この点はどうですか?
小沢: ですから、そのお金は私自身の私的なお金ですし、それを出したことは間違いない。だけど後は、どういう事務的手続きをするかというのは、僕がかむ話じゃない。
角谷: メールが来ています。「山の神様」、神奈川の女性です。「小沢さんがなぜ4億円ものお金を現金で持っていたのかに興味があるだけで、その説明がなされれば、この騒動は終わるのではないか。みんなの興味はこの1点だ」と。
田原: ちょっとそれは違うよ。みんなの興味がその1点で、検察もそれに興味を持ってるんだけど、少なくとも今度の裁判は虚偽記載であり、それに小沢さんが共謀しているかどうかの1点で、4億円がどうかということはまったくどうでも良い。
角谷: その原資がどこにあるかは問題ではない?
田原: まったく問うていない。
小沢: この問題について、そういう様な疑問とかがいっぱいあるんですが。この一連のことで政治団体や秘書は逮捕されたり強制捜査を受けましたね。僕の場合は逮捕されずに任意で事情を聴かれただけですが、しかし僕も3回も聴かれているわけです。それからいまお金の話しましたけれど、私の個人資産、女房の個人資産、これはすべて検察が事実上の強制捜査をして知っているんですよ。それでも何も問題なしになったから起訴されなかった。
■「マスコミは円高のメリットを言わず、大変だとばかり言う」
田原: ということは、そこに問題はなかったと検察が判断したってことだ。ところが、9月に石川さんはじめ大久保さんたち3人の秘書の1審の判決がありました。1審の判決で3人とも有罪になった。これは問題で、例えば少なくともこの1審の判決では「虚偽記載はあった」ということを断定しているわけですね。皆さんわかると思うんだけど、この1審で一番問題なのは、例の大問題になった水谷建設の元トップが、大久保さんと石川さんに5千万円ずつ献金したと、言ってみれば裏献金ですね。検察がそのことで2人をぎゅうぎゅうやった。ところが2人はこれを「無い」とまったく認めなかった、元トップはいろいろ言ってるようですが、これの証拠らしいものは客観的な物的証拠は何にもない。僕はこの水谷建設に東京地検特捜部がはまりこんだのが失敗だったと思ってるんですが、なんと今度の1審の判決では「もらった」と断定して有罪になっている。これはどう思いますか?
小沢: 本当にびっくりしましたね。言ってみれば「自分はたぶんもらったんじゃないかと思う」という類の判決ですよね。裁判所は法と証拠に基づいてきちんとした公正な場所であると皆思っているわけですよね。そこでそういう風に、多分そうだろう、俺はどうももらったんじゃないかと考えると。その前提があって初めて彼らは有罪ということになっちゃったんですよね。ですから、その意味では本当に私は驚きましたね。
田原: さらに僕が驚いているのは、検察がそういうことで有罪だと求刑するのはわかるが、裁判所、裁判官が認めちゃったと。裁判所が少なくともこういう形で露骨に検察に荷担することは無いと思ってたんだけど、どう思いますか。
小沢: 本当にただ驚いたということで、たぶん前代未聞の判決だと思います。
田原: だからね、そこで僕は心配になってきた。僕は小沢さんは無罪だと思っていますよ。でもこの判決に倣って、もし今回の小沢さんの裁判の検察役をやってる弁護士や裁判官が、この9月の判決があって、推認で有罪になって。小沢さんが有罪になる可能性ありますよ。
小沢: だけど今言ったように、あの2人の有罪の前提は金をもらったに違いないということでしょう。
田原: だって2人とも「もらった」と言ってない、証拠がない。
小沢: 事実上もらってないし、仰るように何の証拠もないわけですよ。それを「たぶんもらったに違いない」と裁判所にそう認定されたんじゃ、これはみんな罪人になっちゃいますよ。
田原: 繰り返しますが、虚偽記載があったとやっぱり断定してるんですね。だから石川さんはこれで有罪ですよね。
小沢: そうそう、そうですよ。1審は有罪の判決を受けたわけです。
田原: ということは、こんな4億円近い金を、石川が秘書が勝手にやるはずがないと。これは小沢さんがかんでるに違いないという想定というか常識、推認ですよ。
小沢: ですから、かんでいるという意味は、僕が僕の金を渡したんだから、その意味ではかんでいるんですよ。だけど後は何回も言うように事務的処理の話ですから、それをどう使うか、どう報告するかというのは・・・。
田原: 小沢さんの話は良くわかってるんだけれど、この1審の判決みたいに推認、推認、断定となると、これはちょっとね。
小沢: そうですね、そういうことが起こったとしたらね。だから後は国民の皆さんの判断じゃないですかね。
田原: 国民の皆さんもあまり信用できないけれども(笑)。そんなことはないことをもちろん祈るし、ないでしょう。ところでもう1つお聞きしたい。当然ながら僕は無罪になると思いますが、今はお休みされていて民主党からもはずれている。もし無罪になったら小沢さんは当然復党ですか?
小沢: 復党って(現在も)党員ではありますけどね。
田原: だから、党員としてきちんと活動することになりますか?
小沢: もちろん、僕はそうしたいと思っています。
田原: 党員としてきちんと活動するということは、さっきも仰った今は例えば野田さんたちが曖昧なことを言って使い分けやってるけど、小沢さんはあんまり仰らないけれど、こういうことは当然きちんと言うようになるわけですね。
小沢: そうですね。言ってもマスコミからいろんなことを言われないで済むようになりますから。
田原: 僕は野暮なことは聴きません。例えばまた代表選挙に出るかなんて聴きませんが、当然やっぱり現役として活動をされるわけですね。
小沢: それは状況が非常に僕は深刻だと思ってるんですよ。日本の国内では震災、原発があり、それから今ユーロが危ないですよ。非常に危ない。
田原: 破綻する可能性がある。
小沢: 僕はそう思ってます。行くとこまで行くんじゃないかと。すると世界恐慌的になっちゃいますよ。
田原: そんな話へ移ります。
角谷: 次はですね。「民主党をどうする?」ということを軸にお願いします。
田原: 今日本の国民が一番悩んでいる、困っているのは円高ですよね。金曜日(2011年11月18日)現在が確か76円ですか。元々は小沢さんが政治家になられた頃は1ドル360円でしたね。それが今は76円。小沢さんも専門家で釈迦に説法ですが、やっぱりせいぜい日本がまともな経済活動ができるのは100円とか90円ですよね。これが76円になったら、こりゃ大変ですよね。もう1つ、ここが一番お聞きしたい。76円という円高だということは、つまり日本が強いと見られているんだけど、本当は強くないことが問題。日本が強いということは日本の経済界が強い、日本の産業界が強いということで、ならば株価も上がらなきゃいけないが、株価が8400円と最低じゃないですか。つまり日本の企業が、産業がまったく信用されていないのに、何で円だけ上がるんですか?
小沢: それは他(の国)がもっと悪いということもあって、円に資金が集まるということだと思います。
田原: さっき仰ったユーロがガタガタ。
小沢: アメリカも良くないと。そうすると日本に投資した方が無難だろうという形で円が上がって、日本がうんと評価されてるっていうよりも、他の国が今異常に大変だから、相対的に日本の円が上がっていると。ただ僕は、それと違うようなことを言いますが、円高っていうのは悪いことばかりじゃないですね。
田原: なるほど。
小沢: ですから、円高に対応できる国内の体制・産業であれ何であれを作ると同時に、この円高のメリットを活用しないといけないと僕は思っています。
田原: 例えば日本は電力なんかのエネルギー、石油、石炭、ガス、みんな輸入ですよね。
小沢: そうです。
田原: 輸入するものは、円高は大変いいわけですね。
小沢: そうです。
田原: だから電力会社は原発で大変だろうけど、本当は儲かっているわけですね。
小沢: 電力だけじゃなくて、日本はあらゆる資源が何もないわけですね。
田原: 食料にしても。
小沢: 何もないわけですよ。
田原: 鉄鋼にしても。
小沢: ですから、その意味ではこの円高というのはものすごいメリットなんです。
田原: この辺もマスコミは問題で、円高のメリットを言わないで「大変だ大変だ」とばっかり言っている。
小沢: 円高で中小零細企業の皆さんを結局大手(企業)が買い叩きますから、大変なことは間違いないです。そのための対策を講じなければならないことは当然ですけれども、ただ「大変だ大変だ」だけじゃなくて、もっと前向きな、積極的な政策を、対外的にも国内的にも打ち出していくべきだと思いますね。 〈後〉へ続く
遠藤誠一被告の上告棄却 オウム全公判終結/元幹部死刑囚たちの手紙/林郁夫受刑者/上祐史浩氏
オウム裁判:遠藤被告の上告棄却、死刑確定へ 全公判終結
地下鉄、松本両サリンなど4事件で殺人罪などに問われたオウム真理教元幹部、遠藤誠一被告(51)に対し、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は21日、被告の上告を棄却する判決を言い渡した。1、2審の死刑が確定する。教団を巡る一連の刑事裁判は、教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(56)ら幹部が逮捕された95年から16年余を経て、全公判が終結した。死刑を言い渡された被告は13人にのぼり、法務省は全員の刑確定後、死刑執行について検討に入るとみられる。
小法廷は「残虐、非人道的で結果の重大性は比類ない。実行犯ではないが、教団幹部の立場で科学的知識を利用し重要な役割を果たした」と述べた。
刑事訴訟法の規定で最高裁判決に対しては10日以内に訂正の申し立てができ、遠藤被告と18日に死刑維持の上告審判決のあった中川智正被告(49)には申立期間が残されているが、棄却されれば判決が確定する。
坂本堤弁護士一家殺害(89年11月)、松本サリン(94年6月)、地下鉄サリン(95年3月)の「3大事件」をはじめとする一連のオウム事件では計27人が犠牲(08年施行のオウム真理教犯罪被害者救済法の認定死者などを除く)になり、6500人以上が負傷した。計189人が起訴され、これまで地下鉄サリン事件の実行役を中心に11人の死刑が確定した。遠藤、中川両被告の死刑が確定すれば、確定判決は死刑13人▽無期懲役刑5人▽有期の実刑80人▽執行猶予付き判決87人▽罰金3人▽無罪1人。
松本死刑囚への1審・東京地裁判決(04年2月)は、松本死刑囚を計13事件の首謀格と認定した。事件の動機は「松本死刑囚が武装化で教団の勢力拡大を図ろうとし、ついには救済の名の下に日本国を支配して王になることを空想した」と指摘。「信者の資産を吸い上げて得た多額の資金を投下して武装化を進め、無差別大量殺りくを目的とする化学兵器サリンを散布して首都制圧を考えた」とした。
刑事訴訟法は、死刑執行は判決確定から6カ月以内に命令しなければならないと定めているが、共同被告人の判決が確定するまでの期間は算入しない。一連の事件では逃走中の指名手配容疑者が3人いるが、法務省は「執行停止の理由には当たらない」としている。
遠藤被告への1、2審判決によると、94年5月〜95年3月、両サリン事件のほか信者脱会を支援した滝本太郎弁護士らをサリンや猛毒のVXで襲撃した。【石川淳一】
◇ことば・オウム真理教
84年2月に松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚が設立した「オウム神仙の会」が前身。87年6月に名称変更し89年に宗教法人格を取得。同年〜95年まで坂本堤弁護士一家殺害や松本、地下鉄両サリンなど一連の事件を起こし計27人が犠牲になった(刑事裁判上の認定。08年施行のオウム真理教犯罪被害者救済法で新たに1人が地下鉄サリン事件の死者と判断され、松本サリン事件の被害者、河野義行さんの妻澄子さんが08年に亡くなり死者は計29人)。95年10月に東京地裁が宗教法人の解散を命令。その後、主流派の「アレフ」と、上祐史浩元幹部が設立した「ひかりの輪」に分裂し、布教活動を続けている。毎日新聞 2011年11月21日 11時09分(最終更新 11月21日 12時37分)
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遠藤被告の死刑確定へ オウム裁判は事実上、全面終結
産経ニュース2011.11.21 10:42
地下鉄サリン事件のサリンを製造したなどとして殺人罪などに問われ、1、2審で死刑とされた元オウム真理教幹部、遠藤誠一被告(51)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は21日、遠藤被告側の上告を棄却した。死刑が確定する。
平成7年3月の教団への強制捜査から16年余りを経て、一連の裁判は事実上全て終結した。教団をめぐっては、189人が起訴され、死刑確定は元教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(56)ら13人となる見通し。
9月29日の上告審弁論で弁護側は、遠藤被告は麻原死刑囚のマインドコントロール下にあり、完全責任能力がなかったと主張。「各犯行の実行犯ではなく主導もしていない」などと犯意や共謀を否定し、極刑回避を求めていた。
1、2審判決によると、遠藤被告は麻原死刑囚らと共謀し、6年の松本サリン事件と7年の地下鉄サリン事件で計19人を殺害。滝本太郎弁護士に対するサリン襲撃、猛毒VXによる脱走信者の支援者男性襲撃にも関与した。
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オウム裁判:悔悟の念、憤り、不安…死刑囚たちの手紙
死刑を言い渡されたオウム真理教元幹部の中には確定前、本紙記者と東京拘置所で面会し、手紙をやりとりした死刑囚もいる。会話と文面には、悔悟の念や松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚に対する憤り、「極刑」への不安など、さまざまな心情がにじんだ。
■広瀬死刑囚
「私の愚かさが悔やまれます」。地下鉄でサリンを散布した広瀬健一死刑囚(47)は06年に記者と面会した後、3通計24ページの手紙を送付し、悔悟の念を伝えてきた。
早稲田大大学院で高温超電導を研究する科学者だったが、手紙では「松本死刑囚の『力』によって私の悪業が消滅し、解脱に導かれたと感じる経験をした。『神』といえる存在でした」と当時を振り返った。一方で「独善的な教義にとらわれ、被害者の生命、人生、生活の大切さに気づかずに奪ってしまったことは人間として恥ずかしい限りです」と逮捕後の心境を吐露。松本死刑囚については「神の姿は完全に崩壊した」「責任を放棄して自己の殻に閉じこもる姿は情けない限り」と怒りをにじませた。
元弁護人の一人は「真面目過ぎたということに尽きる。道を誤らなければ社会に貢献する人材になっていたはずだ」と悔やむ。達筆な文面にはこんな記載もあった。「罪の重さは決して薄れるものではないことを、年月の経過に比例して強く感じます」【佐藤敬一】
■早川死刑囚
「『終身刑より死刑の方がまし』と考えていました。しかし今では『終身刑があれば、その方がいいかな』と思っています」。坂本堤弁護士一家殺害事件の実行役だった早川紀代秀死刑囚(62)は、08年8月に記者に送った手紙の中で「極刑」への不安を隠さなかった。
心境変化の理由を「確定すれば2、3年で執行される時代になったこと。『塀の内の生活』に慣れ、このまま続けていけそうに思えるようになったこと」と記した。
翌9月に面会すると「以前の(著書で書いた)ようにおわびとか何とかいう余裕がない。死ぬ準備をするところやから。執行までの間、徹底的に修行したい。勝手かもしれませんが」と打ち明けた。
09年7月の最高裁判決前に改めて手紙を送り、判決3日前に届いた電報にはこう書かれていた。「お詫(わ)びはマスコミへの回答等でできるだけです。(死ぬ準備とは)断食して瞑想(めいそう)に専念することです」【武本光政】
■岡崎死刑囚
最初に死刑が確定した岡崎(宮前に改姓)一明死刑囚(51)は確定前、拘置所での面会時に「こういう犯罪が二度と起きないために、私にできることは言っていきたい」と語った。その後届いた手紙には「愚かな私にできることは潔く刑に服し、最期の日まで被害者のご冥福を願うことが全て」とあり、現役信者に「一日も早く眼を覚まして麻原(彰晃=松本死刑囚)から離れてもらいたい」と訴えた。【森本英彦】
■土谷死刑囚
サリン生成役の土谷正実死刑囚(46)は死刑確定前の今年1月に拘置所で面会した記者の求めに応じ、2月に手記を寄せた。被害者や遺族に謝罪し、松本(麻原)死刑囚を2度目以降で「A」と略して「(逮捕後は)事件の悲惨な被害に対する罪悪感と、Aへの帰依心との間で葛藤していた」と明かした。
06年に松本死刑囚の1審判決時の様子を雑誌で読み「詐病に逃げた」と確信し「帰依心がはっきりと崩れた」と告白。「個人的な野望を満足させるために弟子たちを反社会的な行動に向かわせた」と「A」を批判した。【伊藤一郎】毎日新聞 2011年11月21日 12時29分(最終更新 11月21日 12時43分)
林受刑者求刑、当初は死刑=検察上層部再検討し無期に―オウム公判
2011年11月20日3時6分
地下鉄サリン事件の実行役5人のうち唯一、無期懲役が求刑されたオウム真理教元幹部林郁夫受刑者(64)について、検察内部で当初、原案として死刑求刑を決めていたことが19日、関係者の話で分かった。その後、検察上層部が検討を重ね、無期懲役に変更されたという。
その際、元幹部の広瀬健一(47)、岡崎(現姓宮前)一明(51)両死刑囚らについても、捜査への協力姿勢から死刑求刑見直しが検討されたが、覆されなかった。関係者は「(林受刑者が)地下鉄サリン事件について率先して自白し、捜査の突破口を開いたことが大きかった」としている。[時事通信社]
関連:「闇サイト殺人事件」存在感増す遺族 自首によって残りの2人が早期に逮捕されたことは確かだ2009-03-25 | 死刑/重刑/生命犯 問題
中日新聞夕刊【大波小波】2009/03/25
闇サイト殺人事件の3人の被告への判決を伝えるテレビのニュースやワイドショーの多くは、判決への客観的な分析よりも、無念を訴える被害者の母親のインタビューを前面に出しながら、1人が死刑ではなく無期になったことへの異を唱えることに終始した。
確かに犯行はあまりにもむごたらしい。でもむごたらしいからこそ冷静に考えねばならない。反省のない自首など評価すべきではないとの論調が多いが、自首によって残りの2人が早期に逮捕されたことは確かだ。自首しても減軽が見込めないとの前例を作れば、今後は同種の事件の解決が困難になることも予想される。 殺人事件のほとんどは、その過程を克明に描写すれば、この事件と同様にむごたらしい。闇サイトなどで世間から注目された事件だったからこそ、今回はその残虐性が浮き彫りになった。同時に3人の男たちの護送中の映像が、あまりにふてぶてしくて悪人面であったことで、世間の憎悪がヒートしたことも確かだろう。
厳罰化は加速している。その自覚があるならそれもよい。でもその自覚がないままに、「悪いやつはみな死刑だ」式の世相が高揚することに対して、(特に感情に訴える映像メディアは)もう少し慎重であるべきだ。
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元裁判長「例外中の例外」=林受刑者への無期判決
2011年11月19日
「空前絶後、例外中の例外」。オウム真理教元幹部林郁夫受刑者の一審で裁判長を務めた元判事の山室恵弁護士(63)は、19日までの時事通信社の取材に対し、地下鉄サリン事件の実行役だった林受刑者を無期懲役とした判決について、極めて異例の判断だったと強調した。
審理の途中から裁判長を引き継いだ際の心証は「泣こうが叫ぼうが死刑」。林受刑者が法廷で泣き崩れた際も「冷ややかに見ていた」と明かす。
ところが検察側は、反省や捜査への貢献を理由に異例の無期懲役を求刑した。「えらいことになった」。悩んだ末に出した結論は求刑通り。「検察が無期でいいと言っているのに、裁判所が死刑が正しいとは言えない」との判断だったが、「今でも引きずっている」と複雑な胸中を明かす。
坂本堤弁護士一家殺害事件などに関与した岡崎一明死刑囚に対しては、林受刑者と同様に自首を認めたが、求刑通り死刑を言い渡した。結論が分かれた理由を、「反省の真摯(しんし)さ」と言い切った。
林受刑者の求刑決定に関わった元検察幹部は、「自発的に話しており、司法取引とは違う」と説明した。(了)
[時事通信社]
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オウム事件の元取調官、林受刑者と今も問答
オウム真理教による一連の事件の裁判が、21日にも終結する。
地下鉄サリン事件の実行犯でありながら、事件解明につながる供述が評価され、極刑を免れた元教団幹部の林郁夫受刑者(64)は、無期懲役刑を受けている千葉刑務所でその日を迎える。供述を引き出した警視庁の取調官は、林受刑者と面会や文通を続け、事件といつまでも向き合っていくよう語りかけている。
事件当時、同庁機動捜査隊の警部補だった稲冨功さん(65)は年に1〜2度、刑務所の面会室で林受刑者と会っている。6月の面会では、林受刑者の手紙にあった「犯罪はなぜ起きるのか」という問い掛けに、自らの考え方を20分にわたり語った。坊主頭の林受刑者は時折うなずきながら、真剣に聞き入っていたという。
石川県内で1995年4月8日、自転車を無断で使った容疑で逮捕され、移送されてきた林受刑者と、連日、向き合った。表情はこわばり、目はうつろだった。
医師だった受刑者を「先生」と呼び、同い年として思い出の音楽やドラマの話をして心を解きほぐした。5月6日夜、林受刑者は「サリンをまきました」と、突然自白した。稲冨さんは思わず、「先生ウソだろ。誰かをかばってるんじゃないの」と問いかけたが、林受刑者はその後、ほかの実行犯の名前も明かしていった。麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚(56)を指す「尊師」という言葉は徐々に出なくなり、時折笑顔も見せるようになった。
(2011年11月20日03時01分 読売新聞)
オウム裁判「死刑執行前に反省を」 「ひかりの輪」上祐史浩代表
2011年11月20日22時46分:産経新聞
オウム真理教に強制捜査(平成7年)が入ると会見やテレビ番組などで、教団を正当化する主張を繰り返した。早大のディベート・サークルで鍛えた弁論術を生かし、相手の考えを封じる姿は「ああいえば、上祐」と呼ばれた。
オウムの流れをくむ宗教団体「ひかりの輪」の上祐史浩代表(48)。いまは、あれだけ信奉していた「尊師」こと麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(56)を「麻原」と呼び捨てにする。
「裁判が終結すると、今度は死刑執行が遅かれ早かれ始まるだろう。麻原は、執行前にきちんと反省すべきだ。反省の言葉を発しないまま死刑になると、神格化してしまい危険だ」
一連のオウム裁判を通じて、一度たりとも真相に向き合おうとしなかった麻原死刑囚の態度に、強い疑問を感じているという。
他の死刑囚、被告らについては「反省しているように見える人もいるし、そうでない人もいる」と冷静に分析する。
だからといって、教団の正当化を吹いた自分の過去が清算されるとは思っていない。「道義的責任は免れ得ないと思っている」
教団のモスクワ支部に長くいたことなどがあって、地下鉄サリン事件などについての全容を知る立場にはいなかった。だが、「教団の関与はうすうす感じていた」と告白する。
幹部同士が地下鉄事件の証拠隠滅を確認するような会話を聞いた。麻原死刑囚が「サリン事件は教団が悪いことをした」と発言するのも聞いた。
「事実と違う説明をしている自覚もあった。だが私自身、深い洗脳状態にあり、教団を守りたい、丸く収めたいと考えていた」
自身は、殺人事件への関与はなかったものの、教団による熊本県内の土地取得をめぐる国土利用計画法違反事件で偽証罪などにとわれ、懲役3年の実刑を受けた。起きるはずだったハルマゲドンが起きず、独房の中で少しずつ“洗脳”が解け始めたという。
出所後、1度だけ、麻原公判を傍聴したことがある。引きずられるように法廷に現れ、顔や手を小刻みに震わせる麻原死刑囚を見て、「『壊れた、終わった人』と感じた」。その後、教団の後継団体「アレフ」の代表となった。
麻原死刑囚の呪縛と「完全に決別した」というのは5年前。「自分なりの神秘体験で、麻原への精神的帰依が心が晴れるように消えた」と説明する。
ところが、オウムの後継団体「アレフ」の信者らにとっては、麻原教が上祐教になったことになる。団体の主導権争いが起き、4年前に約160人の元信者とともに教団を離れ「ひかりの輪」を設立した。
反省しているなら解散を−。そんな声も届くが「宗教家をやめるつもりはない」と断言。「オウムなど従来の宗教を超える、新しい宗教の創造を目指す」と“崇高”な目標を掲げる。
だが「ひかりの輪」は、公安調査庁から「オウム真理教上祐派」とみられ、団体規制法の観察対象となっている。施設周辺では、立ち退きや解散を求める住民運動も続いている。上祐代表の考えや理想は、社会には共感はないのが現実だ。(大島悠亮)
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オウム公判:教団元幹部「信仰で現実見失い、ばかだった」
◇カルトに居場所求めた秀才たち
オウム真理教による一連の事件で、元教団幹部の遠藤誠一被告(51)=1、2審死刑=に対する最高裁判決が21日言い渡される。上告が棄却されれば事件の全公判は終結するが、教団を率いた松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(56)の指示で高学歴のエリートらが27人もの犠牲者を出した事件には謎が残る。「車両省」元大臣で09年に教団を去った野田成人元幹部(45)が毎日新聞の取材に応じ、当時の心境を語った。
◇「若い人が希望見いだせない社会は危険」
「信仰で現実を見失い、過ちに気づかなかった。ばかだった」。野田元幹部は事件への謝罪を込めそう総括する一方、「若い人が希望を見いだせない今の社会では再びカルトが台頭してもおかしくない」と警鐘を鳴らす。
転機は87年。東京大物理学科でノーベル賞を目指したが「逆立ちしても勝てない」先輩がいた。挫折感。一方で、当時のバブル景気に踊り、金を使って遊び回る他の学生たちに嫌悪と疎外感を覚えた。そんな時、「解脱(げだつ)と悟り、人類救済」を説く松本死刑囚の著書に出合った。「ノーベル賞なんて、自分のことしか考えていないことが恥ずかしくなった」。セミナーに2回参加してすぐに出家した。
修行で「師」の称号を受け、居場所を得て米国で支部拡大を図った。「世紀末にハルマゲドン(人類最終戦争)が起こる」との教えを信じ、「救われたい」との思いを強めた。
90年の衆院選惨敗で教団は変わった。松本死刑囚は「票がすり替えられた。調べろ」と命じた。異論を漏らした幹部はいつのまにか姿を消した。「誰も(松本死刑囚に)口を挟めない雰囲気が醸成されていた」。教団は武装化に走り出した。
核兵器研究と「レールガン(電磁砲)」製造の指示を受け、豪州でウラン採掘を試みた。いずれも実現せず、罪に問われることはなかった。93年に始まったサリン生成実験も知っていたが、「作れないと思っていた」。
だが、地下鉄サリン事件直後、故村井秀夫幹部から教団の関与を聞いた。捜索が入り、自分と同じような幹部の大半は逮捕された。
「自分がやっていることを現実に使った場合にどうなるか、個々の信者は考えていない。組織が大きくなり断片しか見えず、みんなが動いていることに安心してしまう」。その時を振り返り、こう付け加えた。「一つの世界に閉じこもると現実が小さくなる。輪廻(りんね)転生を考えると、今の現実世界で人が死のうと全く関係ない。そこに大きな乖離(かいり)がある」
逮捕を免れ教団に残った自分も「人類救済の理想に比べれば、事件は相対的に小さかった」。だが、信者の住居を確保しようとするたび反対運動に遭い、「教団は社会の中にある」と思い直して現実世界が大きくなってきたころ、ハルマゲドンが起きるはずだった世紀末は過ぎていた。
教団内で事件の謝罪と賠償を主張したが04年7月、医薬品無許可販売で逮捕され有罪に。教団は「アレフ」と「ひかりの輪」に分裂、自身は09年にアレフから「追放された」。
現在、ホームレス支援に取り組む野田元幹部はこう呼び掛ける。「派遣切りや引きこもり、社会は事件当時より悪化している。若い人が捨て鉢になってカルトに居場所を見つけるかもしれない。我々が社会を発展させる段階で失ったものを取り戻す努力をしないと」毎日新聞 2011年11月20日 9時27分(最終更新 11月20日 9時38分)
オウム裁判:終結 「オウム、ばか」癒えぬ被害者の深い傷
「救済」の名の下に行った無差別テロで日本を震撼(しんかん)させた、オウム真理教による一連の事件の公判が21日、教団「厚生省」大臣だった遠藤誠一被告(51)への死刑判決で全て終わった。教団を率いた松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の逮捕から16年半。死者27人、負傷者6500人以上という空前の事件から長い年月を経て大きな区切りを迎えたが、被害者や遺族が受けた深い傷が癒えることはない。【石川淳一、川名壮志、長野宏美】
「さっちゃん、もう、忘れちゃいなよ」。東京近郊に住む浅川一雄さん(51)は、ベッドに横たわる妹幸子さん(48)に優しく語りかける。16年前の朝、地下鉄サリン事件に遭遇し、寝たきりとなった幸子さんは今もしばしば目の痛みを訴え「オウム、オウム、ばか」と声を絞り出す。
子供好きの妹だった。95年3月19日、浅川さんの長男が小学校に上がるからと、ランドセルを買ってくれた。夜は夕食も囲んだ。事件に遭ったのはその翌朝だった。
「すぐに病院に行ってほしい。重篤です」。浅川さんは仕事先で連絡を受けた。病院に駆け付けると、幸子さんは医療器具につながれていた。「お兄ちゃんが来たから心配ないよ!」。叫んでも返事はなかった。
一命は取りとめたものの、医師に「一緒に食事したり、話をするのは無理」と告げられた。サリン中毒による低酸素脳症。視力を失い、言語障害も重く、寝たきりになった。8年半の入院を経て、浅川さんは自宅を改築して迎え入れた。ミキサーで細かくした3食分を妻が用意し、ヘルパーが毎日訪れて食事を口に運ぶ。「私たちに何かあったら、妹はどうなるんだ?」。先の見えない介護に不安がのしかかる。
「オウム真理教犯罪被害者救済法」が08年に施行され、地下鉄サリンなど8事件の被害者には給付金が支給された。だが、1人で一生を過ごすには十分ではない。「事件は国家を狙ったテロ。妹は国の身代わりになったのだから、国は妹が一生生活できる補償をすべきだ」。事件前、幸子さんに抱っこしてもらっていた長男も23歳になり、介助する側になった。
09年、幸子さんが乗った地下鉄丸ノ内線の車内でサリンをまいた広瀬健一死刑囚(47)の裁判を「手を下した人間の裁判を見に行こう」と車いすを押して最高裁に傍聴に行った。だが、怒り続けることにむなしさも感じる。「自分も親。広瀬の死刑が執行されたら、彼の親はどう思うだろうかと複雑になる」。事件後、広瀬死刑囚から送られてきた手紙は一度だけ読んだが、その後は開封する気になれない。
頭から事件が離れることはないが、人生を歩むため前に進まないといけないと思う。「裁判が終わっても妹が治るわけじゃない。裁判終結は節目ではなく、通過点という気持ち」と受け止める。
毎日新聞 2011年11月21日 11時42分(最終更新 11月21日 12時16分)
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〈来栖の独白2011/11/21Mon.〉
遠藤被告の刑確定は、年内にはないだろう。それにしても、18日の中川被告判決から遠藤被告へ続くオウム真理教関連の報道記事は、昨年までに比べて多いように感じる。私一己の感じかもしれないが。メディアにリードされる世論・感情も、死刑OKのようだ。このようにして世論は醸成される。
この勢いなら、年内に誰に死刑執行しようと、或いは明年それこそ松本智津夫死刑囚を含むオウム事件死刑囚何人かに死刑執行しようと、異論は出ないだろう。
オウム事件については、私は全くといって知識・情報を持たない。先日上告棄却された中川氏が(ウィキペディアによれば)同郷であると知って、と胸を衝かれた、そんなところである。岡山は古い学歴主義(偏重)の地方である。そういう土地柄で、岡山大学付属小中から名門朝日高校、京都府立の医学部へ進んだ中川氏。そのお母様の、中川氏オウム入信以後の胸中を思いやるだに、私は涙を禁じ得ない。どんなにどんなにお辛い歳月だったことだろう。親として、わが子が死を賜る(逆縁)ほど辛いものはない。筆舌に尽くせない思いが、今私の胸中にある。この空の下、死刑囚の母となって生きる人がいる。なんと、苛酷な人生であることだろう。
中川被告の「松本氏は、真相を語ってほしい」との訴えが、私にも切実に響く。有為な若者が大それた罪を犯した。若い手にかかってあまたの命が奪われた。これら多くの命・人生に対して、麻原彰晃氏は真相を告白すべきだ。「子どもを苛めるな」というなら、その言葉のわけを語ってあげなさい。そうでなくては、多くの命、悲しみが、納得できまい。
記事に接する限り、誰一人として更生可能性のない若者などいないように私の眼には映って、一層やるせない。有為な、一途な彼ら・・・。もう一度、もう一度、生き直すチャンスを与えてやって、と願わずにはいられない。惜しい。正しく、愛をもって、生き直せる彼ら。
このまま麻原氏が死刑執行されたなら、麻原信奉者にとっては殉教となる。このような事実のすべてを他人事と決め込んで一人「優良」を標榜する既成教団。私も、その一員である。
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◆オウム坂本堤弁護士一家殺害事件/死を一人称で考える/中川智正被告の母/坂本堤さんの母さちよさん2011-11-19 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆16年目の終結 オウム裁判/河野義行さん/滝本太郎弁護士/元裁判長 山室恵氏/中川智正被告2011-11-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆麻原が「子供を苛めるな。ここにいる I証人は 類い稀な成就者です」と弁護側反対尋問を妨害 オウム事件2011-03-08 | 死刑/重刑/生命犯 問題
◆『死刑弁護人』/“平和を実現する人々は幸いである。義のために迫害される人々は幸いである”マタイ5章2011-10-12 | 死刑/重刑/生命犯 問題
今一つ「附記」であるが、番組中、安田好弘弁護士が魚住氏の触れた個所に言及していた。井上嘉浩被告(当時)の反対尋問を松本氏が「しないで戴きたい」と切願したというのである。「ここにいる証人はたぐいまれな成就者です。この成就者に非礼な態度だけではなく、本質的に彼の精神に悪い影響をいっさい控えていただきたい」と言ったそうだ。「そして、その直後から、麻原氏は精神に異常をきたした。ガタガタと崩れた」と安田弁護士は言う。魚住氏が情熱を傾ける麻原彰晃氏とは、いかなる人物だろう。
TPP 宗像直子・経済産業省通商機構部長(グローバル経済室室長)
TPPの黒幕 経産省女性官僚がやったコト
日刊ゲンダイ2011年11月21日
国を売るのか!
<慎重派が呼んで吊るし上げ>
マイクを握り、身ぶり手ぶりで説明する女性官僚。彼女こそ、いま、TPPの黒幕と呼ばれる宗像直子・経済産業省通商機構部長(グローバル経済室室長)である。
なぜ、彼女が黒幕と呼ばれるのか。
日米で言った言わないでモメている野田首相発言、「日本は全ての物品サービスを(TPPの)貿易自由化交渉のテーブルに乗せる」というセリフ。これは経済産業省が事前に用意したペーパーに書かれていて、これを作成したのが宗像なのである。
問題のペーパーはAPECのためにハワイに先乗りした枝野経産相にカーク米通商代表との会談用として渡された。たまたま枝野に密着していたテレビが映したことで、存在がバレた。その後、枝野はカーク通商代表との会談に臨み、あとからハワイ入りした野田首相はオバマ大統領と会談、交渉参加に向けた協議に入ることを表明した。枝野も野田もペーパーに書かれているような発言をしていないと言うが、米国は、野田がこのペーパーに沿ったセリフを表明したと発表。で、宗像は与野党のTPP慎重派から吊るし上げを食らっているのである。
「18日に開かれた民主党の慎重派の勉強会にも呼ばれて、経緯を聞かれていました。宗像氏は首相の会見前に用意した発言要旨だったとし、首相の会見のあと、その趣旨を反映させたものに差し替えなかったため、ペーパーが残ってしまったと言い訳しました。でも、外形的にはTPP参加の旗振り役である経済産業省が極めて前のめりの参加表明文書を作り、それが米国に伝わって、日本の見解として発表されてしまったとしか見えない。それに対して、日本は訂正すらも求めていないのだから、おかしな話です。本当に差し替える気があったのか。経産省が交渉で、そう言わせようとしたのではないか。枝野氏はその通りの発言をしているのではないか。疑惑は尽きないし、“違う”と言うなら、枝野大臣とカーク通商代表との議事録を公表するか、『米側の発表は誤り』と日本から声明を出すべきです。宗像氏本人か、上司か、大臣か。誰かが責任を取らなければ、慎重派も収まらないと思います」(ジャーナリスト・横田一氏)
今回はたまたまTVが映像を撮っていたからよかったものの、それがなければ、交渉の裏で役人が勝手に何をやっているかわかったもんじゃない。そう思うと、ホント、日本の官僚は恐ろしい。
宗像氏は東大法卒、ハーバードでMBAを取得した後、1984年通産省に入省した。通商経済政策局経済協力課、総務課課長補佐などを経て、ブルッキングス研究所やジョージワシントン大で研究をした。新自由主義に染まった役人の身勝手な暴走は許されない。
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◆TPP 弱みはアメリカにあり/「交渉の手の内を曝せと迫るメディア」=日本の弱さはその辺りにある2011-11-17 | 政治(経済/社会保障/TPP
◆TPP 重要品目/アメリカに対して異議申し立てをきちんとする野田佳彦首相を外務官僚は全力で支えよ2011-11-16 | 政治(経済/社会保障/TPP)
オウム裁判終結/暴走生んだ「共同幻想」/教祖は私たちの『欲望の象徴』だった
オウム裁判終結 1995-2011
中日新聞2011年11月22日Tue.記事より抜粋
なぜ 問い続ける 暴走生んだ「共同幻想」 論説委員・瀬口晴義
解脱や悟りを求めて出家した青年がなぜ、人の命を奪ったのか。公判の傍聴だけでは、根本的な疑問には迫れないと感じ、地下鉄サリン事件や坂本弁護士一家殺害の実行役らと面会や文通を始めた。
地下鉄サリン事件の実行犯だった広瀬健一死刑囚など同世代の被告もいた。歯車が狂えば、立場が逆転していても不思議ではない。そんな思いにも後押しされた。
*ペテン師か?
面会を重ねたのは、1審で死刑判決などを受けた6人。彼らと交わした書簡は200通を超える。
30人近い元信者にも繰り返し取材した。見えてきたのは、麻原彰晃死刑囚を「宗教家を名乗ったペテン師」と決めつけ、狂信的な信者が操った異常な事件と矮小化すべきではないということだ。
麻原死刑囚は、ヨガや瞑想法の指導者として卓越した力を持っていた。超能力に関心を抱く若者に神秘体験を与え、「本物だ」と錯覚させるのは簡単だった。極貧の幼年時代、視力障害、逮捕歴・・・。挫折から生じた教祖の社会への破壊願望は、自らが「救世主」であるという妄想とともに膨れ上がった。
だが、彼の特異なパーソナリティは車の「片輪」にすぎない。生真面目であるが故にこの社会のあり方に強い違和感を抱いてた若者たち、空虚な生の感覚を満たしてくれる絶対的な存在を求めた若者たちがいて、「両輪」になった。
両者の「共同幻想」がなければ、教団はここまで暴走しなかったと、死刑囚たちの肉声を聞いて感じる。
出家番号4番。最古参幹部だった杉本繁郎受刑者(無期懲役の刑が確定)が、初公判で語った場面をよく覚えている。「教団にいた者すべてが教祖の歯車となり、教祖のため、真理のためとして自らの欲望を満たすためにそこに集合していた。教祖は私たちの『欲望の象徴』だった」
教祖と信者がお互いに依存する関係だったことをうかがわせる発言だ。側近の忠誠心争いが、教団を暴走させた背景にあることも見逃せない。
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〈来栖の独白〉
先週18日の中川智正被告確定判決に続いて昨日(21日)遠藤誠一被告の判決があり、オウム裁判終結ということで、メディア報道のターゲットは死刑「執行」へ移ったようだ。
裁判は終結したけれど、一連の事件は、私にあらためて多くを問いかけてやまない。わからないことが多い。
数年前、『死刑弁護人』という本を読んだ。著者は安田好弘さんで、松本智津夫死刑囚を始め、弁護を担当した事件と被告人のことが載っている。考えさせられたことは多々あるが、大雑把な感想として、名古屋アベック殺人事件(この事件も安田さんが弁護を務めた)の受刑者K君にも洩らしたように「安田さんが弁護した人たち皆が、まるで冤罪という書きぶり」だった。安田氏が寝食忘れて肩入れした被告人たちである。勢い、そういった熱のこもった筆致になったのかもしれない。
一方、光市事件記者会見で安田弁護士はこんな風にも言っている。「真実を明らかにして初めて真の謝罪ができ、事件を防ぐことができる」。
オウム事件の真実は、多くが明らかになっていない。死刑判決を受けた13名の元弟子のうち多くが、教祖に「真実を語ってほしい」と願っている。私一己の偏見なら許していただきたいが、その言葉の端の端に、自分たちを「教祖にマインドコントロールされた被害者」とでも云いたそうなニュアンスを感じたりもする。弁護団も、その線で死刑回避を求めているように感じられる場面があった。繰り返すが、私の偏見なら許していただきたい。
「グル」と尊称された松本智津夫氏は出廷せず弁護人との接見も拒否したまま刑確定したので、真相が語られることはなかった。弁護団が再審請求中とも云われているが、自ら出廷拒否した被告人の再審理というのも、如何にもリアリティに欠ける。延命のためか、と勘繰ってしまう。
(余談だが、東海テレビ制作の『死刑弁護人』のなかで、安田弁護士が木村修治死刑囚の執行につき「守るということでは一段弱い『恩赦願い』にしてしまった。『再審請求』にすべきだった。後悔している」と述懐していた。再審請求とは、まるで延命の手段のごとき(言い草)である。私自身、『再審請求』については、様々に考えるところがある。が、ここでは、長くなるので、述べない。)
上掲【なぜ 問い続ける 暴走生んだ「共同幻想」】は、そのような私の腑に落ちるところがあった。と言っても、これだけ大きな事件である。到底、理解できるはずもない。
メディアは話題を求めて先へ進みたがる。全員既決の先にあるのは、「執行」である。全員が東京拘置所に収容されているのだから、行政はかつて経験したことのない苦難を強いられるだろう。そういう「苦難」には、国民はお構いなしだ。「死刑とは何か」も知らずに、国民はメディアに煽動(先導)されるままに、第2幕を待つ。
〈附記〉
事件・裁判の過程で、被害者側加害者側を問わず、多くの悲惨を目にした。叫びを耳にした。
ヘルマン・ヘッセは言う。「どんな感情もつまらないとか、価値がないとか言ってはいけない」と。「憎しみにしろ・・・無慈悲にしろ・・・どんな感情もよいものです、非常によいものです」と。それは人間が本気で抱いた感情だから「よいもの」なので「どれかの感情を不当に扱えば、それは星を消してしまうことになる」と。
人間の内奥からの声なのだと厳粛な気持ちになる。
関連:死刑の刑場を初公開=東京拘置所 / 死刑とは何か〜刑場の周縁から〔1〕2010-08-27 | 死刑/重刑/生命犯 問題
論壇時評【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】(抜粋)
日本は、「先進国」の中で死刑制度を存置しているごく少数の国家の一つである。井上達夫は、「『死刑』を直視し、国民的欺瞞を克服せよ」(『論座』)で、鳩山邦夫法相の昨年の「ベルトコンベヤー」発言へのバッシングを取り上げ、そこで、死刑という過酷な暴力への責任は、執行命令に署名する大臣にではなく、この制度を選んだ立法府に、それゆえ最終的には主権者たる国民にこそある、という当然の事実が忘却されている、と批判する。井上は、国民に責任を再自覚させるために、「自ら手を汚す」機会を与える制度も、つまり国民の中からランダムに選ばれた者が執行命令に署名するという制度も構想可能と示唆する。この延長上には、くじ引きで選ばれた者が刑そのものを執行する、という制度すら構想可能だ。死刑に賛成であるとすれば、汚れ役を誰かに(法相や刑務官に)押し付けるのではなく、自らも引き受ける、このような制度を拒否してはなるまい。(大澤真幸 京都大学大学院教授)
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◆オウム松本被告/松本被告「おれは無実だ」、訴訟能力裏付けか2006-09-11 | 死刑/重刑/生命犯 問題
(2006年9月11日14時2分 読売新聞)
「おれは無実」発言はねつ造…松本被告弁護団
オウム真理教の松本智津夫被告(51)が、今年3月、東京高裁が控訴棄却を決定した直後に「おれは無実だ」などと発言したことについて、松本被告の弁護団は11日、松本被告の言動を東京拘置所が記録した報告書に、同様の内容の記載があったことを認めた上で、「拘置所の報告書は、ねつ造であって信頼できない」とするコメントを発表した。
(2006年9月10日3時1分 読売新聞)
松本被告「おれは無実だ」、訴訟能力裏付けか
1審で死刑判決を受けたオウム真理教の松本智津夫被告(51)が今年3月、東京高裁の控訴棄却決定を伝えられた時の状況が明らかになった。
松本被告は姿勢を正して決定を聞き、数日後に「おれは無実だ」などと発言していた。弁護側は、松本被告には裁判で自分が置かれた状況を理解する「訴訟能力」がないと主張し、最高裁に特別抗告している。最高裁の審理は大詰めを迎えているが、今回判明した松本被告の言動は、被告が決定の意味を理解していることを示すとともに、訴訟能力を認めた高裁決定を裏付けるものといえそうだ。
複数の関係者によると、今年3月27日、東京高裁が控訴を棄却した決定文が、松本被告が収監されている東京拘置所に届けられた。
刑務官から、高裁の決定文が送達されて来たことを告げられた時、松本被告は独房に寝転がっていたが、起きあがって座り直し、背筋を伸ばしたという。
刑務官が、「控訴を棄却する」という主文を読み上げると、松本被告はブツブツと独り言をつぶやいた。そして、数日後、松本被告は、「おれは無実だ。おれははめられた」などの言葉を口にしたという。松本被告が示した反応について、複数の関係者は、「決定文の意味を理解していることを裏付けるもの」と指摘する。
刑事訴訟法は、被告に訴訟能力がないと認められた場合、公判を停止しなければならないと定めている。松本被告の2審弁護団は、「訴訟能力のない被告と、意思疎通できない」と主張。公判の停止を求め、定められた提出期限内に控訴趣意書を提出しなかった。
これに対し、東京高裁は精神鑑定を実施して松本被告に訴訟能力があることを確認した上で、今年3月、趣意書の不提出を理由に控訴棄却を決定した。弁護団は、異議を申し立てたが、同高裁が今年5月に異議を退けたことから、最高裁に特別抗告した。最高裁が2度にわたる高裁の判断を覆す可能性は低く、死刑判決が確定する公算が大きい。
松本被告は1審公判の途中から沈黙を続けているが、死刑判決を受けた2004年2月27日、拘置所に戻ってから「なぜなんだ、ちくしょう」と大声で叫んだとされる。控訴棄却決定では、こうした言動が、松本被告の訴訟能力を認める判断の有力な材料となった。
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◆地下鉄サリン事件から16年/「麻原は詐病やめよ」土谷正実被告死刑確定2011-02-17
◆オウム真理教元幹部豊田亨、広瀬健一被告の上告棄却--最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)2009-11-06
判決によると、豊田被告は日比谷線、広瀬被告は丸ノ内線を走行中の電車内で、傘の先でサリン入りの袋を突き刺して散布し、それぞれ乗客1人を死なせた。弁護側は松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(54)によるマインドコントロールの影響を訴えて死刑回避を求めたが、小法廷は「幹部の指示で行ったことや反省している事情を考慮しても死刑はやむを得ない」と判断した。
◆遠藤誠一被告の上告棄却 オウム全公判終結/元幹部死刑囚たちの手紙/林郁夫受刑者/上祐史浩氏2011-11-21
◆16年目の終結 オウム裁判/河野義行さん/滝本太郎弁護士/元裁判長 山室恵氏/中川智正被告2011-11-18
◆麻原が「子供を苛めるな。ここにいる I証人は 類い稀な成就者です」と弁護側反対尋問を妨害 オウム事件2011-03-08 | 死刑/重刑/生命犯 問題
オウム裁判終結/河野さん「死刑廃止すべき」/法相“死刑執行は慎重に判断”/家族の会「死刑執行回避を」
オウム裁判終結 どの命もかけがえない
被害者・河野さん「死刑廃止すべきだ」
中日新聞2011年11月22日 朝刊
オウム真理教事件の裁判を振り返る河野義行さん=鹿児島市内で
一連公判が終結したオウム真理教事件。一九九四年の松本サリン事件の被害者でありながら当初、警察の家宅捜索を受けるなど二重三重の苦しみを味わった河野義行さん(61)に、事件発生から十七年の思いを聞いた。
「私にとってのオウム事件は、妻が亡くなった二〇〇八年八月に終わっています」。河野さんの妻澄子さんは、サリンの後遺症で寝たきりになり、六十歳で亡くなった。河野さんにとって、事件が起きた最初の一年は、犯人視する警察の捜査とマスコミの報道被害との戦いだった。「冤罪(えんざい)」が晴れてからは、三人の子どもへの親としての責任を果たし、妻の回復を願い続けて生きてきた。
ただ、首謀者とされる麻原彰晃死刑囚(56)=本名・松本智津夫=の二審で実質審理がなかったことには「なぜ国家転覆を狙ったテロが起きたのか、本当に首謀者だったのかなど真相が分からず消化不良。再発防止策が見いだせない」と残念そうな表情を見せた。
一方で、「裁判が終わったことで口を開く人が出てくるかもしれない。テーマを持ったジャーナリストに真相究明を期待したい」と望んでいる。
今後は麻原死刑囚ら死刑確定者の執行に世間の関心が移る。死刑制度については「現行法では合法で正義だが、個人的には、どの命もかけがえがなく、冤罪防止のためにも廃止すべきだと考えている」と話す。
松本サリン事件で使われたサリン噴霧車の製造にかかわり懲役十年の刑を受け、出所後に自宅を訪れた元信者とは友人になった。刑務所で覚えた技術を生かし、自宅の庭木の手入れを任せ、今でも温泉や釣りを共にする。「社会的に罪もつぐない、反省もしている。友人になりたいと思った相手だから」
一昨年と昨年には東京拘置所で、二十一日に上告棄却となった遠藤誠一被告(51)=一、二審死刑=ら教団元幹部四人とも面会。死生観や入信の動機などを聞く中で、「ごく普通の人。むしろ他の人より真面目」という印象を持ったという。
自身が受けた報道被害については「事件報道で、マスコミが警察からの非公式情報を基に危うい橋を渡るシステムは、いまも当時と変わっていないようにみえる」と話す。
澄子さんの三回忌と還暦を迎えた昨年、人生をリセットしようと鹿児島に移住した。「事件前に戻ることはできない。ならば死刑囚らを恨み続けるような人生の無駄はせず、残された者として平穏に生きる」。講演活動も減らす予定でスローな生活を送る。「今後は隠居生活。いかに心地よく死ぬかがテーマです」。穏やかに語った。(東京社会部 山内悠記子)
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法相“死刑執行は慎重に判断”
NHKニュース11月22日 11時26分
平岡法務大臣は、閣議のあと記者団に対し、オウム真理教の元代表、麻原彰晃、本名松本智津夫死刑囚ら死刑を言い渡された元幹部の刑の執行について、「一般論ではあるが、慎重に判断していかなければならない問題だ」と述べました。
オウム真理教による一連の事件の裁判は、21日の元幹部の判決ですべて終わることになり、被告全員の判決が確定することで、今後は松本智津夫死刑囚ら死刑を言い渡された13人の刑の執行が焦点になります。これについて、平岡法務大臣は「非常に厳しい重大な判決が出ている。一般論ではあるが、死刑の執行の問題については、慎重に判断していかなければならない問題だ」と述べました。
また、平岡大臣はオウム真理教から名前を変えた「アレフ」など2つの教団への対応について、「法務省としても、警察などと協力して、国民の安心安全を確保するため、不断の努力をしていきたい」と述べ、来年1月に適用の期限を迎える2つの教団に対する観察処分を更新する方針を重ねて示しました。
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家族の会 死刑の執行回避を
NHKニュース11月21日 15時39分
オウム真理教の元幹部で地下鉄サリン事件のサリンを製造した遠藤誠一被告の死刑判決が、最高裁判所で確定することになり、16年にわたったオウム真理教による一連の事件の裁判が終わることを受けて、教団の信者や元信者の親などでつくる「オウム真理教家族の会」は、21日、遠藤被告の判決のあとに記者会見を開き、死刑判決を受けた松本智津夫死刑囚以外の12人について「松本死刑囚が存在しなければ違法行為をすることもなかった真面目な青年たちで、再発防止のためにも教団内で何があったのか、明らかにさせることが必要だ」として、死刑を執行しないよう求める声明を発表しました。
家族の会の代表で、みずからも猛毒のVXガスをかけられた永岡弘行さんは「彼らには、二度と事件が繰り返されないにするために果たす義務がある。簡単に死刑にしてもらいたくない」と訴えていました。
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◆「死刑で遺族 変わらぬ」松本サリン事件河野義行さん「麻原さんの死刑には反対」/松本サリン元受刑者男性 河野さん宅で剪定作業
TPPから始まる茨の道
TPPから始まる茨の道
安藤 毅 日経ビジネス記者
2011年11月22日(火)
TPP亡国論に屈せず、交渉参加方針を表明した野田佳彦首相。日本は苦境を脱するスタートラインに立ったが、前途には茨の道が待ち受ける。決断を「開国」の成果につなげるための国内体制の整備や農業対策が急務だ。
国内で渦巻くTPP(環太平洋経済連携協定)反対論に配慮しながらも、交渉参加表明に踏み込んだ野田佳彦首相。その決断を引っ提げて臨んだアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、各国の利害が交錯する国際交渉の現実を痛感する場になったに違いない。
象徴的なのが、米国の反応だ。バラク・オバマ大統領は「日本の決断を歓迎する。協議を通じて日米で協力していきたい」と野田首相を称えてみせた。
しかし、お膝元の米民主党議員らが米通商代表部(USTR)に「日本の参加は、TPP交渉に劇的な複雑さをもたらす」とする書簡を送付。「日本が閉ざしてきた市場を開放するのか、高い水準の自由化に対応するのかを見極めることが重要」と、鋭いジャブを繰り出した。
*ジャブを繰り出す米国
これにUSTRのロン・カーク代表も呼応。APEC会場での記者会見で、日本がTPP交渉に参加する際の事前協議では、牛肉の輸入制限や郵便貯金、簡易保険の業務範囲拡大の是非、自動車の貿易障壁を議題に取り上げる意向を表明した。TPP交渉前進の条件として、日本の対応に高いハードルを設定しようという思惑がにじむ。
こうした米側の姿勢について、日本の外務省幹部は「想定はしていたが、国内の激しい反発を振り切って交渉参加を決断した野田首相が、冷や水を浴びせられた印象を国民が受けたとしたら、大きなマイナスだ」とこぼす。
こうなると、与野党のTPP交渉反対派も黙っていない。
民主党議員からは「守るべきところは守る、とした野田首相の発言の根底は揺らいだ」などと批判が噴出。自民党の田野瀬良太郎・幹事長代行はNHK番組で「政府が交渉の中身について説明できず、国民の信用を得られないならば、内閣不信任決議案や、参院での首相問責決議案の提出も視野に入る」と強調してみせた。
内憂外患で、早々と前途多難の様相を呈してきたTPP交渉。しかし、貿易立国としての再興に未来をかけるしかない日本に、立ち止まる余裕はない。
そもそも交渉参加表明時期は、1年も遅れている。ようやくスタート台に立った今、急ぐべきなのは、アジア太平洋地域に有益な自由化ルール作りを主導し、日本の考えを主張できるための交渉体制や国内調整の環境整備だ。
各国の通商戦略に詳しい早稲田大学の浦田秀次郎教授は「政府はまず、日本の将来像を国民に具体的に説明し、そのためにTPPがどんな効果をもたらすのかを、いま一度、丁寧に説明すべきだ」と指摘する。
野田首相はTPP参加の意義について、今月11日の記者会見で「貿易立国として築いた現在の豊かさを次世代に引き継ぐには、アジア・太平洋地域の成長力を取り入れていかねばならない」とさらりと説明しただけだった。
経済成長のためにFTA(自由貿易協定)推進を明確に打ち出し、専門の行政機関も立ち上げ、国民への広報活動を積極的に実施する。こんな韓国との取り組みの差は歴然としている。
浦田教授はそのうえで、交渉の進め方や情報開示についても、改善すべきと説く。「米国ではホームページでTPPの議論内容について情報公開している。国民の信頼を得たり、TPPへの理解を深めてもらうには、こうした対応が不可欠だ」と提案する。
もちろん、外交交渉の詳細を公にするには一定の限度がある。それでも、これだけ関心が高まり、国内を二分するようなテーマになったTPP交渉だけに、政府はこれまで以上に丁寧な対応が求められるだろう。それは、視野に入ってきた日中韓や欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)交渉の試金石にもなる。
次に大きな課題となるのが、機能的な交渉体制の構築だ。
TPP交渉では、これまで日本が行ってきたFTA・EPA締結交渉と比較にならないほど幅広い分野が対象になり、大幅な自由化が求められる。その中で、日本の国益を守る観点から、関税撤廃の例外品目を確保したり、知的財産や投資など日本にとって有利なルールを盛り込んでいくといった高度な交渉戦略が問われている。
守るべきところは守りつつ、主張すべきところは主張する。「言うは易し、行うは難し」の交渉を実現するには、分野ごとに他国と共闘する戦略や、迅速な決断を可能にする政府・与野党の体制構築が急務だ。
米連邦議会の承認作業などが必要なため、日本の実質的な交渉参加は早くとも来春と見られ、準備時間はある。首相官邸のコントロールの下、実務にたけた各省の交渉担当者をフル活用する縦割りを超えた交渉体制や、与党内、与野党間の調整・協議を円滑に進めるシステムをどう整備するのか。それに向き合うのが、政治の責任だろう。
*カギ握る戸別所得補償改革
そして、交渉最大のカギとなるのが、国内農業対策だ。
野田首相は記者会見で、医療制度などとともに農村を守り抜くと明言。10月にまとめた農林漁業の再生基本方針に基づき、農地の大規模化を通じ経営効率の向上を後押しする意向を示した。同時に、農業団体や農水関係議員に配慮し、必要な予算措置を行う考えも強調してみせた。
政府関係者によると、この首相発言を受け、政府・与党内ではコメの一部開放に伴うウルグアイ・ラウンド対策費として投入された6兆円の半分程度の3兆円規模を、今後5年間に手当てする構想が浮上してきたという。
ある民主党議員は「戸別所得補償の対象と金額を拡充したり、結果的に農業団体も損をしないような落としどころがささやかれている」と打ち明ける。
しかし、ほぼすべての農家に補助金を支給する現状の戸別所得補償制度は小規模農家の温存につながり、大規模化・集約化を目指す政府方針と矛盾する。仮に財政投入額を上積みするにしても、効果を発揮するには、支給対象を一定の規模の農家や農業法人に絞り込むなどの改革が欠かせない。
農業の生産性向上には、農地の集積がしやすいような土地利用規制の見直しや、農業への企業参入の促進も必要だ。東京大学の本間正義教授は「産業界と農業界の対立を超え、経営基盤の確立、マーケティング手法の導入、異業種の共同による産業集積といった取り組みを進めれば、魅力ある産業としての農業の復興は夢物語でなくなる」と指摘する。
国内農業の何を守り、どんな強みを伸ばしていくのか。農業界の不信を緩和し、国民の理解を深めるには、農業と農村の未来図に関する骨太の国民的議論が必要との声も高まっている。
TPP交渉参加の意義は、通商政策の出遅れを挽回するだけではない。手つかずのままだった日本の成長の阻害要因の改革に真正面から取り組む好機でもある。与野党の垣根を超えた建設的な国内議論が実現すれば、消費増税など次に控える重要課題に政治が決断できる道筋も見えてくる。
日経ビジネス 2011年11月21日号10ページより
野田首相はTPP加盟国拡大の“ドミノ倒し”を意識せよ
野田首相はTPP加盟国拡大の“ドミノ倒し”を意識せよ
ASEAN域内の競争がFTAAPへの道を開く
菅原 淳一 日経ビジネス2011年11月22日(火)
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって賛成派と反対派が激論を戦わせている。
・日本の農業が壊滅する!
・参加しないと日本は孤立する!
・米国の陰謀に乗ってはならない!
強い言葉が飛び交う。
だが、これらの議論は「日本の視点」に偏っていないか?TPPは10を超える国が参加を表明した多国間の貿易協定だ。日本と米国以外の国がTPPをどのように見ているのか知る必要がある。
交渉に参加していない他の環太平洋諸国の態度も参考になる。
自由貿易協定(FTA)の網を世界に張り巡らす韓国は、なぜTPP交渉に参加していないのか?ASEAN諸国も一枚岩ではない。ベトナムが交渉のテーブルに着く一方で、タイは参加していない。
今回は、みずほ総合研究所の菅原淳一 上席主任研究員に、ASEAN諸国の動向を解説してもらう。
野田佳彦首相が11月11日に、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に向けた関係国との協議を開始すると表明した。これによって、TPPを巡る狂騒は第1幕を終えた。
*TPPはFTAAP実現への最有力手段
続く第2幕の議論では、TPP交渉参加のメリット、デメリットを冷静に検討する必要がある。その際のポイントの1つは、現在9カ国で交渉が進んでいるTPPが、将来的にはアジア太平洋全域に拡大する可能性があるという点である。
第1幕において、参加支持派はTPPがもたらすメリットとして、「アジア太平洋地域における重要なルールの形成に参画することで、新たな成長の機会を創出する」「アジアの成長を取り込む」という点を主張した。
これに対して、参加反対(慎重)派は、「中国や韓国などのアジア諸国が参加しないTPPで、アジアの成長を取り込むことはできない」と批判した。TPPを現在の交渉参加国に限定して見るのであれば、反対派の主張は正しい。しかし、それでよいのだろうか。日本が交渉参加に向けた協議の開始を表明した後、カナダとメキシコも同様の意思を表明した。TPPは既に、参加国拡大に向けて動き始めている。
日本は、TPPへの参加を巡る議論において、TPPがアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現の最有力手段となっていることを念頭に置くべきである。日本政府は2010年6月に「新成長戦略」を閣議決定し、2020年までにアジア太平洋経済協力(APEC)参加21カ国・地域が参加するFTAAPを構築するとの目標を掲げた。日本が議長を務めた2010年11月のAPEC首脳会議は、FTAAP実現への道筋として、「ASEANプラス3」(東南アジア諸国連合の加盟国と日中韓)、「ASEANプラス6」(ASEAN加盟国と日中韓豪NZ印)とともに、TPPを位置づけた。このうち、「ASEANプラス3」と「ASEANプラス6」が構想段階であるの対し、TPPは既に交渉段階にある。
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また、TPPには米国、豪州、シンガポール、チリが参加している。APECにおいて貿易投資の自由化やルール形成で主導的役割を果たしてきた国々だ。このため、TPPで合意されたルールがアジア太平洋地域における新たなルールとなる可能性が高い。
*ASEAN域内の競争が加盟国のTPP参加を促す
中韓両国をはじめとするアジア諸国がTPPに参加する可能性も十分にある。そのカギを握るのはASEAN諸国だろう。ASEANは、アジアにおける地域経済統合はASEANがその中心に位置すべき(ASEANプラスX)との方針を掲げている。
一方、ASEAN10カ国のうち4カ国が、TPP交渉に既に参加している。タイやフィリピンなど、交渉参加に関心を示している国が他にもある。ASEANが域内統合――ASEAN諸国は2015年にASEAN経済共同体を実現することを目指している――を進め、市場としての一体性をさらに高めれば、事業拠点としての魅力を高めるASEAN諸国間の競争はむしろ激しくなる。
その際、TPPに参加して米国などの巨大市場との結びつきを強めた国は、TPPに参加していない域内諸国との競争で優位に立てる。マレーシアやベトナムが厳しい自由化交渉を覚悟してTPP交渉への参加を決断した理由の1つに、こうした判断があったものと思われる。インドネシアは、現時点ではTPPに対して警戒心を抱いている。しかし、今後厳しくなるASEAN域内の競争を考えると、TPP参加に向けて動き出すことは十分に考えられる。
日本とASEAN主要国がTPPに参加した場合、韓国はどうするだろうか。韓国は、ASEANや米国、EUとFTA(自由貿易協定)を締結し、アジアと域外大国の橋頭堡となることで、経済的優位性を高める戦略をとってきた。しかし、日本やASEAN諸国がEUとのFTA締結に動き出し、TPPも大枠合意に至る段階に来て、韓国の戦略は危うくなりつつある。この状況で日本とASEAN主要国がTPPに参加するとなれば、韓国もTPP参加に踏み出すのではないだろうか。米韓FTAをすでに締結している韓国がTPP参加を決断すれば、そのために越えるべきハードルは日本ほど高くない。
*将来的には中国の参加も
中国にとり、自由化水準も国内規制規律も高度なTPPに参加するためのハードルは極めて高い。短期的には、中国がTPPに参加することは望めないだろう。しかし、日韓両国とASEAN主要国がTPPに参加した場合でも、中国は不参加の姿勢を貫くだろうか。この場合、米国とASEANプラス6の大半がTPPに参加することになり、TPPがFTAAPへと大きく近づくことになる。
かつて中国は、厳しい自由化要求を突きつけられながらも、それを上回るメリットを見出し、WTOに加盟した。その中国が、主要貿易相手国がこぞって参加しているTPPへの参加を決断する、というシナリオは、短期的には絵空事かもしれないが、中期的には現実味を帯びるのではないだろうか。
TPPを巡る議論の中には、TPPと、日中韓FTAやその先にあるASEANプラス3及びASEANプラス6を相互排他的に捉えるものもある。しかし、TPPと日中韓FTAなどは、FTAAP実現に向けた道筋において相互補完的な関係にあるのではないか。日中韓FTAなどの締結を通じて、中国はより高い自由化・より高い規律を求めるFTAを経験することになる。それは、中国にとって、TPP参加に向けた重要なステップとなる。また、TPPと日中韓FTAなどは、一方の交渉進展が他方の交渉進展を刺激するという相互作用を通じて、それぞれのルートからFTAAPの実現へと近づいていくことになる。
日本がTPPに参加した場合、TPPは事実上の日米FTAになるとの指摘がある。TPP交渉参加国の中で、日米の経済規模が格段に大きいからだ。しかし、TPP交渉の過程からは、米国は将来の中国加盟を意識して議論していることが見て取れる。国有企業の規律を巡る議論などは、ベトナムなどの交渉参加国を直接の対象としながらも、将来的には中国に適用することを米国は念頭に置いている。2020年のFTAAP実現を掲げている日本も、TPP交渉への参加を検討するに当たっては、TPPの将来像を見据えて議論しなければならない。
ASEAN諸国がTPPにかける期待と恐れ 中国とのFTAに対する評価が、TPP参加への判断を分ける
ASEAN諸国がTPPにかける期待と恐れ 中国とのFTAに対する評価が、TPP参加への判断を分ける
吉野 文雄 日経ビジネス2011年11月24日(木)
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐって賛成派と反対派が激論を戦わせている。
・日本の農業が壊滅する!
・参加しないと日本は孤立する!
・米国の陰謀に乗ってはならない!
強い言葉が飛び交う。だが、これらの議論は「日本の視点」に偏っていないか?
TPPは10を超える国が参加を表明した多国間の貿易協定だ。日本と米国以外の国がTPPをどのように見ているのか知る必要がある。交渉に参加していない他の環太平洋諸国の態度も参考になる。
自由貿易協定(FTA)の網を世界に張り巡らす韓国は、なぜTPP交渉に参加していないのか?ASEAN諸国も一枚岩ではない。ベトナムが交渉のテーブルに着く一方で、タイは参加していない。
今回は、拓殖大学の吉野文雄教授に、ASEAN諸国の動向を解説してもらう。
*TPPはASEANを分断する?
環太平洋経済連携協定(TPP)は東南アジア諸国連合(ASEAN)分断を図る米国の構想だという指摘がある。
確かに、TPPへの対応は国ごとに異なっている。ASEANには、現在10カ国が加盟している。TPPの原協定とも言うべきP4(パシフィック4)には、ASEANからシンガポールとブルネイが加盟した。TPP加盟交渉に新たに参加したASEAN加盟国は、マレーシアとベトナムである。フィリピンとラオスもTPP加盟を表明している。他の国はTPP交渉への参加を表明していない。
しかし、ASEANはアジア太平洋経済協力(APEC)によって既に「分断」されている。ASEAN加盟国のラオス、カンボジア、ミャンマーがAPECに加盟できないでいるのだ。各国ごとにお家事情が異なるとしても、今に始まったことではない。
そもそもP4は、極めて偏った経済構造を持つ国々の自由貿易協定(FTA)である。農業を持たないシンガポール、石油と天然ガスに依存するブルネイ、酪農・牧畜に特化したニュージーランド、鉱業を基礎として経済発展を目指したチリ――各国の経済構造はそれぞれに補完的である。1つにまとまろうとするのは当然の成り行きであった。
*マレーシアとベトナムは輸出拡大に期待
以下に、各国の事情を順番に見ていこう。まずはTPP加盟交渉に新たに参加したマレーシアとベトナムだ。
マレーシアの輸出(7453億リンギット、2010年)は、GDP(国内総生産)(7660億リンギット、同)にほぼ匹敵する。言い換えると、投資や消費ではなく、輸出が経済成長を左右する。競争力のある電気・電子製品の主要輸出先である米国市場の開放をにらんで、TPP加盟は当然だ。
同様に新たに交渉に参加したベトナム最大の輸出品目は縫製品、次いで履物である。ともに米国を主要輸出先としている。域内貿易自由化の効果がすぐに出るとの見通しから、TPP加盟を決めた。
ASEAN諸国の事情を考えるには、ASEANと中国、日本、インドとの間のFTAが既に発効していることを忘れてはならない。これらの国々に対して既に自ら門戸を開いているのだから、米国やオーストラリアに対して新たに自国市場を開放しても、国内産業への影響は小さいと見込んでいるのである。
ただし、課題もある。
マレーシアは日本と同様に農業問題を抱えている。マレーシアの農業は、全農地の8割を占めるプランテーションに象徴される。天然ゴムや油ヤシである。残りの2割の農地にコメなどを作付けしている。穀物自給率は低下傾向にあり、コメはタイからの輸入に頼っている。ナジブ政権はコメの自給を目指しており、「例外なき開放」とはいかないであろう。
ベトナムはコメの輸出国であり、農業の競争力を保っている。だが、今後電気・電子製品などの分野で世界市場に打って出るには、TPP加盟は大きな賭けである。国産自動車はあるがも、外資企業がパーツのほとんどを輸入して、ベトナムで組み立てるだけである。電気・電子製品にしても自動車にしても、今から部品産業を育成し、ナショナル・ブランドを確立する必要がある。TPP加盟によって、完成品だけでなく、安価な部品が流入してくると、その芽を摘むことになる。
フィリピンとラオスもTPP加盟を表明している。しかし、両国とも課題を抱えている。フィリピンは今のところ、なんとか、中国に伍して電気・電子をはじめとする機械部品などを輸出し続けている。だが、ベトナムと同様に、TPP加盟の衝撃に耐え得るか、懸念される。ラオスについては、交渉に参加できるかどうか、そのものが不透明だ。TPPは基本的にはAPEC内の取り組みなので、APECに加盟していないラオスがTPP交渉に参加できるのか? 他の交渉参加国の判断に委ねられている。
*インドネシアとタイはTPPと距離を置く
一方、インドネシアとタイはTPPと距離を置いている。
ASEAN内で最大の人口とGDPを誇るインドネシアは2010年末に、当面は不参加という決定を下した。インドネシアは、ASEAN=中国のFTAが発効した後、安価な中国製工業製品の流入によって、低付加価値の消費財が痛手を負った。ダイソーが展開している廉価品販売店では中国製品が飛ぶように売れている。インドネシア民族資本のスーパーでも、衣料品は中国からの輸入品が幅を利かせている。さらに米国に対して市場開放すると傷が広がる可能性がある。TPP参加という選択肢はなかったのである。
タイは、2001年に就任したタクシン元首相が積極的にFTAを締結した。その結果、タクシン元首相が2006年に退陣して以降、産業調整を迫られている。オーストラリアとの2国間FTAで、牛乳や鶏卵を生産する多くの酪農家が廃業した。
ASEAN=中国のFTA発効前の2004年と比較すると、2005年の対中貿易は、輸出も輸入も3倍に増えた。リンゴ、イチゴ、メロン、柿が雲南省や広東省から輸入され、店頭に並ぶようになった。温帯で生産されるこれらのフルーツは、地場のフルーツと直接競合しない。しかし、ニンニクや玉ねぎといったタイ国内でも生産される野菜の輸入は、それらに特化する小規模農業者を窮地に立たせた。政府は補助を手厚くするなど対策を講じたが、転作した農業者も多い。
こうした経験からタイはTPP対しても警戒感を持っている。加えて、医療保険改革や医薬品価格自由化がTPP加盟交渉で議論されたとの報道を受け、いっそう態度を堅くしている。タイでは、初診料を一律30バーツに設定するなど、タクシン首相が意欲的な医療制度改革を試みた。タクシン路線を引き継ぐ現インラック政権は「TPPは、その流れに歯止めをかけるもの」と考えている。
タイの代表的な輸出品であるコメは、競争相手であるベトナムがTPPに加盟することによって、TPP加盟国の市場から締め出される恐れがある。すでに価格面では、ベトナム米のほうが優位に立っている。タイは既に、マレーシア、シンガポールなどのTPP加盟交渉参加国にタイ米を輸出している。これらの国々がベトナム米の輸入に転じる可能性がある。それでもタイがTPPに加盟しないのは、ようやく立ち上がった自動車部品や電機・電子部品などの機械工業を、米国などとの競争から守るためである。
バブルとも言える現在のインドネシアの好況は、資源価格高騰という外部要因によって実現した。同国の産業に競争力があるわけではない。タイでは洪水被害の影響を見極められないである。両国は浮足立つことなく、TPPのもたらすドラスティックな影響を冷静に分析する構えだ。
*TPPはASEAN統合の妨げになるか?
ASEANは、既に完成したAFTA(ASEAN自由貿易地域)をベースに、2015年にASEAN共同体を形成しようとしている。これは、経済だけでなく、政治・安保、社会・文化の統合を進める包括的な構想である。経済面では、「財、サービス、投資、熟練労働が自由に移動し、資本がよりも自由に移動する、単一の市場かつ生産拠点」を形成する。TPPはASEAN共同体に水を差すことにならないか?
結論から言えば、影響はないと言えよう。TPPは基本的にAPECにおける取り組みだ。APECはAPEC全体の自由貿易地域であるアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)を目指している。これには3つの代替的な道筋が考えられている。1つ目がTPPを通じた取り組み。2つ目は、中国が力を入れるASEAN+3(日中韓)を通じた取り組み。3つ目が、日本が主導しようとするASEAN+6(日中韓豪印ニュージーランド)を通じた取り組みである。
これらの構想はAFTAを取り込むかもしれないが、AFTAは既に完成しおり、ASEANに一日の長があると言えよう。ASEAN諸国がTPPに加盟しても、ASEAN共同体という最終的なゴールは変わらない。
*対中FTAが残した“傷”に対する各国の反応
ASEAN諸国と中国は、2001年から交渉を始め、2010年に実質的に自由貿易地域を完成した。2000年から2010年にかけて、中国の輸出総額に占める対ASEAN諸国輸出のシェアは、7.0%から8.8%に上昇した。逆にASEAN諸国の輸出総額に占める対中輸出のシェアは、5.2%から14.0%へと大きく上昇した。この間、中国の輸出総額は4.5倍拡大したが、ASEAN諸国の輸出総額の増加は1.9倍にとどまった。中国にとってASEAN市場は取るに足らない存在だが、ASEAN諸国にとっての中国市場は他に代えがたい重みを持つようになった。
ASEAN諸国がTPP交渉参加を考える時、対中FTAがもたらした影響をどう評価するかが各国の判断を分ける。中国とのFTAが発効した2005年から2010年にかけて、インドネシアの一般機械類の対中輸出は5.8%減少した。一方、中国からの輸入は5倍近く増えた。電気機械については、同期間インドネシアの対中輸出は2倍近く伸びたが、中国からの輸入は8倍近い増加を示した。インドネシアはこれ以上のFTAには耐えられぬと判断し、TPP参加を見送った。
フィリピンの状況もインドネシアに似ており、対中貿易における輸入超過に苦しんでいる。だが、フィリピンは、FTAのメリットが出るまで自由化を進める覚悟でTPP参加を目指している。アロヨ政権が進めた、中国に接近し米国と距離をおく外交戦略を修正する狙いもある。
農業に競争優位を持つタイとベトナムもまた対中FTAに対する評価がTPP参加への判断を分けた。両者ともに中国からの安価な農産物の流入に辛酸をなめた。だが、農産物の高付加価値化を実現していたタイの受けた衝撃のほうが大きかった。タイと比べて生産性が低く品質も高くないベトナムの果物、香辛料、野菜などが中国に輸出されるようになったのである。農業だけでなく、工業、サービス分野における自由化の影響も勘案して、タイはTPPへの参加を見送っている。
今までベトナムが課す高い関税を乗り越えるために、ベトナムに進出する外資企業が多かった。完成車の関税率は、今年になって引き下げられて、ようやく70%である。エンジンなどの部品に対する関税率は5〜20%程度なので、自動車メーカーは部品を輸入して現地で組み立てるのである。だが、ベトナムがTPPに加盟し障壁がなくなれば、あえてベトナムに進出する意味がなくなる。TPPに参加するベトナムは自前の技術で、自国企業を育成せざるを得なくなる。みずから大きな課題に挑戦しようとするベトナムの姿勢に、新興国の勢いを感じる。
*屋上屋を架す必要があるのか?
日本が、WTOを舞台とするマルチラテラリズムを離れて2国間のFTA/EPA (経済連携協定)推進に戦略転換した大義名分の1つは、「日本の経済構造を変える」というものであった。しかし、幾多のFTA/EPAを締結したものの、保護する分野を残したままであったため経済構造は変わらなかった。
ASEAN諸国との貿易関係も同様である。日本との貿易自由化はASEAN諸国にとって、中国とのFTAほどの影響を持ち得なかった。日本は、TPP加盟交渉に参加しているマレーシア、ベトナム、ブルネイ、シンガポールと2国間でFTAを結んでいるだけでなく、ASEANともEPAを締結している。日本がTPPに加盟すれば、これら4カ国と3重のFTAとなる。屋上屋を架すことに、果たして意味があるのであろうか?
日本政府は、自らが締結するFTAをあえてEPA(経済連携協定)と言い換え、その他の国が締結するFTAよりも自由化する分野が広く、そのレベルも高いと自負している。TPP加盟を主張する人々は「アジアの成長の勢いを取り込むため」と言うが、2重のFTAでも取り込めなかったものをTPPで取り込めるのか? ASEAN諸国にとって、中国との“レベルの低い”FTAがもたらした影響のほうが、日本が誇るEPAより深刻であったことは皮肉である。
今回のTPP騒動は、日本のこれまでのFTA/EPA戦略がいかに実効性を欠いていたかを証明するものである。日本のこれまでのFTA/EPAが効果を上げていれば、屋上屋を架す必要はない。日本は、TPPではなく日米FTA締結を進めればすむことである。また、ASEANを教訓とするならば、真に求められているのは日中FTAであろう。日本の通商政策当局は虚心坦懐にこれまでのFTA/EPA戦略を評価する必要がある。
<筆者プロフィール>
吉野 文雄(よしの・ふみお)
拓殖大学海外事情研究所教授
1981年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。
1987年、金沢工業大学国際問題研究所客員研究員、1989年、高崎経済大学経済学部専任講師。
1996年、拓殖大学海外事情研究所助教授、2001年、拓殖大学海外事情研究所教授
獄中の堀江貴文氏からの手紙『週刊上杉隆』
獄中の堀江貴文氏からの手紙
『週刊上杉隆』第201回2011年11月24日
*堀江氏が日本のメディアと社会に与えた影響
当然ながら刑務所での生活は厳しい。さまざまな制約があり、文字通り、刑に服する期間となっている。
ライブドア事件で有罪判決を受けた堀江貴文氏は長野の刑務所に服役している。面会は制限され、手紙のやり取りも自由とはならない。
夏の終わりは水虫に悩んでいたようだが、その後は痔で苦しみ、腎臓結石の手術も受けたという。
詳細は堀江氏のメルマガなどに詳しいが、その有料メディアの性質からも、ここでそれ以上の言及は控える。
その堀江氏から手紙が届いた。内容は筆者との共著などの感想であるが、外部への発信の制限を考えれば、決して無駄にはできない。
その内容を紹介しながら、改めて、堀江貴文という人物が日本の社会、とりわけメディア界にいかなる影響を与えたのか、考察してみたい。
〈上杉さんへ
『だからテレビに嫌われる』いよいよ出ましたね。いつ出るんだろうと思っていたら、早々に重版。ありがたいかぎりです。ちなみに新聞広告は見ていたのですが、担当編集の苗字は知っていたのですが下の名前がわからず2週間近く手元に書籍が入らなかったです。内容は星5つ! アグレッシブにテレビ業界の闇に切りこんでいるから、みなさん読んでみてください!
最近は寂しいからか、シャバにいるときはほとんどテレビを観なかったのに、中では毎日のように見たりしてますけどね。「ビフォーアフター」が好きですね。「トップランナー」も面白いです。あとはローカルニュース番組とか。
でも、既存メディアの情報だけを入れた後に、スタッフからネット上の情報を貰うと、わかってはいたけど「そこまでか!」というくらい情報の乖離に驚きます。新聞でも「小沢会見がネット番組で行われた」とか書かれているだけで、サイト名やURLが書かれていないから、お年寄りとかはニュースソースに辿りつけないだろうなと。雑誌とかはまだマシなんですけどね〉
時間がもったいないから、地上波テレビを観なくなったと語っていた堀江氏だが、さすがに娯楽の少ない刑務所の中ではそうも言っていられないのだろう。
だが、裏返せば、刑務所に入らなければ、堀江氏がテレビを観ることもなかったといえる。“メディア界の風雲児”とも呼ばれ、時代の先頭を切っていた彼が、自由を奪われた際にようやく辿り着いたのが「テレビ」であるとはなんという皮肉な結果だろう。
換言すれば、テレビ自らが“刑務所の娯楽”という安全の中に埋没してしまった観がある。それはメディアとしての停滞に他ならないし、成長を放棄したことを宣言したようなものである。
*もし堀江氏が放送局のM&Aに成功していたら
堀江氏が、経営破たんしたライブドアを買い取ったのが2002年、わずかその2年後の2004年には、大阪近鉄バファローズの球団買収に踏み出している。
楽天、DeNAなどが球団買収を成功させている今日を考えれば、堀江氏の時代の先を見据えるその感性には改めて驚くばかりだ。
そして、球団買収に失敗すると、今度は一転、東北地方への球団設立を計画し、「仙台ライブドアフェニックス」として新規参入を計った。だが、先の楽天に審査で敗れて自らの球団を持つという夢は阻まれた。
翌2005年、いよいよ堀江氏は放送局の買収に乗り出した。これが堀江氏にとっての躓きの一歩となったかのようにみえる。だが、現在の放送と通信の関係をみれば、逆に日本のメディア界にとってこそ、この買収劇は大きな“転倒”だったと言えはしまいか。
自由主義社会では当然の権利である株の売買による企業買収だが、当時の日本、とくに放送局が相手となると、それは事実上認められていなかったのだ。
ニッポン放送株の40.1%を取得し最大株主になると、子会社のフジテレビから出入り禁止を喰らって、レギュラー番組『平成教育2005予備校』を降板させられた。
これ以降、本来は放送業界の救世主であるはずの堀江氏が「テレビの敵」となるのは残念でならない。
仮に当時、堀江氏が放送局買収に成功していれば、いまだに政府で論議されている「放送と通信の融合」は一気に進み、日本はこの分野において世界のトップランナーになっていたことも考えられる。もちろん、フジテレビは放送通信分野で圧倒的なアドバンテージを得て、少なくとも日本ではその業界のトップの地位にいただろう。またそうなれば、ニコニコ動画や自由報道協会も存在すらしなかったかもしれない。
なにしろ、堀江氏の扱われ方が示すように、当時の通信業界はまだ弱かったのだ。先行の既得権組の放送業界に排除され、粗悪で信用のならないメディアとして圧倒的なマイナーの地位に押し込まれていたのである。
*未だ頑なにドアを閉ざす日本の放送業界
ところが、世界では事情が違っていた。2005年当時には、グーグル、ユーチューブなどが全米を席巻し始め、通信時代、あるいは放送通信の融合という時代がすでに到来していることを告げた。
2006年にはフェイスブック、ツイッターが誕生し、さらに加速度的にメディア環境は変わる。そして2008年の米大統領選までにはCNN/YouTube.comが象徴的なように放送と通信の融合が完了してしまうのであった。
一方で、日本の放送業界だけが相も変わらず、不毛な戦いを続けていた。旧態依然としたシステムに守られたテレビが自らの利権を守るためにメディア改革を妨げていたのだ。
現在、通信業界が放送業界との融合を妨げた事例はひとつもない。ニコニコ動画がフジテレビやNHKと手を結び、自由報道協会がすべての放送局に場を開放している一方で、放送業界はそのドアを閉じ続けている。
そのドアは錆び始め、SNSが元で中東で革命が起こり、米国でネットを連帯の要としたoccupy運動が広がっているにもかかわらず、いまだ自ら無意味な対立構造を煽っている。
その息苦しい世界に耐えられず新時代の言論人たちは、次々と自らのメディアを立ち上げようとしている。
*あまりにも惜しい堀江氏2年間の不在
東浩紀氏は2010年に『思想地図β』を発刊させ、津田大介氏も来年(2012年)にも新しいメディアを立ち上げようとしている。また、すでに西村博之氏が「2ちゃんねる」を、またドワンゴの川上量生氏がニコニコ動画の提供を行っている。
現在、全員40代前後のメディア革命児たちだが、この列に同じ年代の旗手・堀江氏がいたらどうだったのだろうか。
彼が、塀の中にいる2年間は日本の言論空間にとって大きな損失である。
〈『放課後ゴルフ倶楽部』も読みましたよ。上杉さん、ゴルフいいですね……。ということで、書評を書いてみました。
刑務所の中にも熱烈なファンを持つ上杉隆氏初のゴルフ本。なんと、ゴルフ本は私の『ホリエモンの目覚めた……』より後発。ゴルフジャーナリスト(笑)なのに。
初対面のとき(『週刊SPA!』でのゲリラ的連載。親会社フジテレビ日枝氏の逆鱗にふれ4回で打ち切りに)、マスターズのお土産をくれたり、一緒にラウンドすると、ひたすらセベ・バレステロスなど海外著名ゴルファーのモノマネをしながら80台でコンスタントに回る上杉氏がなぜそうなったかの秘密がわかる本である。
ちなみに本書中に登場する「第1回東京脱力新聞杯」にも私は参加している。(二日酔いでフラフラになった挙句、同組のゴルダイ大川氏には迷惑をおかけしてしまったが!!)上杉氏の中学時代の悪友たち(本書にも登場)も参加されていた。
こんな感じです。上杉さんも、そろそろ面会に来てください。痩せた姿をお見せできますよ。 堀江貴文〉
日本では「カネの亡者」というレッテルを貼られている堀江氏だが、実際はこの通り、単に楽しいことが大好きなひとりの日本人に過ぎない。
ただ、メディア界における彼の存在はカリスマ性を帯びている。前出の4人の革命児の誰に聞いても、堀江氏の存在は特別な言葉を持って語られる。
いま日本の放送業界は最大のピンチを迎えている。とりわけ、3・11以降はその信頼性が大きく揺らいでいることもあり、先が見渡せないでいる。
こういう時こそメディア界の誘導灯である堀江氏がいれば――。そう思うのは筆者だけではあるまい。
堀江貴文という人物を塀の中に閉じ込めなければならなかった現在の日本社会は、自らの成長を自ら封じ込めているのではないだろうか。