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懲りない予算委「政治とカネ」/政党政治が崩れる〜問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム

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田中良紹の「国会探検」
懲りない予算委「政治とカネ」

 この臨時国会の最大課題は震災復興と原発事故への対応を万全なものにする事である。ところがそれらの財源を生み出す郵政改革法案や国家公務員給与削減法案の審議を置き去りにして、国会は会期末ギリギリの5日と6日を毎度おなじみ「政治とカネ」の集中審議に充てた。
 国民の税負担を圧縮できる法案を見送って開催するのだから、どれほど国民生活に寄与する議論が行なわれるのかとテレビ中継を眺めたら、相も変らぬバカバカしいパフォーマンスの連続だった。翌日の新聞に審議の模様を伝える記事はなかったから報道する価値もなかった事になる。
 「政治とカネ」の集中審議を開かせた野党の狙いは、一川防衛大臣と山岡国家公安委員長の問責決議案を参議院で可決するための景気付けである。一川大臣の問責理由はカネの話ではないが、ここで二人の大臣の不適格性をアピールし、あわよくば不適切な答弁を引き出して9日の問責可決を万全にしようとする党略と言える。
 従って「政治とカネ」は表看板に過ぎない。しかしその看板を掲げれば長年の習慣で国民が関心を持つと考えたのだろう。それを裏付けるように二人の大臣を追及する自民党議員は「今テレビを見ている国民は怒っている」と何度も繰り返した。しかし国民が今怒っているのは震災復興と原発事故収束に向けて国会に真剣味が足りない事である。それを理解できない野党第一党の自民党はだから支持率が上がらない。
 かつて「政治とカネ」の国会審議は金科玉条のように考えられた。政治家は巨悪であり、政治家の倫理を正す事が、税金の使い道を正すよりも、国際情勢に目を凝らすよりも重要だと考えられた。
 予算委員会では予算を吟味する時間を「政治とカネ」の追及に割き、おかげで予算は官僚の思うままになり、財政は莫大な借金を抱えるようになった。旧ソ連が崩壊し、世界構造が根本的な変化を迎えた時も、国会はそちらに全く目を向けず、ゼネコン汚職に伴う「政治とカネ」の議論に終始していた。
 「政治とカネ」を金科玉条のように思わせたのはロッキード事件である。総理経験者が逮捕されて「政治家は巨悪」のイメージが生まれた。しかしロッキード事件は不思議な事件である。ロッキード社から金を受け取った政治家は世界中にいたが誰も捕まってはいない。日本でも本命ルートの捜査は見送られた。田中角栄氏を受託収賄罪にした証拠である嘱託尋問調書は、角栄氏の死後に最高裁が証拠能力を否定した。
 そのロッキード事件は既に歴史の彼方だが、しかし「政治家は巨悪」のイメージと「政治とカネ」を金科玉条とする国会審議はその後も続いた。55年体制の時代には「爆弾男」と異名をとる野党政治家が厳しく与党を糾弾し、審議拒否を貫くと、与党から野党に密かにカネが流れた。例の官房機密費である。金権を批判する野党政治家がカネを受け取るのだから話にならない。「政治とカネ」の追及の裏には恥ずべき話が隠されている。
 55年体制が終わり、政権交代が可能となった今では裏取引はないと思うが、しかし「政治とカネ」を最優先の政治課題と位置づける考えは変わらない。野党が手っ取り早く与党を攻撃できる材料だからである。
 政界は怪文書の世界である。政治家には選挙区に明確な敵がいて常に鎬を削っている。チャンバラの時代とは違って武器は情報、戦いは情報戦だから真偽不明の怪情報が乱れ飛ぶ。選挙区での情報戦に敗れた政治家は選挙に落選する。
 政治家には「選挙の洗礼」があるのだから、選挙民の支持を得た者は尊重されなければならない。行政権力や立法府がいたずらに政治家の地位を貶める事は許されない。政治家を生かすも殺すも有権者というのが民主主義の基本である。しかし選挙区で繰り広げられる情報戦を国会に持ち込めば、国民生活に関わる話は置き去りにされ、政治は収拾が付かなくなる。
 5日と6日の集中審議では、自民党と公明党が防衛省幹部の暴言問題で一川防衛大臣に辞任を迫り、山岡国家公安委員長のマルチ業者からの献金問題を追及した。これに対抗して民主党議員は衆議院の土地を自民党が駐車場に使用している問題を取り上げた。私は日本の政治が直面する重要問題から外れた議論に国会がこれほど時間を割いている事に苛立ちを覚えた。
 「政治とカネ」の集中審議が行なわれた6日、受託収賄罪で懲役2年の実刑判決を受けた鈴木宗男前衆議院議員が釈放された。その出所祝いパーティが国会内で開かれ、民主党の小沢一郎元代表、鳩山由紀夫元総理、自民党の伊吹文明元幹事長、社民党の福島瑞穂党首ら与野党の国会議員100名以上が集まった。
 鈴木氏も「政治とカネ」の国会審議で追及され、「疑惑のデパート」と呼ばれた人物である。証人喚問では「記憶にありません」を連発して国民から批判を浴びた。その鈴木氏の出所祝いに100名を越す国会議員が駆けつけたのは象徴的である。党利党略のパフォーマンスを見せつけられた後だけに、「政治とカネ」の追及を懲りずに続けている国会の異様さを改めて感じさせた。
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政党政治が崩れる〜問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム
  論壇時評 金子勝(かねこ・まさる=慶応大教授、財政学)2011/02/23Wed.中日新聞
 歴史の知識を持つ人にとって、今日の日本政治には政党政治が崩壊する臭いが漂っている。約80年前の大恐慌と同じく、今も百年に一度の世界金融危機が襲っており、時代的背景もそっくりだ。
 保坂正康「問責国会に蘇る昭和軍閥政治の悪夢」(『文藝春秋』3月号)は、昭和10年代の政治状況との類似性を指摘する。
 保坂によれば、「検察によるまったくのでっち上げ」であった「昨年の村木事件」は、財界人、政治家、官僚ら「16人が逮捕、起訴された」ものの「全員無罪」に終る昭和9年の「帝人事件」とそっくりである。それは「検察の正義が政治を主導していく」という「幻想」にとらわれ、「いよいよ頼れるのは軍部しかいないという状況」を生み出してしまった。
 ところが、「民主党現執行部」は「小沢潰しに検察を入れてしまうことの危険性」を自覚しておらず、もし小沢氏が無罪になった時に「政治に混乱だけが残る」ことに、保坂は不安を抱く。さらに「問責決議問題」は「国家の大事を政争の具にした」だけで、「事務所費問題」も、国会を「政策上の評価ではなく、不祥事ばかりが議論される場所」にしてしまった。
 保坂によれば、「最近の政党が劣化した原因」は「小泉政権による郵政選挙」であり、その原形は「東条内閣は非推薦候補を落とすため、その候補の選挙区に学者、言論人、官僚、軍人OBなどの著名人を『刺客』としてぶつけた」翼賛選挙(昭和17年4月)に求めることができるという。そしてヒトラーを「ワイマール共和国という当時最先端の民主的国家から生まれたモンスター」であるとしたうえで、「大阪の橋下徹知事」が「その気ならモンスターになれる能力と環境があることは否定できない」という。
 保坂とは政治的立場が異なると思われる山口二郎も、「国政を担う2大政党があまりにも無力で、国民の期待を裏切っているために、地方政治では既成の政治の破壊だけを売り物にする怪しげなリーダーが出没している。パンとサーカスで大衆を煽動するポピュリズムに、政党政治が自ら道を開く瀬戸際まで来ている。通常国会では、予算や予算関連法案をめぐって与野党の対決が深刻化し、統治がマヒ状態に陥る可能性もある」(「民主党の“失敗” 政党政治の危機をどう乗り越えるか」=『世界』3月号)という。
 山口も同じく、「小沢に対する検察の捜査は、政党政治に対する官僚権力の介入という別の問題をはらんでいる。検察の暴走が明らかになった今、起訴されただけで離党や議員辞職を要求するというのは、政党政治の自立性を自ら放棄することにつながる」とする一方で、「小沢が国会で釈明することを拒み続けるのは、民主党ももう一つの自民党に過ぎないという広めるだけである」という。
 そのうえで山口は「民主党内で結束を取り戻すということは、政策面で政権交代の大義を思い出すことにつながっている。小沢支持グループはマニフェスト遵守を主張して、菅首相のマニフェスト見直しと対決している」と述べ、民主党議員全員が「『生活第一』の理念に照らして、マニフェストの中のどの政策から先に実現するかという優先順位をつけ、そのための財源をどのように確保するかを考えるという作業にまじめに取り組まなければならない」と主張する。そして「菅首相が、財務省や経済界に対して筋を通すことができるかどうか」が「最後の一線」だとする。
 しかし残念ながら、菅政権は「最後の一線」を越えてしまったようだ。菅政権の政策はますます自民党寄りになっている。社会保障と税の一体改革では与謝野馨氏を入閣させ、また米国の「年次改革要望書」を「グローバルスタンダード」として受け入れていくTPP(環太平洋連携協定)を積極的に推進しようとしている。小泉「構造改革」を批判して政権についたはずの民主党政権が、小泉「構造改革」路線に非常に近づいている。
 まるで戦前の二大政党制の行き詰まりを再現しているようだ。戦前は、政友会と民政党の間で政策的相違が不明確になって、検察を巻き込みつつ、ひたすらスキャンダル暴露合戦に明け暮れて国民の失望をかい、軍部の独裁を招いた。現在の状況で総選挙が行われて自民党が勝っても、政権の構成次第では様相を変えた衆参ねじれ状態になり、また野党が再び問責決議を繰り返す状況になりかねない。
 このまま政党政治が期待を裏切っていくと、人々は既存の政党政治を忌避し、わかりやすい言葉でバッシングするようなポピュリズムの政治が広がりかねない。何も問題を解決しないが、少なくとも自分で何かを決定していると実感できるからである。それは、ますます政治を破壊していくだろう。
 いま必要なのは歴史の過ちに学ぶことである。それは、たとえ財界や官僚の強い抵抗にあっても、民主党政権はマニフェストの政策理念に立ち返って国民との約束を守り、それを誠実に実行する姿勢を示すことにほかならない。
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鈴木宗男元衆院議員 仮釈放記者会見/「帰りを祝う会」に小沢一郎・鳩山由紀夫氏ら100人以上の国会議員2011-12-07 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
「小沢一郎氏を国会証人喚問」の愚劣2011-10-20 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
小沢一郎裁判=「官僚支配に従う者」と「国民主権を打ち立てようとする者」とを見分けるリトマス紙である2011-10-10 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア


日本の大増税を阻止せよ、経済沈没を許すな 小沢一郎を「復興院」長に据えて復興のスピードアップを

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日本の大増税を阻止せよ、経済沈没を許すな 小沢一郎を「復興院」長に据えて復興のスピードアップを!
JBpress 2011.12.09(金)川嶋 諭  
 大増税に向けて着々と準備が進められている。まずは復興増税、そして増え続ける社会保障費を賄うための恒久増税という順番のようだが、果たして消費税を上げればどん底に見えるこの状況から日本経済は立ち直れるのだろうか。
■日本国債のXデーを早めた政府と政治家、金融機関
 日本の国債利回りがギリシャやイタリアのように跳ね上がる日本国債のXデーが刻一刻と近づき、何とかしなければならないという財務省の思いは分かる。しかし、それが増税でいいのか。
 最も安易な道として、当面は取り繕うことができるだろう。しかし、その代わりに日本経済は子供たち世代の大切な未来を失うことにならないのか。極めて心配である。
 増税推進の旗を振る経団連と、その経団連とともに歩んできた大新聞は、増税実現のためにあの手この手で国民に増税やむなしの気持ちを植え付けようとしている。こうしたプロパガンダや新聞記事を私たちは注意して見なければならない。
 小泉純一郎元首相による改革路線を振り出しに戻すどころか逆回転させて、国債のXデーを早めてしまった政府と行政の責任も重いが、デフレ経済下での手っ取り早い儲け先として国債を引き受けられるだけ引き受けて、将来の日本経済の成長を担う中小企業やベンチャーに対する投資を徹底的に怠ってきた金融機関もまた、そのお先棒を担いできた。
 そして愚かな金融政策を続けることで超円高を長引かせ、製造業の空洞化を一気に進めて、期待できる税収先を国外に転居させてしまった。
■ついに立ち上がった日本の内需産業
 こうした政策のツケが増税として国民に払わされるわけである。
 増税では日本経済は立ち直らないから、増税を始めたあと改革に着手しようという方便だろうが、いままで何もしなかったどころかマイナスの政策や戦略しか取れなかった人たちに、改革が期待できるわけがない。
 私たちは何もできない政治家や経団連、大新聞の方便をそろそろ見抜かないと、日本経済は本当に取り返しのつかないことになる。
 実は、経済界の中にも増税に対して明確に反対を表明する団体が12月2日に立ち上がった。国民生活産業・消費者団体連合会、略して生団連という。食品や流通、小売など内需産業を中心とする団体である。
 消費増税によって国内消費が落ち込めば死活問題となる企業の集まりである。
 会長である清水信次・ライフコーポレーション会長兼CEO(最高経営責任者)は、この団体設立に当たり次のように話した。
■日本は関東大震災から増税なしで立ち直った
 「日本経済のGDP(国内総生産)の約8割は、私たち国民生活産業が担っているのです。(日本経済をこれまで牽引してきた)輸出産業はいまや3割以下しかないのです。危機的な日本経済に直面して、私たちの意見を日本の政策担当者にしっかり伝える必要があります」
 「今を去る88年前の大正12年9月1日に首都東京は関東大震災に見舞われ、死者・行方不明者14万人、被害総額は現在の価値にして約200兆円にも及びました。これは3月11日に東北地方を襲った東日本大震災の10倍とも言えるような大被害でした」
 「それに日本の国力と言ったら、現在の日本とは比べものにならないほどちっぽけなものでした。しかし、当時の日本は素早く、果敢だった」
 「震災後直ちに復興院を立ち上げ、復興院総裁の決断と手腕により次々と難問を解決、わずか6年で復興を遂げた。それに比べて今の日本はどうです。震災から9カ月が経過しているというのに、復興は遅々として進まない。政治家は何していると言いたい」
 「そして何より大事なのは、関東大震災では一切の増税なしに復興を果たしたということです。それで東京や横浜を立派な近代都市に蘇らせた。全く増税なしに」
 東日本大震災の復興にしてもまず増税ありきではなく、いろいろ打つ手があるはずだというわけである。震災復興もできない政府に日本経済の立て直しができるはずはない。恒久的な消費税増税は失政を糊塗するもの以外の何ものでもない。
 清水会長のインタビューは近々にたっぷりお伝えする予定なので、今回は、生団連の理事として、また内需産業の代表である外食産業トップのゼンショーホールディングスの小川賢太郎会長に消費税増税について話をうかがったので、お伝えする。
問 消費税増税がいよいよタイムテーブルに乗ってきました。いまの政府を見ていると構造改革には全く戦略がないどころか興味もないように見えます。そんな政府に増税という日本経済にとって非常に重要な決断を任せていいのでしょうか。
小川 報道を見る限り、製造業を中心とした旧来の財界は消費税増税について「仕方ない」というスタンスに映ります。
 しかし自動車も電気製品も、日本で生産するものは多くが国内市場に依存しているはずです。国内消費が冷え込めば、大型の消費財ほど強い影響を受ける。にもかかわらず製造業を中心とした財界が消費税導入に賛同するのは理解に苦しみます。
 私はこのほど発足した国民生活に最も近い消費・サービス産業と消費者団体で構成される生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)の理事に選ばれました。これを機会に消費経済の実態を無視した消費税増税に異を唱えたい。
■小沢一郎氏を復興院の院長に!
問 東日本大震災の復興ももたもたしていてなかなか進まない中、いよいよ増税ということになると、日本経済はどうなってしまうんだろうという気がします。
小川 東日本大震災の復興については、一気呵成にやり抜く必要があると思いますよ。関東大震災に対峙した先達に倣うなら、復興庁などではなく「復興院」を置くべきでしょう。
 そしてそこに大物政治家を配し、すべての国・地方自治体を貫く権限を集約させる。必要とあらば、法整備をスピーディーに行い、迅速な対応を進めるべきです。
 大物政治家については、例えばこれは私の個人的見解ですが、東北出身の小沢一郎氏が適任ではないかと思う。小沢氏については訴訟などもあり異論も多いかもしれないが、いま日本は「有事」であり、ここは国家経営的・大局的観点から人材の活用を図るべきです。
問 復興院は生団連の清水信次会長もおっしゃっていました。しかし、院長に小沢一郎さんというのは実に面白いアイデアですね。企業でも政治でも人事がすべてを決めると言っていいでしょうから東北は復興を超えて大いに発展するかもしれない。
小川 一方、当たり前のことですが、増税すれば国民の手取り収入は減ります。その分、消費支出は確実に減るわけです。仮に月に20万円消費支出する家庭なら、1万円の増税で21万円払うことになりますよね。
 しかしその家庭が20万円しか払えないとなると、増税分だけ消費が減る。これが増税の経済学です。これはすぐ実体経済に効いてきますよ。
 税金は国が有効に使うから経済は回ると言われるけれども、いま議論されている消費税増税分については遠い先の社会保障費に充当されるという。これがいつどのように経済に波及してくるのかはよく分かりません。
 一方、増税で消費マインドはすぐに冷えてしまいます。GDPの7割以上を構成する国内消費は打撃を受け、景気は減速する。消費税が導入された時にも、橋本龍太郎内閣で3%から5%に増税された時にも見られた現象です。
 1997年に515兆円でピークをつけた日本のGDPは翌98年から2003年にかけて25兆円も減りました。我々はすでに2度も失敗を経験しているんですよ。
問 それでも日本の消費税率は低い。欧州諸国を見よ、という声がありますね。増税論者の多くが拠り所にしているようですが。
小川 かつて消費税率の問題になると必ず欧州の税率が取り沙汰されました。欧州連合(EU)では消費税率(いわゆるVAT標準税率)が15%以上と定められており、平均は20%弱。
 主要国ではドイツが19%、フランスが19.6%、そしてイタリアが20%、ギリシャが23%です。これだけの高税率でありながらイタリアもギリシャも財政が破綻した。消費税が5%だろうが20%だろうが財政健全化とは関係ないということでしょう。
■ドイツは東西統一の復興経済が続く特異状態
 ドイツではうまくいっていた、という反論もあるかもしれません。しかしドイツについてはこの20年間、特異な状態でした。東西合併後は「復興経済」だったのです。
 復興経済は必ず成長します。そこでは必ず投資が行われるから。投資すれば生産力が高まる。しかも、旧東ドイツの労働者の賃金は安い。
 そうやって輸出競争力を高めたドイツはユーロ圏の拡大とともに広がった自由貿易地域の市場でこの世の春を謳歌しました。
 そういう例外的なケースを我が国に当てはめることはできないと思います。
 少なくとも我が国のように消費経済がGDPの大部分を占める先進国では、国民生活を豊かにするための根幹は消費をいかに活性化させるかにかかっているのです。
問 そもそも消費税はフランスが最初に導入するに当たって、海外からの観光客から税金を取ろうという発想だったと聞いています。人口6000万人の国に年間8000万人も世界から観光客が来る。彼らから税金を取って国を富まそうと。
 しかし、日本は1億2700万人の人口があるのにピークでも海外からの観光客はせいぜい1000万人をちょっと超えただけ。原発の事故で今年もこれからも大幅な観光客の減少が見込まれるから、そもそもの消費税の考え方からしても増税はあり得ない話ですね。
 小川さんのような団塊世代が現役からどんどん去っているいま、ただでさえ国内消費に関しては大きなマイナス要因なのに、さらに消費を冷やそうというのですから性質が悪い。
小川 税収という観点から言っても、最も確実なのは国民の所得を増やして個人所得税収を増やし、企業の利益を増やして企業税収を増やすことです。調整インフレも含め、GDPを成長させれば税収は伸びる。
 消費が高まり、所得が増え、投資熱が高まるというポジティブな流れになれば、給与所得からの税収と企業からの税収は増えていく。雇用も増える。そういう中でポジティブなバランスができる。
 これに対して、消費税率を上げればネガティブバランスになってしまいます。個人の実質手取りを減らした分で国家の実入りを増やそうとすれば、実質GDPは減少し、企業の利益も減る。
■10兆円の増税は7兆円以上の税収減につながる
 日本経済は国内依存度が高いから、国内消費が減退すれば必ず企業の利益は減少します。今や日本のGDPの76%は消費生活産業(第3次産業)が担っているんですよ。消費税増税は、即、全国民に手取り収入の減少をもたらし、消費支出は減り、GDPは減少します。
 ここで、限界消費性向を80%と仮定しましょう。
 そうすると経済学の教科書によれば乗数効果は4倍となり、10兆円の増税は結局40兆円のGDPの減少をもたらすことになります。実際には恐らくそれ以上になると思います。実に9%のマイナス成長要因になるんです。
 ここ5年間で言えば、国と地方を合わせた税収はほぼGDPの18%程度でした。日本のGDPは2010年、名目で480兆円ですから、ここからマイナス9%成長となると、この増税のもたらす税収減は実に7兆円以上になるのです。国も目先の税収に騙されてはならない。
問 いまから9%もGDPが減ったら、大変なことです。家も自動車も売れなくなる。失業者が町にあふれることになりそうです。
小川 増税についてはアナウンス効果もあります。増税が粛々と準備されていると聞いて、すでに国民の消費には黄色信号が点灯しています。
 財務バランスを改善させるために消費税率を上げるはずが、かえってバランスを悪化させることになりかねません。欧州もそれで苦しんでいるんです。実際に失業者が増え、消費税が重く、国家財政が破綻した国がいくつもある。
 我々はもうそろそろ「オーベー(欧米)」の尻を追いかける発想を脱すべきではないでしょうか。「オー」も「ベー」も満身創痍なのです。これからの日本のモデルにはなりません。
 先人に学び、我々独自の知恵で、豊かで活力ある日本を創るべきです。
<筆者プロフィール>
川嶋 諭 Satoshi Kawashima
 早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。1988年に「日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、日経ビジネスオンライン編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。

小沢一郎氏/消費増税で離党に含み/「橋下徹市長の『旧体制を壊さなければ・・・』は、私の主張と同様」

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小沢氏、消費増税で離党に含み 首相側けん制狙い
 民主党の小沢一郎元代表は11日のインターネット番組で、野田佳彦首相が消費税の増税方針を貫いた場合の対応に関し「(反対意見が)聞き届けられない場合には、どうしたらいいか考えなくてはいけない」と述べ、離党に含みを持たせた。小沢氏は離党、新党結成には慎重とされ、首相側を強くけん制するのが狙いとみられる。
 同時に「民主党政権が(マニフェストで)約束したことを実現するために頑張る姿を取り戻してほしい」と強調。「消費税増税が絶対に必要だという信念があるなら、首相自身が国民に分かりやすい言動をとるべきではないか」と指摘した。
2011/12/11 20:31【共同通信】
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消費増税は契約違反=「首相は覚悟示せ」−民主・小沢氏
 民主党の小沢一郎元代表は11日、都内で記者会見し、野田佳彦首相が目指す消費増税について「国民との契約違反だ。何としても今やりたいということならそれなりの覚悟があるはずだ」と反対の考えを強調した。さらに「首相はもっと国民に分かりやすい言動を取るべきだ」と指摘、首相の対応は説明不足として強く批判した。
 「覚悟」とは、首相に増税前の衆院解散・総選挙を求める趣旨かとの質問には、小沢氏は「そうではない。政治家の考え方と決意を示さないと、国民は納得しない」と説明した。
 増税反対派による新党結成の可能性について、「当面は、政権交代の時の気持ちに戻って頑張ってほしいと考えている」として、首相の出方を見極める考えを表明。同時に「聞き届けられなかった場合はそれなりの方法を考えなくてはいけない」と述べ、否定しなかった。
 一方、小沢氏は橋下徹次期大阪市長について「旧体制を壊さなければ本当の市民、国民のためのものは生まれないという話をしているが、その点は私の年来の主張と同様だ」と評価した。
 小沢氏の会見は、フリー記者らでつくる「自由報道協会」主催で行われた。(時事通信2011/12/11-20:07)
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橋下氏、小沢氏と会談へ…都構想への協力依頼か
 大阪市の橋下徹新市長は9日、市長就任翌日の20日に上京し、民主党の小沢一郎元代表らと会談することを明らかにした。
 11月の市長、府知事のダブル選挙で争点に掲げた大阪都構想の実現に向け、法改正への協力を依頼するとみられる。市役所で報道陣の質問に答えた。
 関係者によると、上京は21日までの2日間で、松井一郎府知事も同行予定。小沢元代表のほか、自民党の石原伸晃幹事長ら各党幹部との会談を調整しているという。
(2011年12月9日20時43分  読売新聞)
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小沢一郎「いま総理として仕切れる政治家がいるかどうかは疑問」
ニコニコニュース(オリジナル):2011年12月11日(日)18時00分配信
 小沢一郎民主党元代表は2011年12月11日、自由報道協会主催の記者会見に出席。司会者が代読したジャーナリスト田原総一朗氏からの「最も期待する政治家は誰か」という質問に、「若い世代にたくさんいると思う」と答える一方、「今すぐ総理大臣として、すべて仕切れる政治家がいるかどうかと問われれば疑問」と語り、具体名を挙げることはなかった。
■「期待する政治家は? できれば小沢さん以外で」
 この会見の前半は、それぞれの記者がインターネットなどで公募した質問を代読する形で進められた。そのなかで、会見の司会者は田原総一朗氏からの
「小沢さんが今、最も期待する政治家は誰か。できれば小沢さん以外でお答えいただけると幸いです」
との質問を読みあげた。これに小沢氏は「若い世代にたくさんいると思う」としながらも「政策の実行は(ある程度の)ポジションについたことのある人でなければならない。そういう意味では今すぐ誰と言うわけではない」と答え、
「今の時点でリーダーとして天下の政(まつりごと)を取り仕切れる人がいるかというと、考えてしまう」
と述べた。
■「官僚の独善を許す政治が続けば、日本はカオスに」
 会見後半、記者から自身が総理になる考えはないかと問われると「私は皆さんご承知のような(公判中の)立場ですから、そういう発言をすることは適切ではない」と語りながらも「気持ちとしては引き受けるつもりで頑張っている」とし、「このままだと日本社会が混迷の度を深める結果になる」と日本の将来を憂いた。また「このままの官僚の独善、それを許す政治が続けば、日本社会がカオスに陥る」と、官僚主導の政治をあらためて批判した。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 田原総一朗氏からの質問から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv73305440?po=news&ref=news#10:55
(土井大輔)
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『小沢一郎 語り尽くす』TPP/消費税/裁判/マスコミ/原発/普天間/尖閣/官僚/後を託すような政治家は 2011-11-20 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
   サンデー毎日2011/11/27号

問責決議/カードを使い切ったのは野党/野田総理の側には審議拒否を延々貫かせる方法もある

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問責決議で始まる攻防
2011年12月10日 16:44 田中良紹の「国会探検」
 第179臨時国会は参議院が一川防衛大臣と山岡消費者担当大臣の問責決議案を可決して閉幕した。昨年の臨時国会でも仙谷官房長官と馬渕国土交通大臣が問責を受けたから民主党政権は二度同じ目に遭っている。
 一方、自民党政権時代の一昨年は通常国会で麻生総理が問責を受けた。その1年前には福田総理がやはり通常国会で問責を受けている。問責の理由は様々だが、問責を可能にしているのは国会の「ねじれ」である。「ねじれ」がなければ問責はありえない。
 与野党が批判しあうのは当然で、野党にとって閣僚はみな批判の対象である。本音から言えば全閣僚の首を切れる内閣不信任案を衆議院に提出したいところだが、そちらは勝ち目がないので参議院で個々の閣僚を問責するのである。
 「ねじれ」は戦後の日本国憲法によって作り出された。戦前の「強すぎる貴族院」に代わって衆議院をチェックする「強すぎる参議院」が作られたのである。片山、芦田と続く戦後政権は衆議院で多数を有しても参議院の反対で重要法案を成立出来ず短命に終った。吉田政権は参議院で否決された法案を占領軍の命令によって覆すことで政権を維持した。戦後すぐから参議院は強かったが、しかし当時は閣僚の問責などされた事がない。
 保守合同で自民党が誕生すると、初めて衆参両院で与党が過半数を獲得し「ねじれ」が消えた。それから33年間、政界は「ねじれ」を忘れ、自民党の長期政権が続いた。しかし1989年、消費税とリクルート事件の影響で自民党が参議院選挙に大敗すると、忘れていた「ねじれ」が復活する。それでも問責はまだ行なわれない。
 初めて問責決議案が可決されたのは、1998年の第一次小渕内閣で初入閣した額賀防衛庁長官に対するものである。防衛庁幹部が天下り先を確保するために装備品の納入に絡んで背任事件を起こし、その監督責任を問われた。この時防衛庁では幹部二人が逮捕され、多くが引責辞任に追い込まれていた。
 初めての問責決議の可決は政界に波紋を広げた。これで閣僚辞任の前例を作れば大臣はころころと代わらざるを得なくなる。一方で参議院の意思であるから決定は重みを持つ。辞任しなければ参議院は額賀長官に対する質疑を行なわなくなり政治は機能麻痺に陥る。自民党は深刻な危機に直面した。自民党が「悪魔にひれ伏してでも」と言って小沢一郎氏率いる自由党との連立に踏み切ったのはそのためである。
 一方、額賀氏は1ヵ月後に辞任したが、その2ヵ月後の内閣改造で官房副長官に起用されて閣内に復帰した。翌年には森内閣で経済企画庁長官として二度目の入閣、その翌年には初代の経済財政担当大臣に就任したから「ねじれ」さえなければ問責のダメージは消える。
 2007年の参議院選挙でわが国の政治に再び「ねじれ」が生まれた。政権交代を狙う野党民主党は総理大臣に対する問責を行って攻勢をかけた。福田総理に対しては「後期高齢者医療制度の廃止に応じない」ことを理由に問責決議案を可決した。自民党はこれに対坑して衆議院で内閣信任決議案を可決した。麻生総理には「発言のぶれ」を理由に衆議院に内閣不信任案を提出して否決され、参議院で問責決議案を可決させた。
 問責決議の可決からほどなく二人の総理は退陣するが、退陣の理由はいずれも問責の可決によるものではない。福田総理は来るべき総選挙を睨んで国民に人気のある麻生氏に交代しようとして、麻生総理は総選挙に敗れて退陣した。民主党の問責は本格的に辞任を迫って政治を機能麻痺させるというより、政権交代を目指す象徴的な意味合いが強かった。
 ところが民主党政権に対する問責は象徴的ではなく個別具体的である。昨年は尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の対応を理由に仙谷官房長官と馬渕国土交通大臣が問責された。一度に2人の問責はこれが初めてである。事件を処理した国土交通大臣は前原氏であったから馬淵氏はとばっちりを食ったようなものである。この時は批判報道が過熱した事も問責を後押しした。
 これに対して民主党政権は二人を辞任させず、通常国会前に内閣改造を行って退任させた。額賀氏のように問責による辞任にはしたくなかったのである。問責が慣習化すれば重箱の隅をつついて閣僚を辞任に追い込む事も可能になる。メディアを騒がせて「国民が怒っている」という口実を作れば、問責決議案提出に道が開かれる。それを避けようとしたのである。
 今回の一川防衛大臣の問責理由は、1995年の米兵による少女暴行事件を「知らなかった」と答弁した事だとされる。国会のやり取りを見ていると防衛大臣は「知っています」といったんは答え、質問者から「中身を具体的に」と問われて「詳細は知りません」と答えた。私は「何と下手な答弁」と思ったが、その後「防衛大臣ともあろうものが沖縄で起きた重大事件を全く知らない」という理解が一人歩きしているのを見て違和感を感じた。
 この問題を大きくした背景には防衛省幹部の「犯す」発言がある。これも俄かには信じがたい話であった。私は現場に居ないので想像でしか物は言えないが、「犯す」と人前で口に出来る人間は滅多にいない。環境評価書の提出時期について「やる前にこれからやるとは言えない」という表現はあったかもしれない。そしてそれを男女関係になぞらえたかもしれない。そのなぞらえに記者は不快感を抱いた。そこで記事にするのだが「やる」を「犯す」と書き換えた。
 記者の怒りは当然で、意味は同じだから政府は弁解もできない。しかし世間は「犯す」という表現の生々しさに驚いた。それが今回の出来事ではないかと私は想像する。しかし想像であるから間違っているかもしれない。一川大臣を擁護する気はさらさらないが、国会で自公の議員が「沖縄県民の痛みを分かっていない」と断罪するのを見ると、「分かっていないのは同じだろ」という気になる。
 そしてついでのように山岡消費者担当大臣も問責された。問題にされたのは大臣就任以前の話である。そこまで範囲を広げて問責を前例化すると、これからはかなりの大臣が問責の対象になる。組閣をする前に国会の同意を取り付ける制度でも取り入れないと国政はたびたび混乱する事になる。今回自民党が問責の範囲を広げた事は自民党にも跳ね返る。政権に復帰した時、今のように参議院で過半数を握っていないと政権維持は難しくなる。
 戦後、「強すぎる参議院」が生まれても抑制されてきた問責決議が、ここに来て政治機能を麻痺させる手段として容易に使われるようになった。内閣不信任案のようにそれで総辞職か解散総選挙になれば混乱はまだ早期に収拾されるが、問責の場合は混乱が長引く可能性がある。
 メディアは野田政権がこれで追い込まれたと見ているようだが、カードを使い切ったのは野党である。野党にとってこれからは両大臣が辞任するまで審議拒否を貫くしかない。一方の野田総理の側には色々なカードがある。どうせ死ぬ気になれば審議拒否を延々貫かせる方法もあるし、どこかで折り合いをつける方法もある。
 戦後問責決議が可決されたのは7例だが、これまでは?辞任させてすぐに復権させる(ねじれの解消が前提)?衆議院で信任決議を可決する?内閣改造で交代させるなどの方法が取られてきた。野田政権がどのようなやり方でこの問題を潜り抜けるのか、問題が山積しているだけに様々な可能性が想像できて興味深い。
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懲りない予算委「政治とカネ」/政党政治が崩れる〜問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム2011-12-11 | 政治

小沢一郎氏との20日の会談を持ちかけたのは橋下徹市長/“エラソーな橋下が、小沢にはやけに低姿勢”

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小沢元代表と橋下新市長 本当の関係 月末に会談狙いと思惑
日刊ゲンダイ2011年12月12日
剛腕、独裁者、嫌われ者…と驚くほどの共通項
  小沢一郎・民主党元代表と橋下徹・大阪新市長が今月20日、会談することになり、さまざまな臆測を呼んでいる。先のダブル選で圧倒的な強さを見せた橋下。野田・民主党政権に距離を置き始め、新党結成か、とみられる小沢。どうしても政界再編がチラつくからだ。本当のところ、両者の関係はどうなのか。このタイミングで会う狙いと思惑――。
  今度の会談を持ちかけたのは橋下だ。小沢が受けたことで「非常にありがたい」と語っていた。橋下の市長就任は19日だから、翌日上京、小沢に会うことになる。エラソーな橋下が、小沢にはやけに低姿勢なのである。
 「周辺にも『小沢さんは好きだ』『凄い』と語っています。剛腕を評価しているのは間違いない」(大阪維新の会府議)
  一方、小沢も橋下のことを「大したもんだ」と語っていて、両者はウマが合うのである。この辺の事情は政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が詳しい。
 「両者に共通しているのは、国の形を変えようとしていること。そのために小沢氏は政界再編を仕掛けてきたし、橋下氏は知事と市長の両方を握り、民意を盾に市議会だけでなく、国政まで動かそうとしている。その先に見据えているのは、大阪から国を変えるという野望です。ふつう、自治体の首長が何かをやろうとする場合、与党に陳情する形を取る。ところが、それでは国のシステムは変わらない。陳情は橋下氏が最も嫌う方法です。システムを壊すのだから、反権力側と組んでひっくり返す。それが橋下氏のやり方です。そこが小沢氏と似ているし、今、小沢氏の立場は与党内野党。橋下氏にしてみれば、最も会いたい相手になるのでしょう」
  表面だけ見れば、両者の思想信条には違いが目立つ。例えば、小沢は国民生活第一=反小泉路線だが、橋下は小泉流の競争社会の導入を目指す。小沢は橋下がいれ込む君が代斉唱義務付けや教育改革については多くを語ろうとしない。とはいえ、それらを横に置くと、共通項の多さに驚く。地方の自立、公務員改革の必要性では完全一致しているし、大胆な政治手法、人には媚びず、時に独裁者呼ばわりされる剛腕、メディアに嫌われているところまでソックリだ。
 「しかも、両者は政治的打算でも利害が一致するのです。橋下氏は大阪都構想実現のために国会で地方自治法を改正してもらう必要がある。小沢氏と会うことで、既成政党を牽制できるし、一方、小沢氏は橋下氏から頭を下げてきたことで、大いに政治力を誇示できる。いま、橋下氏に自分の方から近づいている政治家はみんな、橋下人気目当てで擦り寄っている。対等に渡り合える政治家は小沢さんぐらいかもしれません」(小沢氏の周辺議員)
  そこが今後、面白いのだ。来年は両者の関係が政治の軸になるかもしれない。
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政党政治が崩れる〜問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム
 論壇時評 金子勝(かねこ・まさる=慶応大教授、財政学)2011/02/23Wed.中日新聞
 歴史の知識を持つ人にとって、今日の日本政治には政党政治が崩壊する臭いが漂っている。約80年前の大恐慌と同じく、今も百年に一度の世界金融危機が襲っており、時代的背景もそっくりだ。
 保坂正康「問責国会に蘇る昭和軍閥政治の悪夢」(『文藝春秋』3月号)は、昭和10年代の政治状況との類似性を指摘する。
 保坂によれば、「検察によるまったくのでっち上げ」であった「昨年の村木事件」は、財界人、政治家、官僚ら「16人が逮捕、起訴された」ものの「全員無罪」に終る昭和9年の「帝人事件」とそっくりである。それは「検察の正義が政治を主導していく」という「幻想」にとらわれ、「いよいよ頼れるのは軍部しかいないという状況」を生み出してしまった。
 ところが、「民主党現執行部」は「小沢潰しに検察を入れてしまうことの危険性」を自覚しておらず、もし小沢氏が無罪になった時に「政治に混乱だけが残る」ことに、保坂は不安を抱く。さらに「問責決議問題」は「国家の大事を政争の具にした」だけで、「事務所費問題」も、国会を「政策上の評価ではなく、不祥事ばかりが議論される場所」にしてしまった。
 保坂によれば、「最近の政党が劣化した原因」は「小泉政権による郵政選挙」であり、その原形は「東条内閣は非推薦候補を落とすため、その候補の選挙区に学者、言論人、官僚、軍人OBなどの著名人を『刺客』としてぶつけた」翼賛選挙(昭和17年4月)に求めることができるという。そしてヒトラーを「ワイマール共和国という当時最先端の民主的国家から生まれたモンスター」であるとしたうえで、「大阪の橋下徹知事」が「その気ならモンスターになれる能力と環境があることは否定できない」という。
 保坂とは政治的立場が異なると思われる山口二郎も、「国政を担う2大政党があまりにも無力で、国民の期待を裏切っているために、地方政治では既成の政治の破壊だけを売り物にする怪しげなリーダーが出没している。パンとサーカスで大衆を煽動するポピュリズムに、政党政治が自ら道を開く瀬戸際まで来ている。通常国会では、予算や予算関連法案をめぐって与野党の対決が深刻化し、統治がマヒ状態に陥る可能性もある」(「民主党の“失敗” 政党政治の危機をどう乗り越えるか」=『世界』3月号)という。
 山口も同じく、「小沢に対する検察の捜査は、政党政治に対する官僚権力の介入という別の問題をはらんでいる。検察の暴走が明らかになった今、起訴されただけで離党や議員辞職を要求するというのは、政党政治の自立性を自ら放棄することにつながる」とする一方で、「小沢が国会で釈明することを拒み続けるのは、民主党ももう一つの自民党に過ぎないという広めるだけである」という。
 そのうえで山口は「民主党内で結束を取り戻すということは、政策面で政権交代の大義を思い出すことにつながっている。小沢支持グループはマニフェスト遵守を主張して、菅首相のマニフェスト見直しと対決している」と述べ、民主党議員全員が「『生活第一』の理念に照らして、マニフェストの中のどの政策から先に実現するかという優先順位をつけ、そのための財源をどのように確保するかを考えるという作業にまじめに取り組まなければならない」と主張する。そして「菅首相が、財務省や経済界に対して筋を通すことができるかどうか」が「最後の一線」だとする。
 しかし残念ながら、菅政権は「最後の一線」を越えてしまったようだ。菅政権の政策はますます自民党寄りになっている。社会保障と税の一体改革では与謝野馨氏を入閣させ、また米国の「年次改革要望書」を「グローバルスタンダード」として受け入れていくTPP(環太平洋連携協定)を積極的に推進しようとしている。小泉「構造改革」を批判して政権についたはずの民主党政権が、小泉「構造改革」路線に非常に近づいている。
 まるで戦前の二大政党制の行き詰まりを再現しているようだ。戦前は、政友会と民政党の間で政策的相違が不明確になって、検察を巻き込みつつ、ひたすらスキャンダル暴露合戦に明け暮れて国民の失望をかい、軍部の独裁を招いた。現在の状況で総選挙が行われて自民党が勝っても、政権の構成次第では様相を変えた衆参ねじれ状態になり、また野党が再び問責決議を繰り返す状況になりかねない。
 このまま政党政治が期待を裏切っていくと、人々は既存の政党政治を忌避し、わかりやすい言葉でバッシングするようなポピュリズムの政治が広がりかねない。何も問題を解決しないが、少なくとも自分で何かを決定していると実感できるからである。それは、ますます政治を破壊していくだろう。
 いま必要なのは歴史の過ちに学ぶことである。それは、たとえ財界や官僚の強い抵抗にあっても、民主党政権はマニフェストの政策理念に立ち返って国民との約束を守り、それを誠実に実行する姿勢を示すことにほかならない。
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「大阪市長選挙に思う。数値化できる成果が出なければ存在価値はないのか」香山リカ2011-12-12 | 政治
 Diamond online2011年12月12日 香山リカ[精神科医、立教大学現代心理学部教授]
*大胆な政策を打ち出した橋下さんを支持した大阪市民
 11月27日に投開票された大阪市長選挙では、大差をつけて橋下徹氏が平松邦夫氏に圧勝しました。特に、若い世代ほど橋下さんを支持する傾向が顕著に表れた選挙だったといえます。
 橋下さんは「大阪都構想」や「教育基本条例」などの新しい提案を掲げて選挙戦に臨みました。実現性があるかどうかはさておき、橋下さんは極端とも思える政策を前面に打ち出して大阪市民の関心を引きました。
 あまりに極端なことを言う姿は、年配層やインテリ層からは非現実的なことを思いつきで言っているように見られました。しかし、一般の有権者はそこまで自信をもって言い切る橋下さんを、大阪の将来を真剣に考える人と捉えたのかもしれません。
 一方の平松さんは、橋本さんの提案を批判することに終始しました。
遅まきながら「なにわルネッサンス2011」構想などを提示しますが、橋下さんの大胆で極端な政策を知った大阪市民には凡庸に映り、インパクトを与えることはできませんでした。
 市民にとってみれば、平松さんの「今まであった良いものは守り、さらに良くする」という主張は、ぬるま湯的で必死さが感じられないと映ったのでしょうか。
 閉塞感が支配する日本には今、あらゆる局面で「何かを変えなければならない」と考える風潮が広がっています。そして閉塞感を打ち破るための、抜本的かつ即効性のある変化を求める人が多くを占めるようになってきたように感じます。
 今までの延長線上で「様子を見ながら少しずつやっていきましょう」という考えは受け入れられにくくなっているようです。
*お金を生まない施設は意味がない?
 私は平松さんを応援する立場に立っていました。
 橋下さんを支持しなかった理由のひとつは、政策の実現性の問題以前に、橋下さんの議論の仕掛け方に違和感を持ったからです。
「僕の敵に回りますか? それとも味方になりますか?」
 まずA対Bのバトル構造を作り、そのうえで「さあ、どちらを取りますか?」と迫ってくる橋下さんのやり方に、抵抗を感じざるを得ませんでした。あたかも変化か現状維持かという問題設定にすり替えてしまう。変化は必要だが、それほどドラスティックな変化は望ましくないと考える人も、否応なく白か黒かの選択を迫るようなやり方です。
 もうひとつの理由は、橋下さんが大阪府知事に就任したときに遡ります。
橋下さんは、就任後すぐに府の事業の見直しを打ち出しました。当時、府立上方演芸資料館(ワッハ上方)、府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)、府立体育会館などがやり玉にあがったことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。
 私が気になったのは府立国際児童文学館廃止までの経緯です。
 この国際児童文学館は、およそ絵が描かれているものはすべて集めるという方針の特殊な施設です。資料的価値の高い漫画が揃っていて、研究者にとっては非常に有意義な施設として重宝がられていました。
 もちろん、橋下さんも漫画を捨てろと言ったわけではありません。
 しかしながら、文学館が廃止されれば、資料は分散して保管されることになってしまいます。この施設は一か所に価値の高い資料が集められていたところに意義があったと言えるので、資料さえ保管されていればいいという発想には賛成できませんでした。
 ところが、橋下さんは廃止を決定してしまいます。その理由は「金を生み出す能力がないから」という一点に絞られていました。
*どちらも極端な橋下さんと大阪府職員
 大阪府の財政はたいへん厳しい状況に置かれていました。一方的にお金が出て行くだけの施設をムダだと思われていたようです。
 一方で、廃止に反対する立場の意見はこうです。
「文化財なのだから、お金を生まなくてもいいではないか」
 児童文学館側は、貴重な文化財を守っているのになぜ廃止されるのかまったくわからないという声が大きかったようです。しかし、彼らの側もコストに対する意識が低かったかもしれません。文化財なら守られて当然という意識が強かったのでしょう。廃止一辺倒の橋下さんに対し、民間のコスト意識とはまったく無縁なところに立つ公務員が反論するだけの、説得力のある意見が出なかったのも、私は複雑な思いで見ていました。
 そうだとしても、私には「金を稼ぐものだけがいいもの」という市場の論理が極端に強すぎるのではないかと思えてなりません。
 確かに、企業であれば仕方がないでしょう。企業は収益を上げてこそ存続できるものだからです。
 しかし、企業ではできないことを担うのが公共的な事業なのではないでしょうか。また文化財の存在は、それ自体に収益が生まれるというものではなく、広くそして世代を超えた価値を享受できものではないでしょうか。
 そこをすべて競争原理にさらしてしまうのであれば、すべての事業を民間に委託してしまったほうがいいという話になってしまいます。
 前回の東京都知事選挙に立候補したある経営者も、自治体の運営は企業と同じだという意見でした。私は、素朴な疑問として考えざるを得ません。本当に、国や自治体は企業と同じなのでしょうか。
*「ほどほど」の立ち位置は難しいが健全である
 ある大手新聞社の論説委員が参加する「なぜ若者は新聞を読まないのか」というテーマを議論するイベントに参加したことがあります。
 その打ち合わせのときに、私はこんな発言をしました。
「若者だって今は収入が少ないのだから、新聞代になかなかお金はかけられませんよね。そもそも、いま新聞の購読料は毎月いくらですか?」
 私の発した問いに、居並ぶ論説委員は誰一人として答えられませんでした。
 自分たちが売っているものの値段を知らない。そのくせ「こんなに良いものを作っているのに、読まない若者は問題だ」と言ってのける無神経さ。私にはちょっと考えられない姿勢です。
 この大手新聞社の論説委員や公務員側の対応を見ると、お金を払っているのに運営側に経営感覚がまったくなければ憤りを覚えるのは当然でしょう。したがって、大阪市民が橋下さんの論調に賛意を示すのもある程度は納得できます。
 とはいえ、収益だけを意識して児童文学館を運営すれば、幅広い資料を揃えることはできません。読者を拡大する一般受けする記事だけを書けば、新聞としての使命を果たすことはできなくなります。
 数値化できる成果が出るものだけを追う風潮には、私はとても賛成できないのです。数値化されるものを積み上げていっても、世の中うまく回るものではありません。社会で必要とされているものの中で、数字で比較できるものは限られていると思います。そのようなものだけ評価しようとする発想にバランスの偏りを感じます。
 すべてのことは、極端に偏るのではなく「ほどほど」にする。しかし「ほどほど」ほど難しいものはありません。
 極端に偏ることは、考え方を持つうえでも議論をするうえでも、むしろ簡単なことだからです。橋下さんの主張する「極端」な政策が破たんしたら、大阪市民は別の「極端」になだれをうって偏っていくことになるでしょう。こうした風潮は決して健全とは言えず、市民は多くのストレスを抱えることになるのではないでしょうか。
 多様性のある現代社会では、白とも黒ともつかないなかで考え、迷いながら生きていかざるを得ない。確かにそこで生じるストレスはあるかもしれませんが、極端から極端に振れることから生じるストレスよりはるかに健全だと思います。
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小沢一郎裁判=「官僚支配に従う者」と「国民主権を打ち立てようとする者」とを見分けるリトマス紙である2011-10-10 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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小沢一郎氏/消費増税で離党に含み/「橋下徹市長の『旧体制を壊さなければ・・・』は、私の主張と同様」2011-12-11 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

「大阪市長選挙に思う。数値化できる成果が出なければ存在価値はないのか」香山リカ

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大阪市長選挙に思う。数値化できる成果が出なければ存在価値はないのか  
Diamond online2011年12月12日 香山リカ[精神科医、立教大学現代心理学部教授]
*大胆な政策を打ち出した橋下さんを支持した大阪市民
 11月27日に投開票された大阪市長選挙では、大差をつけて橋下徹氏が平松邦夫氏に圧勝しました。特に、若い世代ほど橋下さんを支持する傾向が顕著に表れた選挙だったといえます。
 橋下さんは「大阪都構想」や「教育基本条例」などの新しい提案を掲げて選挙戦に臨みました。実現性があるかどうかはさておき、橋下さんは極端とも思える政策を前面に打ち出して大阪市民の関心を引きました。
 あまりに極端なことを言う姿は、年配層やインテリ層からは非現実的なことを思いつきで言っているように見られました。しかし、一般の有権者はそこまで自信をもって言い切る橋下さんを、大阪の将来を真剣に考える人と捉えたのかもしれません。
 一方の平松さんは、橋本さんの提案を批判することに終始しました。
遅まきながら「なにわルネッサンス2011」構想などを提示しますが、橋下さんの大胆で極端な政策を知った大阪市民には凡庸に映り、インパクトを与えることはできませんでした。
 市民にとってみれば、平松さんの「今まであった良いものは守り、さらに良くする」という主張は、ぬるま湯的で必死さが感じられないと映ったのでしょうか。
 閉塞感が支配する日本には今、あらゆる局面で「何かを変えなければならない」と考える風潮が広がっています。そして閉塞感を打ち破るための、抜本的かつ即効性のある変化を求める人が多くを占めるようになってきたように感じます。
 今までの延長線上で「様子を見ながら少しずつやっていきましょう」という考えは受け入れられにくくなっているようです。
*お金を生まない施設は意味がない?
 私は平松さんを応援する立場に立っていました。
 橋下さんを支持しなかった理由のひとつは、政策の実現性の問題以前に、橋下さんの議論の仕掛け方に違和感を持ったからです。
 「僕の敵に回りますか? それとも味方になりますか?」
 まずA対Bのバトル構造を作り、そのうえで「さあ、どちらを取りますか?」と迫ってくる橋下さんのやり方に、抵抗を感じざるを得ませんでした。あたかも変化か現状維持かという問題設定にすり替えてしまう。変化は必要だが、それほどドラスティックな変化は望ましくないと考える人も、否応なく白か黒かの選択を迫るようなやり方です。
 もうひとつの理由は、橋下さんが大阪府知事に就任したときに遡ります。
橋下さんは、就任後すぐに府の事業の見直しを打ち出しました。当時、府立上方演芸資料館(ワッハ上方)、府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)、府立体育会館などがやり玉にあがったことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。
 私が気になったのは府立国際児童文学館廃止までの経緯です。
 この国際児童文学館は、およそ絵が描かれているものはすべて集めるという方針の特殊な施設です。資料的価値の高い漫画が揃っていて、研究者にとっては非常に有意義な施設として重宝がられていました。
 もちろん、橋下さんも漫画を捨てろと言ったわけではありません。
 しかしながら、文学館が廃止されれば、資料は分散して保管されることになってしまいます。この施設は一か所に価値の高い資料が集められていたところに意義があったと言えるので、資料さえ保管されていればいいという発想には賛成できませんでした。
 ところが、橋下さんは廃止を決定してしまいます。その理由は「金を生み出す能力がないから」という一点に絞られていました。
*どちらも極端な橋下さんと大阪府職員
 大阪府の財政はたいへん厳しい状況に置かれていました。一方的にお金が出て行くだけの施設をムダだと思われていたようです。
 一方で、廃止に反対する立場の意見はこうです。
 「文化財なのだから、お金を生まなくてもいいではないか」
 児童文学館側は、貴重な文化財を守っているのになぜ廃止されるのかまったくわからないという声が大きかったようです。しかし、彼らの側もコストに対する意識が低かったかもしれません。文化財なら守られて当然という意識が強かったのでしょう。廃止一辺倒の橋下さんに対し、民間のコスト意識とはまったく無縁なところに立つ公務員が反論するだけの、説得力のある意見が出なかったのも、私は複雑な思いで見ていました。
 そうだとしても、私には「金を稼ぐものだけがいいもの」という市場の論理が極端に強すぎるのではないかと思えてなりません。
 確かに、企業であれば仕方がないでしょう。企業は収益を上げてこそ存続できるものだからです。
 しかし、企業ではできないことを担うのが公共的な事業なのではないでしょうか。また文化財の存在は、それ自体に収益が生まれるというものではなく、広くそして世代を超えた価値を享受できものではないでしょうか。
 そこをすべて競争原理にさらしてしまうのであれば、すべての事業を民間に委託してしまったほうがいいという話になってしまいます。
 前回の東京都知事選挙に立候補したある経営者も、自治体の運営は企業と同じだという意見でした。私は、素朴な疑問として考えざるを得ません。本当に、国や自治体は企業と同じなのでしょうか。
*「ほどほど」の立ち位置は難しいが健全である
 ある大手新聞社の論説委員が参加する「なぜ若者は新聞を読まないのか」というテーマを議論するイベントに参加したことがあります。
 その打ち合わせのときに、私はこんな発言をしました。
 「若者だって今は収入が少ないのだから、新聞代になかなかお金はかけられませんよね。そもそも、いま新聞の購読料は毎月いくらですか?」
 私の発した問いに、居並ぶ論説委員は誰一人として答えられませんでした。
 自分たちが売っているものの値段を知らない。そのくせ「こんなに良いものを作っているのに、読まない若者は問題だ」と言ってのける無神経さ。私にはちょっと考えられない姿勢です。
 この大手新聞社の論説委員や公務員側の対応を見ると、お金を払っているのに運営側に経営感覚がまったくなければ憤りを覚えるのは当然でしょう。したがって、大阪市民が橋下さんの論調に賛意を示すのもある程度は納得できます。
 とはいえ、収益だけを意識して児童文学館を運営すれば、幅広い資料を揃えることはできません。読者を拡大する一般受けする記事だけを書けば、新聞としての使命を果たすことはできなくなります。
 数値化できる成果が出るものだけを追う風潮には、私はとても賛成できないのです。数値化されるものを積み上げていっても、世の中うまく回るものではありません。社会で必要とされているものの中で、数字で比較できるものは限られていると思います。そのようなものだけ評価しようとする発想にバランスの偏りを感じます。
 すべてのことは、極端に偏るのではなく「ほどほど」にする。しかし「ほどほど」ほど難しいものはありません。
 極端に偏ることは、考え方を持つうえでも議論をするうえでも、むしろ簡単なことだからです。橋下さんの主張する「極端」な政策が破たんしたら、大阪市民は別の「極端」になだれをうって偏っていくことになるでしょう。こうした風潮は決して健全とは言えず、市民は多くのストレスを抱えることになるのではないでしょうか。
 多様性のある現代社会では、白とも黒ともつかないなかで考え、迷いながら生きていかざるを得ない。確かにそこで生じるストレスはあるかもしれませんが、極端から極端に振れることから生じるストレスよりはるかに健全だと思います。
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政党政治が崩れる〜問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム
 論壇時評 金子勝(かねこ・まさる=慶応大教授、財政学)2011/02/23Wed.中日新聞
 歴史の知識を持つ人にとって、今日の日本政治には政党政治が崩壊する臭いが漂っている。約80年前の大恐慌と同じく、今も百年に一度の世界金融危機が襲っており、時代的背景もそっくりだ。
 保坂正康「問責国会に蘇る昭和軍閥政治の悪夢」(『文藝春秋』3月号)は、昭和10年代の政治状況との類似性を指摘する。
 保坂によれば、「検察によるまったくのでっち上げ」であった「昨年の村木事件」は、財界人、政治家、官僚ら「16人が逮捕、起訴された」ものの「全員無罪」に終る昭和9年の「帝人事件」とそっくりである。それは「検察の正義が政治を主導していく」という「幻想」にとらわれ、「いよいよ頼れるのは軍部しかいないという状況」を生み出してしまった。
 ところが、「民主党現執行部」は「小沢潰しに検察を入れてしまうことの危険性」を自覚しておらず、もし小沢氏が無罪になった時に「政治に混乱だけが残る」ことに、保坂は不安を抱く。さらに「問責決議問題」は「国家の大事を政争の具にした」だけで、「事務所費問題」も、国会を「政策上の評価ではなく、不祥事ばかりが議論される場所」にしてしまった。
 保坂によれば、「最近の政党が劣化した原因」は「小泉政権による郵政選挙」であり、その原形は「東条内閣は非推薦候補を落とすため、その候補の選挙区に学者、言論人、官僚、軍人OBなどの著名人を『刺客』としてぶつけた」翼賛選挙(昭和17年4月)に求めることができるという。そしてヒトラーを「ワイマール共和国という当時最先端の民主的国家から生まれたモンスター」であるとしたうえで、「大阪の橋下徹知事」が「その気ならモンスターになれる能力と環境があることは否定できない」という。
 保坂とは政治的立場が異なると思われる山口二郎も、「国政を担う2大政党があまりにも無力で、国民の期待を裏切っているために、地方政治では既成の政治の破壊だけを売り物にする怪しげなリーダーが出没している。パンとサーカスで大衆を煽動するポピュリズムに、政党政治が自ら道を開く瀬戸際まで来ている。通常国会では、予算や予算関連法案をめぐって与野党の対決が深刻化し、統治がマヒ状態に陥る可能性もある」(「民主党の“失敗” 政党政治の危機をどう乗り越えるか」=『世界』3月号)という。
 山口も同じく、「小沢に対する検察の捜査は、政党政治に対する官僚権力の介入という別の問題をはらんでいる。検察の暴走が明らかになった今、起訴されただけで離党や議員辞職を要求するというのは、政党政治の自立性を自ら放棄することにつながる」とする一方で、「小沢が国会で釈明することを拒み続けるのは、民主党ももう一つの自民党に過ぎないという広めるだけである」という。
 そのうえで山口は「民主党内で結束を取り戻すということは、政策面で政権交代の大義を思い出すことにつながっている。小沢支持グループはマニフェスト遵守を主張して、菅首相のマニフェスト見直しと対決している」と述べ、民主党議員全員が「『生活第一』の理念に照らして、マニフェストの中のどの政策から先に実現するかという優先順位をつけ、そのための財源をどのように確保するかを考えるという作業にまじめに取り組まなければならない」と主張する。そして「菅首相が、財務省や経済界に対して筋を通すことができるかどうか」が「最後の一線」だとする。
 しかし残念ながら、菅政権は「最後の一線」を越えてしまったようだ。菅政権の政策はますます自民党寄りになっている。社会保障と税の一体改革では与謝野馨氏を入閣させ、また米国の「年次改革要望書」を「グローバルスタンダード」として受け入れていくTPP(環太平洋連携協定)を積極的に推進しようとしている。小泉「構造改革」を批判して政権についたはずの民主党政権が、小泉「構造改革」路線に非常に近づいている。
 まるで戦前の二大政党制の行き詰まりを再現しているようだ。戦前は、政友会と民政党の間で政策的相違が不明確になって、検察を巻き込みつつ、ひたすらスキャンダル暴露合戦に明け暮れて国民の失望をかい、軍部の独裁を招いた。現在の状況で総選挙が行われて自民党が勝っても、政権の構成次第では様相を変えた衆参ねじれ状態になり、また野党が再び問責決議を繰り返す状況になりかねない。
 このまま政党政治が期待を裏切っていくと、人々は既存の政党政治を忌避し、わかりやすい言葉でバッシングするようなポピュリズムの政治が広がりかねない。何も問題を解決しないが、少なくとも自分で何かを決定していると実感できるからである。それは、ますます政治を破壊していくだろう。
 いま必要なのは歴史の過ちに学ぶことである。それは、たとえ財界や官僚の強い抵抗にあっても、民主党政権はマニフェストの政策理念に立ち返って国民との約束を守り、それを誠実に実行する姿勢を示すことにほかならない。
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「破産会社」は本当に「優良会社」になったのか。首長としての実績を問う---橋下「大阪府改革」を検証する2011-11-18 | 政治
小沢一郎氏との20日の会談を持ちかけたのは橋下徹市長/エラソーな橋下が、小沢氏には、やけに低姿勢2011-12-12 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

原発輸出/住民に原発のリスクは知らされず/解決していない放射性廃棄物の処理/温排水による影響・・・

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徹底討論を避けた外務省、経産省、財務省――ベトナムへの原発輸出に異議続出  
「週刊金曜日」2011年12月12日10:13AM
第2原発建設予定地近くで、魚を干す女性たち。(ニントゥアン省、提供/FoE Japan)
 一一月二一日、衆議院第二議員会館で「徹底討論!『原発輸出』」と題した市民集会が開かれ、参加した市民と議員により、ベトナム、ヨルダンへの原発輸出の問題点が討論された(主催はFoE Japanなど三団体)。原発計画が進む現地の具体的な情報を踏まえ、政府と徹底討論を行なうために企画されたもの。事前に詳細な公開質問状を外務省、経済産業省、財務省の三省に提出していたが、政府との討論は実現しなかった。メディア取材が入らないことを条件としてきたからだ。
 原発輸出は、二国間の原子力協定の締結が前提となるが、ベトナム、ヨルダンともすでに協定の署名手続きを終えており、このままいけば今国会で批准される見込みだ。批准承認の前に、市民団体がしかけた論戦は、政府の不在で肩透かしをくらった格好となった。
 東京電力福島第一原発事故を経験してもなお、原発輸出は政府内で着々と進められている。とりわけベトナムへの輸出の方針が変わらないことは、一〇月三一日の日越首脳会合でも再確認された。
 二〇億円という、実施可能性調査としては破格の予算により、現在、ベトナム中南部のニントゥアン省で日本原子力発電が調査を実施している。一部のプラント・メーカーの利益にしかならない事業に日本の税金がつぎ込まれているが、その内容について公開される見込みはない。
 筆者は一一月一〇日から一二日まで、建設予定地を訪れた。
 ニントゥアン省の省都ファンラン市から北東に二〇キロメートル。ウミガメが生息する美しい海岸線と国立公園に囲まれたヴィンハイ地区のタイアン村。人口約二〇〇〇人のこの村は、ニンニク、ネギ、ブドウなどの農業と漁業、家畜の飼育の組み合わせで暮らしをたてている。現金収入は決して多くないが、気候が穏やかで海の幸も豊富なため、暮らしは安定している。しかし原発建設に伴い、住民は北に一キロほど離れた土地に移転を余儀なくされる。
「今の生活は安定している。本音では移転したくないが、国家事業だから仕方がない」と語ってくれたのは、二〇年前からこの地に移り住んで農業を営んでいる四〇代の男性だ。
 また、別の男性は「福島原発事故は、もう収束しているときいている。最近は報道もみない」「原発事故は正直怖いよ。原発事故が起こったら漁ができなくなって乞食になるしかないかもね」と、半ば冗談めかして答えた。漁業を営む彼は船の修理に余念がない。「移転後も、できれば漁業を続けたいが、どうなるかはわからないね」。
 住民の関心は、原発事業そのものというよりも、移転の際の補償や移転先の土地に集中している。
 日本政府の招聘で日本に来たことがあるという村のリーダー格の男性。福島原発事故については、「あれは神様のせいであり、技術のせいではない」と断言する。住民に原発のPRをするための研修も受けたという。住民に原発のリスクについては知らされず、「夢のエネルギー」といったバラ色の側面だけが強調されている。
 冒頭の市民集会では、ベトナムへの原発輸出に対する多くの疑問が提起された。
 ベトナムでは、土木事業での手抜き工事や水力発電所の放水などで、事故が多発する。原発でこのような事故が生じたらどうなるのか。日本でも解決していない放射性廃棄物の処理はどうするのか。温排水により、ウミガメに象徴される海洋生態系や漁業にどのような影響が及ぶのか。
 そもそも、先進諸国においては斜陽産業となっている原発を途上国に持ち込むのか。むしろエネルギー多消費型の社会構造を生むことになるのではないか。
 公的資金の注入でしか成り立たない原発輸出で、得をするのは誰なのか。
 何より、福島原発事故後、多くの人々が苦しんでおり、これからもこの苦しみが続く状況で、日本政府は原発輸出をするのか。
 これらの疑問に日本政府が答えることなく、国会で批准手続きが進められようとしている。
(満田夏花・FoE Japan、12月2日号)

オウム真理教事件 全員の判決確定/本日から真の意味での死刑囚の生活が始まる

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〈来栖の独白〉
 オウム真理教事件裁判のうち、中川死刑囚と遠藤死刑囚の判決訂正申立から棄却までの日付(日数)を見てみた〈↓〉。期間がとりわけ短縮されたわけでもない。両被告とも、判決からほぼ10日ほどの間隔で、推移している。
 先に刑確定した人たちにとっても、精神的には多分本日から本当の意味での死刑囚の生活が始まる。
 それは、行刑側にとっても同様だ。同一事件での死刑確定者13名という多数への、かつてない厳重な管理が強いられる。その行く手に待っているものは、刑務官が自らの手で下さねばならぬ刑執行である。 オウム中川被告側が訂正申し立て 上告棄却の死刑判決
 地下鉄、松本両サリンや坂本堤弁護士一家殺害などオウム真理教の計11事件で殺人罪などに問われた元教団幹部中川智正被告(49)の弁護人は28日、死刑の一、二審判決を支持して上告を棄却した18日の最高裁判決に対する訂正を申し立てた。
 訂正申し立ては、最高裁判決に誤りがあるとして行う最後の不服申し立て手段だが、量刑が覆ったケースはない。申し立てが棄却されれば中川被告の死刑が確定する。
 一連の事件では松本智津夫死刑囚(56)=教祖名麻原彰晃=ら11人の死刑が既に確定したほか、21日にも元幹部遠藤誠一被告(51)の上告が棄却され、死刑確定の見通しとなっている。2011/11/28 19:33【共同通信】
..................
オウム中川被告、死刑が正式確定…未確定は1人
 坂本堤弁護士一家殺害事件や地下鉄、松本両サリン事件など11事件で殺人罪などに問われ、最高裁で11月18日に死刑判決を受けたオウム真理教元幹部・中川智正被告(49)について、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は、被告の判決訂正の申し立てを棄却する決定をした。
 決定は今月8日付。中川被告の死刑が正式に確定した。
 これにより、教団による一連の事件で死刑判決を受けた13人のうち正式確定していないのは、11月21日に最高裁で死刑を言い渡された元幹部・遠藤誠一被告(51)(訂正申し立て中)だけとなった。(2011年12月9日22時14分 読売新聞)
===============
死刑判決のオウム遠藤被告、判決訂正申し立て
 地下鉄、松本両サリン事件など4事件で殺人などの罪に問われ、最高裁で11月21日に死刑判決を受けたオウム真理教の元幹部・遠藤誠一被告(51)側が1日、最高裁に判決の訂正を申し立てた。
 刑事事件の上告審判決には、10日以内に訂正申し立てができるが、認められた例はほとんどなく、棄却されれば死刑判決が確定する。
(2011年12月1日20時23分 読売新聞)
.........................
オウム裁判:遠藤誠一被告の死刑確定 189人判決確定
 地下鉄・松本両サリンなど4事件で殺人罪などに問われ、11月21日の最高裁判決で1、2審の死刑が維持されたオウム真理教元幹部、遠藤誠一被告(51)に対し、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は12日付で、判決訂正の申し立てを棄却する決定を出した。これでオウム真理教による一連の事件で13人目の死刑が確定し、起訴された189人全員の判決が確定した。
 一連の事件では▽死刑13人▽無期懲役5人▽有期懲役80人▽執行猶予付き87人▽罰金3人▽無罪1人−−が確定。松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(56)が95年5月に逮捕されてから終結まで約16年7カ月を要した。一方で、まだ指名手配中の容疑者が3人いる。
 刑事訴訟法は、死刑執行は判決確定から6カ月以内に命令しなければならないと定めるが、共犯者の判決確定までの期間は算入しないとしている。元死刑囚に対し1953年に言い渡された大阪高裁判決は「未逮捕の共犯者がいることを理由に、漫然と死刑囚の執行を遅らせることは当を得ない」として「共犯者の逮捕前の死刑執行命令は適法」という先例的判断を示している。【石川淳一】毎日新聞 2011年12月13日 20時49分

「死刑執行、教祖から」と江川紹子氏は云うが・・・/【63年法務省矯正局長通達】に見る行刑の苦難2011-12-04 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
死刑執行「教祖から」ジャーナリスト・江川紹子さん
産経ニュース2011.11.27 19:26(より、抜粋)
 「死刑執行の順番を間違えちゃいけない」
 江川紹子さん(53)。今後、手続きが取られていくことになるであろう死刑執行に、思いを至らせる。
 例外はあるが日本の死刑執行は、判決確定日が早い死刑囚から順に執行されるのが原則だ。
 裁判で死刑判決となった元幹部らは13人。罪を認めた元幹部ほど裁判の終結は早い。罪を認めようとしなかった者や、裁判に背を向けた者ほど、審理に時間がかかった。
 「反省して罪を認めた人から刑が執行されるようなことになれば、正義に反する。ましてや犯行を首謀した麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(56)より先に、弟子が執行されるようであってはならない」
 審理については、麻原死刑囚が何も語らなかったことなどから「真相に十分は迫れなかった」という不満を訴える関係者らの声が少なからずある。
 だが江川さんは、「私は一連の裁判を、もっと肯定的にとらえたい」と話す。
 「確かに時間も費用もかかった。でも、それは法治国家として必要なもので、裁判から得るべきものも多かったのではないか」
 裁判から得るべき教訓をこう考える。「膨大な時間をかけた被告人質問や証人尋問からは、教団やカルト、マインドコントロールといった恐ろしさは、とてもよく出ていたし、十分に伝わってきたと思う。
= = =
〈来栖の独白2011/12/04〉
 【死刑執行「教祖から」】との野太いタイトルに驚いた。麻原彰晃(松本智津夫)氏の刑確定に至った経緯に、江川氏は無関心のようだ。裁判全般についても、「膨大な時間をかけた・・・恐ろしさは、とてもよく出ていた」と評価する。
 なぜ麻原氏は語らなくなったのか、確定したのか、これらは拘置所行政や裁判(刑事弁護)の闇の闇を露呈している。
獄中の麻原彰晃に接見して/会ってすぐ詐病ではないと判りました/拘禁反応によって昏迷状態に陥っている2011-11-30 | 死刑/重刑/生命犯 問題
 加賀乙彦著『悪魔のささやき』集英社新書2006年8月17日第1刷発行
 p145〜
 獄中の麻原彰晃に接見して
 2006年2月24日の午後1時、私は葛飾区小菅にある東京拘置所の接見室にいました。強化プラスチックの衝立をはさみ、私と向かい合う形で車椅子に座っていたのは、松本智津夫被告人、かつてオウム真理教の教祖として1万人を超える信者を率い、27人の死者と5千5百人以上の重軽傷者を出し、13の事件で罪を問われている男です。
p146〜
 04年2月に1審で死刑の判決がくだり、弁護側は即時、控訴。しかし、それから2年間、「被告と意思疎通ができず、趣意書が作成できない」と松本被告人の精神異常を理由に控訴趣意書を提出しなかったため、裁判はストップしたままでした。被告の控訴能力の有無を最大の争点と考える弁護団としては、趣意書を提出すれば訴訟能力があることを前提に手続きが進んでしまうと恐れたのです。それに対し東京高裁は、精神科医の西山詮に精神鑑定を依頼。その鑑定の結果を踏まえ、控訴を棄却して裁判を打ち切るか、審議を続行するかという判断を下す予定でした。2月20日、高裁に提出された精神状態鑑定書の見解は、被告は「偽痴呆性の無言状態」にあり、「訴訟能力は失っていない」というもの。24日に私が拘置所を訪れたのは、松本被告人の弁護団から、被告人に直接会ったうえで西山の鑑定結果について検証してほしいと依頼されたためです。
 逮捕されてから11年。目の前にいる男の姿は、麻原彰晃の名で知られていたころとはまるで違っていました。トレードマークだった蓬髪はスポーツ刈りになり、髭もすっかり剃ってあります。その顔は、表情が削ぎ落とされてしまったかのようで、目鼻がついているというだけの虚ろなものでした。灰色の作務衣のような囚衣のズボンがやけに膨らんでいるのは、おむつのせいでした。
「松本智津夫さん、今日はお医者さんを連れてきましたよ」
 私の左隣に座った弁護士が話しかけ、接見がはじまりましたが、相変わらず無表情。まったく反応がありません。視覚障害でほとんど見えないという右目は固く閉じられたままで、視力が残っている左目もときどき白目が見えるぐらいにしか開かない。口もとは力なくゆるみ、唇のあいだから下の前歯と歯茎が覗いています。
 重力に抵抗する力さえ失ったように見える顔とは対照的に、右手と左手はせわしなく動いていました。太腿、ふくらはぎ、胸、後頭部、腹、首・・・身体のあちこちを行ったり来たり、よく疲れないものだと呆れるぐらい接見のないだ中、ものすごい勢いでさすり続けているのです。
「あなたほどの宗教家が、後世に言葉を残さずにこのまま断罪されてしまうのは惜しいことだと思います」
「あなたは大きな教団の長になって、たくさんの弟子がいるのに、どうしてそういう子供っぽい態度をとっているんですか」
 何を話しかけても無反応なので、持ち上げてみたり、けなしてみたり、いろいろ試してみましたが、こちらの言うことが聞こえている様子すらありません。その一方で、ブツブツと何やらずっとつぶやいている。耳を澄ましてもはっきりとは聞こえませんでしたが、意味のある言葉でないのは確かです。表情が変わったのは、2度、ニタ〜という感じで笑ったときだけ。しかし、これも私が投げた言葉とは無関係で、面談の様子を筆記している看守に向かい、意味なく笑ってみせたものでした。
 接見を許された時間は、わずか30分。残り10分になったところで、私は相変わらず目をつぶっている松本被告人の顔の真ん前でいきなり、両手を思いっきり打ち鳴らしたのです。バーンという大きな音が8畳ほどのがらんとした接見室いっぱいに響き渡り、メモをとっていた看守と私の隣の弁護士がビクッと身体を震わせました。接見室の奥にあるドアの向こう側、廊下に立って警備をしていた看守までが、何事かと驚いてガラス窓から覗いたほどです。それでも松本被告人だけはビクリともせず、何事もなかったかのように平然としている。数分後にもう1度やってみましたが、やはり彼だけが無反応でした。これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態におちいっている。そう診断し、弁護団が高裁に提出する意見書には、さらに「現段階では訴訟能力なし。治療すべきである」と書き添えたのです。
 拘禁反応というのは、刑務所など強制的に自由を阻害された環境下で見られる反応で、ノイローゼの一種。プライバシーなどというものがいっさい認められず、狭い独房に閉じ込められている囚人たち、とくに死刑になるのではという不安を抱えた重罪犯は、そのストレスからしばしば心身に異常をきたします。
 たとえば、第1章で紹介したような爆発反応。ネズミを追いつめていくと、最後にキーッと飛びあがって暴れます。同じように、人間もどうにもならない状況に追い込まれると、原始反射といってエクスプロージョン(爆発)し、理性を麻痺させ動物的な状態に自分を変えてしまうことがあるのです。暴れまわって器物を壊したり、裸になって大便を顔や体に塗りつけ奇声をあげたり、ガラスの破片や爪で身体中をひっかいたり・・・。私が知っているなかで1番すさまじかったのは、自分の歯で自分の腕を剥いでいくものでした。血まみれになったその囚人は、その血を壁に塗りつけながら荒れ狂っていたのです。
 かと思うと、擬死反射といって死んだようになってしまう人もいます。蛙のなかには、触っているうちにまったく動かなくなるのがいるでしょう。突っつこうが何しようがビクともしないから、死んじゃったのかと思って放っておくと、またのそのそと動き出す。それと同じで、ぜんぜん動かなくなってしまうんです。たいていは短時間から数日で治りますが、まれに1年も2年も続くケースもありました。
 あるいはまた、仮性痴呆とも呼ばれるガンゼル症候群におちいって幼児のようになってしまい、こちらの質問にちょっとずれた答えを返し続ける者、ヒステリー性の麻痺発作を起こす者。そして松本被告人のように昏迷状態におちいる者もいます。
 昏迷というのは、昏睡の前段階にある状態。昏睡や擬死反射と違って起きて動きはするけれど、注射をしたとしても反応はありません。昏迷状態におちいったある死刑囚は、話すどころか食べることすらしませんでした。そこで鼻から胃にチューブを通して高カロリー剤を入れる鼻腔栄養を行ったところ、しばらくすると口からピューッと全部吐いてしまった。まるで噴水のように、吐いたものが天井に達するほどの勢いで、です。入れるたびに吐くので、しかたなく注射に切り替えましたが、注射だとどうしても栄養不足になる。結局、衰弱がひどくなったため、一時、執行停止処分とし、精神病院に入院させました。
 このように、昏迷状態におちいっても周囲に対して不愉快なことをしてしまう例が、しばしば見られます。ただ、それは無意識の行為であり、病気のふりをしている詐病ではありません。松本被告人も詐病ではない、と自信を持って断言します。たった30分の接見でわかるのかと疑う方もいらっしゃるでしょうが、かつて私は東京拘置所の医務部技官でした。拘置所に勤める精神科医の仕事の7割は、刑の執行停止や待遇のいい病舎入りを狙って病気のふりをする囚人の嘘や演技を見抜くことです。なかには、自分の大便を顔や身体に塗りたくって精神病を装う者もいますが、慣れてくれば本物かどうかきっちり見分けられる。詐病か拘禁反応か、それともより深刻な精神病なのかを、鑑別、診断するのが、私の専門だったのです。
 松本被告人に関しては、会ってすぐ詐病ではないとわかりました。拘禁反応におちいった囚人を、私はこれまで76人見てきましたが、そのうち4例が松本被告人とそっくりの症状を呈していた。サリン事件の前に彼が書いた文章や発言などから推理するに、松本被告人は、自分が空想したことが事実であると思いこんで区別がつかなくなる空想虚言タイプだと思います。最初は嘘で、口から出まかせを言うんだけれど、何度も同じことを話しているうちに、それを自分でも真実だと完全に信じてしまう。そういう偏りのある性格の人ほど拘禁反応を起こしやすいんです。
 まして松本被告人の場合、隔離された独房であるだけでなく、両隣の房にも誰も入っていない。また、私が勤めていたころと違って、改築された東京拘置所では窓から外を見ることができません。運動の時間に外に出られたとしても、空が見えないようになっている。そんな極度に密閉された空間に孤独のまま放置されているわけですから、拘禁反応が表れるのも当然ともいえます。接見中、松本被告人とはいっさいコミュニケーションをとれませんでしたが、それは彼が病気のふりをしていたからではありません。私と話したくなかったからでもない。人とコミュニケーションを取れるような状態にないからなのです。(〜p151)
 「死刑にして終わり」にしないことが、次なる悪魔を防ぐ
 しかるに、前出の西山医師による鑑定書を読むと、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく、偽痴呆性の無言状態にある〉と書かれている。偽痴呆性というのは、脳の変化をともなわない知的レベルの低下のこと。言語は理解しており、言葉によるコミュニケーションが可能な状態です。西山医師は松本被告に3回接見していますが、3回とも意味のあるコミュニケーションは取れませんでした。それなのにどうして、偽痴呆性と判断したのでしょうか。また、拘禁反応と拘禁精神病は違うものであるにもかかわらず、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく〉と、あたかも同じ病気で片や病状が軽く、片や重いと受けとれるような書き方をしてしまっている。
 鑑定書には、さらに驚くべき記述がありました。松本被告人は独房内でみずからズボン、おむつカバー、おむつを下げ、頻繁にマスターベーションをするようになっていたというのです。05年4月には接見室でも自慰を行い、弁護人の前で射精にまで至っている。その後も接見室で同様の行為を繰り返し、8月には面会に来た自分の娘たちの前でもマスターベーションにふけったそうです。松本被告人と言葉によるコミュニケーションがまったく取れなかったと書き、このような奇行の数々が列挙してあるというのに、なぜか西山医師は唐突に〈訴訟をする能力は失っていない〉と結論づけており、そういう結論に至った根拠はいっさい示していない。失礼ながら私には、早く松本被告人を断罪したいという結論を急いでいる裁判官や検事に迎合し、その意に沿って書かれた鑑定書としか思えませんでした。
 地下鉄サリン事件から11年もの歳月が流れているのですから、結論を急ぎたい気持ちはわかります。被害者や遺族、関係者をはじめ、速やかな裁判の終結と松本被告人の断罪を望んでいる人も多いでしょう。死刑になれば、被害者にとっての報復にはなるかもしれません。しかし、20世紀末の日本を揺るがせた一連の事件の首謀者が、なぜ多くの若者をマインド・コントロールに引き込んだのかは不明のままになるでしょう。
 オウム真理教の事件については、私も非常に興味があったため裁判記録にはすべて目を通し、できるだけ傍聴にも行きました。松本被告人は、おそらく1審の途中から拘禁ノイローゼになっていたと思われます。もっと早い時期に治療していれば、これほど症状が悪化することはなかったはずだし、治療したうえで裁判を再開していたなら10年もの月日が無駄に流れることもなかったでしょう。それが残念でなりません。
 拘禁反応自体は、そのときの症状は激烈であっても、環境を変えればわりとすぐ治る病気です。先ほど紹介した高カロリー剤を天井まで吐いていた囚人も、精神病院に移ると1カ月で好転しました。ムシャムシャ食べるようになったという報告を受けて間もなく、今度は元気になりすぎて病院から逃げてしまった。すぐに捕まって、拘置所に戻ってきましたが。
 松本被告人の場合も、劇的に回復する可能性が高いと思います。彼の場合は逃亡されたらそれこそたいへんですから、病院の治療は難しいでしょうが、拘置所内でほかの拘留者たちと交流させるだけでもいい。そうして外部の空気にあててやれば、半年、いやもっと早く治るかもしれません。実際、大阪拘置所で死刑囚を集団で食事させるなどしたところ、拘禁反応がかなり消えたという前例もあるのです。(〜p153)

 上掲タイトルのように、江川氏は、死刑執行「教祖から」と云われる。
 死刑執行の現場から考えてみたい。同一事件でも、死刑確定の時期によって刑執行の期日にズレはある。オウム真理教事件のように死刑囚が多勢になれば、全員同日執行は余程の困難が予想される。
 期日をずらせばずらしたことにより、拘置所の管理運営は困難を極める。(たとえば、外部交通を遮断したとしても)自分と同事件の死刑囚が執行されたことを耳に入れずに済ませることは、苦肉の策に違いない。耳に入れば、死刑囚は動揺する。心情の安静は保ちにくい。いずれしても、拘置所職員の労苦は、並大抵ではないだろう。
◆【63年法務省矯正局長通達】
法務省矯正甲第96号
昭和38年3月15日
死刑確定者の接見及び信書の発受について
 接見及び信書に関する監獄法第9章の規定は、在監者一般につき接見及び信書の発受の許されることを認めているが、これは在監者の接見及び信書の発受を無制限に許すことを認めた趣旨ではなく、条理上各種の在監者につきそれぞれその拘禁の目的に応じてその制限の行われるべきことを基本的な趣旨としているものと解すべきである。
 ところで、死刑確定者には監獄法上被告人に関する特別の規定が存する場合、その準用があるものとされているものの接見又は信書の発受については、同法上被告人に関する特別の規定は存在せず、かつ、この点に関する限り、刑事訴訟法上、当事者たる地位を有する被告人とは全くその性格を異にするものというべきであるから、その制限は専らこれを監獄に拘置する目的に照らして行われるべきものと考えられる。
 いうまでもなく、死刑確定者は死刑判決の確定力の効果として、その執行を確保するために拘置され、一般社会とは厳に隔離されるべきものであり、拘置所等における身柄の確保及び社会不安の防止等の見地からする交通の制約は、その当然に受忍すべき義務であるとしなければならない。更に拘置中、死刑確定者が罪を自覚し、精神の安静裡に死刑の執行を受けることとなるよう配慮さるべきことは刑政上当然の要請であるから、その処遇に当たり、心情の安定を害するおそれのある交通も、また、制約されなければならないところである。
 よって、死刑確定者の接見及び信書の発受につきその許否を判断するに当たって、左記に該当する場合は、概ね許可を与えないことが相当と思料されるので、右趣旨に則り自今その取扱いに遺憾なきを期せられたい。
    記
一、本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合
二、本人の心情の安定を害するおそれのある場合
三、その他施設の管理運営上支障を生ずる場合

 死刑囚の心情の安静に苦渋するのも刑務官なら、実際に手をかけねばならない(死刑執行する)のも、彼らである。職務とはいえ、人を、白昼、殺さねばならない。
 江川氏も含めて、数分でもよい。我々国民一人一人が、現場の人の心情を忖度してみてはどうだろう。
 そこのところを、下記論説は言っている。
論壇時評【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】(抜粋)
 日本は、「先進国」の中で死刑制度を存置しているごく少数の国家の一つである。井上達夫は、「『死刑』を直視し、国民的欺瞞を克服せよ」(『論座』)で、鳩山邦夫法相の昨年の「ベルトコンベヤー」発言へのバッシングを取り上げ、そこで、死刑という過酷な暴力への責任は、執行命令に署名する大臣にではなく、この制度を選んだ立法府に、それゆえ最終的には主権者たる国民にこそある、という当然の事実が忘却されている、と批判する。井上は、国民に責任を再自覚させるために、「自ら手を汚す」機会を与える制度も、つまり国民の中からランダムに選ばれた者が執行命令に署名するという制度も構想可能と示唆する。この延長上には、くじ引きで選ばれた者が刑そのものを執行する、という制度すら構想可能だ。死刑に賛成であるとすれば、汚れ役を誰かに(法相や刑務官に)押し付けるのではなく、自らも引き受ける、このような制度を拒否してはなるまい。(大澤真幸 京都大学大学院教授)

死刑の刑場を初公開=東京拘置所 / 死刑とは何か〜刑場の周縁から〔2〕2010-08-27
 角川文庫『死刑執行人の苦悩』 大塚公子著
p65〜
 心の中で合掌し、任務を果たすことに集中した。
 執行はすばやく行わなくてはならない。Cさんが首にロープをかけるのと、べつの刑務官が膝をひもで縛るのと同時。間髪を入れずもうひとりの刑務官が保安課長の合図を見て、ハンドルを引く。この間、時間にしてわずか3秒ぐらいのものである。
p66〜
 立会いはごめんだ
 ハンドルが引かれると、同時に死刑囚の体は地下に落下する。足下の踏み板が中央から二つに割れ、宙吊りになって絞首される仕掛けになっているのである。
 宙吊りになると、医学的見地からはほとんど瞬間的に意識を失い、死刑囚に肉体的苦痛はない、とされている。処刑されてしまった死刑囚にじっさいに苦しくなかったかどうかたずねることはできない。意識を失ってほとんど苦しむことはないので、死刑は残虐ではないという理屈がまかりとおった。
 憲法では残虐な刑罰を禁止している。
 死刑判決を受けた被告人は弁護人とともに、この憲法をたてに、死刑は違憲であると訴える。
 しかし、裁判所は、吊るされた瞬間に死刑囚は意識を失い、苦しみはほとんど知ることはない、したがって絞首刑は憲法にいうところの残虐な刑にはあたらないと主張する。
 じっさいに意識を失ってしまって、いっさいの苦痛が皆無であったかどうか、絞首された当人にたずねることができないのはいまも言ったとおりである。
 執行現場で見たとおりの話はこうだ。
 宙吊りになった死刑囚はテレビドラマなどで見るように、単純にだらりと吊り下がるのではない。
 いきなりズドンと宙吊りになる。このとき死刑囚が立っていた踏み板が中央から割れて下に開く。その衝撃音は読経のほかなんの音もない静寂の中にいきなり轟くので、心臓にこたえる感がある。たとえかたがうまくないかもしれないが、ぶ厚くて大きな鉄板を、堅いコンクリートの床に思いきり叩きつけたような音だという。
 この衝撃音がバターンと轟くのと死刑囚が宙吊りになるのがほとんど同時。
 宙吊りの体はキリキリとロープの限界まで回転し、次にはよりを戻すために反対方向へ回転を激しく繰り返す。大小便を失禁するのがこのときである。遠心操作によって四方にふりまかれるのを防ぐために、地下で待っていた刑務官は落下してきた死刑囚をしっかり抱いて回転を防ぐ。
 間もなく死刑囚は激しいけいれんを起こす。窒息からくるけいれんである。
 両手、両足をけいれんさせ動かすさまは、まるで死の淵からもがき逃れようとしているかに見える。手と足の動きはべつべつである。
 手は水中を抜き手を切って泳ぐように動かす。
 足は歩いて前進しているとでもいうような力強い動かしかたをする。
 やがて、強いひきつけを起こし、手足の運動は止むが、胸部は著しくふくれたりしぼんだりするのが認められる。吐くことも吸うこともかなわぬ呼吸を、胸の内部だけで行っていると思えてならない。
 頭をがくりと折り、全身が伸びきった状態になる。瞳孔が開き、眼球が突き出る。仮死状態である。
 人によっては、宙吊りになって失禁するのと同時に鼻血を吹き出すこともある。そんな場合は、眼球が突出し、舌がだらりとあごの下までたれさがった顔面が、吹き出した鼻血によって、さらに目をおおわずにはいられない形相となる。
 医官は死刑囚の立っている踏み板が外れるのと同時にストップウォッチを押す。つぎに仮死状態の死刑囚の胸を開き聴診器をあてる。心音の最後を聴くためである。もうひとりの医官が手首の脈を
とる。脈は心音より先に止まる。心臓がすっかり停止するまでには、さらにもうしばらく聴診器をあてたままでいなくてはならない。
 しかし、それも、そう長いことではない。ストップウォッチを押してから、心臓停止までの平均時間は14分半あまりである。この14分半あまりが、死刑執行に要した時間ということである。
 死刑執行の始終を見ていて、失神した立会い検事もいたという。失神はまぬがれたとしても、「死刑の立会いはもうごめんだ」というのが感想のようだ。(〜p68)
p131〜
 死刑執行で直接手を汚す役は刑務官になってあまり年数を重ねない若い刑務官が命じられることが多い。刑場付設の拘置所、刑務所に勤務すると、「執行を体験しなければ一人前の刑務官になれない」と必ず言われるということは、前に何度も書いた。
 その日の執行には、首に縄をかける役を初体験者が命じられた。先輩の刑務官に指導を受けたとはいえ、落ちついた平常心でできるわけがない。あがるのは当然である。先輩の刑務官は、踏み板が落下して、死刑囚が宙吊りされたとき、ほとんど瞬間に失神するよう注意しなくてはならないと教える。ロープをどのように首に合わせるかを説明する。しかし、いざ本番となると、執行するもののほうが頭にカーッと血がのぼる。なにがなんだかわけがわからなくなる。あせる。あわてる。
 絞縄は直径2センチ。全長7.5メートルの麻縄である。先端の部分が輪状になっていて2つの穴を穿った小判型の鉄かんで止めてある。輪状の部分を死刑囚の首にかける。鉄かんの部分が首の後部にあたるようにかける。さらに絞縄と首の間に隙間がないように密着させてギュッと締める。
 ロープをかける役の刑務官の果たすべき役割は下線の部分である。ところがこの日の初体験者はこのとおりにできず、どこかまちがった。
 なにしろわずか3秒間程度の、ほとんど瞬間といってもいいような時間内にやり終えねばならないのだ。
 ロープ担当の刑務官が、規定の方法でロープを死刑囚の首にかける。同時に他の刑務官が死刑囚の膝をひもで縛る。間髪を入れず保安課長の合図でハンドル担当者がハンドルを引く。死刑囚の立っている踏み板が落下して死刑囚が宙吊りになる。この間わずか3秒程度のものなのである。死刑囚が刑壇に立ってから一呼吸あるかないかという早業だ。
 このときも死刑囚は宙吊りにはなった。アクシデントが起こったのはこの後である。
 通常ならば、平均14分あまりで心音が停止し執行終了ということになる。けれどもこのときは大いにちがっていた。
 死刑囚がもがき苦しみつづける。ロープが正しく首を絞めていないのだ。革の部分から頬を伝って、後頭部の中央あたりに鉄かんが至っている。これでは吊るされた瞬間に失神するというわけにはいかない。意識を失うことなく、地獄の痛苦に身もだえすることになる。止むなく死刑囚の体を床に下ろし、24、5貫もある屈強な刑務官が柔道の絞め技でとどめをさして執行を終わらせた。
 死んでこそ死刑囚という考え方があるそうだが、殺してこそ執行官とでもいうところだろうか。
 とどめをさした刑務官に、後に子供が生まれた。その子どもの首がいくつになってもしっかりとすわらない。父親になった刑務官は、かつての自らの行為の、因果応報だという自責と苦悩とから解放されることがないという。
 生まれた子供の首がかなり成長してもしっかりすわらないという話はまれに聞くことである。死刑執行のさい、アクシデントが起きたために柔道の絞め技を用いた刑務官の子供の場合も、因果応報ではなく、偶然のことだ。何百万分の一かの確率に偶然的中したまでである。そんなことは当の刑務官自身にもよくわかっているのかもしれない。わかっていながらも、つい因果説に結びつけてしまう気持にもなるのだろう。止むことなく死刑執行の罪の意識に責められて明け暮れているのだから。(〜p134)

 中公新書『死刑囚の記録』加賀乙彦著
 ただ、私自身の結論だけは、はっきり書いておきたい。それは死刑が残虐な刑罰であり、このような刑罰は禁止すべきだということである。
 日本では1年に20人前後の死刑確定者が出、年間、2、30人が死刑に処せられている。死刑の方法は絞首刑である。刑場の構造は、いわゆる“地下絞架式”であって、死刑囚を刑壇の上に立たせ、絞縄を首にかけ、ハンドルをひくと、刑壇が落下し、身体が垂れさがる仕掛けになっている。つまり、死刑囚は、穴から床の下に落下しながら首を絞められて殺されるわけである。実際の死刑の模様を私は自分の小説のなかに忠実に描いておいた。
 死刑が残虐な刑罰ではないかという従来の意見は、絞首の瞬間に受刑者がうける肉体的精神的苦痛が大きくはないという事実を論拠にしている。
 たとえば1948年3月12日の最高裁判所大法廷の、例の「生命は尊貴である。一人の生命は全地球より重い」と大上段に振りあげた判決は、「その執行の方法などがその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬ」として、絞首刑は、「火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆで」などとちがうから、残虐ではないと結論している。すなわち、絞首の方法だけにしか注目していない。
 また、1959年11月25日の古畑種基鑑定は、絞首刑は、頸をしめられたとき直ちに意識を失っていると思われるので苦痛を感じないと推定している。これは苦痛がない以上、残虐な刑罰ではないという論旨へと発展する結論であった。
 しかし、私が本書でのべたように死刑の苦痛の最たるものは、死刑執行前に独房のなかで感じるものなのである。死刑囚の過半数が、動物の状態に自分を退行させる拘禁ノイローゼにかかっている。彼らは拘禁ノイローゼになってやっと耐えるほどのひどい恐怖と精神の苦痛を強いられている。これが、残虐な刑罰でなくて何であろう。
 なお本書にあげた多くの死刑囚の、その後の運命について知りたく、法務省に問い合わせたところ刑の執行は秘密事項で教えられないとのことであった。裁判を公開の場で行い、おおっぴらに断罪しておきながら、断罪の結果を国民の目から隠ぺいする、この不合理も、つきつめてみれば、国が死刑という殺人制度を恥じているせいではなかろうか。(中略)

 中公新書『死刑囚の記録』
 彼は、日記に「死刑囚は四六時中死刑囚であることを要求されている」「死刑囚が存在することは悪であり、生きていることは恥である」と書きつけている。死刑囚の死は、絞首という不自然で、しかも恥辱の形をとった死であり、それ故に、一般の人の病床の死や事故による死とちがうと彼は考えている。「死刑囚であるという状態は、悪人として死ねと命令されていることだ」とも書いている。彼は、自分の死を恥じねばならない。いったい、一般の人びとが、自分の死を恥ずかしく思うであろうか。
 だから、死刑囚の死は、私たちの死とは違うのだ。それはあくまで刑罰なのであり、彼はさげすまれて死なねばならないのだ。正田昭のように罪を悔い、信仰をえて、神の許しをえた人間も、死刑囚としては大悪人として、絞首を---実に不自然な殺され方を---されねばならない。彼は、最後までこの矛盾に苦しんでいた。死を静かに待ち、従順に受け入れながらも、自分の死の形を納得できず、恥じていたのだ。
「死刑囚であるとは、死を恥じることだ。立派な死刑囚であればあるほど、自分の死を恥じて苦しまねばならない」とも彼は書いている。
 にもかかわらず、パスカルの比喩は、有効であると私は思う。なぜならば、死刑囚もまた人間であり、人間である以上、彼が死とかかわるやり方は私たちに共通する面が多分にあるからだ。

 【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】 
 それにしても、殺人や戦争といった人間の暴力の究極の原因はどこにあるのだろうか? ゴリラの研究で著名な山極寿一は、霊長類学の最新の成果を携えて、この問題に挑戦している(『暴力はどこからきたか』NHKブックス)。無論、動物で見出されることをそのまま人間に拡張してはならない。だが、人間/動物の次元の違いに慎重になれば、動物、とりわけ人間に近縁な種についての知見は、人間性を探究する上での示唆に富んでいる。
 山極の考察で興味深いのは、暴力の対極にある行為として、贈与、つまり「分かち合う行為」を見ている点である。狩猟採集民は、分かち合うことを非常に好む。狩猟を生業とする者たちは獰猛な民族ではないかと思いたくなるが、実際には、彼等の間に戦争はない。ほとんどの動物は贈与などしないが、ゴリラやチンパンジー、ボノボ等の人間に最も近い種だけが、贈与らしきこととを、つまり(食物の)分配を行う。
 暴力を抑止する贈与こそは、「神話的暴力」を克服する「神的暴力」の原型だと言ったら、言いすぎだろうか。チンパンジーなど大型霊長類の分配行動(贈与)は、物乞いする方が至近で相手の目を覗きこむといった、スキンシップにも近い行動によって誘発される。森達也が教誨師や(元)刑務官から聞き取ったところによれば、死刑囚は、まさにそのとき、一種のスキンシップを、たとえば握手や抱きしめられることを求める。死刑の暴力の恐怖を、身体を接触し分かち合う感覚が中和しているのである。


米上下両院 12年度グアム移転予算全額削除/そろそろ「抑止力論の呪縛」から離れた議論が必要では

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普天間固定化に現実味 民主党政権、無為無策のツケ
産経ニュース2011.12.13 23:59
 米議会による在沖縄海兵隊のグアム移転経費の削除合意は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設計画の実現性に公然と疑問符を突きつけたに等しい。これに伴い、政府は平成24年度予算案からグアム移転関連予算を大幅削減せざるを得ないが、沖縄県との交渉の根拠を失うことになりかねない。民主党政権の迷走と無為無策のツケはあまりに大きい。(半沢尚久)
 「非常に残念だ。日米合意に基づき移転が円滑に進むよう米政府に働きかけを強める必要がある」
 一川保夫防衛相は13日の記者会見でそう述べたが、もはや働きかけの時機は逸した。政府は、23年度予算でグアム移転関連予算を約520億円計上したが、24年度予算案では100億円未満となる見通し。23年度予算の米側への年度内拠出も見合わせる方向で調整している。
 これにより野田佳彦首相の目算も大きく狂った。11月の日米首脳会談では移設進展の証しとして名護市辺野古への移設に関する環境影響評価書の年内提出を対米公約に掲げ、20日をメドに評価書を沖縄県に提出する方針だったからだ。
 ところが、米議会の合意には、支出凍結解除の条件として普天間移設での「具体的な進展の保証」を示すことが明記された。評価書を提出しても地元の同意を得られる見通しはなく「進展」にあたらないと見透かされていたわけだ。
 それだけに首相は、評価書を年内提出すべきか再考を迫られている。前沖縄防衛局長の不適切発言などで沖縄県は態度を硬化させており、この状況での評価書提出は反発を増幅させかねないからだ。グアム移転関連経費削減も「普天間移設だけをゴリ押しするのか」との批判を招きかねない。
 沖縄県の仲井真弘多知事は13日も「辺野古では時間がかかるから日本国内の別の場所の方が断然早い」と県外移設を重ねて求めており、評価書を受け取っても辺野古埋め立てを許可する可能性は小さい。沖縄県選出の国民新党の下地幹郎幹事長も「日米両政府は計画をリセットした方がいい」と突き放した。
 しかも米議会は、普天間飛行場と米空軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の統合案の再考を意図しているとされる。ここで地元同意の見通しのない嘉手納統合案まで検討対象に含めれば収拾がつかなくなる公算が大きい。
 米政府は、海兵隊をオーストラリアなどに分散配置することで東シナ海と南シナ海の全域で即応態勢を敷く計画だった。それだけにグアム移転と普天間移設の停滞はアジア・太平洋の安全保障の根幹を揺るがしかねない。その混乱の元凶は民主党政権によってもたらされたといえる。
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クローズアップ2011:グアム移転費削除 普天間、袋小路に
 米上下両院の軍事委員会が12会計年度(11年10月〜12年9月)の在沖縄米海兵隊のグアム移転予算の全額削除で合意したことは、セットとなった米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画と合わせ、日米双方で、在日米軍再編計画が根底から揺らいでいることを浮き彫りにした。米議会が普天間移設の遅れを予算削除の理由としたことで、日本政府は同県名護市辺野古への移設に向け、早期進展に向けた結果を見せるほか道はなくなった。しかし、県外移設を求める沖縄県を説得するめどはまったく立たない袋小路だ。
 ◇沖縄説得、政府すべなし
 「何か変更があるということではない。グアム移転を含む現行の日米合意に基づいて取り組む」。藤村修官房長官は13日の記者会見で、政府が同飛行場を辺野古に移設するための環境影響評価書を年内に沖縄県に提出する方針を示した。
 グアム移転事業は、12会計年度予算が削除されても、11会計年度までの予算のうち未消化の予算が残っているため当面は継続が可能だ。ただ、来年6、7月にもまとめられる13会計年度予算でも移転関連予算が認められなければ、計画は根本的な見直しを迫られ、セットとなった普天間移設への影響も必至。今回は、米議会が日米両政府にカネを出すだけの根拠を強く求めた「最後通告」と言える。
 日本政府は評価書提出に続いて、来年6月に沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事に、移設に必要な辺野古周辺の公有水面の埋め立て申請を行うことで進展を演出するシナリオを描く。だが、足元はぐら付いている。先月、前沖縄防衛局長が沖縄県民や女性を侮辱したと受け取れる発言で更迭され、沖縄との関係は一気に冷え込んだ。一川保夫防衛相も参院で問責決議を可決されてリーダーシップを発揮できる状況にない。グアム移転について日本政府は11年度予算で518億円を計上。12年度予算案の概算要求でも同額を計上したが、年末の予算編成では518億円から大幅に削減する方針だ。
 沖縄では米議会の動きに警戒感と期待感が入り交じる。県幹部は「県外移設を求める沖縄の立場は変わらない」と強調し、辺野古移設の強行や普天間固定化につながらないよう今後の動きをけん制する。ワシントンのシンクタンクなどから情報収集も開始した。
 一方でこの日、米議会の調査スタッフが沖縄入りし、県や名護市の幹部らと次々と面会した。普天間移設の状況を聞き取ったとみられ、米議会の関心の高さをうかがわせた。
 県議会の玉城義和副議長(名護市選出)は「辺野古移設を疑問視する米議会の判断は常識的なもの」と受け止める。その上で「沖縄は米議会と連携し、まずは移設問題を振り出しに戻すことを目指すべきだ」と語る。
 日本政府内では来年6月以降を見据え、開き直りに似た意見も聞こえ始めた。政府関係者の一人は「6月までは淡々と作業を進める。日米それぞれで、その先どうなるかわからないから」。【坂口裕彦、井本義親】
 ◇米議会、「進展」求め圧力
 オバマ大統領は、先月のオーストラリア訪問などでアジア太平洋重視の姿勢を鮮明にし、米国の財政削減論議が「地域の安全保障に影響を与えることはない」との立場を強調してきた。グアムは米軍の西太平洋の拠点として整備が進み、オバマ政権としては、海兵隊移転を含むグアム増強方針を変更するのは避けたいところだ。このため、議会側に「同盟国に対する誤ったメッセージになる」と繰り返し警告を発し移転費の復活を要求してきたが、与党・民主党が多数派の上院からはねつけられた形となった。
 12会計年度の国防権限法案は、米上下両院の軍事委員会の修正合意通り、グアム移転の関連予算約1億5600万ドル(約120億円)を全額削除した内容で、近く両院本会議で可決され、大統領の署名を経て成立する見通しだ。
 実際には、上下両院が合意した案では、あくまでも米政府が要求したアンダーセン空軍基地拡張とフィネガヤン地区の水道施設の2事業、計1億5600万ドルは「年度内に支出が必要ない」として、グアムのインフラ整備が遅れていることを表向きの理由としている。議会筋によると、これまで計上されたが工事の遅れで未消化となっている予算については支出を可能とする内容が含まれており、移転費の「全額削除」という厳しい判断を下しながらも、現時点では、海兵隊のグアム移転計画を白紙撤回する意思がないことを同時に示したものと言える。
 一方で、両院の合意案は、上院案通り、今後の移転費支出の条件として普天間移設の「目に見える進展」を挙げた。13会計年度の国防権限法案の原案が議会でまとまるのは例年6月ごろ。6月には沖縄県議選が予定されており、それまでの間に米議会が納得するような「進展」を望むのは困難だ。日米両政府が来夏以降、米議会と沖縄の双方からの圧力で、普天間移設先を含めた抜本的な米軍再編計画の見直しを求められる事態も想定される。【ワシントン古本陽荘】
毎日新聞 2011年12月14日 東京朝刊
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グアム予算削除 辺野古見直しの好機だ
2011年12月14日 中日新聞 社説
 米上下両院が在沖縄米海兵隊のグアム移転関連予算を削除することで合意した。普天間飛行場の名護市辺野古への移設も暗礁に乗り上げている。これを機に現行計画を全面的に見直してはどうか。
 住宅や学校に囲まれた米軍普天間飛行場(宜野湾市)の日本返還は必要だが、辺野古での代替施設建設が進まないので、現行の在日米軍再編計画が妥当かどうか一度立ち止まって再検討してみよう。米議会はこう考えたのだろう。
 辺野古への県内移設と、沖縄に駐留する米海兵隊員約一万五千人のうち約八千人とその家族約九千人を米領グアムに移すことは「パッケージ」とされている。
 どちらが欠けても普天間返還は実現しないとして、日米両政府は現行計画に固執してきた。
 在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県民の基地負担を軽減するためにグアムへの「国外」移転は一つの方策かもしれない。一方、辺野古に新しい基地を造ることには、もともと無理があった。
 藤村修官房長官は記者会見で、予算削除合意が現行計画に及ぼす影響を否定してみせたが、見込み違いも甚だしい。
 地元の反対が強く、実現困難な辺野古移設に固執し続ければ、グアム移転も進まず、普天間返還も実現しない。世界一危険とされる飛行場を米海兵隊が使用し続ける最悪の事態は避けねばならない。
 そのためにも、辺野古への移設を早々に断念して、現行計画全体の見直しにできる限り早く着手する必要がある。米議会がグアム移転関連予算を削除したことは、在日米軍再編計画をつくり直す好機だ。これを見逃してはならない。
 野田内閣は、辺野古移設のための環境影響評価書の年内提出を強行すべきではない。
 かつて米国防次官補として普天間返還問題に関わったジョセフ・ナイ氏は、海兵隊の豪州配備を「賢明な選択だ」と指摘し、マイク・モチヅキ米ジョージ・ワシントン大教授らは在沖縄米海兵隊の米本土移転を主張している。
 これらに共通するのは、沖縄に基地を新設するのは県民感情から難しいということ、海兵隊は沖縄に常駐する必然性はないということだ。海兵隊の沖縄駐留が抑止力になるという論法はもはや説得力を失っている。
 沖縄県民の米軍基地負担を抜本的に軽減するためには、そろそろ「抑止力論の呪縛」から離れた議論が必要ではないか。
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自分の国は自分で守る決意/境外を保護するのは法律、正義、自由ではない。国際法も国力の強弱に依存2011-01-12 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
新防衛大綱;「動的防衛力」へ/田母神俊雄著『田母神国軍』2010-12-17 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉 
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一触即発の中国・朝鮮半島情勢。米・韓・中、そして北朝鮮とどう渡り合えばいいのか2011-01-12  (抜粋)
 自分で自分を守る"大人の国"
三原 アメリカとの付き合い方をより真剣に考えていかなくてはいけない段階に入ったと思うんですが、特に尖閣事件では、日米安全保障条約の第5条(注5)の話が出ましたが、はっきりしたことは、日本の自助努力なくして日米同盟はあり得ないという事実だと思いました。そのへん、日本人の認識は甘いですね。
田母神 日本国民のほとんどが知らないと思いますが、第5条で日本が攻撃を受けたらアメリカが自動的に戦争に参加して日本を守ってくれることにはなっていません。まず、大統領が日本を守るよう軍に命令を下さなければ米軍は行動できません。さらに大統領命令は、有効期間は2ヵ月に限定されています。
 それを過ぎると、連邦議会の同意が必要となります。反日的な法案が年がら年中通る議会で、すんなり日本を守る法案が通るはずがない。仮に日本を助けるなんて言ったら、中国は「米国債を全部売りましょうか」「ワシントンに核ミサイルをお見舞いしましょうか」と脅すでしょうね。尖閣問題が、アメリカがリスクを負ってまで乗り出す案件でないことは確かです。
  注5:日米のいずれか一方に対する武力攻撃が起こった場合、両国はそれぞれ自国の憲法上の規定などに従い、共通の危険に対処すると定めている
三原 普天間基地の問題がクローズアップされて、多くの国民は沖縄県民に負担が傾斜していることを実感しましたが、同時に尖閣のことがあって、沖縄本島にアメリカ軍がいる限り、中国が沖縄本島に手を出してこないことも実感したのではないでしょうか。日米安保が抑止の機能を果たしているのは事実です。
田母神 日米関係を維持しながら、自分の国を自分で守る体制がある"大人の国"、あるいは"普通の国"を目指すべきなんです。アメリカの介入をまず望めない国際的な衝突が起きることを、私たちは目の当たりにした。だからこそ、日米安保による抑止の問題とは切り離して、まずは日本の自衛隊が国を守るべく行動できる法整備を考えなくてはならない。
三原 仮に、北朝鮮が今回以上の攻撃行動に出た場合、自衛隊はどこまで動くことができるのでしょうか。
田母神 日本は戦争に出掛けることはできません。朝鮮半島に進出した米軍は、軍人を輸送機で近い日本に運ぶでしょう。その輸送機を北朝鮮の戦闘機が追いかけてきて撃墜するかもしれない。日本のF-15は米軍機を守ろうとするでしょうが、今の法体制だと、北朝鮮機だろうと撃ち落とせば殺人罪が適用されます。
 米軍の輸送機を見殺しにすれば、この瞬間、日米同盟はジ・エンドです。要は、自衛隊も軍なのだから、国際法に基づいて動けるようにしたらいいんです。
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鈴木宗男元衆院議員 「ウソの証言で有罪に」と、北海道開発局元港湾部長を提訴

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ムネオ反撃開始「ウソの証言で有罪に」と開発局元部長を提訴
2011年12月14日
  受託収賄罪などで服役し、6日に仮釈放されたばかりの鈴木宗男元衆院議員(63)が、早くも反撃開始だ。
  北海道開発局の元港湾部長が公判で偽証したとして、3300万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。提訴は12日付。
  確定判決によると、宗男氏は北海道開発庁長官だった97〜98年、島田建設(網走市)から開発局の港湾工事受注で請託を受け、元部長に指示、島田建設から計600万円を受領したとされる。
  元部長は公判で「例の島田の件、頼むぞ」と言われたと証言。宗男氏は「指示した事実は一切ない。虚偽の証言で実刑が確定し、政治家として致命的打撃を受けた」と主張している。
  宗男氏は収監前の昨年10月にも、公判で偽証されたとして、伴次雄・元林野庁長官に3300万円の損害賠償を求めて地裁に提訴している。検察の見立て通りに証言した関係者たちは今ごろ、戦々恐々ではないか。
鈴木宗男議員上告棄却/小沢一郎氏/石川知裕議員/安田好弘弁護士2010-09-08 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 〈来栖の独白2010/09/08〉
 官僚の言いなりと堕した菅政権からの出直しを誓い、小沢一郎氏が政治生命を賭けて脱官僚依存の内閣を作ろうとしている「この時期」のムネオ氏の有罪判決。政治・政局と無関係に官僚司法がこの時期、この判断(有罪)をしたとは考えられない。
 鈴木宗男氏は、小沢氏の元秘書で議員の石川知裕被告からも慕われ、支援している。石川知裕被告の弁護人は安田好弘氏である。
 そういえば、安田好弘弁護士の2審判決も、光市事件差し戻し2審判決の翌日だった。1審無罪だったものが、有罪となった。判検一体。裁判所は、検察の言うことをきく。起訴された事件の有罪率が9割を超えるのも、ここ(判検一体)に所以する。司法は、こんなことを、幾たびもやってきた。
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鈴木議員の実刑確定へ=無罪主張の上告棄却―受託収賄など4事件・最高裁
時事通信 9月8日(水)13時47分配信
 受託収賄、あっせん収賄など四つの罪に問われた衆院議員鈴木宗男被告(62)の上告審で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は7日付で、被告側上告を棄却する決定をした。懲役2年、追徴金1100万円の実刑とした一、二審判決が確定する。
 鈴木被告は確定後、収監される。公選法などの規定により、確定すれば失職し、懲役刑の執行後5年間は立候補できなくなる。
 鈴木被告は、政治資金規正法違反罪と議院証言法違反罪を含め、一貫して全面無罪を主張していた。
 2004年の一審東京地裁判決は、すべての事件を有罪と認定した上で、「高度の廉潔性を求められる要職にありながら国民の信頼を裏切った」と非難。「反省は皆無で、虚偽の陳述をしてはばからない被告に刑を猶予するのは相当ではない」として、実刑を言い渡した。
 二審東京高裁も08年、「行政に不当な影響を及ぼし、社会の信頼を害した」として、一審を支持していた。鈴木被告をめぐる一連の事件では、佐藤優外務省元主任分析官(50)ら12人が起訴され、鈴木被告を除く11人の有罪が確定している。
 判決によると、鈴木被告は北海道開発庁長官、官房副長官だった1997〜98年、林野庁への口利きの見返りなどとして、2社から1100万円のわいろを受領するなどした。
- - - -
最高裁の決定要旨
 衆院議員鈴木宗男被告の上告を7日付で棄却した最高裁の決定の要旨は次の通り。2010/09/08 13:53【共同通信】
 【結論】
 弁護人の上告趣意のうち、判例違反の点は事案を異にする判例を引用するもので適切でなく、その余は、憲法違反の点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張で、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらない。
 【職権判断】
 受託収賄罪の成否について職権で判断する。
 北海道開発庁長官だった被告が、港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように北海道開発局港湾部長に働き掛ける行為は、職員への服務統督権限を背景に、予算の実施計画作成事務を統括する職務権限を利用して、職員に対する指導の形を借りて行われた。
 被告には港湾工事の実施に関する指揮監督権限はないとしても、働き掛けた内容は、実施計画で概要が決定される港湾工事について、競争入札を待たずに工事業者を事実上決定するものだった。
 このような働き掛けが金銭を対価に行われることは、北海道開発庁長官の本来的職務として行われる予算の実施計画作成の公正、その公正に対する社会の信頼を損なうものである。従って働き掛けは、北海道開発庁長官の職務に密接な関係のある行為というべきだ。
 弁護人は、談合にかかわる行為は、正当な職務としておよそ行い得ない違法な類型であるから、職務に密接な関係のある行為とはなり得ないと主張するが、密接関係行為に当たるかは本来の職務との関係から判断されるべきだ。違法行為であることで、その判断は直ちには左右されないと解するのが相当である。
 また受注業者の指名が港湾部長の職務権限に属することを認定せずに、指名について港湾部長を指導することが北海道開発庁長官の職務権限に属するとした二審の判断が判例(1995年2月22日大法廷判決)に違反すると主張する。
 しかし収賄罪の構成要件である「職務に関し」は、収賄公務員の職務との関連性。他の公務員に働き掛けることの請託を受けて収賄した場合であっても、働き掛けを受ける公務員の職務との関連性は構成要件そのものではない。一般的には、その職務関連性をそれ自体として認定する必要はないというべきである。
 そうすると、働き掛けを行うよう請託を受け、その報酬として金銭の供与を受けた行為が受託収賄罪に当たるとした二審の判断は正当である。
 【金築誠志裁判官の補足意見】
 受託収賄罪における北海道開発庁長官の職務権限につき、意見を補足的に述べる。
 弁護人引用の判例は、内閣総理大臣の職務権限に関するもの。内閣総理大臣については、直接に行政事務を行うことを認めるのは相当ではないとする見解が有力で、指揮監督権限は行政全般にわたる反面、極めて一般性・抽象性が高い。働き掛けを受ける公務員の職務関連性を認定することで、職務権限を認定せざるを得ない面があり、一般化は相当でない。
 働き掛けた事項が相手先の公務員の職務と無関係であれば、働き掛けに職務関連性を認めることが困難となろうが、働き掛けを受ける公務員に収賄公務員の職務関連性以上のものが要求されると解すべきではない。少なくとも働き掛けを受ける事項と職務との間に密接な関係があれば足りると解すべきである。
 港湾部長は、港湾工事の計画作成・実施に関して職務権限を有し、慣行的、常態的に本命業者の指名を行っていた。組織的に事実上職務行為化した行為とも評価でき、港湾部長の職務と密接な関係を有する行為であることは明らかだ。
 官製談合での本命業者の指名は、収賄罪の職務にはなり得ないと主張するが、収賄罪での職務が適法なものに限られないことは加重収賄罪の存在からも明らか。慣行化した官製談合の違法性、それによる信頼棄損と、慣行を利用してわいろを収賄することの違法性、それによる職務の公正に対する信頼棄損とは、別個の評価が可能。今回のような行為に関するわいろ収受が、職務の公正に対する信頼を害する程度が低いとは到底いえない。職務密接関係性を否定することは相当ではない。
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『暴走する「検察」』(別冊宝島編集部 編)より抜粋
一貫性の無い捜査
「見込み捜査がはなはだしい。だから、捜査がどこを向いているのかわからない」「行き当たりばったり。場当たり的で一貫性がない」
 特捜部が初めて鈴木宗男事件の強制捜査に踏み切った直後の5月中旬、検察外部だけでなく特捜部内部からも、捜査指揮に対する不満や、首を傾げる声が出始めた。
 複数の検察関係者と検察OBは、次のように証言する。
「そもそも国後島『友好の家』建設の入札を妨害したとして、公設第1秘書ら7人を偽計業務妨害容疑で逮捕したことからして不自然だった。特捜部には、世論の流れから鈴木代議士を逮捕しなければいけないという焦りがあったが、鈴木代議士を引っ張るネタがなかった。そこで無理やり異例ともいえる容疑を探し出し、鈴木代議士の側近の身柄を取ろうとした。
 ところが、それでも鈴木代議士の犯罪につなげることはできなかった。そこで狙いをつけたのが、鈴木代議士の側近中の側近といわれた佐藤優氏だ。佐藤氏は最初は背任容疑で逮捕されたが、本当に背任罪の構成要件を満たしていたのかどうかはかなり疑問だ。しかも、特捜部はこの佐藤氏の線からも鈴木代議士を追い込めなかった」
「特捜部が偽計業務妨害容疑で三井物産を狙ったのも、標的は鈴木代議士だった。北方事業は鈴木代議士の利権事業という見方をしていたのだ。特捜部が描いた絵は、三井物産から鈴木代議士に金が渡り、鈴木代議士が三井物産に何か便宜を図っていたという構図だった。
 しかし、鈴木代議士は三井物産と2、3回、会ってはいるが、手土産一つもらっていない。当然、現金は出てこなかった。ここでも鈴木代議士の疑惑を事件化できなかった。明らかに事件の筋読みを間違えたわけだ。
 たしかに、特捜部が手がけた一連の事件を通してみると一貫性に欠ける。この疑問を、ある法務検察関係者はこう解説する。
「特捜部長だった伊藤鉄男さんは穏やかな性格で、本来、特捜部長の器ではなかった。次の部長につなぐまでの、いわゆるリリーフ的存在だった。
 特捜部の場合、事件の捜査指揮は特捜部長が執るが、同時に東京地検の検事正と次席検事、それに最高検の担当検事と相談しながら詰めていく。ところが今回の場合、検事正はどうしたわけか、捜査にほとんど口をはさまなかったようだ。当然、特捜部長と次席検事、最高検の間で話が進められたわけだが、この次席検事と最高検との間で捜査方針が食い違っていた。伊藤さんは次席検事と最高検との間で揺れ、強い捜査指揮権を出せないまま、最終的には次席検事の意向が優先されてしまったようだ。ところが、当時の東京地検首脳は大きな問題を抱えていた。冷静に事件捜査の見通しを立てられる人材が不足していたことだ」
外務省に敗れた
 捜査関係者らの声を集めると、まだまだ首を傾げたくなるような話が出てくる。背任罪と偽計業務妨害罪で起訴されたロシア支援室の前島元課長補佐に関してもそうだ。「前島氏が取り調べのなかで、最終的にどうして容疑を認めてしまったのかわからない。彼こそ、捜査の“被害者”という見方が検察内部でも強かった。逮捕時から、容疑の確定にかなり無理をしていた。だから、もし前島氏が否認を貫き通していたなら、捜査はどうなっていたかわからない。特捜部はなんとしても認めさせようと、かなり厳しい取り調べを続けていたようだ。しかし、当初否認していた前島氏が、一転して認めた裏には、検察との取引があったという説も出ている」
 たしかに、特捜部の取り調べは厳しい。過去に取り調べを受けたことのある元会社役員は、「とにかく人格を全否定されるんです。罵倒されるのは序の口で、女房はもちろんだが、孫のことまで持ち出す。それまでいちおう社会的な地位があったので、それには耐えられなかった」「調書が知らないところでできあがっていて、しきりに署名するよう強要されたことを覚えている」と話す。
 前島氏の場合も、同様な取り調べが行われたのだろうか? それとも特捜部から何らかの形で取引を求められたのだろうか? いずれにせよ、前島氏に対する同諍論が検察内部にあることは事実だ。
 ところで、この背任事件については最初から、外務省の大物である東郷和彦・元欧亜局長の関与が指摘されていた。前述の前島氏らは国際学会への派遣費用などを外務省の関連団体「支援委員会」に不正に支出させていたとして背任罪に問われているが、東郷氏はこの支出に関し、東亜局長として前島氏が起案した決裁書にサインするなどしていた。新聞報道などによると、前島氏も特捜部の調べに対し、「東郷氏の指示で違法な決済書類を作成した」と供述したとされており、東郷氏に対する疑惑が深まっていた。
 ところが、東郷氏は疑惑が取り沙汰されて以来、日本を離れてヨーロッパに滞在。特捜部の参考人聴取も、病気療養を理由に出頭を引き延ばしていた。最終的に、検事がヨーロッパに出向いて参考人聴取したが、その結果、私的な流用はなかったとして立件は見送られた。
 しかし、捜査関係者はこう言う。
「どうして東郷氏の逮捕に踏み切らなかったのか? 佐藤、前島両氏を背任罪で起訴しておきながら、それを指揮した疑いの強い東郷氏の立件を見送ったことは理解できないし、公正さを欠く。失態といっても過言ではない」
 また、別の検察関係者はこう話す。
「今回の捜査では当初、『支援委員会』が、税法上不要な消費税分を事業費に上乗せして受注業者に支払っていた問題を狙っていた。消費税の上乗せ分は、2億6000万円を超える。当初、支援委員会による背任事件として立件を検討したこともある。もし、そのまま捜査を始めていればもっと違った展開になり、捜査もスムーズにいったかもしれない」
 外務省が、検察当局の本格的な捜査を受けたのは初めてのことだ。特捜部の事情聴取を受けた職員の数は100人を超える。
 しかし----。
「そもそも、今回の鈴木宗男事件の発端は外務省との癒着問題だった。それが捜査を終えてみると、外務省の本丸には切り込めなかった。佐藤氏ら外務省を摘発はしたが、局長や課長クラスの刑事責任は追及できなかった。鈴木宗男疑惑の中心にあった外務省との癒着、疑惑はほとんど解明されなかったという結果を見ると、検察の敗北と言わざるをえない」(東京地検関係者)
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安田弁護士事件 西日本新聞(2004年01月22日掲載)
 住宅金融専門会社(住専)の大口貸し付け先だった「スンーズコーポレーション」(東京)が、ビル賃料の差し押さえを免れようと実体のないダミー会社を設立。一九九三年から九六年にかけ、賃貸料約二億千万円を同社の口座に振り込み財産を隠したとして、警視庁は同社社長らを逮捕。その後、隠匿を指示した疑いで顧問弁護士の安田好弘氏を逮捕した。
 だが、安田氏の公判でこの二億千万円は、同社の倒産に備え、従業員四人が無断で横領していた事実が判明した。同社社長らはすでに一、二審とも有罪判決を受け、上告中。
 深く読む・核心に迫る、追う=揺らぐ検察の「正義」 安田好弘弁護士に無罪 背景にオウム裁判や「国策」の不良債権回収 「判決、まるで告発文」
 判決というより、裁判所の「告発文」と私には思えた―。強制執行妨害罪に問われ、昨年12月24日、東京地裁から無罪を言い渡された安田好弘弁護士は、私にこう語った。オウム真理教(アレフと改称)の元代表・松本智津夫(麻原彰晃)被告の主任弁護人を務めるほか、死刑廃止運動の先頭に立つ「人権派」の旗手。そんな安田氏の逮捕、起訴、そして無罪判決からみえてくるのは、この国の司法に潜む闇である。(北九州支社・宮崎昌治)
 「あなたが当裁判所に起訴され、本日でちょうど満五年となります」。
 無罪判決を言い渡した後、川口政明裁判長は安田氏に語りかけた。一九九八年十二月六日、安田弁護士は警視庁に逮捕され、同二十五日に東京地検から起訴された。
 裁判長は続けた。
 「審理が少し長引きご迷惑をおかけしました。私は、わたしなりに事件の解明に努力したつもりです。いろいろ話したいこともありますが、中途半端に余計なことを入れるのはやめておきましょう」
 そして「今度、法廷でお会いするときは、今とは違う形でお会いできることを希望します」。こう結ぶと、もう一度「被告人は無罪」と繰り返し、法廷を後にした。
 千二百人を超える大弁護団と検察の威信を賭けた攻防は、安田氏側の全面勝利でその第一幕を閉じた。
  □   ■
 なぜ、安田氏は無罪なのか。
 判決は、検察が有罪を立証しようとした関係者の供述調書作成に「捜査官の強引な誘導があったことが強く疑われる」と指摘。そのうえで、捜査と公判における検察官の立証活動に「より根本的で重大な問題がある」と強く批判している。
 それは何か。
 警視庁と東京地検は、安田氏が顧問を務める不動産会社で、使途不明となっていた二億千万円を「債権回収を妨害するため、安田氏が指示して隠した」と見立てた。
 だが、実はこの金は同社従業員らが横領していた。検察は安田氏の逮捕・起訴前に実は、その事実を知り、見立て違いに気付いていた。だが、既定方針通り安田氏を逮捕・起訴し、公判でも、その事実を隠した。しかも、横領事件の追及を全くしていない。
 このような検察官の態度を判決は「アンフェア」とし、従業員の横領を不問に付した行為を「一種の司法取引のような形で、全面的に捜査機関に迎合する供述を行ったとみられてもやむを得ない」と結論付けた。
 言葉は穏やかだが、捜査、公判における検察の「不正義」を断罪している。弁護団は「判決が検察に対し、捜査段階のみならず、公判での不正義にまで言及したのは過去に例がない」と話す。
  □   ■
 だが、問題はそれだけにとどまらない。
 より「根本的」な問題は、なぜ安田氏が逮捕されたか、ということだ。その理由を重ね併せると、恐るべき権力犯罪のにおいがしてくる。
 当時、麻原裁判での安田氏の強力な弁護活動に検察はてこずっていた。一方で、世間からは遅々として進まぬ裁判への批判が高まっていた。
 さらに、安田氏を告発したのは、不良債権処理という「国策」を遂行していた中坊公平氏率いる旧住管機構である。当時、中坊氏こそが「正義の旗手」であり、中坊氏の債権回収に世間は喝さいを送っていた。
 最後に、安田氏は捜査機関にとって長年、手ごわい「敵」であり、「じゃま」な存在だった。
 “民意”を追い風にした、こうした政治的背景が「安田氏逮捕」に見え隠れする。この事件を検証したジャーナリストの魚住昭氏は著書「特捜検察の闇」(文芸春秋)で「捜査の目的は真実や正義の追究ではない。安田を葬り去ることである」と記している。
 捜査に100%はない。警察も検察も、ときに間違う。だが、それは正義を追究した結果の「過失」であって初めて成り立つ言い訳であり、間違いが「故意」であれば、これほど恐ろしい権力犯罪はない。
 ちなみに、中坊氏は今回の判決の直前、強引な不良債権回収の違法性が指摘され、弁護士廃業に追い込まれた。オウム裁判における安田氏の弁護活動は、地下鉄サリン事件で夫を亡くした高橋シズエさんでさえ、私の取材に「黙秘する被告も、安田さんが質問すると返事をする。法廷が終わると、私たちにも『つらかったでしょう』と声を掛ける。相手の心の中に入ってゆける人で、安田さんがいなければオウム裁判は成り立たない」と語っていたことも、つけ加えたい。
  □   ■
 無罪判決後の、安田氏の言葉を紹介する。
 「逮捕直後は、正直言って『やっとこれで弁護士をやめられる』と、ほっとした」 当時、安田氏はオウム裁判に忙殺され、徹夜も度々という生活で月四回の公判に備えていた。逮捕直前、私が事務所に出向くと、安田氏の机の脇には、寝袋と折り畳み式ベッドがあった。
 「しかし三、四日して体力が回復してくると、激しい怒りが抑えようもなくわき上がり、怒りで目が覚めることも度々でした」 「捜査・公判は事実ではなく、政治的意図に基づいて動いていた。私は警察と検察が敵対するものをつぶすために権力を使ったと、そう思っています。そして、私の身に起こったことは、ほかでも起こっている。これでは戦前の国家警察とどこが違うのか」
 裁判長は何を「いろいろ話したかった」のか。そこに、底知れぬ権力犯罪のにおいを感じとっていたのではないかと、私は思っている。そして、検察の「正義」を疑うことなく、私を含めてメディアはまたも、逮捕・起訴段階で安田氏の「断罪報道」を繰り返してしまった。
 検察は東京高裁に控訴し、審理はなお続く。
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強制執行妨害罪・安田好弘被告に逆転有罪
2008年4月23日 産経新聞
 旧住宅金融専門会社(住専)の大口融資先だった不動産会社に資産の差し押さえを免れるように指示したとして、強制執行妨害罪に問われた弁護士、安田好弘被告(60)の控訴審判決公判が23日、東京高裁で開かれた。池田耕平裁判長は、1審東京地裁の無罪判決を破棄し、罰金50万円(求刑懲役2年)の逆転有罪を言い渡した。
 判決によると、安田被告は、不動産会社社長(72)=懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決確定=らと共謀し、同社の所有するビル2棟の賃料の差し押さえを免れるため、平成5年3月〜8年9月、ビルをダミー会社に転貸したように装い、計約2億円を隠した。
 安田被告が、ビルを別会社に転貸して賃料を移し替えるというスキームを考案したことには争いはない。控訴審では、このスキームが強制執行を免れる目的で提案されたものか否か▽社長らとの共謀の有無−などが争われた。
 検察側は、安田被告が提案したビルの転貸は「結果的に強制執行妨害を生じさせることは明らかで違法」と指摘。共犯者の供述などからも「共謀が認められる」と主張していた。
 一方、弁護側は1審の約1200人を大きく上回る約2100人の弁護団を結成。1審同様に「事件は捜査当局が作り上げたもの」などと無罪主張していた。池田裁判長は、共犯者の供述内容を認めた上で、「幇助(ほうじょ)犯にとどまる」と判断した。
 1審判決は、安田被告との共謀を認めた共犯者らの供述を「信用できない」と判断。「スキームは適法な再建策。強制執行逃れの指示ではない」として無罪を言い渡した。
 安田被告は、22日に広島高裁で死刑判決が言い渡された山口県光市の母子殺害事件など多くの刑事事件で弁護人を務めているほか、死刑廃止運動の中心的存在としても知られる。

「安田事件」/“民意”を追い風にした政治的背景/底知れぬ権力犯罪のにおい/繰り返される断罪報道2011-12-10 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
鈴木宗男前衆院議員「議員秘書として永田町に戻る」「私は一貫して小沢氏の立場を支持している」2011-12-10 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
鈴木宗男元衆院議員 仮釈放記者会見/「帰りを祝う会」に小沢一郎・鳩山由紀夫氏ら100人以上の国会議員2011-12-07 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

平岡秀夫法相 死刑執行について「個別の問題は個別の問題として慎重に判断していきたい」

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死刑執行、慎重に判断=「制度の勉強続けたい」−平岡法相
 平岡秀夫法相は14日午後、山口市で記者会見し、死刑制度について「従来私自身悩んできた問題」とした上で、「(法務省内に設置した死刑制度に関する)勉強会で勉強を続けていきたい」と強調した。勉強会が続いている間の死刑執行については「個別の問題は個別の問題として慎重に判断していきたい」と述べるにとどめた。 2010年7月に死刑が執行されて以降、死刑は執行されておらず、11年に死刑執行がなければ、1992年以来19年ぶりとなる。(時事通信2011/12/14-20:56)
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オウム裁判:遠藤誠一被告の死刑確定 189人判決確定
 地下鉄・松本両サリンなど4事件で殺人罪などに問われ、11月21日の最高裁判決で1、2審の死刑が維持されたオウム真理教元幹部、遠藤誠一被告(51)に対し、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は12日付で、判決訂正の申し立てを棄却する決定を出した。これでオウム真理教による一連の事件で13人目の死刑が確定し、起訴された189人全員の判決が確定した。
 一連の事件では▽死刑13人▽無期懲役5人▽有期懲役80人▽執行猶予付き87人▽罰金3人▽無罪1人−−が確定。松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(56)が95年5月に逮捕されてから終結まで約16年7カ月を要した。一方で、まだ指名手配中の容疑者が3人いる。
 刑事訴訟法は、死刑執行は判決確定から6カ月以内に命令しなければならないと定めるが、共犯者の判決確定までの期間は算入しないとしている。元死刑囚に対し1953年に言い渡された大阪高裁判決は「未逮捕の共犯者がいることを理由に、漫然と死刑囚の執行を遅らせることは当を得ない」として「共犯者の逮捕前の死刑執行命令は適法」という先例的判断を示している。【石川淳一】毎日新聞 2011年12月13日 20時49分
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◆『年報・死刑廃止2011 震災と死刑 生命を見つめなおす』
P11〜
 3.11以降も出続ける死刑判決
安田:僕がここで発言するのはあまりふさわしくないと思うんですね。というのは、震災とは一番距離のあるところにいまして、どうしても僕なんかは毎日死刑のことを考え、あるいは死刑事件の弁護であくせくしているものですから、死刑という視点でしか3.11の出来事もとらえることができなくて、3.11をきっかけにどのように社会がブレるんだろうかと。たとえば2万人もの亡くなった人と行方不明の人がいる。にもかかわらず、なんで、1人、2人の、しかも事件を犯してしまった人たちの命を守らなきゃならないのか、ということで、死刑囚の人たちの命が危険にさらされるんじゃないかと、命の価値がどんどん貶められるんじゃないかという恐れがあります。また一方では、いやこれだけのたくさんの方が亡くなり、あるいは悲惨なことが起こったんだから、この際、出直そうじゃないか、リセットしようじゃないかということで、みんなが寛容になるということになるのか。私たちが生き残ることでできたことで、命のありがたさ、大切さを知る。過去の歴史を見ると、これだけの大きく不幸なことが起こったときには、赦免が行われて、それで国家が一体となってもういっぺん出直していくということとか、自分たちがやってきたことを見直して殺生をやめようとか、生き方を変えるとかも行われてきたわけですけれども。そのどちらに進むのかなと、ジーッと見ていたわけです。
 しかし、今は、まだ原初的な段階にあって、思想的にも、社会制度的にも、一種の無政府状態、混乱状態にある。それをどっちかに行かせるような大きな力はまだ生まれてきていない、そういう状況なのかなと思っているんです。
 だから僕たちの役割は、たいへん重要なところにあると思っているんですけれども、そういう中にあっても、この間、6月になって、裁判員裁判で死刑判決がしっかり出ているんですよね。しかも連続的に、何の動揺も躊躇もなしにですよ。
 裁判員裁判は、その準備だけでも大変な作業です。6月に判決となると、半年以上前から準備が始まる。その間、3.11があったわけですが、それに何の影響も受けることなく、むしろ、それが優先事項であるかのように、予定されたシナリオどおりに死刑判決が出てくるということにちょっと怖さを感じています。
P12〜
 東電は誰も死刑にならないのか
岩井:今の話を聞いて、明日世界が滅びようとも死刑の執行はすべきだと言ったという哲学者の言葉を思い出しました。それが今日の座談会の底を流れる問題提起になっていくのかなと思います。 ◆「死刑執行、教祖から」と江川紹子氏は云うが・・・/【63年法務省矯正局長通達】に見る行刑の苦難2011-12-04 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
死刑執行「教祖から」ジャーナリスト・江川紹子さん
産経ニュース2011.11.27 19:26(より、抜粋)
 「死刑執行の順番を間違えちゃいけない」
 江川紹子さん(53)。今後、手続きが取られていくことになるであろう死刑執行に、思いを至らせる。
 例外はあるが日本の死刑執行は、判決確定日が早い死刑囚から順に執行されるのが原則だ。
 裁判で死刑判決となった元幹部らは13人。罪を認めた元幹部ほど裁判の終結は早い。罪を認めようとしなかった者や、裁判に背を向けた者ほど、審理に時間がかかった。
 「反省して罪を認めた人から刑が執行されるようなことになれば、正義に反する。ましてや犯行を首謀した麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(56)より先に、弟子が執行されるようであってはならない」
 審理については、麻原死刑囚が何も語らなかったことなどから「真相に十分は迫れなかった」という不満を訴える関係者らの声が少なからずある。
 だが江川さんは、「私は一連の裁判を、もっと肯定的にとらえたい」と話す。
 「確かに時間も費用もかかった。でも、それは法治国家として必要なもので、裁判から得るべきものも多かったのではないか」
 裁判から得るべき教訓をこう考える。「膨大な時間をかけた被告人質問や証人尋問からは、教団やカルト、マインドコントロールといった恐ろしさは、とてもよく出ていたし、十分に伝わってきたと思う。
= = =
〈来栖の独白2011/12/04 Sun.〉
 【死刑執行「教祖から」】との野太いタイトルに驚いた。麻原彰晃(松本智津夫)氏の刑確定に至った経緯に、江川氏は無関心のようだ。裁判全般についても、「膨大な時間をかけた・・・恐ろしさは、とてもよく出ていた」と評価する。
 なぜ麻原氏は語らなくなったのか、確定したのか、これらは拘置所行政や裁判(刑事弁護)の闇の闇を露呈している。
獄中の麻原彰晃に接見して/会ってすぐ詐病ではないと判りました/拘禁反応によって昏迷状態に陥っている2011-11-30 | 死刑/重刑/生命犯 問題
 加賀乙彦著『悪魔のささやき』集英社新書2006年8月17日第1刷発行
 p145〜
 獄中の麻原彰晃に接見して
 2006年2月24日の午後1時、私は葛飾区小菅にある東京拘置所の接見室にいました。強化プラスチックの衝立をはさみ、私と向かい合う形で車椅子に座っていたのは、松本智津夫被告人、かつてオウム真理教の教祖として1万人を超える信者を率い、27人の死者と5千5百人以上の重軽傷者を出し、13の事件で罪を問われている男です。
p146〜
 04年2月に1審で死刑の判決がくだり、弁護側は即時、控訴。しかし、それから2年間、「被告と意思疎通ができず、趣意書が作成できない」と松本被告人の精神異常を理由に控訴趣意書を提出しなかったため、裁判はストップしたままでした。被告の控訴能力の有無を最大の争点と考える弁護団としては、趣意書を提出すれば訴訟能力があることを前提に手続きが進んでしまうと恐れたのです。それに対し東京高裁は、精神科医の西山詮に精神鑑定を依頼。その鑑定の結果を踏まえ、控訴を棄却して裁判を打ち切るか、審議を続行するかという判断を下す予定でした。2月20日、高裁に提出された精神状態鑑定書の見解は、被告は「偽痴呆性の無言状態」にあり、「訴訟能力は失っていない」というもの。24日に私が拘置所を訪れたのは、松本被告人の弁護団から、被告人に直接会ったうえで西山の鑑定結果について検証してほしいと依頼されたためです。
 逮捕されてから11年。目の前にいる男の姿は、麻原彰晃の名で知られていたころとはまるで違っていました。トレードマークだった蓬髪はスポーツ刈りになり、髭もすっかり剃ってあります。その顔は、表情が削ぎ落とされてしまったかのようで、目鼻がついているというだけの虚ろなものでした。灰色の作務衣のような囚衣のズボンがやけに膨らんでいるのは、おむつのせいでした。
「松本智津夫さん、今日はお医者さんを連れてきましたよ」
 私の左隣に座った弁護士が話しかけ、接見がはじまりましたが、相変わらず無表情。まったく反応がありません。視覚障害でほとんど見えないという右目は固く閉じられたままで、視力が残っている左目もときどき白目が見えるぐらいにしか開かない。口もとは力なくゆるみ、唇のあいだから下の前歯と歯茎が覗いています。
 重力に抵抗する力さえ失ったように見える顔とは対照的に、右手と左手はせわしなく動いていました。太腿、ふくらはぎ、胸、後頭部、腹、首・・・身体のあちこちを行ったり来たり、よく疲れないものだと呆れるぐらい接見のないだ中、ものすごい勢いでさすり続けているのです。
「あなたほどの宗教家が、後世に言葉を残さずにこのまま断罪されてしまうのは惜しいことだと思います」
「あなたは大きな教団の長になって、たくさんの弟子がいるのに、どうしてそういう子供っぽい態度をとっているんですか」
 何を話しかけても無反応なので、持ち上げてみたり、けなしてみたり、いろいろ試してみましたが、こちらの言うことが聞こえている様子すらありません。その一方で、ブツブツと何やらずっとつぶやいている。耳を澄ましてもはっきりとは聞こえませんでしたが、意味のある言葉でないのは確かです。表情が変わったのは、2度、ニタ〜という感じで笑ったときだけ。しかし、これも私が投げた言葉とは無関係で、面談の様子を筆記している看守に向かい、意味なく笑ってみせたものでした。
 接見を許された時間は、わずか30分。残り10分になったところで、私は相変わらず目をつぶっている松本被告人の顔の真ん前でいきなり、両手を思いっきり打ち鳴らしたのです。バーンという大きな音が8畳ほどのがらんとした接見室いっぱいに響き渡り、メモをとっていた看守と私の隣の弁護士がビクッと身体を震わせました。接見室の奥にあるドアの向こう側、廊下に立って警備をしていた看守までが、何事かと驚いてガラス窓から覗いたほどです。それでも松本被告人だけはビクリともせず、何事もなかったかのように平然としている。数分後にもう1度やってみましたが、やはり彼だけが無反応でした。これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態におちいっている。そう診断し、弁護団が高裁に提出する意見書には、さらに「現段階では訴訟能力なし。治療すべきである」と書き添えたのです。
 拘禁反応というのは、刑務所など強制的に自由を阻害された環境下で見られる反応で、ノイローゼの一種。プライバシーなどというものがいっさい認められず、狭い独房に閉じ込められている囚人たち、とくに死刑になるのではという不安を抱えた重罪犯は、そのストレスからしばしば心身に異常をきたします。
 たとえば、第1章で紹介したような爆発反応。ネズミを追いつめていくと、最後にキーッと飛びあがって暴れます。同じように、人間もどうにもならない状況に追い込まれると、原始反射といってエクスプロージョン(爆発)し、理性を麻痺させ動物的な状態に自分を変えてしまうことがあるのです。暴れまわって器物を壊したり、裸になって大便を顔や体に塗りつけ奇声をあげたり、ガラスの破片や爪で身体中をひっかいたり・・・。私が知っているなかで1番すさまじかったのは、自分の歯で自分の腕を剥いでいくものでした。血まみれになったその囚人は、その血を壁に塗りつけながら荒れ狂っていたのです。
 かと思うと、擬死反射といって死んだようになってしまう人もいます。蛙のなかには、触っているうちにまったく動かなくなるのがいるでしょう。突っつこうが何しようがビクともしないから、死んじゃったのかと思って放っておくと、またのそのそと動き出す。それと同じで、ぜんぜん動かなくなってしまうんです。たいていは短時間から数日で治りますが、まれに1年も2年も続くケースもありました。
 あるいはまた、仮性痴呆とも呼ばれるガンゼル症候群におちいって幼児のようになってしまい、こちらの質問にちょっとずれた答えを返し続ける者、ヒステリー性の麻痺発作を起こす者。そして松本被告人のように昏迷状態におちいる者もいます。
 昏迷というのは、昏睡の前段階にある状態。昏睡や擬死反射と違って起きて動きはするけれど、注射をしたとしても反応はありません。昏迷状態におちいったある死刑囚は、話すどころか食べることすらしませんでした。そこで鼻から胃にチューブを通して高カロリー剤を入れる鼻腔栄養を行ったところ、しばらくすると口からピューッと全部吐いてしまった。まるで噴水のように、吐いたものが天井に達するほどの勢いで、です。入れるたびに吐くので、しかたなく注射に切り替えましたが、注射だとどうしても栄養不足になる。結局、衰弱がひどくなったため、一時、執行停止処分とし、精神病院に入院させました。
 このように、昏迷状態におちいっても周囲に対して不愉快なことをしてしまう例が、しばしば見られます。ただ、それは無意識の行為であり、病気のふりをしている詐病ではありません。松本被告人も詐病ではない、と自信を持って断言します。たった30分の接見でわかるのかと疑う方もいらっしゃるでしょうが、かつて私は東京拘置所の医務部技官でした。拘置所に勤める精神科医の仕事の7割は、刑の執行停止や待遇のいい病舎入りを狙って病気のふりをする囚人の嘘や演技を見抜くことです。なかには、自分の大便を顔や身体に塗りたくって精神病を装う者もいますが、慣れてくれば本物かどうかきっちり見分けられる。詐病か拘禁反応か、それともより深刻な精神病なのかを、鑑別、診断するのが、私の専門だったのです。
 松本被告人に関しては、会ってすぐ詐病ではないとわかりました。拘禁反応におちいった囚人を、私はこれまで76人見てきましたが、そのうち4例が松本被告人とそっくりの症状を呈していた。サリン事件の前に彼が書いた文章や発言などから推理するに、松本被告人は、自分が空想したことが事実であると思いこんで区別がつかなくなる空想虚言タイプだと思います。最初は嘘で、口から出まかせを言うんだけれど、何度も同じことを話しているうちに、それを自分でも真実だと完全に信じてしまう。そういう偏りのある性格の人ほど拘禁反応を起こしやすいんです。
 まして松本被告人の場合、隔離された独房であるだけでなく、両隣の房にも誰も入っていない。また、私が勤めていたころと違って、改築された東京拘置所では窓から外を見ることができません。運動の時間に外に出られたとしても、空が見えないようになっている。そんな極度に密閉された空間に孤独のまま放置されているわけですから、拘禁反応が表れるのも当然ともいえます。接見中、松本被告人とはいっさいコミュニケーションをとれませんでしたが、それは彼が病気のふりをしていたからではありません。私と話したくなかったからでもない。人とコミュニケーションを取れるような状態にないからなのです。(〜p151)
 「死刑にして終わり」にしないことが、次なる悪魔を防ぐ
 しかるに、前出の西山医師による鑑定書を読むと、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく、偽痴呆性の無言状態にある〉と書かれている。偽痴呆性というのは、脳の変化をともなわない知的レベルの低下のこと。言語は理解しており、言葉によるコミュニケーションが可能な状態です。西山医師は松本被告に3回接見していますが、3回とも意味のあるコミュニケーションは取れませんでした。それなのにどうして、偽痴呆性と判断したのでしょうか。また、拘禁反応と拘禁精神病は違うものであるにもかかわらず、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく〉と、あたかも同じ病気で片や病状が軽く、片や重いと受けとれるような書き方をしてしまっている。
 鑑定書には、さらに驚くべき記述がありました。松本被告人は独房内でみずからズボン、おむつカバー、おむつを下げ、頻繁にマスターベーションをするようになっていたというのです。05年4月には接見室でも自慰を行い、弁護人の前で射精にまで至っている。その後も接見室で同様の行為を繰り返し、8月には面会に来た自分の娘たちの前でもマスターベーションにふけったそうです。松本被告人と言葉によるコミュニケーションがまったく取れなかったと書き、このような奇行の数々が列挙してあるというのに、なぜか西山医師は唐突に〈訴訟をする能力は失っていない〉と結論づけており、そういう結論に至った根拠はいっさい示していない。失礼ながら私には、早く松本被告人を断罪したいという結論を急いでいる裁判官や検事に迎合し、その意に沿って書かれた鑑定書としか思えませんでした。
 地下鉄サリン事件から11年もの歳月が流れているのですから、結論を急ぎたい気持ちはわかります。被害者や遺族、関係者をはじめ、速やかな裁判の終結と松本被告人の断罪を望んでいる人も多いでしょう。死刑になれば、被害者にとっての報復にはなるかもしれません。しかし、20世紀末の日本を揺るがせた一連の事件の首謀者が、なぜ多くの若者をマインド・コントロールに引き込んだのかは不明のままになるでしょう。
 オウム真理教の事件については、私も非常に興味があったため裁判記録にはすべて目を通し、できるだけ傍聴にも行きました。松本被告人は、おそらく1審の途中から拘禁ノイローゼになっていたと思われます。もっと早い時期に治療していれば、これほど症状が悪化することはなかったはずだし、治療したうえで裁判を再開していたなら10年もの月日が無駄に流れることもなかったでしょう。それが残念でなりません。
 拘禁反応自体は、そのときの症状は激烈であっても、環境を変えればわりとすぐ治る病気です。先ほど紹介した高カロリー剤を天井まで吐いていた囚人も、精神病院に移ると1カ月で好転しました。ムシャムシャ食べるようになったという報告を受けて間もなく、今度は元気になりすぎて病院から逃げてしまった。すぐに捕まって、拘置所に戻ってきましたが。
 松本被告人の場合も、劇的に回復する可能性が高いと思います。彼の場合は逃亡されたらそれこそたいへんですから、病院の治療は難しいでしょうが、拘置所内でほかの拘留者たちと交流させるだけでもいい。そうして外部の空気にあててやれば、半年、いやもっと早く治るかもしれません。実際、大阪拘置所で死刑囚を集団で食事させるなどしたところ、拘禁反応がかなり消えたという前例もあるのです。(〜p153)

 上掲タイトルのように、江川氏は、死刑執行「教祖から」と云われる。
 死刑執行の現場から考えてみたい。同一事件でも、死刑確定の時期によって刑執行の期日にズレはある。オウム真理教事件のように死刑囚が多勢になれば、全員同日執行は余程の困難が予想される。
 期日をずらせばずらしたことにより、拘置所の管理運営は困難を極める。(たとえば、外部交通を遮断したとしても)自分と同事件の死刑囚が執行されたことを耳に入れずに済ませることは、苦肉の策に違いない。耳に入れば、死刑囚は動揺する。心情の安静は保ちにくい。いずれしても、拘置所職員の労苦は、並大抵ではないだろう。
◆【63年法務省矯正局長通達】
法務省矯正甲第96号
昭和38年3月15日
死刑確定者の接見及び信書の発受について
 接見及び信書に関する監獄法第9章の規定は、在監者一般につき接見及び信書の発受の許されることを認めているが、これは在監者の接見及び信書の発受を無制限に許すことを認めた趣旨ではなく、条理上各種の在監者につきそれぞれその拘禁の目的に応じてその制限の行われるべきことを基本的な趣旨としているものと解すべきである。
 ところで、死刑確定者には監獄法上被告人に関する特別の規定が存する場合、その準用があるものとされているものの接見又は信書の発受については、同法上被告人に関する特別の規定は存在せず、かつ、この点に関する限り、刑事訴訟法上、当事者たる地位を有する被告人とは全くその性格を異にするものというべきであるから、その制限は専らこれを監獄に拘置する目的に照らして行われるべきものと考えられる。
 いうまでもなく、死刑確定者は死刑判決の確定力の効果として、その執行を確保するために拘置され、一般社会とは厳に隔離されるべきものであり、拘置所等における身柄の確保及び社会不安の防止等の見地からする交通の制約は、その当然に受忍すべき義務であるとしなければならない。更に拘置中、死刑確定者が罪を自覚し、精神の安静裡に死刑の執行を受けることとなるよう配慮さるべきことは刑政上当然の要請であるから、その処遇に当たり、心情の安定を害するおそれのある交通も、また、制約されなければならないところである。
 よって、死刑確定者の接見及び信書の発受につきその許否を判断するに当たって、左記に該当する場合は、概ね許可を与えないことが相当と思料されるので、右趣旨に則り自今その取扱いに遺憾なきを期せられたい。
    記
一、本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合
二、本人の心情の安定を害するおそれのある場合
三、その他施設の管理運営上支障を生ずる場合

 死刑囚の心情の安静に苦渋するのも刑務官なら、実際に手をかけねばならない(死刑執行する)のも、彼らである。職務とはいえ、人を、白昼、殺さねばならない。
 江川氏も含めて、数分でもよい。我々国民一人一人が、現場の人の心情を忖度してみてはどうだろう。
 そこのところを、下記論説は言っている。
論壇時評【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】(抜粋)
 日本は、「先進国」の中で死刑制度を存置しているごく少数の国家の一つである。井上達夫は、「『死刑』を直視し、国民的欺瞞を克服せよ」(『論座』)で、鳩山邦夫法相の昨年の「ベルトコンベヤー」発言へのバッシングを取り上げ、そこで、死刑という過酷な暴力への責任は、執行命令に署名する大臣にではなく、この制度を選んだ立法府に、それゆえ最終的には主権者たる国民にこそある、という当然の事実が忘却されている、と批判する。井上は、国民に責任を再自覚させるために、「自ら手を汚す」機会を与える制度も、つまり国民の中からランダムに選ばれた者が執行命令に署名するという制度も構想可能と示唆する。この延長上には、くじ引きで選ばれた者が刑そのものを執行する、という制度すら構想可能だ。死刑に賛成であるとすれば、汚れ役を誰かに(法相や刑務官に)押し付けるのではなく、自らも引き受ける、このような制度を拒否してはなるまい。(大澤真幸 京都大学大学院教授)

死刑の刑場を初公開=東京拘置所 / 死刑とは何か〜刑場の周縁から〔2〕2010-08-27
 角川文庫『死刑執行人の苦悩』 大塚公子著
p65〜
 心の中で合掌し、任務を果たすことに集中した。
 執行はすばやく行わなくてはならない。Cさんが首にロープをかけるのと、べつの刑務官が膝をひもで縛るのと同時。間髪を入れずもうひとりの刑務官が保安課長の合図を見て、ハンドルを引く。この間、時間にしてわずか3秒ぐらいのものである。
p66〜
 立会いはごめんだ
 ハンドルが引かれると、同時に死刑囚の体は地下に落下する。足下の踏み板が中央から二つに割れ、宙吊りになって絞首される仕掛けになっているのである。
 宙吊りになると、医学的見地からはほとんど瞬間的に意識を失い、死刑囚に肉体的苦痛はない、とされている。処刑されてしまった死刑囚にじっさいに苦しくなかったかどうかたずねることはできない。意識を失ってほとんど苦しむことはないので、死刑は残虐ではないという理屈がまかりとおった。
 憲法では残虐な刑罰を禁止している。
 死刑判決を受けた被告人は弁護人とともに、この憲法をたてに、死刑は違憲であると訴える。
 しかし、裁判所は、吊るされた瞬間に死刑囚は意識を失い、苦しみはほとんど知ることはない、したがって絞首刑は憲法にいうところの残虐な刑にはあたらないと主張する。
 じっさいに意識を失ってしまって、いっさいの苦痛が皆無であったかどうか、絞首された当人にたずねることができないのはいまも言ったとおりである。
 執行現場で見たとおりの話はこうだ。
 宙吊りになった死刑囚はテレビドラマなどで見るように、単純にだらりと吊り下がるのではない。
 いきなりズドンと宙吊りになる。このとき死刑囚が立っていた踏み板が中央から割れて下に開く。その衝撃音は読経のほかなんの音もない静寂の中にいきなり轟くので、心臓にこたえる感がある。たとえかたがうまくないかもしれないが、ぶ厚くて大きな鉄板を、堅いコンクリートの床に思いきり叩きつけたような音だという。
 この衝撃音がバターンと轟くのと死刑囚が宙吊りになるのがほとんど同時。
 宙吊りの体はキリキリとロープの限界まで回転し、次にはよりを戻すために反対方向へ回転を激しく繰り返す。大小便を失禁するのがこのときである。遠心操作によって四方にふりまかれるのを防ぐために、地下で待っていた刑務官は落下してきた死刑囚をしっかり抱いて回転を防ぐ。
 間もなく死刑囚は激しいけいれんを起こす。窒息からくるけいれんである。
 両手、両足をけいれんさせ動かすさまは、まるで死の淵からもがき逃れようとしているかに見える。手と足の動きはべつべつである。
 手は水中を抜き手を切って泳ぐように動かす。
 足は歩いて前進しているとでもいうような力強い動かしかたをする。
 やがて、強いひきつけを起こし、手足の運動は止むが、胸部は著しくふくれたりしぼんだりするのが認められる。吐くことも吸うこともかなわぬ呼吸を、胸の内部だけで行っていると思えてならない。
 頭をがくりと折り、全身が伸びきった状態になる。瞳孔が開き、眼球が突き出る。仮死状態である。
 人によっては、宙吊りになって失禁するのと同時に鼻血を吹き出すこともある。そんな場合は、眼球が突出し、舌がだらりとあごの下までたれさがった顔面が、吹き出した鼻血によって、さらに目をおおわずにはいられない形相となる。
 医官は死刑囚の立っている踏み板が外れるのと同時にストップウォッチを押す。つぎに仮死状態の死刑囚の胸を開き聴診器をあてる。心音の最後を聴くためである。もうひとりの医官が手首の脈を
とる。脈は心音より先に止まる。心臓がすっかり停止するまでには、さらにもうしばらく聴診器をあてたままでいなくてはならない。
 しかし、それも、そう長いことではない。ストップウォッチを押してから、心臓停止までの平均時間は14分半あまりである。この14分半あまりが、死刑執行に要した時間ということである。
 死刑執行の始終を見ていて、失神した立会い検事もいたという。失神はまぬがれたとしても、「死刑の立会いはもうごめんだ」というのが感想のようだ。(〜p68)
p131〜
 死刑執行で直接手を汚す役は刑務官になってあまり年数を重ねない若い刑務官が命じられることが多い。刑場付設の拘置所、刑務所に勤務すると、「執行を体験しなければ一人前の刑務官になれない」と必ず言われるということは、前に何度も書いた。
 その日の執行には、首に縄をかける役を初体験者が命じられた。先輩の刑務官に指導を受けたとはいえ、落ちついた平常心でできるわけがない。あがるのは当然である。先輩の刑務官は、踏み板が落下して、死刑囚が宙吊りされたとき、ほとんど瞬間に失神するよう注意しなくてはならないと教える。ロープをどのように首に合わせるかを説明する。しかし、いざ本番となると、執行するもののほうが頭にカーッと血がのぼる。なにがなんだかわけがわからなくなる。あせる。あわてる。
 絞縄は直径2センチ。全長7.5メートルの麻縄である。先端の部分が輪状になっていて2つの穴を穿った小判型の鉄かんで止めてある。輪状の部分を死刑囚の首にかける。鉄かんの部分が首の後部にあたるようにかける。さらに絞縄と首の間に隙間がないように密着させてギュッと締める。
 ロープをかける役の刑務官の果たすべき役割は下線の部分である。ところがこの日の初体験者はこのとおりにできず、どこかまちがった。
 なにしろわずか3秒間程度の、ほとんど瞬間といってもいいような時間内にやり終えねばならないのだ。
 ロープ担当の刑務官が、規定の方法でロープを死刑囚の首にかける。同時に他の刑務官が死刑囚の膝をひもで縛る。間髪を入れず保安課長の合図でハンドル担当者がハンドルを引く。死刑囚の立っている踏み板が落下して死刑囚が宙吊りになる。この間わずか3秒程度のものなのである。死刑囚が刑壇に立ってから一呼吸あるかないかという早業だ。
 このときも死刑囚は宙吊りにはなった。アクシデントが起こったのはこの後である。
 通常ならば、平均14分あまりで心音が停止し執行終了ということになる。けれどもこのときは大いにちがっていた。
 死刑囚がもがき苦しみつづける。ロープが正しく首を絞めていないのだ。革の部分から頬を伝って、後頭部の中央あたりに鉄かんが至っている。これでは吊るされた瞬間に失神するというわけにはいかない。意識を失うことなく、地獄の痛苦に身もだえすることになる。止むなく死刑囚の体を床に下ろし、24、5貫もある屈強な刑務官が柔道の絞め技でとどめをさして執行を終わらせた。
 死んでこそ死刑囚という考え方があるそうだが、殺してこそ執行官とでもいうところだろうか。
 とどめをさした刑務官に、後に子供が生まれた。その子どもの首がいくつになってもしっかりとすわらない。父親になった刑務官は、かつての自らの行為の、因果応報だという自責と苦悩とから解放されることがないという。
 生まれた子供の首がかなり成長してもしっかりすわらないという話はまれに聞くことである。死刑執行のさい、アクシデントが起きたために柔道の絞め技を用いた刑務官の子供の場合も、因果応報ではなく、偶然のことだ。何百万分の一かの確率に偶然的中したまでである。そんなことは当の刑務官自身にもよくわかっているのかもしれない。わかっていながらも、つい因果説に結びつけてしまう気持にもなるのだろう。止むことなく死刑執行の罪の意識に責められて明け暮れているのだから。(〜p134)

 中公新書『死刑囚の記録』加賀乙彦著
 ただ、私自身の結論だけは、はっきり書いておきたい。それは死刑が残虐な刑罰であり、このような刑罰は禁止すべきだということである。
 日本では1年に20人前後の死刑確定者が出、年間、2、30人が死刑に処せられている。死刑の方法は絞首刑である。刑場の構造は、いわゆる“地下絞架式”であって、死刑囚を刑壇の上に立たせ、絞縄を首にかけ、ハンドルをひくと、刑壇が落下し、身体が垂れさがる仕掛けになっている。つまり、死刑囚は、穴から床の下に落下しながら首を絞められて殺されるわけである。実際の死刑の模様を私は自分の小説のなかに忠実に描いておいた。
 死刑が残虐な刑罰ではないかという従来の意見は、絞首の瞬間に受刑者がうける肉体的精神的苦痛が大きくはないという事実を論拠にしている。
 たとえば1948年3月12日の最高裁判所大法廷の、例の「生命は尊貴である。一人の生命は全地球より重い」と大上段に振りあげた判決は、「その執行の方法などがその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬ」として、絞首刑は、「火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆで」などとちがうから、残虐ではないと結論している。すなわち、絞首の方法だけにしか注目していない。
 また、1959年11月25日の古畑種基鑑定は、絞首刑は、頸をしめられたとき直ちに意識を失っていると思われるので苦痛を感じないと推定している。これは苦痛がない以上、残虐な刑罰ではないという論旨へと発展する結論であった。
 しかし、私が本書でのべたように死刑の苦痛の最たるものは、死刑執行前に独房のなかで感じるものなのである。死刑囚の過半数が、動物の状態に自分を退行させる拘禁ノイローゼにかかっている。彼らは拘禁ノイローゼになってやっと耐えるほどのひどい恐怖と精神の苦痛を強いられている。これが、残虐な刑罰でなくて何であろう。
 なお本書にあげた多くの死刑囚の、その後の運命について知りたく、法務省に問い合わせたところ刑の執行は秘密事項で教えられないとのことであった。裁判を公開の場で行い、おおっぴらに断罪しておきながら、断罪の結果を国民の目から隠ぺいする、この不合理も、つきつめてみれば、国が死刑という殺人制度を恥じているせいではなかろうか。(中略)

 中公新書『死刑囚の記録』
 彼は、日記に「死刑囚は四六時中死刑囚であることを要求されている」「死刑囚が存在することは悪であり、生きていることは恥である」と書きつけている。死刑囚の死は、絞首という不自然で、しかも恥辱の形をとった死であり、それ故に、一般の人の病床の死や事故による死とちがうと彼は考えている。「死刑囚であるという状態は、悪人として死ねと命令されていることだ」とも書いている。彼は、自分の死を恥じねばならない。いったい、一般の人びとが、自分の死を恥ずかしく思うであろうか。
 だから、死刑囚の死は、私たちの死とは違うのだ。それはあくまで刑罰なのであり、彼はさげすまれて死なねばならないのだ。正田昭のように罪を悔い、信仰をえて、神の許しをえた人間も、死刑囚としては大悪人として、絞首を---実に不自然な殺され方を---されねばならない。彼は、最後までこの矛盾に苦しんでいた。死を静かに待ち、従順に受け入れながらも、自分の死の形を納得できず、恥じていたのだ。
「死刑囚であるとは、死を恥じることだ。立派な死刑囚であればあるほど、自分の死を恥じて苦しまねばならない」とも彼は書いている。
 にもかかわらず、パスカルの比喩は、有効であると私は思う。なぜならば、死刑囚もまた人間であり、人間である以上、彼が死とかかわるやり方は私たちに共通する面が多分にあるからだ。

 【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】 
 それにしても、殺人や戦争といった人間の暴力の究極の原因はどこにあるのだろうか? ゴリラの研究で著名な山極寿一は、霊長類学の最新の成果を携えて、この問題に挑戦している(『暴力はどこからきたか』NHKブックス)。無論、動物で見出されることをそのまま人間に拡張してはならない。だが、人間/動物の次元の違いに慎重になれば、動物、とりわけ人間に近縁な種についての知見は、人間性を探究する上での示唆に富んでいる。
 山極の考察で興味深いのは、暴力の対極にある行為として、贈与、つまり「分かち合う行為」を見ている点である。狩猟採集民は、分かち合うことを非常に好む。狩猟を生業とする者たちは獰猛な民族ではないかと思いたくなるが、実際には、彼等の間に戦争はない。ほとんどの動物は贈与などしないが、ゴリラやチンパンジー、ボノボ等の人間に最も近い種だけが、贈与らしきこととを、つまり(食物の)分配を行う。
 暴力を抑止する贈与こそは、「神話的暴力」を克服する「神的暴力」の原型だと言ったら、言いすぎだろうか。チンパンジーなど大型霊長類の分配行動(贈与)は、物乞いする方が至近で相手の目を覗きこむといった、スキンシップにも近い行動によって誘発される。森達也が教誨師や(元)刑務官から聞き取ったところによれば、死刑囚は、まさにそのとき、一種のスキンシップを、たとえば握手や抱きしめられることを求める。死刑の暴力の恐怖を、身体を接触し分かち合う感覚が中和しているのである。

小沢一郎氏裁判 第8回公判〈前〉証人 池田光智元秘書「検察官のいう通りにいたほうがいいのかと」

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小沢一郎氏裁判 第8回公判
産経ニュース2011.12.8
 弁護人「まずは職業を教えてください」
 証人「学生をしております」
 弁護人「秘書を辞めてですか」
 証人「はい」
 弁護人「なんの勉強を」
 証人「税理士の勉強をしております。専門学校に週5回通っています」
 弁護人「生活費はどうしていますか」
 証人「妻が働いておりましてお願いしているのと、足りない分は両親にお願いして生計を立てております」
 弁護人「奥さまの仕事はパートですか」
 証人「はい」
 弁護人「家族構成は?」
 証人「34歳の妻と、5歳の娘の3人です」
 弁護人「専攻は?」
 証人「政治学を専攻していました」
 弁護人「法学・民法の授業は受けましたか」
 証人「一般教養で民法総論とかいう科目がありましたが、あまり学校に行かず、あまり授業を受けた記憶がございません」
 弁護人「会計学は?」
 証人「学んだ経験はございません」
 弁護人「石川さんはどういった存在ですか」
 証人「(早稲田大の政治サークルの)鵬志会の4つ上の先輩で、入学時は5年生でした。小沢事務所で、すでに働いていました」
 弁護人「上下関係にきびしいサークルだったと聞きますが」
 証人「(石川議員は)雲の上のような存在で、伝説的先輩という印象でした」
 弁護人「伝説的とは?」
 証人「すでに小沢事務所で活躍されていましたし、さまざまな武勇伝があり、すごい人だと思っていました」 弁護人「サークルは文化系というより体育会系?」
 証人「はい」
 弁護人「事件で禁錮1年猶予3年の判決を受けていますが、どう感じました?」
 証人「内容そのものは納得いかない部分もありましたが、執行猶予がついていた。家族にも迷惑をかけており、できれば早く終わらせたいという心境でした」
 弁護人「では、なぜ控訴を?」
 証人「判決の内容に事実でないことがあった。私の大久保(隆規元秘書)さんへの報告・了承など、意思疎通や共謀が認められた判決で、やはり違うと思って対応しました」
 弁護人「秘書業務は何が中心でしたか」
 証人「東京では主に(小沢被告関係の)5団体の経理事務、資金集め、選挙活動が中心でした」
 弁護人「選挙活動とは?」
 証人「衆参、地方を含め、現地の事務所に入り込んでサポートします」
 弁護人「資金集めは?」
 証人「政治資金パーティーの開催、寄付金のお願いなどの活動です」
 弁護人「経理事務は?」
 証人「事務所にいた女性スタッフに日頃の支出、入金作業をお願いし、私は月1回、請求書の送付や領収書の処理などを指示し、あとは女性が行っていました」
 弁護人「仕事上、政治活動と経理事務の割合は?」
 証人「政治情勢にもよりますが、経理はほとんど女性に任せていたので『10対1』で選挙が大事でした」
 弁護人「小沢さんの関心事項はなんでしたか」
 証人「政局や政治などさまざまでしたが、私から見て選挙のことが何より大事で、そのことに強い関心を持たれていたと思います」
 弁護人「それ以外のことについては?」
 証人「事務所業務や運営については、ほとんど関心を持たれてなかったと思います」
 弁護人「石川さんは何を中心に業務の引き継ぎを行いましたか」
 証人「とくに人間関係のことで、一緒に外回りをして、人脈関係の引き継ぎを中心にやっておりました」
 弁護人「具体的には?」
 証人「相手の性格とか、こう接しないといけないというのを細かく引き継ぎました」
 弁護人「事務的なことは?」
 証人「合間合間に思い出したように少しずつ教えていただきました」
 弁護人「5団体の収支報告書の作成については?」
 証人「まとめて時間をとった感じでなく、時間が合うときがあれば一緒に作業をしてお手伝いをしながら教えていただきました」
 「(小沢一郎)東京後援会と(小沢一郎)政経研究会は一緒に(収支報告書を)作った記憶がありますが、陸山会と誠山会は時間もなく、部分的に手伝ったという感じです」
 弁護人「引き継ぎはいつごろ行いましたか」
 証人「17年1月から3月のうちに受けました」
 弁護人「4月以降は?」
 証人「(収支報告書の作成)作業がなくなり詳しく聞いたことはありませんでした」
 《池田元秘書は平成17年に政治団体の経理を担当する東京・赤坂に異動。石川知裕衆院議員=同=から業務の引き継ぎを受けていた。池田元秘書は、石川議員にまとめて疑問点を尋ねるため、ノートに質問事項を羅列していた》
 弁護人「なぜ、まとめて聞いていたのですか」
 証人「いちいち、ひとつひとつ聞くのは煩わしいこともありましたし、なかなか上下関係が厳しく、聞ける際にまとめて聞こうと」
 弁護人「(問題の東京都世田谷区)深沢の土地の平成17年の収支報告書への計上について、石川さんから、どのような指示を受けていましたか」
 証人「平成17年1月7日に登記したので、それにあわせて陸山会の資産に土地を記載することと、支出を計上することをいわれました」
 弁護人「その石川さんの指示は、普段と何か違うようなことはありましたか」
 証人「当然の処理で、問題があるとは思いませんでした」
 弁護人「話を聞いた時間は、どのくらいですか」
 証人「4、5分だったと思います」
 弁護人「(疑問点を石川議員に尋ねる)池田さんのノートには、土地に関する記載もある。どうして確認しようとしたのですか」
 証人「1月7日に登記したことを確認しようとしたのだと思います」
 弁護人「収支報告書の作成の際、小沢さんに、土地代の計上について報告しましたか」
 証人「いいえ」
 弁護人「なぜですか」
 証人「石川さんから指示を受け、当然の処理をしているので、報告する必要はないと思っていました。仮に報告する必要があるのであれば、(自身に指示を出した)石川さんが、すでにしているはずですし」
 弁護人「小沢さんからの4億円は石川さんから、どう説明を受けましたか」
 証人「(小沢被告の関係5団体のいずれかに)『入っているからな』とか『あるからな』といわれましたのと、『いずれ返さなければならないからな』の2点をいわれました。(時間にして)数十秒だったと思います」
 弁護人「その1回きりですか」
 証人「はい」
 弁護人「4億円は、どのような性質のものだと思っていましたか」
 証人「代議士個人のお金を預かっていると思っていました」
 弁護士「なぜ個人のものだと思ったのですか」
 証人「(小沢被告から)借り入れがあるとか、利息があるとかなど、まったく(石川議員から)聞かされていませんでしたし、契約書もなかったので、単なる預かり金があると思っていた」
 弁護人「小沢さんから、『返せ』といわれれば…」
 証人「当然、返さなければならないと思っていました」
 弁護人「返済の原資は何をあてようと思っていましたか」
 証人「(政治5団体の)どこにいくら入っているか分からなかったので、政治団体全体で4億円を下回らないように注意していました」
 弁護人「捜査段階でも池田さんは『預かり金』と説明したのですか」
 証人「いいえ。うまく説明できませんでした」
 弁護人「いつから、そう説明するようになったのですか」
 証人「保釈後です。弁護人に相談して認識を説明したところ、『それは預かり金ではないか』といわれ、そのように認識するようになりました」
 弁護人「石川さんから4億円がどこにあるのか。説明はありましたか」
 証人「具体的な説明もなく、後に通帳を見てもよく分かりませんでした」
 弁護人「5団体で、通帳はいくつあるのですか」
 証人「20個(口座)くらいあったので、確か(通帳は)事務所に100とか200とか、数え切れないくらいありました」
 弁護人「4億円の趣旨について、石川さんから何か引き継ぎを受けましたか」
 証人「特に聞いていません」
 弁護人「深沢の土地に関係があるとは?」
 証人「聞いていません」
 弁護人「(石川さんに)なぜ(4億円の趣旨を)尋ねなかったのですか」
 証人「当時、岩手から東京に来て間もなく、全体の状況が分からないので受け身でした。また、代議士個人のお金なので、よく分からない自分が詮索するのもいかがなものかと、積極的に聞きませんでした」
 弁護人「りそなの4億円については、石川さんからどのように引き継ぎを受けていましたか」
 証人「陸山会が土地を購入する際に銀行から4億円の定期で小沢先生の名前を経由して4億円をお借りした、と」
 弁護人「返済時期については」
 証人「1年後に半分の2億円を返済しなければいけない、(返済)するようにと。残り2億は、その後に返済するような説明でした」
 弁護人「小沢さんの4億円と一緒に説明を受けたのか」
 証人「別のときです」
 弁護人「りそなの融資に関する説明は時間にして、どのくらいですか」
 証人「4、5分です」
 弁護人「小沢さんを経由する理由は聞いていないのですか」
 証人「便宜上とか、そんな感じだったと思います」
 弁護人「あまり記憶に残っていないと?」
 証人「はい」
 弁護人「定期預金は小沢さんの4億円が原資になっているとの認識はありましたか」
 証人「いいえ」
 弁護人「なぜ、定期を崩したのか」
 証人「定期は政治団体のお金を集めて作ったと聞いていたので…。2億返済するのに際して、(石川議員は)『1年後にまた他団体から集めないといけない』と気にしていたが、私は定期を崩せばいいと内心思っていた。そのときから(石川さんと)認識がずれていたのかもしれません」
 弁護人「どうして定期預金を担保にりそなから融資を受けたのか。石川さんは何といっていましたか」
 証人「金利が安いと聞いていました」
 弁護人「5団体の収支報告は、どのようにしていましたか」
 証人「毎年12月の銀行がしまる暮れに、その年の1年間の収入と支出、差額を報告していました」
 弁護人「報告は何か書類を見せながらやっていたのですか」
 証人「概算の表を作っていました」
 弁護人「一覧表は(小沢被告に)渡していましたか」
 証人「手渡していません」
 弁護人「収入と支出の差額は何のために説明したのですか」
 証人「事務所がきちんと回っているのかを示すためです」
 弁護人「小沢さんの関心は、そこにしかなかったのですね」
 証人「はい」
 弁護人「一覧表は12月以外にも示すことはありましたか」
 証人「1回きりです」
 弁護人「年末にまとめるための日々のデータ入力は、いつやっていたんですか」
 証人「月に1回くらい、女性スタッフがまとめて打ち込んでいました。それを私が12月にまとめ、小沢代議士に報告していました」
 弁護人「同じ年に、形式の違う一覧表が作成されています。これは何のためですか」
 証人「(小沢被告の)政治団体間の(資金の)移動があり、さっきの表には実態と違う大きな数字が入っています。代議士に収入と支出を報告に行ったら、(小沢被告が)『ちょっとおかしい』という感じで。純額で報告しろ、といわれて作り直しました」
 弁護人「先ほどの表では収入が1億1861万円、こちらの表では3895万円となっている。だいぶ少ないですね」
 証人「政治団体間の移動を除いた金額なので」
 弁護人「(小沢被告は)純粋に外部からの収入を知りたかったと?」
 証人「そうです、はい」
 弁護人「同じ日に作り直して、報告し直したんですね」
 証人「はい」
 弁護人「収支報告書の原案を、小沢代議士に報告しましたか」
 証人「いいえ。一覧を報告するようにとしか石川さんからも聞いていませんし、3月に収支報告書を見せるように、とも言われていませんでした。石川さんが在籍していた当時、報告に立ち会ったこともありませんでした。小沢代議士が知りたい情報は伝えているので、改めて形式的なものを報告する必要がありませんでした」
 弁護人「小沢さんの知りたい情報とは?」
 証人「収支のプラスマイナスで、資金がちゃんと回っているか、ということです」
 弁護人「大久保さんにも報告をしていないんですか」
 証人「はい。していません」
 弁護人「なぜですか」
 証人「会計責任者だが名義上で、大久保さんから聞かれることもなく、興味もない様子だったので」
 弁護人「どうして大久保さんが名義上の責任者と認識したんですか」
 証人「(大久保元秘書が)会計業務に携わったこともなく、全く畑が違う。そういう意味です」
 弁護人「小沢代議士の政治団体以外でも、会計責任者に名目だけの人がいるケースがありましたか」
 証人「テレビのニュースでも聞いたことがありました。地元に長くいた際には、地方の名士が選挙の責任者、会計責任者となり実務は別の人、ということもあったので、ありえるのかなと漠然と思っていました」
 弁護人「政経研究会の最終更新は18年3月28日の午前9時23分になっています。陸山会の収支報告書の完成は、これより前ですか後ですか」
 証人「後だと思います」
 弁護人「なぜ政経研究会の収支が、陸山会に影響するんですか」
 証人「そのころに、今問題になっている、数字が合わないところに気づきました」
 証人「寄付を確定させる処理をして、政経研究会の支出を陸山会の収入にしました。それと同時か、その直後に、陸山会の収支報告書が完成したと思います」
 弁護人「そうすると、17年分の陸山会の収支報告書は完成させたその日に提出したんですね」
 証人「はい、そうです」
 弁護人「どうしてこの時期に返済したのですか」
 証人「3月か4月ごろに寮が完成して、区切りが付いたので、その話を小沢代議士に報告する際に、返済することになりました」
 弁護人「マスコミによる詮索を意識しましたか」
 証人「マスコミは関係なく、区切りと言うことで返済しました」
 弁護人「返済したことで、陸山会など5団体の資金に不都合は生じましたか」
 証人「事務所を回す上では、問題はありませんでした」
 弁護人「小沢さんに4億円を戻したことは、19年の収支報告書に記載していませんね」
 証人「はい」
 弁護人「なぜですか」
 証人「個人のカネを戻したという認識で、記載する必要はないと考えました」
 弁護人「その説明は小沢さんにしましたか」
 証人「していません」
 弁護人「大久保(隆規元秘書)さんには?」
 証人「していません」
 弁護人「どうして説明しなかったのですか」
 証人「通常の処理をしたと思っていましたし、記載内容については、小沢代議士も大久保さんも興味を持っていなかったので、必要ないと思いました」
 弁護人「小沢さんの4億円を定期にして、預金担保融資を受けるとの説明を石川さんから受けていませんか」
 証人「記憶にありません」
 弁護士「小沢さんの4億円は預金で、りそな4億円は余剰金で返済する。石川さんと池田さんの認識にズレがあったということですか」
 証人「はい」
 弁護人「どういった点で認識にズレがあったのですか」
 証人「私がよく理解していなかったことと、石川さんの説明も具体的でなかった。私はある定期預金から返せばいいと考えましたのですが、石川さんは定期預金を崩しては駄目だと」
 弁護人「小沢さんの4億円はどこにあったのですか」
 証人「私はいずれかの団体の預金の中に含まれていると思っていました」
 弁護人「それでは返済する際に、よく分からず困りはしませんか」
 証人「結局、分からなかったので、残高から推測して返すことにしました」
 弁護人「どうして石川さんに聞かなかったのですか」
 証人「石川さんには17年の収支報告書を作る際、16年分も含めてうかがったが、石川さんも記憶が曖昧(あいまい)な感じで、よく教えてもらえなかったので…」
 弁護人「18年3月の時点で、すでに分からなかったということですか」
 証人「はい」
 弁護人「土地購入代金について、どのように認識していましたか」
 証人「購入にあたり(銀行から)借り入れたと石川さんから聞いていたので、そのお金で支払ったのだと認識していました」
 弁護人「文案を作成したときに事実と異なると考えましたか」
 証人「借入金で買ったという認識だったので、そのまま回答しました」
 弁護人「『銀行融資で支払ったことは事実と異なる』と調書にありますが、どうしてこういう調書になったのですか」
 証人「事実関係として、銀行からの借り入れよりも前に土地代金の支払いがされていると検事から聞きました。客観的にみて事実と違うと。私は虚偽の回答をしたつもりはないのですが、事実と違うことを認めたのでそういう調書になりました」
 弁護人「取り調べは毎日あったのですか」
 証人「はい。1日も休まずにありました」
 弁護人「1日どれくらいの時間取り調べを受けましたか」
 証人「午後1時から夜遅くまで。午後11時を過ぎるときもありました」
 弁護人「どう感じましたか」
 証人「初めての経験でした。長時間の拘束だったので、つらい思いでした」
 弁護人「収支報告書を大久保さんに報告したと認めていますが、事実ですか」
 証人「していなかったので、事実と違います」
 弁護人「なぜ異なる調書になっているのですか」
 証人「弁護士から、大久保さんが報告を受けているという話を聞いたので、同調して進めていました」
 弁護人「西松(建設の違法献金)事件のとき、収支報告書について、小沢さんのことをどう供述しましたか」
 証人「年に1度、(収支の)差額を報告していたと伝えました」
 弁護人「収支報告書の原案についてはどうですか」
 証人「小沢代議士に見せていないといいました」
 弁護人「このとき、××検事(法廷では実名)は納得しましたか」
 証人「はい。押しつけ的なことはなかったので、理解いただけたと」
 弁護人「21年3月20日に作成された調書については、署名を拒否しています。どうしてですか」
 証人「私が西松(建設)からの寄付金を認識して、虚偽の収支報告書を作りましたという内容でしたので、違うと拒否しました」
 弁護人「××検事はどんなふうに署名を求められましたか」
 証人「気が狂わんばかりに怒鳴り散らされました。しかし、最後は頭を何度も下げられ、署名してくれと懇願されました」
 弁護人「頭を下げて懇願されるというのは異常なように思われますが、どう感じましたか」
 証人「とにかくなりふりかまわない印象です。気が萎えそうになりがらも、怖いと思いました」
 弁護人「3日間呼び出されましたね」
 証人「はい」
 弁護人「年末のクリスマスの忙しい時期だと思いますが」
 証人「西松の時も苦しかったので、できれば受けたくありませんでした。23日にクリスマスをやって、家族に内緒で取り調べを受けたので、早く終わらせたかったです」
 弁護人「担当検事は誰ですか」
 証人「××検事です」
 弁護人「取り調べの手法はどうでしたか」
 証人「かなり急いでいるようでした。早く調書作りたい感じで、質問よりも調書作りが主でした。仮定の話もよくされました」
 弁護人「××検事が『可能性についてよく話をした』ということですが、具体的にはどういうことですか」
 証人「記憶にないところを否定すると、『可能性についてまで否定すると、嘘をつくのと同じだ』とよく言われていました。そういう可能性の話をされて、同調してしまったこともありました」
 弁護人「逮捕前の任意の取り調べの段階で、西松建設事件の(大久保隆規元秘書に平成17年の架空計上の報告をしたという)供述を維持したのはなぜですか」
 証人「このとき、西松建設事件の裁判が始まったかどうかの時期で、前回と違う供述をすれば、裁判や大久保さんに迷惑がかかると思いました。争点にもなっていないと聞いていたので、確認ということで『はい、はい』という感じで認める形になりました」
 弁護人「小沢さんには報告はしていたんですか」
 証人「一切報告していません」
 弁護人「平成21年12月25日付の調書に『平成16年の収支報告書の支出のうち、3億5000万円は(世田谷区)深沢の土地代金です』と記されていますが、こういう供述をされたのですか」
 証人「これは一覧表に含まれる支出です」
 弁護人「一覧表の話なのですか」
 証人「このときは一覧表の話しかしていませんでした。××検事もそう認識していたと思います」
 弁護人「一覧表に3億5000万円が含まれていると供述したんですか」
 証人「きちんとした資料を見せられない中で、××検事から『そういう大きい金額の記載があると小沢代議士も質問するのではないか』と言われました。私は記憶がないといったが『記憶がないでは駄目だ。嘘を言っているのか』とよく言われた。そういう質問があったかもしれないといったら、そういう調書ができあがったのだと思います」
 弁護人「具体的に××検事はどういう質問をしたのですか」
 証人「『入っていれば小沢さんも気づくんじゃないのか』と」
 弁護人「どう思ったんですか」
 証人「そういう数字が入っている資料があるのかなと思いました。あまりかたくなでも変かなと思い、入っているならそういう話かもと思いました」
 弁護人「事実と違う調書にサインすることに小沢さんに迷惑がかかると思わなかったのですか」
 証人「この程度のことなら、何か問われることはないと思いました。だったら早く終わりたいと思い、サインしました」
 弁護人「21年12月25日の別の調書ですが、『簿外で借りた4億円』という表現がありますが」
 証人「そんな言葉は使っていません。検事さんが作った言葉だと思います。簿外の意味が分からなくて、私が『収支報告書に入らないお金という意味ですか』と××検事に聞きました。『そうです』ということでしたので、サインしました」
 弁護人「裏金だという説明はありましたか」
 弁護人「どこで逮捕されましたか」
 証人「私の実家にいたときに、夜9時ごろに逮捕され、連行されたと思います」
 弁護人「手錠ははめられましたか」
 証人「東京に来てからだと思いますが、はっきり覚えていません」
 弁護人「事前の連絡はありましたか」
 証人「翌日昼1時にお伺いすることになっていたのですが、逮捕については特にないです」
 弁護人「どう思われましたか」
 証人「びっくりしました」
 弁護人「手錠をかけられてどう思いました」
 証人「人生の終わりだと思いました」
 弁護人「裸にされ身体チェックもされたのですか」
 証人「全部脱がされました」
 弁護人「どう思いました」
 証人「屈辱的でつらい思いをしました」
 弁護人「逮捕容疑は理解できましたか」
 証人「口頭で言われて、中身はよく理解できませんでした」
 弁護人「逮捕時に調書を作成していますね。どのような経緯で作成したのですか」
 証人「罪状を読み上げられたので、異議を申し上げ、弁護士にあわせてほしいと申し上げたが、そういうのは後でいいと言われました。サインは拒否できないとも言われました」
 弁護人「調書作成時間は何分ですか」
 証人「数分です」
 弁護人「この調書がどういう内容とイメージしていましたか」
 証人「それまで土地の記載が問題になっていたので、それだと思いました」
 弁護人「そういう調書になっていますか」
 証人「今でも分かりません」
 弁護人「弁解録取書というのは分かりましたか」
 証人「よく分からないです」
 弁護人「ここには『詳しいことはよく思い出して話します』と記されていますが、あなたの言葉ですか」
 証人「××検事が作ったのでサインしました。××検事から逮捕時に『詳しいことは明日以降に聞くから』という言葉もありましたので、それを書かれたんだと思います」
 弁護人「逮捕翌日の裁判官の勾留質問では、大久保さんへの報告と共謀を否定していますね」
 証人「はい」
 弁護人「なぜですか」
 証人「実際に報告していなかったし、共謀の意識もなかった。逮捕された以上は、本当のことを話したいと思いました」
 弁護人「××検事は共謀を否定したことについて聞かれましたか」
 証人「『なんであんなことをいったんだ』とぼやくように言っていました」
 弁護人「21年12月25日付の調書の訂正は求めましたか」
 証人「正直に話そうと思い、訂正を申し入れました。ですが、『このときの記憶が正しい』と言って供述を維持するように言ってきました」
 弁護人「逮捕後の××検事の取り調べで、何か印象的なものはありましたか」
 証人「私が非常に苦しかったので、1月以降取り調べに応じない時期がありました。それについてかなりしつこくやられました。両親や妻を呼んで、みんなに迷惑がかかるぞと脅しをかけられ、できるだけ逆らわないようにしました」
 弁護人「××検事の取り調べは夜遅くまで続きましたか」
 証人「夜は午後11時まで。朝はだいたい午前10時からでした」
 弁護人「どんな心理状況でしたか」
 証人「夕食以降厳しくなって、最後のほうになると疲れて朦朧としています。早く終わらせたかったです」
 弁護人「休憩時間はどれくらいですか」
 証人「昼食と夕食、それにトイレぐらいでした」
 弁護人「××検事は弁護士について何か言っていましたか」
 証人「弁護士の言うことを聞いたら、悪いことになると。ろくなことはないと毎日念仏のように言っていました」
 弁護人「弁護士からはどんなアドバイスがありましたか」
 証人「事実と違う調書にはサインするなということでした。ですが、終わった取り調べの内容をこちらから報告することが多く、対応は具体的に受けたことはないです。励ますことが主でした」
 弁護人「実際には事実と違う調書にサインしていますね」
 証人「多少自分に不利でも、情状面もあるので、できるだけ抵抗しない方が悪くならないのではと思い、サインしました」
 弁護人「毎日一緒に取り調べられていると、検察官にはどういう感情を抱くのですか」
 証人「検察官は厳しいときもあれば、優しいときもありました。『処分を決めるのは私たち』ともおっしゃっていたので、確かに目の前の人たちが決めるから、弁護士よりも検察官のいう通りにいたほうがいいというか…。何を信じていいのかという心境でした」
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小沢一郎氏裁判 第8回公判〈後〉/証人 池田光智元秘書『認めなければ取り調べが厳しくなる』と云われ

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小沢一郎氏裁判 第8回公判〈後〉
産経ニュース2011.12.8
 [小沢一郎氏裁判 第8回公判〈前〉]からの続き

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 弁護人「(調書を作成した)検事はだれですか」
 証人「××検事(法廷では実名)です」
 弁護人「(この記載は)事実ですか」
 証人「異なります」
 弁護人「なぜ(事実と異なる)調書が作成されたのですか」
 証人「石川さんの性格や普段の行動から推察し、大事な事項は先生に報告、了承を取るのは、当たり前の話だと(××検事から)いわれ、そういう可能性の話ならば、あるのではないかと申し上げたところ、こういう調書ができました」
 弁護人「否定しなかったのですか」
 証人「否定すると嘘つき呼ばわりされる。『記憶がないヤツには、いつまでも付き合ってられない。記憶を補うのが自分(検事)たちの仕事だ。石川さんの話も総合して調書を作っている』といわれ、同調してしまった」 弁護人「逮捕前は報告の時期を明示していないが、逮捕後に作成された調書では時期が明確に示されている。どういう経緯があったのか」
 証人「はっきりとした記憶にありません。時期的なことに注意を払っていなかったので…。しかも、ちょこちょこ日付とか表現を(検事が)変えることは多々あるので気にしていなかった」
 弁護人「池田さんの方から時期を明示したことはありましたか」
 証人「ありません」
 弁護人「報告したにもかかわらず、具体的な描写は(調書には)一切ありませんね」
 証人「記憶もないし、報告したこともありませんので、具体的なシチュエーションがないのは当然です」
 弁護人「調書の中には、小沢さんが『おう、分かった』と了承したくだりがありますが。これは、どういう経緯があったのですか」
 証人「普段、報告する際に、了解したら(小沢被告が)どういう反応が返ってくるのかと(××検事から)以前に聞かれ、答えたことがあります。引用したのだと思います」
 弁護人「(調書にサインはしたが)間違いがあればいつでも訂正できるという説明があったのではないですか」
 証人「はい」
 弁護人「可能性の問題を挙げただけだと、訂正を求めなかったのですか」
 証人「そういう文章を作る人に説明しても変えてくれないし、たとえやってくれても語尾をあいまいにする程度なので」
 《池田元秘書は、自身の弁護士に、検察官が自分の意図とは違う調書が作成されたと手紙で訴えていた》
 弁護人「手紙は平成22年1月4日付ですが、この日に書いたのですか」
 証人「2月4日の間違いです」
 弁護人「それだけ混乱していたのですね」
 証人「はい」
 弁護人「この手紙はどこで書いたのですか」
 証人「(千葉県の)鎌ケ谷です」
 弁護人「どこで出したのですか」
 証人「書いたのは勾留中の拘置所内でしたが、出そうとしたら保釈されたのでその足で出しました」
 《池田元秘書の担当検事は途中、××検事から△△検事(法廷では実名)に代わった》
 弁護人「交代の理由は」
 証人「突然でしたが聞いていません」
 弁護人「△△検事に調書の訂正を求めましたね」
 証人「はい」
 弁護人「△△検事の反応は?」
 証人「非常に怒りまして××のときは認めたのに突然立場を変えるのかよ。オレをなめくさっているのかと怒られました」
 弁護人「それでも違うと主張したのですね」
 証人「その調子で恫喝され、悔しくて涙を流す場面もありました」
 弁護人「涙を流したのはどれくらいの長さでしたか」
 証人「1時間くらいでした」
 弁護人「涙の理由は?」
 証人「聞いてもらえないという悔しさと恐ろしさもありました。関西弁でまくし立てるように『ふざけるな』と怒られ、(△△検事は)殺気だった感じや見た目も恐ろしいので、とんでもない人に代わったと、暗い気持ちになりました」
 弁護人「△△検事の印象はどうでしたか」
 証人「××検事より年配で体格も大きい。目つきも鋭く、雰囲気を持った方だな、と思いました」
 弁護人「△△検事の言葉で印象に残っているものはありますか」
 証人「『別件逮捕できるんだぞ』とか。『弁護士の言うことは聞くな、俺たちがお前のことを決める』とも言われました」
 弁護人「いつからですか」
 証人「最初の、初日の取り調べからです」
 弁護人「△△検事の取り調べはいつも高圧的でしたか」
 証人「いつもいつも、ではなく、ときに優しく接してくださることも。『いい加減認めちゃえば。悪いようにはしないよ』と甘い言葉をかけられました」
 弁護人「大久保さんとの共謀を追及する中で、△△検事は大久保さんの供述について話していましたか」
 証人「私からの報告があったことを大久保さんが認めている、と言われました」
 弁護人「いつからですか」
 証人「最初のうちからそれとなく言われていましたが、心ならず調書にサインした29日の前、27、28日ごろからは何度も言われました。『大久保や石川はもう認めている。調書も進んでいる。自分だけ認めず、取り残されている』と」
 弁護人「前日は何時まで取り調べがありましたか」
 証人「夜12時すぎまでありました」
 弁護人「△△検事はなんと言っていましたか」
 証人「先ほど申し上げたように自分だけ取り残されている、ということや『認めなければ大久保さん、石川さんの取り調べがますます厳しくなる』『捜査が拡大する』『保釈がなくなる、勾留が延びる』などと言われました」
 弁護人「調書の原案は夜の取り調べが始まって、すぐ作成されたんですか」
 証人「午後7時ごろにはできていました」
 弁護人「それから、ずっと署名を迫っていたと?」
 証人「はい」
 弁護人「その日は拒否を貫いたんですね」
 証人「はい」
 弁護人「取り調べ後に独居房に戻り、どう考えましたか」
 証人「明日も続くんだな、と。どう対応したらいいかな。周り(大久保元秘書、石川議員)も認めているというし。認めてしまおうかな、と葛藤がありました」
 弁護人「『素直にすれば悪いようにしない』という△△検事の言葉を、どう受け取りましたか」
 証人「状況が良くなる、不起訴になる、罪が軽くなる、という意味だと思いました」
 弁護人「実際に不起訴にすると言われたんですか」
 証人「言われてはいません」
 弁護人「そう受け取ったんですね」
 証人「はい」
 弁護人「しかし、それは△△検事が決めることではありませんよね」
 証人「組織上、上の人が決めることでしょうが、取調官が報告されるわけですから、情状や処分の関係で、それなりに権限があるのではないか、と思いました」
 弁護人「1月29日の調書では、小沢代議士に収支報告書の原案を示していたかどうか、明確ではありません。尋ねられていませんか」
 証人「28、29日は主に、大久保さんへの報告内容を聞かれました。小沢代議士への報告は話題になっていませんでした」
 弁護人「29日までに『この程度の調書に署名しても、小沢さんに累は及ばない』と言われたことはありますか」
 証人「この段階ではありません」
 弁護人「29日以降は全面自供の形になっています」
 証人「心が折れてしまって。できるだけ検事の心証が悪くならないように、と考えていました」
 弁護人「心が折れるとは?」
 証人「事実でないことを認めた虚脱感があり、全て検事に任せよう、と思っていました」
 弁護人「2月3日の調書に署名する際、△△検事は何か話していましたか」
 証人「『小沢代議士を起訴できない』と言っていました」
 弁護人「池田さんが『報告・了承』を認めても、小沢代議士を起訴できない、と」
 証人「この程度の調書では起訴できない。仮に起訴するなら、もっと詳細な状況について調書を作らなければいけない、と。そう言って調書に署名するよう求められました」
 弁護人「△△検事(法廷では実名)とはどういうやりとりがあったのですか」
 証人「私は『小沢代議士への報告は年に1度、12月にしかしていません』と申し上げました。すると、△△検事は『じゃあ(調書に)12月って入れてやるよ』っていう感じで、曖昧(あいまい)な表現にして『入れてやっただろう』と」
 弁護人「△△検事は(小沢氏への報告の時期を)3月としたかったのですか」
 証人「そうです」
 弁護人「しかし、池田さんの認識では3月はなかったのですね」
 証人「はい」
 弁護人「この調書に具体的な記載がないのはなぜですか」
 証人「そもそも(事実が)ないことなので、△△検事にも取り繕うことができなかったんだろうと思います」
 弁護人「『共謀』の意味を誤解していましたか」
 証人「誤解していません」
 証人「当初から共謀はないと申し上げていました」
 弁護人「この調書でいう共謀とはなんですか」
 証人「報告し、了承を得るということです」
 弁護人「明らかな誤記ですが、見落としていたのですか」
 証人「はい。憔悴しきっていましたので、気づきませんでした」
 《法廷の大型モニターに池田元秘書が当時、弁護士に宛てて書いた手紙が映し出される。2月4日付だ。「調書を認めなければ、捜査も終わらず罪も重くなる」。》
 弁護人「この手紙に出てくる検事は誰ですか?」
 証人「△△検事です」
 弁護人「手紙には『この程度の報告で小沢先生や大久保さんには迷惑もかからない』ともある。この検事は誰ですか」
 証人「△△検事から、2月3日と4日の取り調べで言われました」
 弁護人「2月3日の手紙には、『××検事が可能性の話をさせられた』との話も出てきますが、どうして(取り調べをしていた△△検事ではなく)××検事の名前も出てくるのですか」
 証人「△△検事の調書が××検事の調書からの引用が多かったので、弁護士には(手紙を書く以前の)経緯を含めて理解してほしかったのです」
 《池田元秘書の保釈後の取り調べ》
 弁護人「検察から呼び出されましたよね」
 証人「はい」
 弁護人「担当の検事は誰でしたか」
 証人「××検事です」
 弁護人「調書は作成されましたか」
 証人「作成されませんでした」
 弁護人「どうしてですか」
 証人「私が保釈前の調書でサインはしましたが、『小沢代議士と大久保さんに報告したり、了承を得たことは全くない』と申し上げたので、調書にしようがなくて作れなかったのだと思います」
 弘中惇一郎弁護人「何点か確認させてください。(前日の)24日に一覧表を見ていれば、25日に間違えることはないのではないですか」
 証人「(24日には)きちっと見たわけではなく、こういう一覧表があるのかと分かっただけでしたので」
 弁護人「数字まで識別できるほどには見ていないわけですね」
 証人「そうです」
 弁護人「小沢邸に隣接して陸山会の建物がありますか」
 証人「はい。私邸の一角に駐車場と、書生の住み込み部屋を陸山会で借りています」
 弁護人「貸し主は?」
 証人「地主から借りています」
 弁護人「地続きになっているのですか」
 証人「はい」
 弁護人「借家ですね」
 証人「そうです」
 弁護人「借りている人は誰ですか」
 証人「(小沢被告の)奥様が契約上の借地になり、陸山会が借りています」
 弁護人「なぜ奥さんが?」
 証人「貸し出す方の問題で、政治団体に貸すと手続きなどが複雑になるので、できれば個人にしてほしい、と。直接借りられないので奥さんを通したと聞いています」
 弁護人「地上の建物は誰の名義ですか」
 証人「そこまでは…」
 弁護人「地上の建物は陸山会が使う目的で建てられたのか」
 証人「そう聞いています」
 弁護人「賃料は相場に比べてどうですか」
 証人「当時はよく分かりませんでしたが、石川さんの方から相場で計算してこうなったと聞いています」

 《30分の休廷後、検察官役の指定弁護士の最終尋問》

 裁判長「どうぞ、中央の席に座ってください。今度は指定弁護士から質問があります」
 証人「はい」
 指定弁護士「それでは、先ほどの弁護人からの質問についてもう少し聞かせてください」
 指定弁護士「小沢邸の門から入って正面の建物が事務所などで、左手が書生の住居や駐車場ですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「正面の建物は小沢家のものですか」
 証人「書生が事務所として使います」
 指定弁護士「全部がそうですか」
 証人「事務所と応接室は、ご来客があったときに(小沢被告が)使うこともあります」
 指定弁護士「21年12月24日に××検事(法廷では実名)から見せられたのはこの資料でいいですか」
 証人「これでいいと思います」
 指定弁護士「18年、19年の分も××検事から見せられなかったですか」
 証人「これを見せられた記憶はありません」
 指定弁護士「18、19年分についても収支一覧表を小沢被告に見せたのですか」
 証人「はい。毎年同じようにしていました」
 指定弁護士「(取り調べで)16年分がないね、という話はしませんでしたか」
 証人「そこは覚えていません」
 指定弁護士「一覧表は(小沢被告に)見せたのですか」
 証人「見せていません」
 指定弁護士「内容だけ知らせたのですか。そのとき、小沢さんの反応はどうでしたか」
 証人「『ああ、そうか』ぐらいだったと思います。17年のときは一つ一つの団体の収入、支出を順に説明したが、『そう言われてもよく分からないから、全体でいくらになるんだ』ということを言われました。それを受けて、団体間の(資金の)移動を除いたものを報告し、『そうか、分かった』ということだったと思います」
 指定弁護士「資料を作り直したということですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「それは17年の収支概算というものですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「同じ日に作り直したのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「確かに記憶にありますか」
 証人「はい」
 指定弁護士「私の方で概算と一覧表の数字を対比すると、概算の方が数字がまるまっている。あとで作ったとは思えませんが」
 証人「12月の段階で報告したので、当然と思います」
 指定弁護士「政治団体の全体の残高が4億円を下回らないように、と考えていたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「具体的にはどうしていたのですか」
 証人「下回らないようにチェックしていました」
 指定弁護士「外貨預金がありますよね。これはいつ崩してもいいものですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「小沢さんの了承は必要ですか」
 証人「実際に崩したことはないので、仮定の話は何とも申し上げられない」
 指定弁護士「万が一に供えていたお金ですか」
 証人「万が一の時に崩せばいいということです」
 指定弁護士「石川(知裕衆院議員)さんは、『本件4億円は銀行の定期預金』と証言されているのはご存じですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「石川さんは『その定期預金は崩さないで、4億円を返す』と説明されていることも知っていますね」
 証人「はい」
 指定弁護士「実際にどう返すんでしょうね」
 証人「通常の政治団体の資金で返すということだと思います」
 指定弁護士「今から考えて、当時から石川さんはそう考えていたと思いますか」
 証人「今思えば、そのつもりなんだろうと思います」
 指定弁護士「経理を担当されていて、日常的なやりくりで収支がプラスになったことはありますか」
 証人「記憶が曖昧(あいまい)だが、16年はプラス、17年はトントンで、18年はマイナスという記憶があります」
 指定弁護士「最後の質問にします。5団体の経理の日々の入力は女性秘書が行っていたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「あなたは月1回チェックするのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「あなたは、女性秘書らの入力で収支報告書を作るのが具体的な役割ですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「引き続き、質問させてもらいます。あなたは西松建設(の違法献金)事件当時から弁護士に相談していたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「今はどうですか」
 証人「2人に相談しています」
 指定弁護士「今、あなたは学生ということですが、弁護士への報酬はどなたかから援助を受けているのですか」
 証人「今までの貯蓄と、親からの援助です」
 指定弁護士「政治家個人の収入と、政治団体の収入が混同されてはいけませんね」
 証人「はい」
 指定弁護士「政治家個人の資産と、政治団体の資産も同様ですね」
 証人「はい」
 指定弁護士「小沢事務所にいたときもそういう認識でしたか」
 証人「はい」
 指定弁護士「小沢被告の個人の現金を預かることはあったのですか」
 証人「私が小沢代議士の個人のお金を預かっていたことはありません。タッチしていません」
 指定弁護士「政治団体から小沢被告個人の(口座への)入金や、逆に小沢被告個人の口座から政治団体にお金を入れることはありましたか」
 証人「陸山会が(小沢被告)個人分の費用を立て替える場合もありましたし、陸山会や他の団体が支払うべきものを(小沢被告が)立て替えているケースもありましたので、判明した際には処理していました」
 指定弁護士「そういう意味ではなく、小沢被告個人のお金を政治団体が預かったり、双方で利用しあうようなケースがあったのでしょうか」
 証人「そういう意味では(小沢被告から受け取ったという)4億円は預かっているという認識です」
 指定弁護士「その4億円以外で(預かっている)例はありますか」
 証人「…。経験はありません」
 指定弁護士「あなた自身は、預かった経験がないのですね」
 証人「はい」
 指定弁護士「先輩や同僚から(預かっていると)聞いたことはありますか」
 証人「ないです」
 指定弁護士「あなたはこう説明したという記載がある調書に署名をしていますよね」
 証人「はい」
 指定弁護士「無理やり、検事に説明させられたのですか」
 証人「実際の現金の出し入れが合わないと認めた部分もありましたが、全体の文章の中で、『虚偽記載した』とか、『つじつま合わせ』とかは言っていません」
 指定弁護士「読んで内容を確認してサインするのではないですか」
 証人「はい。認識として『虚偽の記載』とかは違うと申し上げたが…」
 指定弁護士「どうして(虚偽記載の)部分だけ認識と違う内容にしなければならないのか」
 証人「それは、検事のテクニックだと思う。重要ではない部分は、私の主張通りにし、肝心な部分は自分たちで作ったのではないか」
《池田元秘書はこれまで、前任の石川知裕衆院議員から引き継ぎを受けた際、りそな銀行から4億円の融資を受けていることについての説明があったとしている。池田元秘書は、4億円の返済について、担保の定期を切り崩せばよいと当初から考えていたというが、これについて、まず左陪席の裁判官が質問する》
 裁判官「定期で返せばいいと思っていたわけですよね」
 証人「はい」
 裁判官「では、もともと(定期預金の)4億円の資金があり、さらに4億円を借りることに、あなたは疑問をお持ちではなかったのですか」
 証人「当時は、(異動して会計担当の仕事を始めたばかりで)受け身で深く考えませんでした」
 裁判官「石川秘書から、4億円の定期預金について『小沢代議士に返す金だから、手をつけるな』という指示はありましたか」
 証人「いずれ返す、とだけ聞いていました。手をつけるな、などという指示はありませんでした」
 裁判官「4億円を返す意識はあったわけですよね。収支報告書に『借入金』として反映させる必要がないというのは、どうしてそう思ったんですか」
 証人「あくまで個人的資産で、一時的な預かり金、と。必要ないと思いました」
 裁判官「『一時的預かり』と石川秘書から説明を受けていたんですか」
 証人「受けていません」
 裁判官「自分で法的、会計的に検討されたことはない?」
 証人「ございません」
 裁判官「その理由を説明できますか」
 証人「(貸借)契約した書類がないというのもありました」
 裁判官「公開する必要がないものと考えていたわけですね」
 証人「はい」
 裁判官「4億円が表に出せない、という意識はあったんですか」
 証人「表に出せないというよりは、陸山会として公開するものではない、あくまで個人の金だ、という認識でした」
 裁判官「4億円は事務所に置いてあったわけでもなく、政治団体に入っていたわけですよね。それでも『借入金』として計上しないんですか」
 証人「銀行通帳は『金庫』ではないが、一体的に取り扱っている。通帳に預ける形で保管しているという、そういう感覚でした」
 裁判官「金額について突き合わせをしましたか」
 証人「通帳の残高と各団体の預金残高を見比べたこともありました」
 裁判官「きちんと金額が出ましたか」
 証人「きちんとは出ず、17年と19年の処理で最終的に近い数字になっていきました。ピタピタとは合っていません」
 裁判長「収支報告書を大久保さんに見せなくていいと、引き継ぎを受けたんですか」
 証人「『見せなければいけない』とも、『見せなくていい』ともありませんでした」
 裁判長「見せた方がいいと思ったことはありませんか」
 証人「(石川議員が会計を担当した)16年分も(手伝いをしていた)私が全部サインをしていました。(大久保元秘書は)『名ばかり責任者』なのかな、と思っていました」
 裁判長「収支報告書はあなたが作成し、誰にもチェックを受けていなかったんですね」
 証人「はい。自分で完結していました」
 裁判長「通帳には他にも書き込みがありますが、これは誰の字ですか」
 証人「石川さんだと思います。17年以降は、必要があれば私が記入していました」
 裁判長「誰かに説明するため、メモしていたんですか」
 証人「説明するというより、分かりやすくするために書いていました」
 裁判長「(16年購入の)土地の登記が(17年)1月7日になり、資産と代金支出を併せて17年分の収支報告書に記載するよう石川秘書から求められた、ということですが。どういうきっかけでその話になったんですか」
 証人「石川さんから積極的に引き継ぎがありました」
 裁判長「何となく引き継ぎのときに、ということですか」
 証人「はい」
 裁判長「小沢被告から(収支報告書の記載について)質問を受けることについて、『可能性を否定できるかどうか』と聞かれたんですね」
 証人「はい。それで『(小沢被告から)聞かれるかもしれない』とは答えました」
 裁判長「(捜査段階)当時の記憶として、質問を受けたり説明したことは一切なかったんですか。それともしたか、しなかったか、という記憶がなかったんですか」
 証人「記憶がありませんでした」
 裁判長「『原案』についてどうして話が出てきたんですか」
 証人「検事から言われました。詳細を聞かれないまま、『原案』という言葉がまぎれこんでいました」
 裁判長「話題に全く出ていないのに、『原案』という言葉が登場したんですか」
 証人「はい、何もありませんでした」
 裁判長「質問も一切なく?」
 証人「一切なく、『原案』の言葉が入ってきました」
 《次回公判は15日。石川議員の取り調べを担当した検事らの証人尋問》

2012年、世界経済に垂れ込める暗雲

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2012年、世界経済に垂れ込める暗雲
JBpress2011.12.15(木) Financial Times
(2011年12月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 2012年に再び世界的な景気後退が起きない方に大きく賭けるエコノミストはほとんどいない。経済見通しは今、初秋時点よりも相当暗くなっているというのが、エコノミストの一致した見方だ。
 ユーロ圏の危機は悪化し、イタリアとスペインに波及、フランスの玄関にまで打ち寄せている。その他先進国の景気回復は依然、弱々しい。新興国も重圧を感じ始めている。
■危険な局面が現実に
 政策立案者たちは不安を抱いている。国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は9月に、世界経済が「危険な局面」に入ったと繰り返し警鐘を鳴らした。12月に入ると、脅威は現実となり始めたと言うようになった。
 ラガルド専務理事は今月ブラジルで記者団に対し、「世界経済の見通しは、我々が当初予想していたより低くなる。一部地域では大幅に低くなるだろう」と語っている。
 もっと暗い悲観論が経済協力開発機構(OECD)を襲っている。特に不安視されているのが、先進国の政治家の対応だ。
 OECDのチーフエコノミスト、ピエール・カルロ・パドアン氏は「政策立案者たちが世界経済のリスクに対処するために断固たる行動を取る緊急性を理解していないことを懸念している」と言う。
 この評価には民間部門のエコノミストも同意している。投資銀行ゴールドマン・サックスが経済見通しを下方修正した際、同社の米国担当チーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は、多くの先進国では増税と家計・企業債務の返済努力によって成長が妨げられているとし、「この組み合わせのせいで標準以下の成長があと2年続く可能性が高い」と述べた。
■2008年の危機より厳しい理由
 大手シンクタンク、ブルッキングス研究所のエスワール・プラサド氏は、もっと悲観的だ。「2009年初頭には、かすかな望みを見いだすのも難しかった。また同じ状況になっている。だが、今の状況が異なるのは、2008年の危機が膨大な債務負担を生み出し、政策に対する制約が当時よりずっと厳しくなったことだ」
 だが、エコノミストらが心配する一方、世界のすべての地域が苦しんでいるわけではない。ドイツの就業者数は10月に再び、東西統一後の最高水準を記録し、同国の繁栄とユーロ圏周縁国の苦痛のずれを浮き彫りにした。
 予想は下方修正されているものの、大抵のエコノミストは世界経済が2012年に3%を多少上回る成長を遂げると見ている。これは2011年の成長率を1ポイント下回るだけで、景気拡大の大半を新興国が担う見通しだ。
■景気後退入りが近い欧州
 危機の中心は欧州だ。ユーロ圏内およびユーロ圏周辺の国々は今にも景気後退に入ろうとしているように見える。「バズーカ砲」がイタリアとスペインへの危機波及を防いでくれるという希望が打ち砕かれた今、欧州の大部分では、公式借り入れコストが再び歴史的な低水準になったにもかかわらず、政府、家計、企業が金利上昇に直面している。
 ユーロ圏が急速に回復すると考える向きは、ほとんどない。大半のエコノミストは2012年初頭にユーロ圏経済が縮小に転じ、英国など、単一通貨圏を取り巻く国々がほぼ停滞状態に陥ると予想している。
 特に懸念されているのは、景気の悪化が、問題が解決されたとはとても言えない国債市場と銀行の資金調達市場の緊張を高め、2008年のような悪循環を生み、ユーロ崩壊を招きかねないことだ。
 マネーサプライ(通貨供給量)は2009年初頭以来最も速いペースで減少しており、大手金融機関クレディ・スイスのネビル・ヒル氏は「例えば欧州中央銀行(ECB)やドイツ連銀など、金融指標を特に重視する機関にとっては、これは警戒すべきサインのはずだ」と言う。
 大半の観測筋はユーロが存続すると考えているが、それは政策立案者たちが問題を解決したからではない。
■米国は緩やかな成長が続きそうだが・・・
 もう1つの巨大な先進国経済圏である米国では、大方のエコノミストは、緩やかな景気回復が続く中で選挙の年に入ると予想している。相対的に高い消費支出を背景に、失業率が低下し、成長率が欧州を上回っているため、各種調査統計はありきたりなペースでの成長が続くことを示唆している。だが、選挙の季節が近づくことから、静かな1年が保証されているわけではない。
 大手金融機関シティグループのチーフエコノミスト、ウィレム・ブイター氏は、たとえ緩やかな景気拡大が続いたとしても、「米国の経済成長は、2012〜13年に失業率を大きく引き下げられるほど力強いものにはならないだろう」と話している。
 また、バークレイズ・キャピタルのジュリアン・キャロウ氏は、欧州がふらついている以上、今後の見通しにとって最も重要なのは、米議会が2011年末に期限切れを迎える給与税減税を延長することだと言う。
 先進国がまた期待外れの1年に思いを巡らせる中で、世界経済のエンジンはかつてないほど決定的に新興経済大国にシフトした。
 新興国を専門とする大手銀行スタンダード・チャータードのジェラルド・リオン氏は、西側諸国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は弱く、信頼感はぼろぼろだと指摘。「対照的に、新興国ではファンダメンタルズが堅調で、政策の棚がほぼいっぱいなうえ、信頼感は回復力を示す可能性が高い」と話している。
■世界経済のエンジン中国にも不安
 だが、こうした新興国でさえ、問題が全くないわけではない。日本の投資銀行、野村によると、中国は2011年の世界の経済成長の40%以上を担った。「中国のハードランディングのリスクについて我々がこれほど不安になるのも無理はない」と同社チーフエコノミストのポール・シェアード氏は言う。
 中国は諸外国での景気減速を感じており、当局は成長を維持する能力について心配し始めている。
 大手銀行HSBCの屈宏斌氏は、少なくともインフレが和らいでおり、景気刺激策を講じる余地が大きくなっているとし、「中国のマクロ面の大きなリスクは急速にインフレからディスインフレに変わりつつあり、来年に向けてより積極的な政策緩和が必要になるだろう」と言う。
 2009年にはインフラ支出や国有企業による投資、住宅建設を増やす景気刺激策が奏功した。そうした資本支出は世界経済の不均衡是正という長期的な目的には何ら役立たないにせよ、再び刺激策を講じれば、うまくいく可能性は高い。
 その他新興国でも成長は続いているが、ペースは鈍っている。トルコを含む東欧地域は特に、ユーロ圏の危機の悪影響を受けやすい。コモディティー(商品)ブームが踊り場に差し掛かり、中南米地域の成長が急激に減速する一方、アフリカ諸国は劇的な経済情勢の改善にもかかわらず、世界的な景気減速に極めて弱い。
 先進国が2008〜09年の危機から回復したとは到底言えない状況にあり、新興国が自律的な成長を生み出せるかどうかが不透明なため、世界は依然として危険な場所だ。2010年の力強い回復の後で、今年は極めて大きな失望をもたらした。By Chris Giles

小沢一郎氏裁判 第9回公判〈前〉/証人(石川知裕被告を取り調べた)田代政弘検事「7割本当のこと供述」

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小沢元代表、法廷:「7割本当のこと供述」 担当検事が石川被告印象
 資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)で強制起訴された民主党元代表、小沢一郎被告(69)の第9回公判が15日、東京地裁(大善文男裁判長)であり、東京地検特捜部検事として元秘書の衆院議員、石川知裕被告(38)=1審有罪、控訴中=を取り調べた田代政弘検事(44)が証人出廷した。検察官役の指定弁護士の尋問に「(元代表の関係政治団体である)改革フォーラム21の金の出入りなど広範囲で生々しい話をしていたが、石川議員が承諾した範囲で調書に記載した」と述べ、不当な取り調べはなかったと強調した。
 田代検事は、石川議員が▽元代表提供の4億円を収支報告書に記載しなかった▽報告書の内容は元代表に説明していた−−などと供述したとし、「7割くらいは本当のことをしゃべっていると思ったが、元代表の関与を薄めて供述しているとの疑いも持った」と振り返った。また、石川議員の印象を「八方美人で正論に弱い」などと評した。
 石川議員は保釈後の昨年5月にも田代検事の聴取を受け、その際に隠し持ったICレコーダーでやりとりを録音。石川議員が「『(特捜部は)恐ろしい組織だから何をするか分からないぞ』って諭してくれたことがあったじゃないですか」と問いかけ、田代検事が「うんうん」と応じるやりとりがあり、石川議員の公判で調書の任意性が否定される根拠の一つとなった。
 尋問で指定弁護士はこの部分を再生。見解を問われた田代検事は「(議員の)話を理解して肯定しているわけではない」と説明した。録音には、石川議員が調書の訂正を求めたが、田代検事が応じない場面もあった。田代検事は「元代表の強制起訴を回避しようとしていると感じた」と述べた。【和田武士、野口由紀】
毎日新聞 2011年12月15日 東京夕刊
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◆小沢一郎氏裁判 第9回公判
産経ニュース2011/12/15 Thu.
 裁判長「お仕事は?」
 証人「検察官です」
 指定弁護士「現在の勤務地は?」
 証人「新潟地方検察庁です」
 指定弁護士「陸山会事件の捜査はいつ担当しましたか」
 証人「平成21年7月下旬から、22年5月下旬だったと思います」
 指定弁護士「石川議員の調書を改めてごらんになりましたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「調書に訂正すべき内容はありましたか」
 証人「必ずしも説明が十分伝わらなかったところはあると思うが、事実関係として訂正することはありません」
 指定弁護士「(逮捕後に)石川議員の窓口となったのはだれでしたか」
 証人「☆☆弁護士(法廷では実名)のグループと、◎◎弁護士(同)のグループということだったと思います」
 指定弁護士「弁護士グループが2つあったということですね。なぜ分かりましたか」
 証人「石川議員から聞いたからです。逮捕当日は☆☆弁護士ともう1人の弁護士が接見しましたが、グループが2つあり、アドバイスが違うので非常に困惑していますと言っておられました。また、札幌の弁護士がおり、◎◎弁護士のグループかと思いましたが、(石川議員が)『自分の知り合いで個人的に頼んだ』といい、厳密に言えば3グループあったようです」
 指定弁護士「接見はしていましたね」
 証人「それぞれのグループが1日1回。計2回接見しておりました」
 指定弁護士「接見を意識して取り調べをしましたか」
 証人「意識しました。取り調べの内容が弁護士に伝わり、どんな録取をしたかも伝わる。アドバイスも当然受けると予測されました」
 《指定弁護士はその後、取り調べ時の様子について聞く》
 指定弁護士「取り調べの内容はどのように決めますか」
 証人「被疑事実と証拠、主任検事の指示に基づきますが、その日に何を取り調べるかは私の判断で決めました」
 指定弁護士「大久保(隆規元秘書)さん、池田(光智元秘書)さんも逮捕されましたが、それぞれの供述調書を渡されたことは?」
 証人「ありません」
 指定弁護士「供述内容について口頭で知らされたことは?」
 証人「主任検事からピンポイントで、(他の2人が)こういったことを話しているので、(石川議員に)確認してほしいといわれたことはあります」
 指定弁護士「(22年)1月23日に小沢被告の(任意の)取り調べがあったことはご存じでしたか」
 証人「私は知りませんでした。極秘事項ですので知っているのはごく一部だけ。私は報道レベルで知っていたというだけです」
 指定弁護士「取り調べの対象が事実と違う供述をした場合にはどうしますか」
 証人「真実を話させるためにどうするかということですか」
 指定弁護士「はい」
 証人「抽象的にはなりますが、事実と異なる供述をするには、それなりの理由があると思います。その理由を突き止めたうえで、それを取り除くのですが、あとはケース・バイ・ケースとしか言いようがありません」
 指定弁護士「調書の作成方法はどうなっていますか」
 証人「取り調べたことを口頭で伝え、事務官がパソコンに入力します。それをプリントアウトして(取り調べの対象者に)渡し、私は画面をみて読み上げます。その後、原稿を黙読させます」
 指定弁護士「問題がなければ署名をすると?」
 証人「はい」
 指定弁護士「事務官は取り調べにはいつも立ち会いを?」
 証人「基本的にはそうです。本件では1、2回、石川議員から事務官に席を外してほしい、と申し入れがあり、そうしたことがありましたが」
 指定弁護士「そのとき、(石川議員は)重要な話を?」
 証人「内容について思い出すことはできませんが、事件の上ではたいした話ではなく、むしろプライベートなことだったと思います」
 指定弁護士「調書の内容は事前に準備しますか」
 証人「項目ぐらいは書き留めますが、事前に原稿を用意することはありません」
 指定弁護士「(小沢被告が元秘書に渡した)4億円の原資について、特捜部はどのように考えていましたか」 証人「ゼネコンから渡ったお金ではないか、という捜査でした」
 指定弁護士「具体的には?」
 証人「水谷建設から計1億円の金が渡っているのではないかということです」
 指定弁護士「それはだれの供述をもとに?」
 証人「水谷建設の元社長の供述だったと思います」
 指定弁護士「ほかのゼネコンからは?」
 証人「細かい金銭の授受は出てましたが、水谷建設のように億単位の話は聞きませんでした」
 指定弁護士「石川議員には何を聞きましたか」
 証人「平成16年10月に5千万円の現金を受け取ったのではないか。また、17年3月に水谷建設から小沢事務所に5千万円が渡ったという事実を知っているのではないかということです」
 指定弁護士「石川議員の取り調べで、建設関係の取り調べが占めた割合は?」
 証人「記録はつけていませんが、私の感覚では半分ぐらいは水谷建設の話を聞いていたのではないかと思います」
 指定弁護士「1億円をもらったか、もらってないかを聞くのに、それほど時間はかからないかと思いますが」 証人「押し問答でずっと続けていたわけではありません。水谷建設と小沢事務所の関係、秘書とゼネコンの関係などについても逐一聞いておりました」
 指定弁護士「石川議員は5千万円の授受について、どう供述を?」
 証人「当初から一貫して『そうしたことはない』ということでした」
 指定弁護士「ゼネコンと小沢事務所の関係については?」
 証人「小沢事務所のなかでゼネコン対応は大久保さんが行っていた、と。自分は口も出せないし、手も出せないと言っていました」
 指定弁護士「石川議員の取り調べでは十数通の調書を作成しましたね。供述していないことを調書にしたことは?」
 証人「ありません」
 指定弁護士「供述した通りのことを調書にしたと?」
 証人「実際には広範囲に、生々しい話をしていました。それをすべて調書にしたわけではなく、承諾が得られるところで調書にしたと思います」
 指定弁護士「(石川議員が取り調べの中で)どの程度、真実を語っていたと思いますか」
 証人「感覚ですが、私としては7割くらいは、本当のことを話していたと感じていました」
 指定弁護士「真実ではない3割とは、どういうことですか」
 証人「小沢被告の関与の度合いを薄く証言しているのではないかと感じていました」
 指定弁護士「信頼関係は築けたと思っていますか」
 証人「ええ、当時はそのように思っていました。少なくとも、被疑者と検事の対立関係はありませんでした」
 指定弁護士「録音では、先輩と後輩の親しい関係のやりとりもありますが…」
 証人「まぁ、そこまでは、行きませんが、大学が同じで、高校時代にやっていたスポーツも同じで私自身は親しみを感じていました」
 指定弁護士「雑談には、どれくらいの時間を割いていましたか」
 証人「計っていないので分かりませんが、それほど多くはありません。ただ、雑談をする際は、形だけのものにはしていませんでした」
 指定弁護士「形だけにしないというのは、どういうことですか」
 証人「石川さんの出身地の話や、両親ら家族の話、小沢被告の書生になった後の苦労話などです」
 指定弁護士「石川議員の著書の中では、(先輩の)衆院議員の話も出てくるが…。雑談の中で、何か記憶に残っていますか」
 証人「本当かどうかは分かりませんが、石川さんは(先輩議員らから)『事実は認めてはいけない』とか『日本の政治、小沢先生のために、(石川議員が)防波堤にならなければならない』などと言われたと話していました」
 指定弁護士「石川議員は取り調べの当初のころは、どんな感じでしたか」
 証人「ひと言でいって私は『横柄(おうへい)だな』と感じていました」
 指定弁護士「具体的には?」
 証人「石川さんの説明に『納得できない』と異議を唱えると、『検事が納得できようが、納得できまいが関係ない』という感じでした」
 指定弁護士「これまで証人は、いろんなタイプの被疑者に接してきたのでしょうが、石川議員は、どんなタイプですか」
 証人「これも決めつけは難しいですが、八方美人かつ正論に弱いと感じていました。自分は立派な人間で誠実でありたいという気持ちが強いと判断していました」
 指定弁護士「そういう性格と判断した石川議員に対して、どう接しようと思ったのですか」
 証人「最初に『(私は)フェアにやる』と説明しました。また、黙秘権もあり言いたくなければ言わなくても構わないが、正直に事実を話し、積極的に嘘をつくのはやめてほしいと約束しました」
 指定弁護士「そう説得して、徐々に信頼を得ていったのですね」
 証人「石川さんは国民から負託を受けた国会議員であり、その議員がいい加減な話をすれば、選挙民を裏切ることになると説得しました」
 指定弁護士「具体的に本件では真実を語っていると感じていましたか」
 証人「先ほども話しましたが、真実に近い話はしていたと思います。ただ、いろいろな事情があって、譲れないところもあったのでしょう」
 《問題の土地の購入に際し、小沢被告は4億円の資金を用意していたが、その後、りそな銀行からも定期預金を担保に4億円の融資を受けていた。石川議員は公判でこの計8億円について「小沢被告から預かった4億円を担保に4億円を借りたので、記載は借りた4億円の1回でいいと認識していた」と証言している》
 指定弁護士「石川議員は取り調べでも、このような説明をしていたのですか」
 証人「まったくありません」
 指定弁護士「証人は、このような説明が成り立つと思っていますか」
 証人「(成り立つとは)考えられません。政治資金収支報告書には、政治団体の収入すべて、つまり8億円を記載しなければなりません」
 《平成16年の収支報告書には、4億円の借入金が収入として記載されている》
 指定弁護士「この4億円を、石川議員はどの4億円と説明していましたか」
 証人「りそなの4億円です」
 指定弁護士「小沢被告の4億円については?」
 証人「記載していないと説明していました」
 指定弁護士「収支報告書の小沢被告への説明については、(石川議員は)どう説明していましたか」
 証人「平成17年3月の提出前に原案と収支報告書の一覧を、東京・赤坂の事務所の部屋の机に並べ、小沢被告に説明したと話していた記憶があります」
 《石川議員は、公判で小沢被告は年1回、年末に収支一覧表を見せて関係5団体の収入と支出を説明するだけで、政治資金収支報告書を見せることはなかったと主張している》
 指定弁護士「年末の説明については」
 証人「12月下旬の忘年会の際に、法人と個人献金の増減を報告していたと言っていました」
 指定弁護士「この際に収支一覧表を見せたといっていましたか」
 証人「そういう話はありません」
 《問題の土地の不動産登記は、代金の支払いを終えた平成16年10月から、翌年1月にずらされている。石川議員は、これを前任秘書の樋高剛衆院議員からアドバイスを受けたと証言していた。指定弁護士は、この点も確認していく》
 指定弁護士「樋高議員の事件の関与について、何か話していましたか」
 証人「まったく供述していません」
 指定弁護士「樋高議員について、どう話していましたか」
 証人「確か、登記をずらすことは、樋高議員らと話をしているときに、石川議員が思いついたと」
 指定弁護士「本件への関与については」
 証人「(樋高議員は)まったく関与していないといっていた。むしろ、私の方が(樋高議員の)関与を疑ったくらいでした。すべて自分(石川議員)で思いついたとは、考えられなかったので…」
 証人「石川さんはその都度言い分が変わり、前後の発言が矛盾していた。私は『1つ1つについて有利、不利を考えて話をするから、つじつまが合わなくなる。事実を話せばつじつまが合う』と説得しました」
 指定弁護士「それで、石川さんに変化があったんですか」
 証人「説明に窮し、黙り込んでいる時間も長かったですが、結局『自分のことは認める』と言いました」
 指定弁護士「どういう意味ですか」
 証人「虚偽記載は書き忘れではなく、意図的に不記載にしたということです」
 証人「不合理な弁解を引っ込めたという段階。真相に迫っているとは、およそ言えませんでした」
 《翌15日に逮捕された石川議員。これまでの公判では、この15日の前後に「特捜部は恐ろしい組織なんだから、何するか分からないぞ」と検事から威迫を受けたと主張している。》
 指定弁護士「このような発言をする状況でしたか」
 証人「いいえ。そもそも石川議員の供述は内容自体が不合理で、有効性が期待できませんでした。それに、政権与党の幹事長に関する捜査で、取り調べは慎重に慎重を期していました。任意の取り調べでは録音される危険もあるし、『足下をすくわれることを言うな』と、上司から口酸っぱく言われていました。石川議員には当然弁護士もついているので、不合理な言辞は使えません。弁護士を通じて抗議を受ければ、取り調べしづらくなります」
 指定弁護士「聴取後に本人や弁護士から、威迫があったと抗議を受けましたか」
 証人「私自身受けていませんし、(上司の)主任検事からも抗議があったとは聞いていません」
 《ここで、指定弁護士は石川議員が昨年5月の任意の再聴取で、証人の検事とのやり取りをひそかに録音した「隠し録音」を再生する。雑音も入るが、「『早く認めないと、ここは恐ろしい組織なんだから、何するか分かんないぞ』と諭してくれたことがあったじゃないですか」と話す石川議員に対し、検事が「うんうん」とうなずく音声が、廷内に響く》
 指定弁護士「石川議員の発言を理解して『うんうん』と答えたんですか」
 証人「録音を聞くまで、この(「恐ろしい組織〜」という石川議員の)発言自体を記憶していなかったほどです。理解、承認して『うん』ではなかったと思います」
 指定弁護士「発言に応答したのではないと?」
 証人「再生を聞いてもわかる通り、この前後でも私は『うーうー』と相づちを打っている。流れの1つである、というのがお分かりになると思います」
 指定弁護士「威迫を受けて調書に署名した、と石川議員はそういう主張をしています」
 証人「全くありませんでした。(石川議員が)承諾した範囲で調書を取っていますが、実際の取り調べでは(石川議員は)もっといろいろなことを言っています。水谷建設の問題については、完全に否認を続けていました。そういう石川さんの態度からしても、威迫はありませんでした」
 指定弁護士「どうして小沢被告が関与していると考えたのですか」
 証人「陸山会は小沢被告の資金管理団体ですし、融資申請書や約束手形に自署があった。当然、何らかの関与があると考えた」
 指定弁護士「石川さんの供述について、ご記憶はありますか」
 証人「いろいろとありましたが、どんな話があったかを個条書きに話すのは難しいですが」
 指定弁護士「取り調べにあたりメモは作成されていましたか」
 証人「走り書きにはしてありました」
 《指定弁護士は「記憶喚起のため」として○○検事に取り調べメモを見せることを求め、裁判長がこれを認める。》
 指定弁護士「一番下に『そうか、そうしてくれ』と書かれているのは」
 証人「石川さんが小沢被告に登記をずらすことを報告して『そうか、そうしてくれ』と言われたという供述です」
 指定弁護士「この『ちゃんと戻すんだぞ』という部分は?」
 証人「石川さんが小沢被告に4億円を借りた際に言われたことだと思います」
 指定弁護士「その下に『最低目標 水谷』と書いてあるのはどういうことですか」
 証人「水谷建設の(計1億円の裏献金)問題や、石川さんは西松事件のときに段ボールを持ち出した疑いがあったので、取り調べで聞かなくてはいけないという私の備忘のためです」
 指定弁護士「調書にしなかったのはどうしてですか」
 証人「民主党代表選が近いという部分など、客観的事実かどうかわからない部分や抽象的な部分があったし、石川さんの供述が具体的に進展すると思いましたし。また、この日は午前中に弁護士の接見があったりして、取り調べが夜だけだったこともあります」
 指定弁護士「1月17、18日にも(調書を)作成していないのはどうしてですか」
 証人「石川さんが拒否したからです。弁護士に署名を拒否するように言われたからと」
 指定弁護士「19日には作成しましたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「(調書を作成するときに石川議員は)本件4億円の原資のくだりについて何か言ってましたか」
 証人「調書の作成を始めたときに『それは困る。直接、見聞きしたことではない』と言っていた」
 指定弁護士「調書作成時に石川さんから何か言われましたか」
 証人「『これで小沢先生は共謀の共同正犯ですかね』とふっかけられた」
 指定弁護士「あなたは何と答えましたか」
 証人「事実なら仕方ないと言ったら、『仕方ないではすみませんよ!』とくってかかられた。なので他の証拠と合わせてみて、共謀の成立に十分、不十分があるので何とも言えないと答えた」
 指定弁護士「それについて何と言われましたか」
 証人「『検事はどう思いますか』といわれた。今後、具体的に供述が進展すると思っていたので、これだけでは(共謀の成立は)厳しいのではと言った」
 指定弁護士「平成22年1月30日の調書ですが、4億円の(支出記載の翌年への)先送りは(小沢被告への)報告、了承を得たとありますね」
 証人「はい」
 指定弁護士「石川さんは他の検事に何と答えてましたか」
 証人「『了解なくやったので小沢先生は知らない』ということでした」
 指定弁護士「それは誰から聞きましたか」
 証人「小沢被告の取り調べを担当した検事から聞きました」
 指定弁護士「次に平成22年5月17日の石川さんの調書です。検察審査会の議決を受けての取り調べですね」
 証人「はい」
 指定弁護士「石川さんの供述はどうでしたか」
 証人「従前通りだったと思います」
 指定弁護士「この日、石川議員には、どういうことを聞こうと思っていましたか」
 証人「水谷建設のことや、小沢被告の事件への関与について従前の供述を維持するかどうかについて聞こうと思っていました」
 指定弁護士「それまでのメディアでの石川さんの言動は?」
 証人「後退していました」
 指定弁護士「当日の石川議員の取り調べで何か考えていましたか」
 証人「起訴後に会っていなかったので、まずは近況を聞いて信頼関係を築こうと思っていました」
 指定弁護士「録音されているとは思っていなかった?」
 証人「はい」
 指定弁護士「実際の録音テープはあなたも聞かれましたか」
 証人「はい」
 指定弁護士「どう思いましたか」
 証人「全体で聞いてもらえれば、おかしなことをしていると非難されるものではない」
 指定弁護士「この日の取り調べで石川議員は従前通りの供述を変えようとしていましたか」
 証人「それはありました。1点は『(収支報告書の記載の先送りを)登記をずらすのが主目的で4億円を隠すためではない』ということ。2点目は『収支一覧表の作成は3月ではなく12月だった』ということ」
 指定弁護士「登記の先送りについては、(録音の中で)10回くらい(石川議員の供述が)出てきています。どう思いましたか」
 証人「合理的であれば調書に取り入れるが、合理的ではなかった。なので、調書を作ろうと思ったがとりやめた」
 指定弁護士「取り調べの中であなたが『めんどくせーからさ』と言っていますが、これはどういう趣旨の発言ですか」
 証人「この日突然、収支一覧表の話をしてきたので、また根拠のない話をし始めたなと思いました」
 指定弁護士「小沢被告がどうしたら起訴されないかを話しましたか」
 証人「そうではありません。真実に近い内容を供述してほしかった。起訴を避けるために、こうしろとは言っていない」
 指定弁護士「石川さんが新たに調書に入れようとしたところは、あなたとしては、調書に入れるとどうなると思いましたか」
 証人「起訴の可能性が高まることはあっても、低くなることはないと思いました」
 指定弁護士「石川さんはなぜこのようなことを調書に入れさせようとしたと思いますか」
 証人「石川さんがそう言うことで、小沢被告の起訴を回避したかったのではないかと思います」
 指定弁護士「あなたはそうすることで逆に起訴の可能性が高まると思っていたんですね」
 証人「私はそう思っていました」
 指定弁護士「あなたが石川さんに、従前の供述を維持させようと思ったのは問題なかったということですか」
 証人「問題ありませんでした」
 指定弁護士「最後に聞きますが、石川さんが同意していないことを調書にしたことはありましたか」
 証人「それはありません」
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 《約1時間半の休憩を挟んで、再開》
 《男性弁護士は、○○検事が検察官役の指定弁護士側の証人として出廷するために、指定弁護士と事前に打ち合わせをしたか尋ねた。○○検事は今年11月から4回にわたり、東京地検で、毎回午後1時から5時ぐらいまでの間、打ち合わせをしたと答えた》
 弁護人「(打ち合わせで)録音(石川議員が取り調べを隠し撮りしたテープ)は再生しましたか」
 証人「1回あったと思います」
 弁護人「今までその時以外に、聞いた機会はありましたか」
 証人「あります」
 弁護人「いつごろですか」
 証人「録音が存在すると分かった直後に説明を求められたので、そのときに聞きました」
 弁護人「通して聞いたのはそのときだけですか」
 証人「その1回です」
 弁護人「あなたが、陸山会事件にかかわったのは、21年7月から22年5月下旬でよろしいですか」
 証人「はい」
 弁護人「この事件は、収支報告書の虚偽記載と不記載についてと、ゼネコンからのお金の授受ということで、2つの事件があったのですか」
 証人「(小沢被告が提供した)4億円の原資が問題になっていたので、収支報告書の内容とゼネコンからの金銭授受について両方問題になっていました」
 弁護人「裏付けの過程で、水谷建設(の1億円の話)が出てきたのですか」
 証人「はい」
 弁護人「水谷建設のお金の授受について、検察は事件として立件しましたか」
 証人「立件してないと認識しています。客観的にはどうか分かりませんが」
 弁護人「地検の同僚が、ほかの関係者の取り調べをしているというのは知っていましたか」
 証人「ゼネコンや下請けの関係者は多く呼ばれていると思っていたので、聴取は行われていると思いました。しかし、いつ誰が、誰を調べているかは分かりませんでした」
 弁護人「石川さんの周囲にいる秘書に対する聴取は聞いたことがありますか」
 証人「全く知りませんでした」
 弁護人「あなたは石川さんに対して『この事件はどう収めるかだ』と言ったことはありますか」
 証人「ありません」
 弁護人「『特捜部はこわい』『捜査が広がる』『何するか分からないぞ』というような、石川さんにそう理解されるような言葉を言ったことはありますか」
 証人「言ったことはありません」
 弁護人「22年5月17日の取り調べの反訳書の72ページで『地検の怖さは身をもって分かりました』と石川さんが言っていましたが、石川さんがそう感じてるとは思いましたか」
 証人「思いませんでした」
 弁護人「石川さんは『地獄の20日間』と言っていますが、石川さんがそういう状況にいると感じたことはありますか」
 証人「現職の国会議員ですし、相当つらい期間ではあると思っていました。とくに最初の5日間は相当落ち込んでいました」
 弁護人「『特捜部が納得しないと、他にも強制捜査を及ぼさないといけなくなる』というようなことを石川さんに言ったことはありますか」
 証人「言ったことはありません」
 弁護人「直接的ではなくても、そう取られることを言ったことはありませんか」
 証人「ありません」
 《弁護側は反訳書を○○検事に見せる》
 弁護人「(石川議員の再逮捕について)『組織として本気になったときに、全くできない話かっていうとそうでもないわけじゃない』と言いましたか」
 証人「言いました」
 弁護人「それに類する話を、(石川議員の)身柄拘束中に言っていませんか」
 証人「石川さんが再逮捕を心配して、私に聞いてきたことがありました。私は『分からない、やれる可能性がないとは言えない』と客観的な意見を言いました」
 弁護人「平成22年5月17日の取り調べで、あなたは捜査報告書を書いていますね」
 証人「書きました」
 弁護人「何日に書きましたか」
 証人「5月17日に書き始めまして、何日かかけて完成させたと思います」
 弁護人「何ページの報告書ですか」
 証人「5、6ページだったでしょうか」
 弁護人「あなたが書いたものでしょう」
 証人「5、6ページか、もう少し多い10ページだったか。いずれにしましてもそれくらいだったと思います」
 弁護人「それを何日もかけたのですか」
 証人「別の仕事もしながら、合間、合間に作成しましたので…」
 弁護人「中身は覚えていますか」
 証人「だいたいは把握しています」
 弁護人「1ページ目にあなたの署名と押印があるが、間違いありませんか」
 証人「はい」
 弁護人「東京地検特捜部長あてになっているが」
 証人「そうです」
 《続いて、男性弁護士は捜査報告書の中身を示す。石川議員は11万人の有権者の投票を受けて当選したが、大半は「小沢一郎の秘書」というのではなく、個人を信頼して投票したはずだと、○○検事に言われたことを契機に、調書のサインに応じた−とする内容が具体的なやり取りとともに記載されている。だが、実際の録音にはこうしたやり取りは残っていない》
 弁護人「やり取りがないのに、どうして(捜査報告書には)記されているのですか」
 証人「やり取りがあったと認識して書いた」
 弁護人「実際のやり取りと異なるのが、記載されたことですか」
 証人「この日の取り調べを一言一句記載したのではなく、思いだし、思いだし記載した。拘留中に話したことや、保釈後に話したことの記憶が混同していたと思う」
 弁護人「もう一度聞きますが、5月17日から数日で書いたのですね」
 証人「はい」
 弁護人「5月17日には、どこまで書いたのですか」
 証人「それは記憶にはありません」
 弁護人「虚偽の捜査報告書を書いたのではありませんか」
 証人「そうではありません」
 《続いて、弁護人は○○検事が石川議員に「(虚偽記載を認める供述を覆し)逆の供述をすれば、火に油を注ぐことになる」などと話したことを追及していく》
 弁護人「(任意聴取の際には)こう伝えたことがありましたね」
 証人「はい」
 弁護人「繰り返し述べましたね」
 証人「それは、石川さんが従前通りの主張だといいながら、実際に調書のサインの段階になると、『4億円を隠すつもりはなかった』などと覆す。その中で何度かやり取りがあった」
 弁護人「何のために捜査報告書を作っていたのですか」
 証人「調べが終われば、作るように、と指示されていました」
 弁護人「指示はだれからか」
 証人「主任検事です」
 弁護人「あなたは、何日かかけて作るうちに、記憶が混同して、やり取りのない内容を記したということでしたね」
 証人「かいつまんで言えばそうです」
 弁護人「これが検察審査会の小沢さんの起訴議決にも影響を与えた可能性があったと分かっていましたか」
 証人「協議の内容については、分かりません」
 弁護人「可能性の話ですよ」
 証人「可能性の話ならば…」
 《男性弁護士は、検察審査会の議決の理由に、捜査報告書の内容を挙げている点を紹介し、追及していく》
 弁護人「理由に捜査報告書の内容が挙がっていることは認識していましたか」
 証人「議決自体は見ていないが、報道レベルでは知っていました」
 《○○検事が任意聴取の際に「石川さんの供述がさ、やっぱり功を奏したんでしょ…」などと言った隠し録音の部分を紹介した》
 弁護人「功を奏するというのは?」
 証人「小沢さんが起訴されないことを指したと思います」
 弁護人「なぜ、そんなことを言ったのか」
 証人「石川さんに同調するように言っただけで、事実だという趣旨で言ったのではありません」
 《○○検事は、石川議員を取り調べる際、「フェアプレーで本当のことを言ってほしい」と約束していたとされる》
 弁護人「フェアプレーであると言いながら、あなた自身は事実を認識できないことを話すのですか」
 証人「客観的な事実は分からない。(小沢被告の)起訴を望んでいなかった石川さんに同調した形で話しただけです」

 [小沢一郎氏裁判 第9回公判〈後〉]へ続く


小沢一郎氏裁判 第9回公判〈後〉/証人 石川知裕議員女性秘書が語った深夜に及ぶ違法な取調べの実態

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[小沢一郎氏裁判 第9回公判〈前〉]からの続き
産経ニュース2011/12/15 Thu.

 《弁護側は、「僕は小沢一郎を裁判にかけたいと思っていないわけ、前から言っているようにね」という発言から、順番に質問していく》
 弁護人「『われわれ(○○検事と石川議員)の作戦で、小沢さんは起訴になっていない』とあなたは言っています。小沢さんを不起訴にする、という共通目的を持っていると理解されますが」
 証人「石川さんの立場に立って取り調べをしています。そう理解されるでしょう」
 弁護人「事実ではないんですか」
 証人「私は石川さんにも小沢さんにも近くありません」
 弁護人「では、石川さんの立場に立って、『○○検察官と石川被疑者は小沢氏の不起訴という共通目的を持っている』とするのは、積極的に嘘をついていることにならないですか」
 証人「…。あのー、別に石川さんをだまそうとしたわけではないですし、積極的に嘘をつくというのは当時全く考えられません。実際、石川さんもそう思わなかったんじゃないですか。検事が不起訴を望む、なんて」
 《次は、「法律家としては、(小沢被告の)共謀の認定はちょっときついという話はしたよね」という部分》
 弁護人「具体的にどういうやり取りの中でこの話をしたのか、正確に言葉通り説明してください」
 証人「(石川議員が逮捕される前の、小沢被告への報告・了承を認めた昨年)1月11日の調書作成を終えた後、石川議員から『これで(小沢被告も)共謀共同正犯ですね』と議論をふっかけられて。『共謀の認定もいろいろあって、総合的に考えて十分という場合もあるし、この供述だけでは(認定が)厳しいという考えもある』と言いました」
 「そうすると、石川さんから『○○検事の考えはどうか』と尋ねられたので、『個人的にはきつい気がする』という話をしました」
 《続いて、土地購入原資の4億円に対する、○○検事の「汚い金だっていうのは、検察が勝手に言ってるだけで、水掛け論になるから相手にしなくていい。証拠ないんだから。別に」という発言》
 弁護人「『4億円は汚い金』という証拠がない、と石川さんに伝えたんですね」
 証人「あの…、言葉ではそうです。言葉の勢いで言ってしまいました。証拠がない、というのは事実に反します」
 弁護人「あなた、4億円の出所の重要性をよく知っていて、前年から捜査していたんですよね。取り調べの半分は水谷建設の件に費やしている。そういう重要なことを、取り調べの検察官が勢いでいいますか?」
 証人「このときは、そうですね」
 弁護人「嘘をついたんですね」
 証人「嘘ではありません。(隠し録音を文書に起こした)反訳書を見ると、言い過ぎたな、と。言い過ぎを後悔しているということです」
 「この日は石川さんに水谷建設のことを聞いても仕方がない、と思っていました。否定する一方だったので。しかし、石川さんが水谷の話をほじくり返すので、止めさせようとして、そう話しました」
 弁護人「『簿外の金』とは、あなたが言いだしたんですか」
 証人「違います。…訂正します。私が言い出したか、石川議員が言い出したかは分かりません。ただ、『簿外の金』という表現で、会話がかみ合っていたのは事実です」
 弁護人「『自分で言うのも何だけど』とは?」
 証人「固有名詞を隠して、丸めて表現しているところを言っています」
 《石川議員の小沢被告との「報告・了承」時期について、石川議員が調書の訂正を求めた際の「12月だろうが、3月だろうが変わんねーからさ、また変わると、なんでじゃあ変わったのってなっちゃうからさー。めんどくせーからさ」という発言》
 弁護人「検察官調書ってそういうものですか? 不合理な話が出ても何のやり取りもないまま?」
 証人「実際の報告が(平成16年)12月だった、という話はこの日に初めて出ました。客観的な証拠に矛盾するし、根拠もなく不合理でした。だから、『まあまあ(仕方がないです)』と石川さんが(訂正を)あきらめたんだと思いました」
 《午前中の公判で「石川さんの話は7割が本当、3割が虚偽と認識していた」とする○○検事の発言の意味》
 証人「1点付け加えると、取調官というのは被疑者が本当のことを言っていると思いたいんです。自己弁護の気持ちはあったと思います」
 弁護人「石川さんと小沢さんの共謀について、あなたの調書を主要な証拠として認定できると考えてましたか」
 証人「そこは分かりません」
 弁護人「通常ならば取調官なら膨大な証拠があるので意見を言うことはできるのではないのですか」
 弁護人「では改めて。5月17日の取り調べに当たり、共謀は当然認められると思っていましたか」
 証人「…そこは何とも言えないところですが。この供述だけでは厳しいかなというのが率直な印象でした」
 《弁護側反対尋問が終わり。指定弁護士再尋問》
 指定弁護士「1月19日に作成された調書について、4億円の原資についてはどういう記載となったかご記憶にありますか」
 証人「『小沢先生が政治活動の中で何らかの形で蓄えた簿外の資金であり、表に出せない金』ということでした」
 指定弁護士「ここで『簿外の金』と使われていますが、どちらから出た言葉か記憶にないですか」
 証人「どちらともなく出たと思います」
 指定弁護士「(『政治活動の中で』の意味について)もう少し詳しく覚えていますか」
 証人「経世会、新生党、新進党、自由党、民主党など、(小沢被告が関係した)政党などが離合集散する中で、という表現だったと思います」
 指定弁護士「(昨年)5月17日の取り調べは、1日で終わることになっていましたか」
 証人「そういうふうに聞かされておりました」
 指定弁護士「調書を作成されないこともありますが、この日は調書を作成したいという気持ちはありましたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「当初、収支一覧表について石川議員は『3月』に小沢被告に見せて説明したとしていたが、石川さんの供述がぶれたので調書に記さなかった」
 証人「はい」
 指定弁護士「石川さんが『12月』に作成して見せたと言ったときにどう思いました」
 証人「まだ根拠のない弁解を始めたなと思いました」
 指定弁護士「石川さんはそういうことを繰り返すことがある」
 証人「はい」
 弁護人「実際に石川さんの調書を作成したのは何日でしたか」
 証人「1月19日でした」
 弁護人「メモの中で、石川さんが話した政党の固有名詞が出ていないのはなぜですか」
 証人「客観的事実がない。後で調べたら分かると思っていました」
 弁護人「石川さんが供述していたけれども、その日は調書も取らない。3日も経ったらあなたの記憶が混濁するのではないですか」
 証人「何党が何党に変わったかは重要ではないと思っていた。この供述自体も半信半疑だったので」
 弁護人「半信半疑であれば、なおさら供述を照らし合わせることが必要ではないのですか」
 証人「そんなことを言ったら、調書に書いてないことはたくさんありますよ!」
 指定弁護士「あなたは調書を書く際に、石川さんの供述を覚えていますね」
 証人「はい。寝ているとき以外はこの事件のことを考えていましたので」
 指定弁護士「詳細なメモを作る人もいると思いますが、あなたはどうですか」
 証人「被疑者の一挙手一投足を見ています。いちいちメモを取りながらやっていたら取り調べにならない」
 裁判官「それでは私から質問します。確認になりますが、副部長の□□検事(法廷では実名)についてですが、上下関係では□□検事が上になるのですか」
 証人「私の上はそうですが、その上に特捜部長がいます」
 《平成22年5月17日の取り調べで、元秘書の石川知裕衆院議員(38)が供述を覆すことで、「小沢被告の起訴の可能性が高まる」という見通しを○○検事が持った根拠》
 証人「合理的であればいいんですけど、不合理な弁解をすれば、検察審査会は国民が判断するとあって、より起訴の可能性が高まるという見通しを持ちました」
 裁判官「あなたの上司や同僚で、そういったことを言っていたのですか」
 証人「いえ」
 裁判官「『認めれば小沢被告が起訴にならない』という発言は、少し危険な取り調べをしているという自覚がありましたか」
 証人「そうですね。一般的には言わないですし、言葉のとらわれ方によっては…」
 裁判官「当時はその認識がありましたか」
 証人「当時ですか?」
 証人「そうですね。見通しを述べただけなので、取り調べをしているときに危険とか危険じゃないとか考えてはやっていないですね」
 裁判官「当時は考えてなかった、と」
 証人「はい」
 裁判官「そのときに録音をされているということが分かっていたら、こういう説明はしませんでしたか」
 証人「しなかったと思います」
 裁判官「5月17日の捜査報告書は、供述内容よりも詳しかったですが、何を元にして作ったのですか」
 証人「私の記憶です」
 裁判官「メモなどは取らなかったのですか」
 証人「一切取っていません」
 裁判官「1月には取っていたが、5月17日は取ってないんですか」
 証人「そうですね」
 裁判官「記憶を喚起するものもなく、報告書を作られたんですか」
 証人「そうですね」
 裁判長「ほかの共犯者はこう言っているということを石川さんに告げて、取り調べをしたことはありますか」 証人「大久保(隆規元秘書=一審有罪、控訴中=)さんの供述を主任検事から聞いて、石川さんに聞いた(質問した)ことはあります」
 裁判長「続いて5月17日の取り調べなんですが、『作戦が功を奏す』というようなことを言っていますが、石川さんは、作戦の中身について分かると思っていましたか。双方に共通の理解があったんですか」
 証人「私も、軽口といえば軽口でした。厳密に話したとは言えません」
 裁判長「最後になりますが、反訳書の中で石川さんが『東京地検特捜部の恐ろしさが、身をもって分かりました』と言っていますが、あなたはそれを聞いたときに、石川さんはどういうことを言っていると思いましたか」
 証人「自分が逮捕されて勾留されていることについて言っていると思いました」
 裁判長「それだけですか」
 証人「はい」
 《約30分の休廷を挟んで、石川知裕衆院議員の政策秘書の女性に対する、弁護側の質問》
 弁護人「出身地はどこですか」
 証人「北海道です」
 弁護人「最終学歴を教えてください」
 証人「立命館大学文学部です」
 弁護人「卒業は、いつですか」
 証人「1998(平成10)年9月です」
 弁護人「その後は?」
 証人「民主党の国会議員秘書をしています」
 弁護人「公設秘書ということですか」
 証人「はい」
 弁護人「だれの秘書ですか」
 証人「石川知裕の政策秘書です」
 弁護人「いつからですか」
 証人「2007(平成19)年3月27日です」
 弁護人「当選したときからということですね」
 証人「はい」
 弁護人「政策秘書とは、どのような仕事ですか」
 証人「政策の立案やアシスタント、スケジュールの管理などです」
 弁護人「仕事場は?」
 証人「議員会館です」
 弁護人「家族構成を教えてください」
 証人「夫と子供2人です」
 弁護人「子供はおいくつですか」
 証人「7歳と5歳です」
 弁護人「保育園に入れているのですか」
 証人「はい。保育園です」
 弁護人「家事は夫婦で分担しているのですか」
 証人「夫は平日、湯河原にいますので、平日は私が家事をしています」
 弁護人「そうした状況はいつからですか」
 証人「7年前からです」
 弁護人「あなたは東京地検特捜部の調べを受けていますね」
 証人「はい」
 弁護人「何回ですか」
 証人「2回です」
 弁護人「最初の調べはいつですか」
 証人「昨年の1月26日です」
 弁護人「どのように呼ばれたのですか」
 証人「その日の午前10時に、▲▲(法廷では実名)と名乗る人から、私の携帯に電話がありました」
 弁護人「何と?」
 証人「午後1時45分に検察庁に来てくれということでした」
 弁護人「何のためとの説明でしたか」
 証人「何のためか分かりませんでしたので、『資料の返却ですか』と尋ねました」
 弁護人「すると?」
 証人「『はい』と言っていました」
 弁護人「今までにも資料の返却に(検察庁に)うかがうことあったのですね。これまでとの違いはありましたか」
 証人「はい。普段は時間を一方的に指定することはありませんでしたので、心配になりました。なので3回ほど、資料の返却か確認しましたが、そうですとのことでした」
 《女性秘書は資料の返却と思っていたため、軽装で名刺入れなどが入る小さなバッグ1つだけを持って指定された時間に行ったと主張。財布も持っていなかったという。だが、受付を終えると9階の検事の部屋に通された。自己紹介して初めて▲▲が検事であることを知ったとする。▲▲検事は身長は180センチぐらいで、眼鏡をかけ、女性秘書は「かっぷくがよかった」と証言した。▲▲検事は、まず女性秘書に対して「何で呼ばれたか分かりますよね」と切り出してきたという》
 弁護人「あなたは何と答えたのですか」
 証人「…。何で呼ばれたのか分かりませんと、資料の返却ですよねと逆に尋ねました」
 弁護人「▲▲検事の答えは?」
 証人「違いますと。あなたにお話ししてもらわないとならないことがあると言っていました」
 《続いて、女性秘書は名前や戸籍などを紙に記入させられたという》
 弁護人「その後は?」
 証人「取り調べを始めると告げられました」
 弁護人「何についての取り調べですか」
 証人「ホニャララ、ホニャララの被疑者として取り調べると」
 弁護人「ホニャララとは何ですか」
 証人「わざとゴニョゴニョと聞きづらくしていましたし、被疑者のところだけ大きくしていましたし…」
 《その後、▲▲検事は六法全書を開いて、黙秘権を説明し、聴取を始めたという。女性秘書は再び容疑を尋ねたが、▲▲検事は答えなかったとする。そして、持ち物を検査され、携帯電話も目の前でディスプレーを見せ、消すことを要求され、女性秘書は従ったと主張する》
 弁護人「(記入した経歴を記した)紙について質問がありましたか」
 証人「はい。紙に基づいて経歴を確認していきました」
 弁護人「その後のやりとりは?」
 証人「資料の返却に来ただけと思っていたので、取り調べならば、連絡をさせてほしいと懇願しました」
 弁護人「(▲▲検事の)反応は?」
 証人「駄目だと」
 弁護人「理由は?」
 証人「あなたに権利はないと。被疑者なら、せめて弁護士にも連絡させてくれと言いましたが、それもできないと言われました」
 弁護人「それで何と?」
 証人「▲▲検事は、私に『自分のことは自分が分かっているだろうから、自分から話せ』と。ただ、まったく思い当たることがなかったので黙っていました」
 弁護人「膠着(こうちゃく)状態が続いたのですね。▲▲検事の反応は?」
 証人「一方的に自分が検事になった理由などを話していましたが、だんだんとイライラされて、何で黙っているのかとヒステリックになりました」
 《その後も、膠着状態が続き、2、3時間が経過したという。ここで、女性秘書は1回目のトイレ休憩を許され、こっそりと携帯で連絡を取ろうとしたが、圏外で無理だったという》
 弁護人「どう感じましたか」
 証人「絶望を感じ、被疑者を受け入れるしかないと考えました。そして、話せることは話すので、質問してほしいと訴えました」
 《その後も具体的な質問はされず、保育園への子供の迎えを誰かに頼まなければならないと、外部への連絡を懇願し続けたという。だが、▲▲検事は「人生そんなに甘くはない」「自分が悪いんだから泣いても無駄だ」などとして、なかなか応じなかったとする。ただ、ようやく夫への連絡や事務所への連絡を許され、質問が始まった》
 証人「資料を出してきてそれを元に質問がありました」
 弁護人「資料とは」
 証人「通帳のコピーのようなものでした」
 弁護人「誰の名義か分かりましたか」
 証人「やり取りの中で石川の政治団体のものだと分かりました」
 弁護人「どんなことを聞いてきたのですか」
 証人「何を問題にしているのか分かりませんでした。(書き込みは)あくまでも私のメモ。収支報告書は帳簿を見てつけるので、それを持ってきてほしいと言いました」
 弁護人「すると」
 証人「▲▲検事は事務官に指示して押収した段ボールを何個か持ってこさせていました」
 弁護人「帳簿は見つかったのですか」
 証人「入っていませんでした」
 弁護人「帳簿が入っていないことも知らなかったのですね」
 証人「はい」
 《女性秘書は、取り調べを担当した▲▲検事(法廷では実名)から、家族の写真が入ったUSBメモリのデータを見せるよう要求された》
 弁護人「▲▲検事は家族の写真を見て、何と言ったんですか」
 証人「(▲▲検事は)『こんな…かわいい子供たちが…』」
 証人「『犯罪者の子供ということになったら、どう思うだろうね』、と…」
 弁護人「どんな表情でしたか」
 証人「にやにやしながらでした」
 《女性秘書はそのやり取りの際、すでに午後8時を回っていたと説明。▲▲検事は家に帰ることも、電話で連絡を取ることも認めなかったという》
 証人「どうしても帰りたい、と言ったら、(▲▲検事は)『人生そんなに甘くないよ』と。せめて子供が無事に家にいるか、確認させてほしいとお願いしましたが、初めのうちは『そんな権利はない』と。そのうちに私が過呼吸のようになり、『夫になら電話してもいいぞ』と許されました」
 《午後9時を回っても、夕食をとらないまま取り調べは続いたという。朦朧とする意識の中、女性は座る姿勢について強い叱責を受けた》
 証人「机の下に手を置いて、ぎゅっと握っていました。急に机をボンッとたたかれて『話を聞く態度じゃない』と注意されました。さらにその後、背もたれに体を寄せると、またボンッと机をたたかれ、『人の話を聞く姿勢じゃない。背筋を伸ばせと言われました』」
 弁護人「(同席する)検察事務官の様子はどうでしたか」
 証人「夕方くらいからコックリコックリしていて、午後7時半以降は机に足を投げ出して寝ていました」
 弁護人「▲▲検事は注意しないんですか」
 証人「しません」
 弁護人「聴取のメモは誰がとっていたんですか」
 証人「誰も取っていません。事務官のノートパソコンも閉じたままになっていました」
 《午後10時を回り、取り調べはすでに9時間を超える。女性秘書はようやく弁護士に連絡をとり、「脱出」するまでの経緯を語っていく》
 証人「もう帰ります、と強く主張したところ、▲▲検事は『本当に、本当に、石川(議員)の心証が悪くなってもいいんだな。石川がどうなってもいいんだな』と、立ち上がって何度も言いました」
 弁護人「それで思いとどまったんですか」
 証人「帰れる権利はあると思い、弁護士に電話しました。体は硬直し、手が震え、(携帯電話の)電源を入れるのも大変でした」
 弁護人「▲▲検事はどうしていましたか」
 証人「『そんなことをしていいと思っているのか』と大声を出されましたが、制止を振り切りました」
 弁護人「さすがに手は出してこなかったですか」
 証人「はい」
 弁護人「弁護士に何と言われましたか」
 証人「(午後10時をすぎ)そんな時間に検察庁にいることに驚いた、と言われました」
 《すぐに主任検事に抗議した弁護士から、間もなく女性に着信があったという》
 証人「『(主任検事が)あなたはもう帰ったと言っている。本当に検察庁にいるのか』と聞かれました。そこで携帯電話を▲▲検事に渡しました」
 弁護人「2人のやり取りは聞こえましたか」
 証人「(弁護士の)先生は大声で抗議していたので聞こえました。『参考人として呼んだのか、被疑者として呼んだのか』と聞かれ、▲▲検事は『参考人』と答えていました」
 《弁護士と▲▲検事のやり取りが終わっても、女性秘書の期待に反し、部屋を出ることはかなわなかったという》
 証人「無事帰れると思って立ち上がったところ、ドアの前で通せんぼされ『座れ』と言われました。私を見下ろしてにやにやし、『弁護士に頼ってもムダだということが分かったでしょ』と続けました」
 《その後、午後11時ごろになり、部屋にかかってきた内線電話で▲▲検事の態度が急変。女性は家に帰ることを許されたという。所持金もなく、歩いて議員会館に戻ったと振り返る》
 《精神状態が不安定になり、左耳も聞こえない状態になったという女性秘書は、翌日に約束されていた取り調べをキャンセル。質問に立つ女性弁護士は、女性秘書が通院した際の診断書を示し、取り調べで受けたショックの大きさを強調する》
 《同月31日に2度目の取り調べを受けた女性秘書は、聴取に応じた理由について「弁護士から『聴取を拒否すれば逮捕されるかもしれない。石川議員に何があるか分からない』と説得された」と説明。最後に、取り調べが与えた子供への影響を問われ、再び声をふるわせる》
 証人「取り調べからしばらくの間、保育園に送っても私の足から離れませんでした。『ママがまた帰ってこなくなる』と、泣いて離れませんでした」
 弁護人「子供は当時、いくつでしたか」
 証人「3歳と5歳です」
 《ここで弁護側の証人尋問は終了。検察官役の指定弁護士側が女性秘書に尋ねていく》
 《指定弁護士は、女性に対する聴取の目的が、陸山会事件とは別に、石川議員の政治資金収支報告書の虚偽記載疑惑にあったことを確認。女性が管理していた石川事務所の銀行通帳の中で、献金を受けた相手の名前などが記されたメモ書きが消されている点について尋ねる》
 弁護人「石川さんの政治資金として入金されたものが、収支報告書に記載されていない。その入金者の名前をあなたが消した、という問題があったんじゃないですか」
 証人「やっていないので、そういう認識はありませんでした」
 弁護人「検察側はそういう認識で聴取していたんではないですか」
 証人「そういう疑いで取り調べをしている、と2回目の取り調べで説明を受け、納得しました」
 弁護人「事実として、通帳のメモを消したことはありますか」
 証人「あります」
 《午後5時近くになり、小沢被告も肩や首を繰り返し動かすなど、疲労の色がにじむ》
 指定弁護士「取り調べのときは陸山会とは全く関係のない話を聞かれたのですね」
 証人「関係ない話でした」
 指定弁護士「あなたは大学卒業後、すぐに政治家の秘書になられたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「あなたが秘書として勤めた方を具体的に教えてください」
 証人「はい。(元)参院議員の円より子、衆院議員の田名部匡代、衆院議員の橋本清仁、衆院議員の首藤信彦。そして石川知裕です」
 指定弁護士「計何年勤めていますか」
 証人「13年です」
 指定弁護士「秘書という仕事柄、家に帰るのが遅くなることがありますか」
 証人「あります」
 指定弁護士「体を壊したことはありますか」
 証人「円事務所にいたときに3回入院しました」
 指定弁護士「石川議員の秘書になって経理を担当をしていましたか」
 証人「経理は最初の事務所からやっていました」
 指定弁護士「マスメディアへの対応もやりましたか」
 証人「スケジュール調整もあるのでやりました」
 指定弁護士「あなたは石川議員の会計帳簿を作成していましたか」
 証人「…会計帳簿とは、どういうものですか」
 指定弁護士「政治資金規正法上の会計帳簿です」
 証人「私が管理する団体に関しては担当していました」
 指定弁護士「資金管理団体についてはやりましたか」
 証人「はい」
 指定弁護士「石川議員から『こうしろ』という指摘されることはありましたか」
 証人「ないです」
 指定弁護士「石川議員が会計帳簿をごらんになるときはいつですか」
 証人「提出前の3月になります。団体によっては6月になりますが」
 指定弁護士「それについて石川議員が『間違っている』ということはありますか」
 証人「ないです」
 指定弁護士「平成22年1月26日に検察庁に呼ばれたときのことですが、『返却物があるから取りに来てくれ』ということでしたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「あなたの(子供の写真が入った)私物のUSBメモリが検察庁にあった」
 証人「はい」
 指定弁護士「そのときすでに石川議員の事務所が差し押さえられていたのですか」
 証人「そうです。強制捜査を受けていました」
 指定弁護士「あなたにどういう容疑がかかっているのか分からなかったですか」
 証人「分からなかったです」
 指定弁護士「(石川議員の)弁護士から『あなたが行かないと逮捕とか、石川議員に何かあるかもしれない』と言われましたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「弁護士はあなたが逮捕される可能性があることを知っていたのではないのですか」
 証人「☆☆弁護士(法廷では実名)はオウム事件の弁護にもかかわったので『検察は免許証記載の住所地と住民票の住所が違うだけで逮捕する。何をするか分からない恐ろしい組織だ。対応した方がいい』と言われたからです」
 《大善裁判長が本日の審理の終了を告げた。次回は16日午前10時から。大久保隆規元秘書=1審有罪、控訴中=の聴取を担当し、証拠改竄(かいざん)事件で実刑判決が確定した前田恒彦元検事が証人として出廷する》
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石川知裕議員の女性秘書を弁護側証人として採用/女性秘書が語った「不意打ち10時間取調べ」の全貌2011-03-26 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 小沢一郎民主党元代表の政治資金管理団体「陸山会」の政治資金収支報告書をめぐる事件で、石川知裕衆院議員の弁護側は1月27日、石川議員の女性秘書が受けた取調べの様子を証言するため、証人採用を求める書面を提出した。
 石川議員の女性秘書は昨年1月26日に突然検察庁から呼び出されて約10時間におよぶ聴取を受け、その様子を「週刊朝日」が報じたことで話題を読んだ。
 今回、その女性秘書が《THE JOURNAL》のインタビューに応じ、当時の取り調べの様子や証人となって訴えたいことなどを語った。(構成・文責:《THE JOURNAL》編集部)

──証人として立ちたいのはなぜですか?
 証人になって取調べの可視化に貢献したいからです。違法な取調べの実態をみなさんに知ってもらいたい。秘書や家族を人質に取ることは絶対に良くないことです。証人採用されないのは、取調べの可視化が進んでしまうことを嫌がる検察の気持ちが大きく影響していると思います。
──検察側は「石川議員の起訴内容に直接関係ない」と意見書を提出したと報道されていますが
 「関係ない」ということに納得がいきません。必要性も関連性もないのであれば、検察にとっても私にとっても、あの事情聴取は無駄な時間だったということなのでしょうか。私は、事情聴取の後に片耳が聞こえなくなり、仕事をする気力もなくなりました。それでも検察から謝罪もなければ、検察が週刊朝日に出した抗議文では「事情聴取は適正だった」と言いはられ、そんなことは絶対におかしいと思います。
──当時の状況を教えてください
 検事から呼び出されたので、資料を返してもらって30分ぐらいで帰れると思ったので、コートも着ずにランチバッグだけで気軽に検察庁に行ったら、10時間拘束されました。子どもの迎えも行かせてもらえず、電話もさせてもらえませんでした。「弁護士に電話をさせてください。その権利はあるはずです」と言っても、「弁護士に何ができるんだ」と電話すらさせてくれませんでした。あの空間の中では、自分のあるべき権利を主張したところで認めてもらえません。やりとりをしている間に、私も「あれ、本当に電話する権利はないんじゃないか」とも思いました。弁護士に電話するにしても検事から「おまえが雇ったのか」「おまえが選任届を出したのか」と言われると、私個人は弁護士との契約書を結んでいませんので「電話しちゃいけないのかな」と段々と洗脳されてしまうんです。17時を過ぎても帰してくれませんでした。
──事情聴取はどのようなものでしたか
 「監禁」という言葉がぴったり当てはまります。部屋からは出られませんし、トイレに行こうとすれば事務官がトイレの目の前まで付き添います。休憩を取るつもりでトイレに行っているのに、廊下で待たれてしまうと早く出ざるをえません。誰かとこっそり連絡を取っていると思われても困ります。とはいえ連絡を取ると言っても携帯は圏外なのでつながりません。帰りたくて涙が出てくるのに、検事からは「人生そんなに甘くない」と言われました。イスの背もたれに背中がついても怒られました。その姿勢を強要されると次第に頭がもうろうとしてきます。「考えられないから休憩させてください」と言っても取り合ってくれません。呪文のように「お話ししてください」と言われ続けると、判断が鈍くなり、「ああ、こうやって冤罪がつくられていくんだ」と目の前で冤罪がつくられる過程を体験したかのようでした。お腹がすいて早く帰りたくなり、「ハイと言えば楽になれるのかな」と思う気持ちがよくわかりました。
──なぜ10時間も我慢できたのですか?
 私は安田弁護士から、石川知裕議員が毎日10〜13時間事情聴取を受けているという記録を見せてもらったことがありました。私もせめてその時間を超えるまでは耐えなきゃいけないなと思っていたからだと思います。また、30分間くらいの予定で出かけた人間が何時間も出てこないのですから、必ず弁護士か誰かが助けてくれるだろうと思っていました。でも誰も来ませんでした。検事には「弁護士に頼っても何もしてくれないことがわかっただろ」と言われました。こう言われると、たしかに自分が契約した弁護士じゃないし、やっぱり助けてくれないのかなと思ってしまうのです。
──最後はどのようにして出てきたのですか
 22時半の段階で、もう倒れそうになっていました。「石川さんの心証がが悪くなるぞ」と言われ続けましたが、「子どもが寝る時間も過ぎてるし、帰ります」と言いました。私が立ち上がると「座りなさい」と言われ、検事の声も段々大きくなってきました。そういうやりとりをしていたら取調室の電話が鳴りました。おそらく木村主任検事から「帰せ」という話がまわったのでしょう。急に検事の態度が変わり、帰れることになりました。しかし、「そのかわり明日また同じ時間に来い」と言われたので、無言で帰ろうとすると「待て。明日同じ時間に来ると約束しろ」と言って帰してくれませんでした。結局また弁護士に電話をして相談すると、「来ると約束して出てきて」と言うので、「約束しないといけないんだ...」と思いながら、「ハイ」と言って出てきました。
──出てきた時間は何時ぐらいでしたか?
 23時ごろにようやく建物を出られました。1月26日ですから、今と同じような真冬でした。コートもなかったので外に出た瞬間に歯が"ガチガチガチ"と音を鳴らしました。最初に言ったとおり、30分で出られると思っていたのでタクシー代すら持っておらず、歩いて帰りました。翌日はその弁護士さんも信じられなくて電話をとらず、検察からの電話も事務所からの電話も受けずに家に引きこもっていました。
──その後の取調べはどのようなものでしたか
 当時は事情聴取を拒否し続けたら、本当に逮捕されてしまいそうな雰囲気でした。住民票の住所変更をしてないだけでも逮捕できてしまう世の中ですので、強硬に拒否するのではなく、きちんと弁護士を入れて事情聴取を受けることになりました。弁護士を選任して検察庁に出し、弁護士と一緒に検察庁に行き、入口で待ってもらうようにしました。
──前回より精神的には落ち着けましたか
 検事は前回と違っていたし、弁護士も待ってくれているので安心感がありました。しかし前回の10時間の取調べがひどすぎたのか、あまりの緊張で急にお腹が痛くなり、生理になってしまいました。そんな時期でもないのに。さすがにその理由も言えず、「一度この建物から出させてください、絶対に戻ってきますから」とパニックになりながら言いました。最初は検事さんもダメだと言っていたのですが、「絶対に戻ってきます、30分でも15分でもいいので一度出させてください」とお願いすると連絡を取ってくれて、30分間の時間を与えてもらいました。
──弁護士には相談したのですか
 取調室に戻ったら必ず出た理由を説明するよう言われました。だからきちんと言いました。調書には記録されているはずです。それほど前回の10時間がつらくプレッシャーになり、精神状態がおかしくなっていました。
──取調べの担当検事はどうでしたか
 その日の検事は紳士的で理論的に聞きたいことを聞こうとしてくれる人でした。しかし前回の取調べがひどく、同じ特捜の人だったのでやはり緊張感はありました。
──その取調べが、検察は現在では「石川議員の起訴内容に直接関係ない」と主張しています
 ひどい取調べをした上に、それが必要なかったかのように言われることに憤りを覚えます。議員秘書として経験があり、精神的にも強いと自覚している私でも、厳しい精神状態に追い詰められました。一般の方があの様な空間に閉じこめられればもっと取り乱すと思います。不本意ながらも検察がつくった調書にサインして、殺風景な部屋から抜け出せるものだったら抜け出したいと思うでしょう。だからこそ、取調べの可視化が必要なのではないでしょうか。
(構成:《THE JOURNAL》編集部 上垣喜寛・西岡千史)2011年2月1日19:18

田代政弘検事 ウソの捜査報告書作成=検察審査会「起訴相当」議決に影響/小沢一郎氏裁判 第9回公判

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小沢氏逆転?石川議員捜査報告書に“ウソ”記事を印刷する
 資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる収支報告書虚偽記入事件で、政治資金規正法違反罪で強制起訴された民主党元代表小沢一郎被告(69)の第9回公判が15日、東京地裁で開かれた。石川知裕衆院議員を取り調べた検事が証人として出廷。適正な取り調べを強調しながらも、事実と異なる捜査報告書を作成したことを認める証言もした。起訴相当と判断した検察審査会に提出された報告書の信頼性が損なわれる状況となり、公判の行方に大きな影響を及ぼしそうだ。
 証人として出廷したのは「特捜部は恐ろしいところ」と石川議員に迫ったとされる田代政弘検事。焦点になったのは、昨年5月17日に、石川議員がICレコーダーで隠し録音した取り調べの内容だった。田代検事は、その内容をまとめた報告書に、石川議員が小沢元代表の関与を認めた理由を「11万人以上の有権者に選ばれた国会議員が、やくざの手下が親分を守るようなうそをついてはいけない」と言われたのが効いたと供述した、と記した。
 ところが隠し録音にこのやりとりはなかった。「内容虚偽の報告書を作ったのでは」と問われた田代検事は「思い出しながら作成したので記憶が混同した」と釈明。この報告書が提出され、小沢元代表を起訴相当とした検察審査会への影響を指摘されると「可能性は(ある)」と、認めた。
 事実と異なるやりとりを記した以外にも、取り調べ中の田代検事の不用意な発言がやり玉にあがった。土地購入のため、元代表が用立てたとされる4億円の出どころが問われる中、「(4億円が)汚いカネというのは検察が勝手に言っている。証拠はない」と発言していると指摘されると、「勢いで言ってしまった。『証拠がない』というのは事実に反します」とこちらも認めた。「勢いで言うことか」と突っ込まれると、「うそはついていないが言いすぎた。証拠があるのに後悔している」と、きまり悪そうに答えた。
 さらに「(石川議員が)供述を認めれば、小沢元代表が起訴されない」と発言したことについて裁判官から「少し危険な取り調べという自覚はあったか」と問われた。「録音を知っていたら、言わなかったか」と聞かれると、「言わなかったと思います」と答えた。
 石川議員の公判では、録音内容を根拠に威迫や誘導があったとして、元代表の関与を認めた調書が証拠採用されなかったが、報告書の信用性も問われる事態になった。小沢元代表はこの日、顔をしかめながらやりとりを見守っていた。
[2011年12月16日8時30分 nikkansports.com]
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小沢一郎氏裁判 第9回公判〈前〉/証人 田代政弘検事「特捜部は恐ろしいところだ」=報告書に虚偽の記事2011-12-15 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
 〈前・中段 略〉
 弁護人「(打ち合わせで)録音(石川議員が取り調べを隠し撮りしたテープ)は再生しましたか」
 証人「1回あったと思います」
 弁護人「今までその時以外に、聞いた機会はありましたか」
 証人「あります」
 弁護人「いつごろですか」
 証人「録音が存在すると分かった直後に説明を求められたので、そのときに聞きました」
 弁護人「通して聞いたのはそのときだけですか」
 証人「その1回です」
 弁護人「あなたが、陸山会事件にかかわったのは、21年7月から22年5月下旬でよろしいですか」
 証人「はい」
 弁護人「この事件は、収支報告書の虚偽記載と不記載についてと、ゼネコンからのお金の授受ということで、2つの事件があったのですか」
 証人「(小沢被告が提供した)4億円の原資が問題になっていたので、収支報告書の内容とゼネコンからの金銭授受について両方問題になっていました」
 弁護人「裏付けの過程で、水谷建設(の1億円の話)が出てきたのですか」
 証人「はい」
 弁護人「水谷建設のお金の授受について、検察は事件として立件しましたか」
 証人「立件してないと認識しています。客観的にはどうか分かりませんが」
 弁護人「地検の同僚が、ほかの関係者の取り調べをしているというのは知っていましたか」
 証人「ゼネコンや下請けの関係者は多く呼ばれていると思っていたので、聴取は行われていると思いました。しかし、いつ誰が、誰を調べているかは分かりませんでした」
 弁護人「石川さんの周囲にいる秘書に対する聴取は聞いたことがありますか」
 証人「全く知りませんでした」
 弁護人「あなたは石川さんに対して『この事件はどう収めるかだ』と言ったことはありますか」
 証人「ありません」
 弁護人「『特捜部はこわい』『捜査が広がる』『何するか分からないぞ』というような、石川さんにそう理解されるような言葉を言ったことはありますか」
 証人「言ったことはありません」
 弁護人「22年5月17日の取り調べの反訳書の72ページで『地検の怖さは身をもって分かりました』と石川さんが言っていましたが、石川さんがそう感じてるとは思いましたか」
 証人「思いませんでした」
 弁護人「石川さんは『地獄の20日間』と言っていますが、石川さんがそういう状況にいると感じたことはありますか」
 証人「現職の国会議員ですし、相当つらい期間ではあると思っていました。とくに最初の5日間は相当落ち込んでいました」
 弁護人「『特捜部が納得しないと、他にも強制捜査を及ぼさないといけなくなる』というようなことを石川さんに言ったことはありますか」
 証人「言ったことはありません」
 弁護人「直接的ではなくても、そう取られることを言ったことはありませんか」
 証人「ありません」
 《弁護側は反訳書を○○検事に見せる》
 弁護人「(石川議員の再逮捕について)『組織として本気になったときに、全くできない話かっていうとそうでもないわけじゃない』と言いましたか」
 証人「言いました」
 弁護人「それに類する話を、(石川議員の)身柄拘束中に言っていませんか」
 証人「石川さんが再逮捕を心配して、私に聞いてきたことがありました。私は『分からない、やれる可能性がないとは言えない』と客観的な意見を言いました」
 弁護人「平成22年5月17日の取り調べで、あなたは捜査報告書を書いていますね」
 証人「書きました」
 弁護人「何日に書きましたか」
 証人「5月17日に書き始めまして、何日かかけて完成させたと思います」
 弁護人「何ページの報告書ですか」
 証人「5、6ページだったでしょうか」
 弁護人「あなたが書いたものでしょう」
 証人「5、6ページか、もう少し多い10ページだったか。いずれにしましてもそれくらいだったと思います」
 弁護人「それを何日もかけたのですか」
 証人「別の仕事もしながら、合間、合間に作成しましたので…」
 弁護人「中身は覚えていますか」
 証人「だいたいは把握しています」
 弁護人「1ページ目にあなたの署名と押印があるが、間違いありませんか」
 証人「はい」
 弁護人「東京地検特捜部長あてになっているが」
 証人「そうです」
 《続いて、男性弁護士は捜査報告書の中身を示す。石川議員は11万人の有権者の投票を受けて当選したが、大半は「小沢一郎の秘書」というのではなく、個人を信頼して投票したはずだと、○○検事に言われたことを契機に、調書のサインに応じた−とする内容が具体的なやり取りとともに記載されている。だが、実際の録音にはこうしたやり取りは残っていない》
 弁護人「やり取りがないのに、どうして(捜査報告書には)記されているのですか」
 証人「やり取りがあったと認識して書いた」
 弁護人「実際のやり取りと異なるのが、記載されたことですか」
 証人「この日の取り調べを一言一句記載したのではなく、思いだし、思いだし記載した。拘留中に話したことや、保釈後に話したことの記憶が混同していたと思う」
 弁護人「もう一度聞きますが、5月17日から数日で書いたのですね」
 証人「はい」
 弁護人「5月17日には、どこまで書いたのですか」
 証人「それは記憶にはありません」
 弁護人「虚偽の捜査報告書を書いたのではありませんか」
 証人「そうではありません」
 《続いて、弁護人は○○検事が石川議員に「(虚偽記載を認める供述を覆し)逆の供述をすれば、火に油を注ぐことになる」などと話したことを追及していく》
 弁護人「(任意聴取の際には)こう伝えたことがありましたね」
 証人「はい」
 弁護人「繰り返し述べましたね」
 証人「それは、石川さんが従前通りの主張だといいながら、実際に調書のサインの段階になると、『4億円を隠すつもりはなかった』などと覆す。その中で何度かやり取りがあった」
 弁護人「何のために捜査報告書を作っていたのですか」
 証人「調べが終われば、作るように、と指示されていました」
 弁護人「指示はだれからか」
 証人「主任検事です」
 弁護人「あなたは、何日かかけて作るうちに、記憶が混同して、やり取りのない内容を記したということでしたね」
 証人「かいつまんで言えばそうです」
 弁護人「これが検察審査会の小沢さんの起訴議決にも影響を与えた可能性があったと分かっていましたか」
 証人「協議の内容については、分かりません」
 弁護人「可能性の話ですよ」
 証人「可能性の話ならば…」
 《男性弁護士は、検察審査会の議決の理由に、捜査報告書の内容を挙げている点を紹介し、追及していく》
 弁護人「理由に捜査報告書の内容が挙がっていることは認識していましたか」
 証人「議決自体は見ていないが、報道レベルでは知っていました」
 《○○検事が任意聴取の際に「石川さんの供述がさ、やっぱり功を奏したんでしょ…」などと言った隠し録音の部分を紹介した》
 弁護人「功を奏するというのは?」
 証人「小沢さんが起訴されないことを指したと思います」
 弁護人「なぜ、そんなことを言ったのか」
 証人「石川さんに同調するように言っただけで、事実だという趣旨で言ったのではありません」
 《○○検事は、石川議員を取り調べる際、「フェアプレーで本当のことを言ってほしい」と約束していたとされる》
 弁護人「フェアプレーであると言いながら、あなた自身は事実を認識できないことを話すのですか」
 証人「客観的な事実は分からない。(小沢被告の)起訴を望んでいなかった石川さんに同調した形で話しただけです」 ⇒[小沢一郎氏裁判 第9回公判〈後〉]  *強調(太字・着色)は来栖 
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「特捜部は恐ろしいところだ」ストーリー通りの供述を取らなければ、という強いプレッシャー〈陸山会事件〉2011-07-11 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 NCNニコニコニュース 2011年7月11日(月)16時39分配信
 小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金規正法違反罪で起訴された小沢氏の元私設秘書、石川知裕衆院議員は2011年7月10日、ニコニコ生放送の特別番組に出演し、東京地検による取り調べの際、担当検事が「特捜部は恐ろしいところだ」と発言したときの様子を語った。また、元検事の市川寛氏は、自らの体験を基に同発言が出た理由を推測した。
 陸山会事件とは、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金収支報告書に虚偽記入や不記載があったとして、石川議員を含む小沢氏の元秘書3人が政治資金規正法の罪に問われている事件。今年の2月に行われた初公判では3人とも無罪を主張。裁判の行方が注目される中、東京地裁は6月30日、検察側が証拠請求した石川議員ら元秘書3人の供述調書の一部について「威圧的な取り調べや利益誘導があった」などと任意性を否定し、証拠として採用しないことを決めた。裁判所の判断の根拠となったのは、担当検事が発したとされる「特捜部は恐ろしいところだ」という言葉だ。
 石川議員は取り調べ中に東京地検特捜部の田代政弘検事から「特捜部は恐ろしいところだ。何でもできるところだぞ。捜査の拡大がどんどん進んでいく」と言われたと主張。これに対し、田代検事は否定したが、東京地裁は石川議員の主張を認め、「威迫ともいうべき心理的圧迫があった」として供述調書の証拠採用を却下した。決め手となったのは石川議員が保釈後の再聴取のときに録音していた取り調べのやり取りの様子。そこでは、田代検事が同発言を認める様子が記録されていた。
 田代検事がこのような発言をした理由について、個人的に田代検事を知っているという元検事で弁護士の市川寛氏は
「彼(田代検事)自身は追い込まれて、石川さんから所定の供述を取らなければいけないというプレッシャーがあったので、そういう言葉を使わなければいけなかったのではなかったのか」
と、検察官当時に自分が置かれていた立場に重ね合わせて語り、上層部が描いたストーリーに沿った供述を取らなければいけないという強いプレッシャーが検察内部にあることを指摘した。市川氏は冤罪事件として知られる佐賀市農協事件に主任検事として関わった際、事情聴取した元組合長に対して「ぶち殺すぞ!この野郎!」と暴言を吐いたことが原因となり検事を辞職している。
 市川氏の発言に対し、石川議員も
「罵倒して脅すように『恐ろしいところだ。何でもできる』と言ったわけではなかった。田代さんが私に言ったのは『(検察は)こういう恐ろしいところだから、どうなるかわからない。(特捜部を)止められるかわからない』というセリフ。恐らくそういう組織の中で、結果を出さなければいけない。一人一人が追い詰められていくのはそういうところなんじゃないか」
と述べた。(三好尚紀) 

検察を支配する「悪魔」 田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士
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小沢氏強制起訴/「4億円が汚い金というのは検察が勝手に言ってるだけ。証拠がない」と担当検事2011-02-02 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 これを「誘導」「圧力」と言わずに何と言うのか。政治資金規正法違反罪で逮捕、起訴された石川知裕衆院議員(37)が「録音」した再聴取の全容が31日明らかになった。共同通信が報じたのだが、なぜか大新聞テレビは“黙殺”したままだ。
 繰り返し言うが、昨年5月に行われたこの再聴取は、石川議員を起訴し、その「保釈後」に行われた。起訴後の被告に対して検察が証言を強要したり、誘導したりすることは絶対にあってはならない。法治国家として当然だ。ところが、石川議員の再聴取では随所に検事の“問題尋問”が行われているのだ。東京地検特捜部の検事が話した内容はざっとこんな感じだった。
「従前の供述を維持するのが一番無難だって。今までの話を維持している限り、(小沢は)起訴にはならないんだろうと思うんだよ」
「ここ(再聴取)で全部否定することは火に油を注ぐことになるよね。ここで維持することが彼ら(審査員)の気持ちをどう動かすかだよね」
 石川議員に執拗に供述維持を迫る検事。これほど“強要”する姿勢は異常だ。筋書きありきで突っ走った検察捜査の正当性を保ちたいという考えがミエミエだ。続いて、検事は最初の供述の一言一句を確認する手段に出た。
「小沢先生が政治活動の中で何らかの形で蓄えた簿外の資金であり、表に出せない資金であると思った」などと調書を読み上げたのだ。しかし、これには石川議員が大反論した。
「4億円を隠したいがためっていうのがね、どうしても引っ掛かるんですよ。4億円がいかがわしいお金だなんて、実際どうつくられたかなんて私には分かりません」
「汚いお金だから4億円を何が何でも露見したくないっていうのは今でも違うと言いたい」
 こう石川議員が懸命に食い下がると、検事はこう言い切ってみせた。
「汚いお金だっていうのは、検察が勝手に言ってるだけで、別に水掛け論になるから相手にしなくていいんだよ。証拠ないんだから」
 自ら所属する検察に対して「勝手に言っているだけ」「証拠ないんだから」とは、あまりにデタラメ過ぎる。こんないい加減な聴取で国会議員を逮捕、起訴するなんて本当にフザケた話ではないか。こうまでもヒドイ人権侵害の話を報じないメディアの罪も重い。今の大手メディアは小沢一郎を抹殺するためだけに存在するのか。
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石川知裕秘書の証人採用を裁判所が留保〜10時間の取り調べは「事件と関連性、必要性がない」!? 2011年02月01日 10時00分 Infoseek 内憂外患編集部
 1月31日、資金管理団体「陸山会」の収支報告書虚偽記載事件で、政治資金規正法違反の罪に問われている小沢一郎民主党元代表の強制起訴が決まった。検察から2度の「不起訴処分」が出たにも関わらず、検察審査会で「起訴相当」とされ、強制起訴された政治家はこれまでなく、異例中の異例、な裁判がこれから始まることになる。
 同じくこの罪に問われた小沢元代表の元秘書の石川知裕衆議院議員に対し、1月27日、公判前整理手続きが行われた。ここでは、石川議員の今後の裁判の中で争点となる事柄について、検察・弁護側双方がどのような証拠・証人を出し、公判を進めるかについて話し合われた。
 ここで、弁護側は石川知裕事務所の女性秘書を証人として採用するよう求める意見書を提出した。通常、この段階でどちらかがその意見書に対し、「待った」を掛けることは少ないと言われている。しかし、いま、この証人申請が検察側の強い拒否を受け、裁判所から留保されている状態だという。検察の意図はなにか、そして、なぜ証人申請留保となっているのか。これについて、石川事務所の女性秘書本人から話を聞いた。
■必要性も関連性もない?――裁判所が証人申請に対して保留している、とのことですが
 1月27日、公判前整理手続きで弁護団側が私を証人申請しましたが、裁判所は現在その採用について、留保しています。
 検察側が「石川議員の起訴に対して、私が証人として証言する内容は必要性も関連性もない」と強く主張していることが要因です。
 私が証言する予定の内容は、「私への取り調べのあり方」についてです。そこから、「その様子の話を聞いた石川が不利な供述をせざるを得ない状態だった」ということを主張したいということです。
 まず、週刊朝日などで取り上げられていた通り、私は押収物の返却という言葉を受け、30分程度の事務手続きと思い、検察に向かいました。しかし実際は、事情聴取として、10時間も拘束されました。これはおかしなことです。
 でも、そこまでしたのに検察側は「必要性も関連性もない」と主張しています。この言葉には憤りを感じます。
 ある弁護士に私への検察の取り調べについて相談したところ「ひどいの一言だ」と言い、民事訴訟なら勝てる、という言葉をもらいました。いつのタイミングかは分かりませんが、人権問題として訴える用意もあります。
――なぜ、検察は「必要性も関連性もない」と主張しているのでしょうか? 弁護団はそれについて、どういった見方をしていますか?
 私への事情聴取のあり方を公にすることで、「取り調べの可視化」を求める世論が高まることを恐れているのではないか、と見ています。
 私の個人的な意見として、ですが、特捜案件の取り調べについては絶対に可視化はやるべきだと思います。私の取り調べについても出してほしいと思います。もしご覧頂ければ、取り調べの違法性が示せると思います。
 正直なところ、あの取り調べの話はしたくないし、聞かれたくもなかったです。今でも石川議員とその話はしていません。でも、今回、別の理由ならさておき、「(石川議員の裁判に対して、女性秘書の事情聴取は)必要性も関連性もない」と言われたことで、「あれは何だったんだ!?」と思うようになりました。
■取り調べの様子――取り調べの一部始終について、お聞かせいただけますか?
 監禁、という言葉がピッタリな感じです。まず、任意での事情聴取なのに、おかしなことだらけでした。
 例えば、トイレに行きたい、と言うと、事務官が付き添ってくるんです。そして、前で待っているんですね。
 私は、もう疲れてしまっていて、トイレで休憩を取りたいと思っていたのですが、「大きい方と思われたら嫌だ」とか「携帯電話で外部とやりとりしている」と誤解されたら嫌だ、と思い、本当に用を足すだけで出てこざるを得ない状態でした。
 精神的にも追い詰められ、本当はトイレで泣きたかったんですが、そうしても状況は変わらない。だったら泣くだけ損だ、と思いました。
 他にも、「自分がおなかがすいているからお前も食事をしろ」と言われるんです。私が「食事は子どもたちとしたいから」と言うと、「帰れるかどうかはあなた次第だ」と言われました。「じゃあ、何をしゃべればいいんですか」と言うと、なにも聞かない。きっと極限状態になれば、何かしゃべるだろう、という意図があったんだと思います。
 10時間たって、やっと外に出たときはコートも何もないし、タクシー代すら持ってない。1月26日の寒い時期だったこともあり、建物を出るなり、歯がガチガチガチガチ! と震えるほどでした。
 それに、聴取されているときから、片耳がボワボワして聞こえづらくなったり、立ちくらみがしたり、しばらくは仕事をする気も起きなくなりました。でも、週刊朝日が検察に出した抗議文に対して、検察は「適正な捜査だった」と言うわけです。
 私は、石川知裕の政策秘書としてやってきました。だから、それなりに知識もあるはずなのに、そんな私ですら、あるべき権利を主張しても聞き入れられない状況のなかで、だんだん洗脳されていくんです。「弁護士に電話を掛けさせてほしい」といっても「その弁護士はおまえが選任届を出したのか」といわれて、「もしかして、本当は私にはそんな権利なかったんじゃないか」と思うわけです。
 取調中は、背筋を伸ばし、手を上下に重ねていなければ怒られる。そんな姿勢で10時間近くいると、だんだん頭が朦朧としてきます。休憩したい、と言っても受け入れられず、何を話して良いのか分からないのに「話してください」と言われ続ける……。
 私への事情聴取について、彼らは調書一つ取れなかったわけですが、あんなところで長時間いるくらいなら、「帰りたいからハイハイと言ってしまえ」と思ってしまうと思います。
 この状況下、石川議員は「検察に妥協して、容疑を認めてしまった」と主張している。女性秘書の証人申請について、最終的に採用するかどうかの判断は2月1日、午後出されるという。
――どうしてそうまでして耐えられたんですか?
 安田弁護士が会見で、石川議員の取り調べの記録を出していました。それを見ていたので、その取り調べの時間を超えるまでは、という気持ちがありました。
 それに、「30分出かける、といった人間がいつまでたっても戻らなければ誰かが助けてくれる」と思ったんです。でも、民野検事に「人生そんなに甘くない」と言われ、実際にだれも助けてくれない。10時間も経つと、倒れそうになります。
「石川の心証が悪くなる」と言われ続け、子どもが寝る時間を過ぎているから帰らせてほしいと懇願しても「座りなさい」と抑制される。それでも帰ろうとすると、「座りなさい」という声がだんだん大きくなってくるんですね。
 もう限界、と弁護士に電話しようと携帯電話の電源をオンにすると、また「何を勘違いしているんだ! 電源を入れて良いとは言ってない」と言われる。
 でも、絶対におかしいと思って、弁護士に電話をして「私が帰っちゃいけない理由がありますか?」と聞きました。もちろん弁護士は「そんな理由はないし、今すぐにでも帰って良い。でも、念のため主任検事に連絡するから少し待っててください」と言われました。
 しばらくするとまた電話があり、「主任検事は民野検事から、8時半にあなたは帰った、と報告を受けていると聞いていると言っている」と教えてくれました。そこで、民野検事に電話を替わったのですが、そこでものらりくらりとしている。
 電話を切って、「もう帰ります」と言ったんですが、まだ「ダメだ」と民野検事は言うんです。「今すぐ帰っても良いはずです」「石川がどうなってもいいのか? 心証が悪くなるぞ」というやりとりをしていました。「どう心証が悪くなるんですか?」と言うと、そこは口ごもるんですね。そうしているうちに、部屋の電話が鳴って、たぶん主任検事からの電話なんだと思いますが、切ったらころっと態度が変わりました。
 でも、「同じ時間に明日、来ると約束しろ」と言うんです。私はそんな約束は必要ない、と思ったのですが、弁護士のアドバイスを聞き、約束して帰れることになりました。
――次の日も行ったんですか?
 帰ったのは良いんですが、もう弁護士からの電話も、検察からのものも、事務所からの電話も出られず、家に引きこもっていました。本当に逮捕されそうな勢いだったんです。それに、住所変更をしていない、といった小さな罪でも逮捕できるわけです。
 だから、今度は弁護士を立てて、日程調整をしてもらい、聴取の日には一緒に検察にも行ってもらいました。だけど、たとえ弁護士が同行して、検事も変わっても、前の聴取のことがあったので、あまりの緊張でひどい腹痛になりました。あまりに痛くて、パニックになるほどでした。どうしてもこの建物から出たい、30分でもいいから、と懇願して、それは聞き入れてもらいました。
 でも、戻る際、弁護士に「理由を検事に伝えてください」と言われました。だから調書にはどうして30分外出したか、という理由が書いてあると思うのですが、知らない人にそんなことを言うのは本当に凄く嫌なことでした。
 そのくらい、精神的に相当な圧迫感だったんです。前の10時間の聴取があまりに酷すぎて、怖かった。だから、普通に生活している人が同じような体験をしたら、絶対に追い詰められると思います。同じ空間にいたら取り乱すし、こんな嫌な空気のこんな部屋からは抜け出したい、と考えるでしょう。そこまでして酷い思いをしたのに「必要がない」なんていわれたら「どういうこと!?」となります。
* *
 この証人申請が認められれば、石川議員の政治資金収支報告書虚偽記載に関する事件の裁判において、「自身の秘書の取調べの様子を聞くことで、自身に不利な証言をせざるを得なかったか」という主張の妥当性などが問われることになる。
 また、それは、検察による取調べが「いかに個人の意思や思いをかき乱したのか」を明らかにすることにも繋がるだろう。当然、「取調べの可視化」について、改めてその必要性が問われることになる。

小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉/前田恒彦元検事「上司から『特捜部と小沢の全面戦争だ』と言われた」

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“小沢氏 自分なら無罪判決”
 NHKニュース12月16日 18時18分
 民主党の小沢元代表の裁判で、元秘書の取り調べを担当し、村木厚子さんの事件の主任検事だった前田恒彦元検事が証人として呼ばれ、小沢元代表に対する捜査について、「捜査には問題があり、自分が裁判官なら小沢さんに無罪の判決を書く」と述べました。
 16日の裁判には、小沢一郎被告の資金管理団体の会計責任者だった大久保隆規元公設秘書を取り調べた、前田恒彦元検事が証人として呼ばれました。村木厚子さんの事件で証拠を改ざんした罪で服役中の前田元検事は、小沢元代表に対する捜査について、「特捜部の上司は、『特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢を挙げられないと特捜の負けだ』と話していた」と証言しました。そのうえで、「特捜部の幹部らは、事件の背景にはゼネコンの裏献金があると、夢のような妄想を抱いていたが、見立てが違うと思っていた。ゼネコン側が裏献金を強く否定しても想定には合わないので、証拠として調書に残さず、捜査には問題があった。自分が裁判官なら小沢さんに無罪の判決を書く」と述べました。16日で事件の直接の関係者の証人尋問は終わり、検察官役の指定弁護士は、小沢元代表の有罪は揺らいでいないとして、元代表への報告を認めた元秘書らの供述調書を採用するよう、裁判所に求めていくとしています。
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小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉
 大阪地検特捜部の証拠改竄事件で実刑判決が確定した前田恒彦元検事(44)が出廷し、証人尋問
 産経ニュース2011.12.16

 指定弁護士「あなたは検察官として、陸山会の事件の捜査を担当しましたね」
 証人「はい」
 指定弁護士「陸山会事件で証人として出廷するのは初めてですね」
 証人「はい」
 指定弁護士「捜査にあたって、あなたが作成した調書は証拠請求を撤回されていますね」
 証人「はい」
 指定弁護士「なぜ(証拠請求を撤回し、出廷しなかったの)ですか」
 証人「大きく分けて3点ほどあります」
 指定弁護士「説明をお願いします」
 証人「まずは1点目ですが、私は任意性が問題になる取り調べはやっておりませんが、私自身の(証拠改竄)事件もあり、色メガネで見られ、信用してもらえないであろうこと」
 「また、公の場に出ることは、さらし者になることなので、それは嫌だと思い、(証拠改竄事件の取り調べを行う)最高検の検事にも『出ない』『私の調書は使わないでくれ』と伝えました」
 指定弁護士「2点目は?」
 証人「私が法廷に出れば、私の(証拠隠滅)事件についても聞かれ、陸山会事件での争点になってしまう可能性があった」
 「陸山会事件の捜査では検察のやり方に問題があったと私は思っているが、法廷では偽証ができないので、聞かれれば、そのまま思っていることをすべて答えることになる。そうすれば、どんな話が出てくるか予断を許さない状況になる。だから検察は私を出さないことにした。これが2点目です」
 指定弁護士「3点目は?」
 証人「私の調書がなくても大久保の有罪は明らか。だから撤回するとした」
 指定弁護士「今回、出廷することにした理由は?」
 証人「大きく分けて2点あります」
 指定弁護士「1点目は?」
 証人「私の取り調べ内容について、(法廷で)大久保さんがいろいろ言っていますが、報道をみる限り、かなりデタラメであること。私は受刑中で社会的にはすでに死人。『死人に口なし』ということで、いろいろ好き放題言われているようだが、あまりに違う。特に(違法な取り調べにあたる)『切り違え尋問』を行ったという話は絶対に間違っている」
 指定弁護士「2点目は?」
 証人「今回の事件は検察による起訴ではなく、検察審査会の起訴議決を受けた起訴だったことです。私は当時の検察捜査にも問題があったと思っています。検察が起訴した事件ではありませんので、今回は検察の有利、不利を問わず、すべてお答えするつもりです」
 指定弁護士「陸山会事件の特捜部の捜査に問題があるといいますが、簡単に説明を」
 証人「簡単にというか…、いろいろあるが、筋が違うんじゃないかと思う」
 指定弁護士「それは捜査の方法か、(事件の)見立てについてか」
 証人「一番は見立てですが、私以外の検事の取り調べがどういうものだったのかについても聞いて知っていますので、それにも問題があったと思っています」
 指定弁護士「あなた自身の聴取に問題があったとは?」
 証人「思っていません」
 《陸山会事件の捜査当時、前田元検事は大阪地検特捜部に所属。前田元検事は、大久保元秘書らが逮捕された5日後にあたる1月20日に東京地検に応援に駆けつけ、翌21日から聴取にあたった経緯について語り始める》
 指定弁護士「捜査がどこまで進んでいるか。何を担当するかは事前に聞かされていなかった?」
 証人「そうです」
 指定弁護士「いつ知りましたか」
 証人「1月20日の段階で、捜査規模が拡大するというので、全国のいろんな検事が20人近く、東京地検10階の事務課に集合した。それから特捜部長、副部長にごあいさつするという流れだった」
 「副部長の□□検事(法廷では実名)の部屋に全員であいさつに行った際、『前田くんだけは残ってくれないか』といわれた。そこで副部長と2人でソファで差し向かいに座わり、その場で『大久保の取り調べをやってもらうから』といわれた」
 「事件について詳しくは知らず、『大久保ってだれですか』という気持ちでしたが、『分かりました』と答えた。その際、□□さんからの指示は『よく話を聞いてやってくれ』というようなことだけだった」
 指定弁護士「応援前に情報が伝えられないのは一般的なのですか」
 証人「この事件はマスコミが非常に注目していた。私は大阪では(聴取で供述を引き出す)『割り屋』といわれていましたので、マスコミから尾行もされていた。私の担当が事前に漏れると、いろいろ次の展開を憶測される恐れがある。このときは情報がコントロールされていたということだと思います」
 指定弁護士「捜査に関する資料はいつ入手しましたか」
 証人「まず、主任検事である■■さん(法廷では実名)の部屋で、その他大勢の20人の検事とは別に、業者からの金のやり取りに関する説明資料というかペーパーを渡された」
 「その際、■■キャップからは『この件は特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢をあげられなければ特捜の負けだ。恥ずかしい話だが、東京には割り屋がいない。だから大阪に頼ることになった』といわれた」
 指定弁護士「証拠資料については?」
 証人「資料を置いてある部屋があり、段ボール1箱ぐらいの事件記録のコピーが置いてあった」
 指定弁護士「資料としては少なくないですか。それですべてですか?」
 証人「すべての資料もなにも、恥ずかしながらその資料はほとんど見ていない。同期の検事や東京・大阪の人事交流で知った検事の部屋を回って、捜査の雰囲気など生の情報収集を行った」
 指定弁護士「翌日から聴取だから、生の情報収集が必要だったと」
 証人「そうです」
 指定弁護士「大久保さんを取り調べを始める際、何か分かりましたか」
 証人「3点が分かりました」
 指定弁護士「3点とは何ですか」
 証人「まず1点目は、先行して公判が進んでいた西松事件では、(政治資金)収支報告書の虚偽記載については争っていないということです」
 証人「2点目は、当時問題となっていた(小沢被告の)4億円はどこから来たのか。私は(取り調べを始める際に)いろいろと(他の検事らに)ご用聞きをして調べました。すると、(検察内部では)5千万円は水谷建設、1億円は○○建設などとする筋を描いていました」
 証人「ただ、どうも現場を追いかけている業者を調べる担当検事らは、うまく裏献金の話を聞き出せていないと感じました」
 指定弁護士「大久保さんについては、(事前に)何か聞いていましたか」
 証人「私の前に担当していた検事から、裏献金の事実を認めていると聞いていました。ただ、水谷建設から5千万円ではなく500万円とか、2千万円ではなく200万円とか、一ケタ少ない額だと聞いていました」
 指定弁護士「(先ほど話していた)3点目は何ですか」
 証人「本件(収支報告書虚偽記載については)はどうなのか。逮捕時の弁解や裁判官の拘留尋問の際、今は全面否認していますが、認否を留保していたということです。『よく思いだしてみます』などといった感じで…。そういう段階で(前任の検事から)バトンを受け継ぎました」
 指定弁護士「取り調べでは、何が重要だと感じていましたか」
 証人「(裏献金を)企業の方からつついても、水谷建設以外は話が出てこないので、受け取った側から話を引き出すことが重要だと思っていました」
 指定弁護士「収支報告書の記載に重点は置いていなかったのですか」
 証人「収支報告書の件は『目をつぶっていても有罪になるから』と、さほど幹部も力点を置いていませんでした。やはり企業献金に主眼が置かれていました」
 指定弁護士「(最初に取り調べを始めた際の)大久保さんは、どんな感じでしたか」
 証人「いつもですが、部屋に入ってきてイスに座るのですが、大久保さんは礼儀正しいと感じました。それと、初日はちょっと興奮しているなと感じました」
 指定弁護士「どのように興奮をしていましたか」
 証人「(担当の)検事が代わって、もしかしたら受け取ってもいない裏献金を無理やり受け取ったとされるのではないかという検察不信を抱いているようでしたし、実際に率直に(思いの丈を)ぶつけてきました」
 指定弁護士「大久保さんが気にしていたのは企業献金だったのですね」
 証人「500万円なり200万円なりを、受け取っているのは話していましたが、少なくともゼロが一つ少ない。趣旨もこれは小沢一郎がもらったものではなく、自分(大久保元秘書個人)がもらったものだと。陸山会や小沢さんではないので、小沢さんにも報告していないといっていました」
 指定弁護士「大久保さんの調べは、どう始めたのですか」
 証人「先ほども話しましたが、最初は興奮されていたので、不満があるなら、しゃべってもらおうと思いました。『前田検事はどう対応するのか』と思っていると感じましたので、開口一番に『私は、こんなところ、来とーなかった』といいました。天地人のドラマで、例の子供店長がいっていたセリフです」
 証人「(大久保元秘書は)この検事、今までと違うぞという感じでした。その後、私の経歴、どういうことをしてきたかを話して、徐々に誤解を解いていきました」「大久保さんが企業献金にアレルギーを持っていたので、ところで、逮捕時の弁解や拘留尋問の際にどう話していたのかも尋ねました」「認否を留保するということは、何か心あたりがあるんだなぁと感じました。(大久保さんは)『石川さんから何かいわれましたが、それを今思いだしているところです』との説明でした。(前任の検事が)ずっと調べて時間がたっているのに、思いだせていないのは、おかしいと感じ、言えない事情があるのかなと察しました」
 指定弁護士「(話を引き出すのに)何か水を向けましたか」
 証人「取り調べをする前には、連日朝、大久保さんは弁護士と面会していましたので、『弁護士さんとよく相談してください』と伝えました。思い出せないのは嘘でしょうといえば、大久保さんのプライドを傷つけてしまいますので…」
 指定弁護士「弁護士との面会を終えた2日目の取り調べの際、大久保さんに変化はありましたか」
 証人「今回の拘留事実(収支報告書の虚偽記載)を認めると話し始めました」
 証人「大久保さんが一生懸命言っていたのは、『自分の罪を軽くしようとして曖昧な発言を繰り返していた訳ではない、ご理解くださーい』ということだった。それで(22日に)『今の話を調書にしてもいいかな』と聞きました」
 指定弁護士「大久保さんはそれに対して」
 証人「待ってください、弁護士に相談させてくれ、と言いました」
 指定弁護士「その直前にも弁護士に接見していましたが、もう一度させてくれ、と?」
 証人「なぜ大久保さんが調書にこだわるかというと、西松(建設)の(違法献金)事件で(逮捕された際の調書は)裏献金の受領を認めたと読める調書で、『西松建設側からの献金』、と『側』という言葉を差し込んでいたんですね。本人は自白のつもりがなかったのに、その調書が後に足を引っ張っていると。それで検察の調書作成には慎重の上に慎重を期していました。私としても、むしろよく弁護士と相談してもらった方が、任意性の担保になると思い、(22日には)調書を取りませんでした」
 《大久保秘書は第5,6回公判で証人として出廷した際、前田元検事に「自白を強要された」「弁護士との接見は30分で、十分に打ち合わせができなかった」と強調している。指定弁護士はこのことについても質問する》
 証人「弁護士と打ち合わせできていない、という印象を受けたことはありません。30分は確かに短く感じられるかもしれないが、お恥ずかしい話、私も被告、受刑者の立場になりまして経験がある。昨日どんな話をしたか、調書がとられたか、30分あれば十分です。詰めた相談をしたければ手紙を出せばいいし、制限もありません」「私の経験でいうと、弁護士と接見して態度が硬くなる人はいます。弁護士は職務ですから調書に応じるな、と言いますし。しかし、大久保さんに関してはそういうことはありませんでした」
 指定弁護士「大久保さんに無理に圧力をかけ、調書化した、ということは全くなかった?」
 証人「そうですね。陸山会の収支報告書の事件については、私の(大久保元秘書についての)調書がなければどうしようもない、という状況ではなかった。そちらではなく水谷(建設)の裏献金問題が大事だった。(陸山会事件については自分が担当した段階で)ほとんど『半割れ(半分程度自白している状況)』で翌日(22日)に割れ、『弁護士に相談したい』『どうぞ』。それで、翌日(23日)に応じました。そういう流れです」
 指定弁護士「いわば、あっさりと調書を作成したと?」
 証人「企業献金の話とは比較にならないほど(態度が)柔らか。献金問題については固かったですが」
 《調書が作成された23日、夜間の取り調べはいったん中断された。前田元検事はその間に、小沢被告が任意聴取後に開いた記者会見の様子を確認していたという。大久保元秘書は今回の第6回公判で「中断後、前田検事は『(小沢さんが)我々を欺こうとしている』などと憤った様子だった」などと述べ、前田元検事が威迫を強めたと証言している》
 指定弁護士「なぜ取り調べを中断したんですか」
 証人「私の記憶では、中断までにこの日の聴取を取り終えていました。それで、東京地検の■■キャップ(法廷では実名)に報告を上げようと、拘置所から電話をしました。ところがつながらない。報告する相手がいない。そんな中で、記憶では○○検事(同)からだったと思うが、情報が入ってきた。どうも、今日小沢の調べを■■がやっているらしい、それで連絡がつかない、と」
 「私はびっくり仰天でした。小沢の調べをやることは、捜査班の我々も教えてもらっていない。マスコミにかぎつけられるかもしれないので、トップシークレットで、秘密保持されていました」
 指定弁護士「大久保さんは『小沢さんの聴取までに自白しないと大変なことになる』と言われた、と話している。全くの嘘ですか」
 証人「完全にすりかえです。なぜ自白したか、調書にサインしたのか、私はその経緯もすべて録取しています」
 指定弁護士「初めて小沢さんの(任意)聴取(の事実)を聞いて、テレビの会見を見たんですね」
 証人「事実です。この日はもう調書をとっているから、これ以上調べなくてもいいや、と思って。(水谷建設の)献金問題については(大久保元秘書は)『コンクリートの塊』で、呼ばれて間もない私に『割ってくれ』(自白をとれ)と言われて割れる状況でもなかったので」
 指定弁護士「大久保さんは法廷で、中断後に前田さんが怒っていた、『どうなるか分からない』と話して供述を迫った、と証言しています」
 証人「でたらめですね。供述を迫ったといって(大久保元秘書が)何を話したんですか。(裏献金についての)調書もとってないじゃないですか」
 《前田検事は翌24日に、■■主任検事が担当した小沢被告に対する聴取内容のコピーが回って来たと説明。印象について語る》
 証人「分かりやすくいうと、(小沢被告は)ヘタクソな弁解しているな、と。現場が見てどう思うかというと、小沢の取り調べを(■■主任検事が)直接やったのに、小沢を割れていない。否認で帰られている。主任だって割れないじゃん、と士気が下がる。主任だって割れないのに、捜査班が献金問題を割れるのか、と」
 《陸山会事件についての自白調書を取った前田元検事は、24日以降は献金問題についての供述を引き出すのが困難と考え、いったん世間話をする手法に切り替えた。小沢被告の人となりについて語る大久保元秘書の様子が印象に残っているという》
 証人「私の印象では、大久保さんは小沢さんに心酔していました。握りこぶしで親指を上げる『サムアップ』のしぐさで、『親分』という言い方をしていました。小沢さんの過去の実績、『日米何とか交渉で、机を叩いて相手を一喝した』とか、縷々(るる)と話したり。あんた見たんですか、という感じでしたが」
 「それから菅(直人前首相)批判がすごかったですね。とんでもないやつだ、と、延々と。相当な(小沢被告の)シンパだな、と思いました」
 指定弁護士「大久保さんからは、調書を書き直してくれと要望がありましたか」
 証人「ありませんでした」
 指定弁護士「自白の経緯を記した(平成22年)1月26日付の調書は何の問題もなく署名しましたか」
 証人「そうです」
 指定弁護士「弁護士の接見を受けて、もう1度内容を確認しましょうという話はありましたか」
 証人「なかったです。ただ、調書はよく見せてくれといわれ、大久保さんはものすごく丹念に確認していました」
 指定弁護士「大久保さんの調書のなかで『潮目を変える』とありましたが、この言葉はどちらが使いましたか」
 証人「大久保さんが『潮目を変えたい』と言った。潮目という言葉は特徴的だったので調書に入れた。なぜ入れたかというと、それまでの調べて、大久保さんが岩手県の出身で、議員もやっていたと。小学校の授業でもやりますが、三陸海岸の横の方で、暖流と寒流がぶつかるところ(潮目)がある。大久保さんは他にも面白い言い方をしていました。自分のことを『江戸家老』で、地元秘書を『城代家老』。政治献金を『ご浄財』と言っていました」
 指定弁護士「いずれも面白い表現だから調書に取り入れた?」
 証人「そうです。余談ですが、私も逮捕勾留されて、6日目くらいから話し始めましたが『潮目を変えたい』という表現をパクって使いました」
 指定弁護士「あなたが陸山会事件の取り調べでその言葉を知って、自分の供述でも使用したのですね」
 証人「言い方が面白いので使いました。大久保さんの生言葉です」
 《次に指定弁護士側は平成22年1月30日に、前田元検事が大久保元秘書を取り調べた際のことについて質問する。弁護側が冒頭陳述で、前田元検事が「石川が(容疑を)認めている」という「真実に反する」内容を告げたとする部分だ。こうした調べは「切り違え尋問」と呼ばれ、違法捜査にあたる》
 指定弁護士「大久保さんは1月30日の取り調べの際に、『石川さんが(容疑を)認めているといわれた』と証言していますが、あなたは言いましたか」
 証人「分かりやすくいうと聞き違いです。そういうことはありません。1月30日以前に自白調書は存在している。これまで私が法廷に出てこないので、大久保さんに(その発言は)『違う』といえる人がいなかった。まあ、言う機会が設けられなかった」
 指定弁護士「あなたの取り調べ2日目で自白して、3日目に調書を作成していますね。切り違え尋問をする意味はありませんね」
 証人「そうですね。普通そんな尋問をしたら弁護士さんに接見して聞きますよね。『石川はこう言っているのですか』とか。当時、もし(切り違え尋問を)やっていたら、弁護士さんからクレームがあるはずです。でもそんなことはなかった」
 指定弁護士「切り違え尋問をする必要性もないし、そんな危険な行為をする意味がないということですか」
 証人「たった1日だけの調べではないので。今日無理しても翌日の調べがある。弁護士さんに伝わって『調書には絶対サインするな』とか言われるかもしれない。そんなこと(切り違え尋問)をするリスクがある事件ではない。それに私は大久保さんの話を聴いて調書にするだけ。事件を組み立てるのは主任(検事)の責任で、私の仕事ではない」
 指定弁護士「では切り違え尋問をする必要はない?」
 証人「する必要はない」
 指定弁護士「取り調べの検事同士で『こんなことをぶつけよう』とか、『なんて言っていた』という作戦会議はあるのですか」
 証人「作戦会議というと格好いいですが、『石川さんはなんて言っているの』とか話をすることはある。(当時取り調べをしていた検事の)期を具体的にいうと、池田さんを取り調べていた△△検事(法廷では実名)は2期上。□□検事(同)は10期上で副部長。(石川議員の聴取を担当した)○○検事(同)は私より期が下なので、結構ぶっちゃけた話はしていました。まあ一番話をしたのは○○ですね」
 指定弁護士「『潮目』という言葉は1月26日の調書にのっているが、大久保さんはその日に言ったのか」
 証人「26日の調書は何日間の調べをさかのぼっている。実際に発してから何日か経っている思う」
 《続いて指定弁護士側は東京拘置所での取り調べの様子について質問を行う。前田元検事は同拘置所では常駐の検察事務官がいないため、1人の事務官が複数の業務を行うことを説明。容疑者の取り調べの際に、検察事務官が取調室の席を外すのは日常茶飯事であることなどを説明した》
 指定弁護士「大久保さんんは(東京拘置所で)調書の中身をどのように閲読していましたか」
 証人「口で言うのは難しいが、1枚1枚カルタのように並べて読んでいた」
 指定弁護士「大久保さんは調書のチェックを念入りにしていたのですか」
 証人「そうですね。西松建設事件の時は軽率にサインしたのではないかと思いましたね。だから、過去の経験があったのでじっくり見るのは当然だと思いました」
 指定弁護士「調書の中に『規定事項』という言葉がありますが、大久保さんは『前田さんが作った言葉』といっていますが」
 証人「規定事項という言葉は、大久保さんが生で使った言葉です。(大久保元秘書の)前任の秘書の人がいて、『その人のころからの規定事項だったんですよ』という言い方でした。そういうことで自分の関与を薄めるというか、『規定事項ということで自分ではどうしようもなかった』という内容でした。彼のいっている言葉で入れています」
 指定弁護士「詳細を見て大久保さんから何らかの申し入れはありましたか」
 証人「あったはずです。よく読んでいましたから」
 指定弁護士「大久保さんの申し入れを盛り込んで調書を作ったのですか」
 証人「そうですね」
 指定弁護人「今となって『検事が作った』などと言われるのは心外ですか」
 証人「心外ですけども、(被告が)しゃべったことが調書になるわけだけど、(罪を逃れるためには)検事が悪いとか、あるいは検察が悪いとか言わないといけないわけですよね。大久保さんがいろんなことを言っていますが、腹を立てているということはないです」
 《大久保元秘書は法廷で前田元検事の調書作成時の様子は「作家のようだった」などと証言している》
 指定弁護士「話を全然聞かずに、調書を作ったのですか」
 証人「違います。聞きながら(パソコンに)入力していきました。私の入力よりも先に(大久保元秘書が)話を続けようとするので、『ちょっと待って』と言ったことはありました。この『ちょっと待って』と言ったときにパソコンを打っているところを、作文をしたと言いたいのでしょうけど、そんなことはありません」
 「大阪地検特捜部に当時いたわけだけども、『なんで自分が東京の事件に…』という思いはありました。だが仕事である以上、淡々と本人(大久保元秘書)の話を聞かなきゃね、と。もし全くのでたらめだったら、もっと本人にとって、もっとひどい内容になりますよね」
 指定弁護士「調書作成の時に『私は作家。司馬遼太郎のようだ。調書作成は作家の時間だ』などと言ったのですか」
 証人「私も新聞報道で見てにやりとしました。確かに司馬遼太郎は尊敬していて、話をしたことはある。私は調書に雑談を盛り込んだりする。たとえば、本件では陸山会の名前の由来を聞いて、それを盛り込んでいる。大久保さんとも『雑談の話を入れるんですね』という話をしたことはありました」「司馬遼太郎の小説の何がおもしろいかというと、途中にうんちくが入る。そういうことがあったので、別の事件の被疑者から『(前田元検事が作成した調書は)横の話を入れているのがおもしろい』という評価されたこともありました。そういう話が出たので司馬遼太郎の話をした。『私が司馬遼太郎だ』と言ったというのは、大久保さんがすり替えているけど、実際にそうではないです。何度も言いますが作文であれば、本人にとって不利になるようにします」
 《郵便不正事件の押収資料改竄事件》
 指定弁護士「あなたは、ある事件の証拠に手を加え、検察を解雇され、服役中ですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「なぜ改竄したのですか」
 証人「話すと5、6時間かかりますが、端的に言うと、検察の体面を保つことと、自身の保身のためです」
 指定弁護士「主任検事として大きなプレッシャーを感じていたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「本件でもそうですか」
 証人「それは全然違います」「厚生労働省の事件では、大阪高検検事長が積極的で、単独犯ではあり得ないという雰囲気があった。一方で、本件では(ゼネコンからの)裏献金で小沢先生を立件しようと積極的なのは、東京地検特捜部特捜部長や■■主任検事(法廷では実名)など一部で、現場は厭戦ムードでした。東京高検検事長も立件に消極的と聞いていましたし、厚労省の事件とは比較になりませんでした」「大久保さんを取り調べましたが、『とても無理ですよね』と感じました。小沢先生を土曜日に取り調べて、当時の特捜部長だった佐久間(達哉)さんらが東京拘置所に陣中見舞いに来ました。そのとき、私と○○検事(法廷では実名)、△△検事(同)が向かい合って座っていました。佐久間さんは『雰囲気を教えてくれ』ということを言われました」「(前田元検事の上司だった)大阪地検の特捜部長であれば、怒鳴られて言えないけど、佐久間さんはそんなことはなかった。『大久保はどう?』と聞かれたので、『頑張ってみますけど難しいです』と暗に立件は無理と伝えました。他の検事も同じようなことを言っていたと思います。一部積極的な人もいたが、小沢先生まで行くことはないと思いました」
 証人「話すと5、6時間かかりますが、端的に言うと、検察の体面を保つことと、自身の保身のためです」
 指定弁護士「主任検事として大きなプレッシャーを感じていたのですか」
 証人「はい」
 指定弁護士「本件でもそうですか」
 証人「それは全然違います」
 「厚生労働省の事件では、大阪高検検事長が積極的で、単独犯ではあり得ないという雰囲気があった。一方で、本件では(ゼネコンからの)裏献金で小沢先生を立件しようと積極的なのは、東京地検特捜部特捜部長や■■主任検事(法廷では実名)など一部で、現場は厭戦(えんせん)ムードでした。東京高検検事長も立件に消極的と聞いていましたし、厚労省の事件とは比較になりませんでした」
 「大久保さんを取り調べましたが、『とても無理ですよね』と感じました。小沢先生を土曜日に取り調べて、当時の特捜部長だった佐久間(達哉)さんらが東京拘置所に陣中見舞いに来ました。そのとき、私と○○検事(法廷では実名)、△△検事(同)が向かい合って座っていました。佐久間さんは『雰囲気を教えてくれ』ということを言われました」
 「(前田元検事の上司だった)大阪地検の特捜部長であれば、怒鳴られて言えないけど、佐久間さんはそんなことはなかった。『大久保はどう?』と聞かれたので、『頑張ってみますけど難しいです』と暗に立件は無理と伝えました。他の検事も同じようなことを言っていたと思います。一部積極的な人もいたが、小沢先生まで行くことはないと思いました」
 ⇒ [小沢一郎氏裁判 第10回公判〈後〉] 
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関連;小沢一郎氏裁判 第6回公判/大久保隆規証人「ずっと前田検事と過ごしており、マインドコントロールの中に」2011-12-01 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
 〈後段 抜粋〉
 弁護人「取り調べのときは検察事務官を同席してましたか」
 証人「だいたい2人でした」
 弁護人「事務官はいつ戻るのですか」
 証人「調べが終わるとき、署名、捺印するときに呼ばれていました」
 証人「それまでは検察官が話して、それを事務官が打つやり方でした。前田検事さんになってからは、自身のノートパソコンを持ち込み、自分で打ち込んでいきました」
 弁護人「打ち込み画面は見えましたか」
 証人「全く見えません」
 弁護人「印象に残っていることはありますか」
 証人「体も大きめの方で、ノートパソコンは比較的小さくて、窮屈そうな指先で打ち込んでいました。身ぶりをつけながら『ここで大久保さん登場!』とか言っていた。何かやっているな、と思いました」
 弁護人「前田検事が自分を『作家みたい』とも話していたんですか」
 証人「『まるで作家みたい』あるいは『作家の時間』と。うまく書けたときは、雑談で著作の話をしていたこともあって、『司馬遼太郎みたいなもんだ』と言っていました」
 弁護人「その間、どう思っていましたか」
 証人「調書がどうできあがるのかな、と。手持ちぶさたなので、深沢(寮)のレイアウトを書いてください、などといわれたり。前田検事は作成に没頭していて、こちらから話しかけたりできないようにするためだったのかな」
 弁護人「23日、『私の報告・了承があったから収支報告書が作成された』という内容の調書に署名していますね」
 証人「小沢先生への聴取が23日にありました。『その前に意思表示しないと家宅捜索、小沢先生自身への逮捕に広がっていく、あなたの決断一つだ』という話が(前田検事から)ありました」
 弁護人「署名に応じたのは何時ころですか」
 証人「朝に弁護士の接見があり、私は応じる、と弁護士に一方的に伝えた。先生の聴取は夕方、夜だったようなので、時間的に判断して午前中に応じました」
 証人「前田検事は『(小沢さんが)われわれを欺こうとしている』『小沢さんはどうなるかわからんよ』と。せめて自分が聴取に応じていくことで事件の広がりを食い止めなければ、という気持ちを強めました」
 弁護人「小沢さんは事件と関係ないから大丈夫、とは思わなかったんですか」
 証人「何が事件なのか。西松建設事件でもうちだけ、私だけやられた。何かの陰謀なのか、立件された。検察に何をされるかわからない、どんなことをされてもおかしくない、という思いを強めました」
 弁護人「23日、弁護士の接見はどのくらいの時間でしたか」
 証人「20分とか30分とか、短い時間でした」
 弁護人「やり取りは」
 証人「先生方はよく考えて本当のことを言い続けなければ、とその時に限らず励ましてくれました。しかし、そうは言っても中(取り調べ)の状況は外の先生には分からないし、細かく説明もできない。検事とのやり取りが圧倒的に多く、私はすでに“マインドコントロール”されているところもありました。弁護士の先生方の話だけ聞いて立ち向かっていけるのか。(弁護士を)信用しないというか、そうなっていました」
 弁護人「当時の精神状態はどうでしたか」
 証人「1度目の逮捕でも約3カ月勾留(こうりゅう)生活を送りました。頑張ることで3回、4回と逮捕されるのも嫌だった。(検察が)やりたい放題やるんだから、やらせてやれ、という気持ち。弁護士がなんと言おうと調書に応じることが小沢先生を守り、日本政治を守ることになる、という気負った感情がありました」
 弁護人「弁護士には落ち着いて話ができましたか」
 証人「精神的なストレスもあり、『(石川・池田両元秘書への事情聴取について)中ではもっと話が進んでいる』と思わず興奮気味に話しました」
 弁護人「調書に署名・押印することについては伝えましたか」
 証人「これ以上、3人以上逮捕者を広げないため、会計責任者として認めるようにしたい、と言いました」
 弁護人「弁護士からは、石川さん、池田さんの聴取の状況についても伝えられていたんですよね」
 証人「石川氏、池田氏がこう言っているという先生方の話は、どうも遅れているな、と感じました。ほとんど状況を知らないんじゃないか。石川氏、池田氏は、実際には弁護士に聴取状況の本当のことを話していないんじゃないか、と。全く当てにならないと思うようになりました」
 弁護人「なぜ石川さん、池田さんを信じられなくなったんですか」
 証人「私も受けていた圧力を想像しました。何しろ2週間、ずっと検事と過ごしている。マインドコントロールの中に入るというか、検事の話を信用するようになりました」
 弁護人「『潮目を変える』という言葉を使いましたか」
 証人「確かに私は港町出身ですが、船乗りではありません。前田検事が私の身上経歴について読み込むうちに思いついたのではないでしょうか」
 弁護人「(事実が)ないにもかかわらず作られたんですか」
 証人「前田検事さんがご自身で調書を作って、だいたいできたところで印刷をして、『これでどうだ』と聞いてきた」
 証人「『(石川、池田両元秘書が取り調べで)本当にこんなこと言ってるんですか』と聞いても、『大久保さん、本当にこう言ってるんだから』といわれた」
 証人「石川氏や池田氏が厳しい取り調べをされたらいやだなと思って、石川氏がそういっているならいいかと(調書に署名した)」
 弁護人「疑いを持たなかったのですか」
 証人「きっとそうなっているんだろうと、前田さんからのお話を受け入れました」
 弁護人「どう思いましたか」
 証人「さすが大物検事だと思いました。実力があるからこういうことも通るんだなと思いました」
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小沢一郎氏 初公判 全発言/ 『誰が小沢一郎を殺すのか?』2011-10-06 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

   

小沢一郎氏裁判 第10回公判〈後〉前田恒彦元検事「私が裁判官なら小沢さん無罪」「検察、証拠隠しあった」

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私が裁判官なら小沢さん無罪…前田元検事
 資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記入)に問われた小沢一郎民主党元代表(69)の第10回公判は、16日午後も東京地裁で大阪地検特捜部元検事・前田恒彦受刑者(44)(証拠改ざん事件で服役中)の証人尋問が続いた。
 前田元検事は捜査中に、元事務担当者・石川知裕衆院議員(38)(1審有罪、控訴)の取り調べを担当した元東京地検特捜部の田代政弘検事(44)から、小沢被告の虚偽記入への関与を石川被告が認めたことを知らされたと証言した。
 元会計責任者・大久保隆規被告(50)(同)を担当していた前田元検事は、弁護側の尋問に対し、田代検事と情報交換しながら取り調べに当たっていたと説明。その際、田代検事から、虚偽記入の報告を受けた小沢被告が「おう」と述べたと石川被告が供述していると聞いたとし、「もっといい話はないのか」と尋ねると、田代検事は「これでマックス(最大限)の供述だ」と答えたと述べた。前田元検事は、石川被告の供述状況からみて、小沢被告との共謀の立証は困難とも思っていたといい、「私が裁判官なら小沢さんの無罪判決を書きます」と述べた。
(2011年12月17日06時18分 読売新聞)
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前田元検事「検察、証拠隠しあった」小沢元代表公判で証言
日本経済新聞2011/12/16 23:19
 資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡り政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で強制起訴された民主党元代表、小沢一郎被告(69)の第10回公判は16日午後も東京地裁(大善文男裁判長)で続き、証人として出廷した前田恒彦元検事(44)=証拠隠滅罪で実刑確定、服役中=は、小沢元代表の強制起訴について「(検察の)証拠隠しがあったと思う。検察審査会は証拠を全て見て判断したわけではない」と述べた。
 主要な証人の尋問はこの日で終了。大善裁判長は、元代表の判決を左右するとみられる石川知裕衆院議員(38)=規正法違反罪で一審有罪、控訴=ら元秘書3人の供述調書の証拠採否を決める期日を来年2月17日と指定した。
 元代表側の尋問を受けた前田元検事は、陸山会事件の捜査について「私が思っているだけだが、証拠隠しがあった。想定と違う取り調べ内容は証拠化せず、供述メモをワープロで整理していた」と指摘した。
 別の検事が取り調べを担当した石川議員の供述調書について、弁護人が抗議していた経緯にも触れ、この抗議文書が検察審に提出された不起訴記録に含まれていなかったと主張。「検察審が見ていれば(元代表との共謀関係を認めた)石川さんの調書の信用性が減殺されていた」と証言した。
 大善裁判長はこの日、池田光智元秘書(34)=同=を取り調べた検事2人が、過去に別の事件で作成した供述調書の任意性を否定した大阪地裁の判決文など3点の証拠採用を決定した。
 公判は今月20日に弁護側証人として会計の専門家が出廷。来年1月10、11日に元代表の被告人質問が行われる。 [小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉]からの続き

 弁護人「誰から応援の指示を受けたのですか」
 証人「(大阪地検特捜部長の大坪(弘道)さんと副部長の佐賀(元明)さんです」
 弁護人「どのように?」
 証人「(実際に応援に入る前の)週末に部長の部屋に呼ばれましたところ、夕方に大坪さんと佐賀さんがビールを飲んでおりまして『まぁ、まず飲んでくれ』と言われました」
 証人「そこで『すまんが行ってくれ』と…」
 弁護人「前田さんは、どうして自分が呼ばれたのだと思いますか」
 証人「東京地検からは大阪から4人ほしいと要請がありました。2人は私と後輩の検事(公判では実名も出す)の2人が名指しされ、あとは誰でもいいということでした。ただ、大阪も4人出すと回りませんから、週明けに2人で折り合いをつけたようです」
 弁護人「もう1人は後輩の検事ですね」
 証人「そうです」
 弁護人「○○事件(法廷では実名)を担当していたのではないのですか」
 証人「よくご存じですね」
 弁護人「(立件に向け)内偵していましたね」
 証人「内偵というか、着手のタイミングが合わないだけだった。私は知恵袋というか、(後輩の検事に)アドバイスをしていた。だから(この事件を)認識はしています」
 弁護人「この事件は、どうなりましたか」
 証人「もちろん東京に行っている間は、できませんが、東京から戻り、もう一回頑張ろうと練ったが、すぐに厚生労働省の公判が始まり、他の事件はできないとなった」
 弁護人「今も立件されていませんね」
 証人「その通りです」
 弁護人「後輩の検事は陸山会事件の応援で何を担当していましたか」
 証人「捜査では身柄班とそれ以外の在宅班に分かれており、在宅班ではさらにゼネコン班など細分化している。下請け班のどこかに入っていたと思う。捜査体制表をクリアファイルに入れて保存しているが、それを見れば分かる」
 弁護人「東京地検特捜部は大阪地検特捜部の捜査を中断させても応援を取るような上位にあるのですか」
 証人「本当にふざけるなという感じですよね。大阪は厚労省事件があっても東京から応援を借りることはないのに…」
 弁護人「東京地検の上級庁も(大阪地検から応援をもらうことを)把握していましたか」
 《前田元検事は、午前中の公判で、他の検事が作成した調書を見ていたと証言した。また、「作戦会議」のような他の検事との打ち合わせもあったと明かした》
 弁護人「確認ですが、他の検事の調書も見ていたのですね」
 証人「はい」
 弁護人「作戦会議もしていたのですね」
 証人「作戦会議といえば大げさですが、休憩のときには、みんなで昼ご飯を食べるのですが、今は、石川(議員の調べ)はどうなってるのかなと聞くことはあった」
 弁護士「1日のうちどれくらいの時間ですか」
 証人「延べ時間のことですか。昼ご飯のときは15分なり20分なり…」
 弁護人「(石川議員を取り調べた)○○検事(公判では実名)は、どう話していましたか」
 証人「いろいろな話をしましたが…。小沢さんのプラスとマイナスもありますが、両方話していいですか?」
 弁護人「お願いします」
 証人「石川さんが小沢さんに(虚偽記載を)報告した際、『おう』と言ったとする調書がありましたが、『生の話を記載したのか』と(○○検事に)尋ねたところ、『言っていることを記した』と話していましたね。ただ、『おう』と言っただけでは…と、『石川氏はもっと中身のある話をしていないのか』とも尋ねましたが、『(それで)いっぱい、いっぱい。MAX(マックス)だ』と。小沢さんの起訴は難しいなと感じた」
 《午前の公判で、上層部はゼネコンから5千万円の裏献金を受け取っていたと見立てていたと証言した》
 証人「○○検事も『石川さんが5千万円(の裏献金を)受け取っていた事実はないんじゃないか』と言っていた。副部長の□□検事(法廷では実名)も『おそらくない』という認識で、私のところも大久保さんが500万円を受け取ったのがMAXと言っている。(検事らの)士気は下がっていた。まぁ、とりあえず会議ではなく、こんな感じで他の検事と打ち合わせのようなものをしていました」
 弁護人「前田さんは○○検事に何と話しましたか」
 証人「政治資金収支報告書は、(陸山会の実際の会計担当者の)石川さんで、私(が担当していた大久保元秘書は)のマターは4億円の原資が何かということ。○○検事は難しいといっていたので、頑張れと(励ましていた)」
 《○○検事は前日の第9回公判に証人出廷して証言をしている》
 弁護人「○○検事は調べの検事同士は、一切取り調べの状況を話していないと証言しているが」
 証人「…」
 弁護人「他の検事が作成した調書も見ていないと言っていたが、嘘ですか」
 証人「私の場合は、少なくとも小沢先生の調書や石川さんの調書など、当然受け取っていた。他の検事も同様だと思う」
 《前田元検事が平成22年1月に、東京地検特捜部により行われた小沢被告の1回目の任意の事情聴取を事前に知らなかったとした証言》
 弁護人「事前に知らなかったのですか?」
 証人「保秘でした」
 弁護人「どうして保秘にする必要があるのですか」
 証人「40人の検事に事務官がつき、100人の捜査体制。そこにマスコミがやってくる。(東京に応援に来て)ウイークリーマンションを借りていたが、(調べから)戻ってくると、記者が待っている。『大久保さんの調べどうでしたか』と。私は口が堅いので完全無視を通したが、地方から来た事務官などもいる。小沢さんの聴取時期という重要な情報が漏れることもある」
 弁護人「マスコミに漏れると何か支障があるのですか」
 証人「マスコミは面白おかしく書くし、事情聴取の時期が漏れれば、口裏合わせをされることもある。いろんなことを考え、保秘にする」
 《大久保元秘書は、前田元検事から小沢被告の1回目の任意聴取の前に、大久保元秘書の調書を作成する必要があると迫られたと主張している》
 弁護人「事前に小沢さんの聴取日を知らなかったとなると、大久保さんに調書作成を迫る必要もないということになりますが…。間違いないですか」
 証人「間違いないですよ」
 《この証言を引き出した時点で、弁護人は小沢被告の任意聴取前の新聞各紙を示す。そこには、事前に聴取日を知らせる内容が記載されている》
 弁護人「これらの朝刊などは、聴取が近いことを記していますよね」
 証人「はい。そのようですね」
 弁護人「トップシークレットではありませんよね」
 証人「私自身は本当に知らなかったんですよ。調べ終えれば、ウイークリーマンションに帰る毎日で、新聞は読んでいませんでした」
 《その後の2回目の小沢被告の任意聴取は、時期は不明ながらも事前に知っていたと証言》
 弁護人「(大久保元秘書の聴取について)東京拘置所の取調室で、ファクスやメールで(上層部と)連絡を取っていたんですね」
 証人「(主任検事の)■■キャップ(法廷では実名)からあーしろこーしろ、と言われた、というのは、さして記憶はないんですよね。私の当時の役回りはある種、(供述を引き出す)職人としての能力を買われていたが、(勾留)初日から(大久保元秘書を)担当していたわけでもなく、とてもできない状況だったんですけどね。一方で石川(知裕衆院議員(38)=同=)さんを担当していた○○検事(法廷では実名)は相当プレッシャーを受けていたみたいで。私は調書の内容もタイミングも任されていましたけど、○○さんはキャップに調書の原案を上げて、『朱入れ』(手直し)をされていた。私はキャップにいろいろ言われた記憶はなくて、任されていたんです」
 弁護人「午前中の尋問で、他の検事の取り調べにはいろいろ問題があった、と言ってましたよね。どんな問題があったんですか」
 証人「私がそう思う、ということで事実かどうかは別ですけどね。あいつ。あいつじゃねーや、(石川議員の取り調べを担当した副部長の)□□さん(法廷では実名)から聞いたのは石川さんが調べの途中で土下座した、と言っていたんですよね。(□□検事は、石川議員が水谷建設から)5千万円受け取ったやろ、と言ったら、石川さんが否定して、『この通り、受け取っていない証明として土下座もできる』ということで土下座した、と言っていたが」
 「私の素朴な感覚では、否認していた被疑者が次の日の朝に土下座して『嘘ついてました』というのはあり得るけど、普通はないでしょう。国会議員ですよ、当時。いかがなものかと」
 証人「それから、細かく正確ではないが、当時、確か石川さんが陸山会と関係なく、ウナギの養殖業者から賄賂をもらったという話があって。実は贈収賄にはあたらないんですけどね。それを贈収賄として調書を取って、『(収支報告書の)虚偽記載を認めなければ考えがあるぞ』と(□□検事が迫った)。それでも石川さんは頑張った。□□検事も『あいつ(5千万円を)受け取ってないんじゃないか』と話していた」
 《大久保元秘書は証人尋問で「担当検事が代わり、小沢さんを陥れようと無理な調べが始まるのではないか、と話した」「(前田元検事から)『あなたは(陸山会事件を)どうしたい』と聞かれた」などと証言。このことについて弁護側が事実関係を問いただすが、前田元検事はこのやり取りを否定した》
 証人「1回目(の指定弁護士との打ち合わせでは)はざっくばらんに、捜査の問題点を含めて申し上げた。『私は小沢さんが無罪だと思う』『指定弁護士も職務上大変ですね』と。捜査にいろいろ問題があったことも言いましたし、証拠隠しのことも…言ったかな? 言わなかったかな?」
 弁護人「証拠隠しって何ですか」
 証人「要は、私が裁判官なら、『無罪』と判決を書く。証拠がすべて出されたとしても…」
 弁護人「いや、『隠された証拠』ってなんなんですか」
 証人「私が思っているだけですけどね。判決では検察審査会の起訴議決が妥当だったかどうかも審理されるわけですよね。そこで検察が不起訴と判断した資料として検審に提出されるもので、証拠になっていないものがあるわけですよ。例えば、(自分が取り調べを担当した)大久保さんの調書には全くクレームがないけど、石川さんの調書にはあるんです。弁護士からのクレーム申入書が。でも(指定弁護士との)打ち合わせのときに、指定弁護士は知らなかった。検審に提出された不起訴記録に入っていないから」「私はクレームが来ていないから胸を張って任意性がある、と言えるんですけど。石川さんの調書に問題があったんじゃないですかね。(石川議員の取り調べに対する)クレームはバンバンあったくらいの印象がある。指定弁護士も調査したら1、2通見つかったと言っていたが、私の印象ではもっとあると思いました。それが証拠に含まれていれば、審査会が見て、調書の信用性は減殺されるわけですよね」「それに、この事件では捜査態勢が、途中でものすごく拡充されたんですよ。(元秘書ら逮捕者の取り調べを行う『身柄班』に対して)『業者班』。ゼネコンや下請けの捜査員を増やした。でも、(作成された)調書が、まー、ないでしょ? 大久保さん、小沢さんに裏金を渡しているという検察の想定と違う取り調べ内容は、証拠化しないんです。どうするかといえば、メモにしている。手書きのその場のメモということでなく、ワープロで供述要旨を整理していた」「水谷(建設)で言えば、4億円の原資として5千万円は水谷かもね、となっても、残りの3億5千万円については分からない。何十人の検察官が調べて、出てこない。検審にそれが示されれば、水谷建設の裏献金の信用性も、減殺されていたはず。想定に合わなければ証拠にならないというのがこれまでの検察で、私も感覚がずれていて、厚労省の(証拠改竄)事件を起こすことにもなった」
 弁護人「話を戻しますが、検察事務官に(取り調べの際に)席を外させるのは秘密保持のためということを言っていますが、回数は多かったのですか」
 証人「東京拘置所の仕組みを説明しますと…」
 弁護人「それはいいんです。前田さんの判断で事務官の席を外させることはありましたか」
 証人「部屋から出てくれとは言ったことがない。大久保さんが『他の人に話をしにくいな』という話題のときには、事務官が雰囲気を察して(自ら)席を外した。特捜部の事務官はアホではないので」
 弁護人「(大久保元秘書の)調書にある『検事調書は証拠価値が高い』というのは大久保さんから出た言葉ですか」
 証人「それは私が書いたんですよ」
 弁護人「どういうときに言ったんですか」
 証人「大久保さんがそのような趣旨で話したので私が書きました」
 弁護人「証拠価値という言葉は専門的な言葉ですが、大久保さんはどういう話をしていたのですか」
 証人「『自白というのは意味がある。サインすることは被疑者として重要。検事の調書は気をつけないといけない』という話だった」
 弁護人「それは大久保さんが言ったのですか」
 証人「そういう趣旨で言っていた」
 弁護人「先ほどから出ている『潮目を変えたい』という言葉ですが、特徴的だから調書に使ったということですね」
 証人「はい。面白い言葉だったので」
 弁護人「このときの供述調書は、大久保さんが(その後に)供述をひっくり返す可能性があるということで作成したのですね」
 証人「はい。将来的にあると思っていました」
 弁護人「なぜこのような言葉を取り入れたのですか」
 証人「あの、私は検事15年で、特捜は8、9年やってますし、バカではないですから。話を取り入れて信頼性を高めるという意味で取り入れたんです」
 弁護人「潮目という言葉ですが、普通は『潮目を変えたい』とは使わず、潮目とは自然に変わっていくものではないですか」
 証人「それは重箱の隅です。答えても前に進みません。別の質問をされた方がいいですよ」
 弁護人「あなたは潮目という言葉を『パクった』とおっしゃいましたね」
 証人「はい」
 弁護人「あなたは逮捕勾留され、取り調べを受けたのは今回(証拠改竄事件)が初めてですね」
 証人「はい」
 弁護人「(大阪地検元特捜部長の)大坪(弘道)さんと(元副部長の)佐賀(元明)さんを尊敬していましたよね」
 証人「…」「まあそうですね」
 弁護人「2人の関与を認めるのは重大な決意でしたね」
 証人「上司を刺すということなので、そうですね」
 弁護人「その重大な決意をしたときにどうして大久保さんを思い出し、潮目という言葉を使ったのですか」
 証人「大久保さんを取り調べて調書をとった(平成22年)1月30日は、私が佐賀さんに報告した日。1、2月のことは頭に残っている」
 弁護人「あなたは取り調べで『話を作るならばもっとひどいことを書く』と発言したことがありますが、自分で話を作ったことはありますか」
 証人「ないです」
 弁護人「ない? 被疑者から聞いてない話で調書を作ったことは1度もないのですか」
 証人「作文ということだと思いますが、聞いた内容を書くのはすべて作文になりますが」
 弁護人「真実と虚構がありますが、虚構の調書は書いたことはないのですか」
 証人「はい」
 弁護人「(郵便不正事件の)村木(厚子)さんの事件では証拠を改竄しましたよね」
 証人「その通り」
 弁護人「証拠として『いやらしい』からということでしたよね」
 証人「その通り」
 弁護人「証拠の改竄は、証拠隠滅罪にあたることはご存じですよね」
 証人「その通り」
 弁護人「他の証拠と整合するように変えましたね」
 証人「その通り」
 弁護人「村木さんの事件以外で証拠改竄をしたことはありませんか」
 証人「ありません」
 弁護人「今まで一度もないのに、村木さんの事件の1回だけ。たまたま朝日新聞に見つかったのですか」
 証人「誰が出したかは分からないが、これは改竄を知っている(検事の)誰かが外に漏らした。たまたまではない」
 弁護人「では1回限りのことが発覚したということですか」
 証人「悪いことはやっぱりできませんね」
 弁護人「大久保(隆規元秘書)さんに、『予備知識がないから話を作れない』と言いましたか」
 証人「予備知識? 私が? 大久保さんに『話を作る』って言ってないですよ」
 弁護人「言ってないんですか?」
 証人「言ってないです。西松建設事件ってどんな事件かというのは聞きました。作るというのは、作文という意味ですか」
 弁護人「そういうことですかね」
 証人「言っていないです!」
 弁護人「平成20年1月29日、(大阪地検特捜部の同僚の)国井弘樹検事から、他の検事に改竄を話したと電話がありましたね」
 証人「はい」
 弁護人「2月1日か2日には、国井検事とデータの一部を書き換えてしまった可能性があるという筋書きについて話をしましたか」
 証人「2日ですかね。筋書きの話は事実です」
 弁護人「この筋書きは東京拘置所で(大久保元秘書の取り調べと)平行して作りましたか」
 証人「いや、そうではないです。調べの合間というか、取り調べの部屋には誰もいない状態で作りました。当時上司だった佐賀(元明・元大阪地検特捜部副部長)さんに『嘘の筋書きを作っておけよ』といわれて作りました」
 弁護人「嘘の筋書きを文章化したのは2月8日ですね」
 証人「そうですね」
 《ここで、弁護側はこの嘘の筋書きを書き並べた上申書を証拠として示そうとするが、指定弁護士側はこれに反発。「本件とどう関わりがあるか、供述を取ってから示すべきだ」と主張。一方、弁護側は「信用性を争うために必要」と再反論するが、大善文男裁判長は、上申書を示さずに本件との関わりをただすように弁護側に指示》
 弁護人「大阪に帰って上申書を書いたんですか」
 証人「そうですね。でも、やっぱり(上申書を)示した方がいいと思うんですよ。もっと他に聞くことがあると思いますから。何があったのか、全て話そうと思ってここに来ていますから」
 裁判長「上申書がどういうものか覚えていらっしゃいますか」
 証人「(データの書き換えが)実際は故意犯だったのを、過失犯だったかのように嘘の筋書きを書いたものです」
 裁判長「内容は記憶にあるのですね。では、弁護側はそのまま質問を続けてください」
 弁護人「ご希望に添って簡潔に質問します。上申書には『フロッピーのデータを過誤により改変した可能性があります』と書いてありますよね」
 証人「ほぼ全部作り話です。真っ赤な嘘ですね、本当に」
 弁護人「『コピーデータの上書き保存の際、遊び感覚で適当な数字を入れた』というのも作り話ですか」
 証人「そうですね」
 指定弁護士「これ以上詳細に踏み込む必要はないと考えます」
 弁護人「本件の取り調べと近接した時期に、検察官として改竄を隠蔽する話をしているんです。関連性はあることは明らかです」
 裁判長「すでに出ている話だと思いますし、この辺でいいのでは…」
 弁護人「では、もう一つだけお願いします」
 裁判長「では、お願いします」
 弁護人「上申書の中で、『音楽を聴きながら作業していたので、データを上書きしたときに小さい回転音がするのですが、ヘッドホンをしていたので回転音に気づかなかった』とありますが、こういうディテールも嘘ですか」
 証人「音楽を聴いて作業することはありますが、前提が嘘だから、細かいことも嘘です」
 弁護人「(当時の大阪地検の)小林(敬)検事正にも上申書に沿って報告しましたか」
 証人「はい。小林検事正の聞き取りのあと、『報告書にしてくれ』といわれ、上申書を報告書として書き換えました」
 弁護人「最初から検事志望だったんですか」
 証人「司法修習生時代ですか。はい」
 弁護人「検事になって14年間勤めたんですね」
 証人「そうですね」
 弁護人「そのうち特捜部は9年ですか」
 証人「はい、約9年です」
 弁護人「あなたは『私の行為で検察の信頼が失墜してしまった負い目を感じている。ですが、特捜部も検察も愛しています』と話されていたようですが」
 証人「はい」
 弁護人「今でもそうですか」
 証人「今でも愛しているからこそ、今、改革が進んでいますが、2点を改革すべきだと思います。一つは、手持ちの資料は全て開示する。検察に不利な証拠があったことが後に判明することは、今の“流行”みたいなものです。私の件をきっかけに大きく検察組織を変えるなら、検察だけの判断で『この証拠は出さない』というのはやめるべきです」
 「もう一つは、強制だろうが、任意だろうが、捜査の様子は可視化すべきです。今回の件でも、大久保さんにはかなりデタラメを言われた。検事が改竄したか、しないかなんてのは不毛なやりとりなんです。だから、可視化を進めるべきです。供述調書も作らずに、録音録画する。そこまで検察が改革に踏み込めるかどうかです。検察、特捜は今でも愛しています」
 「今は被疑者から自白を取った検事が悪いかのように思われている。確かに自白を取ることは被疑者にとってつらいことだけど、真実を引き出そうというのが検察。それが突然、公判で『言ってない』とか供述が覆っておかしくなって、(裁判で証人として)呼ばれる。それは心外です。それを避けるために可視化すべきです」
 弁護人「大久保さんのときは可視化しましたか」
 証人「可視化されていません」
 弁護人「終わります」
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 指定弁護士「まず1点。事前に、(小沢被告を近く聴取するという)報道があったにもかかわらず、知らなかったのですね」
 証人「そうです」
 指定弁護士「小沢被告側の弁護人と日程調整もするのですね」
 証人「先ほど、私は検察幹部がマスコミに漏らしたような話もしましたが、弁護士が記者に漏らすことも考えられます。ただ、いずれにしましても、私は知らず、驚いたということです」
 指定弁護士「検察はトップシークレットで下の者には伝わっていなかったのですね」
 証人「そうですね」
 指定弁護士「書面では、大久保さんに対し『(事件の)予備知識もないので(供述調書に)嘘を書けないし、正直に話してほしい』との内容になっているがこちらも違うのか」
 証人「『話を作ることはないので』と、このようなニュアンスは指定弁護士の先生に説明したような気がしますが、手持ちがないので嘘を作るというようなやり取りを大久保さんとした記憶はありません」
 指定弁護士「大久保さんに対し、『あなたはどうしたい?』と質問したとも書面にありますが…」
 証人「私の記憶では、少なくとも指定弁護士の先生に、そう言ったという記憶はありません」
 指定弁護士「調書にはあなた(前田元検事)の発言が、(真実を語る)背中を押したとする内容もありますが…」
 証人「(そういうやり取りが調書に)あったか、すら覚えていない。あったのではないかと言われれば、書いているので、あるのでしょうが…。私は、ものすごく些末なことだと思いますが」
 《前田元検事は、公判で他の検事が作成した調書などの資料も見ていたと証言。さらに、陸山会の実際の会計事務を担当していた元秘書の石川知裕衆院議員(38)の聴取を行った○○検事(法廷では実名)に捜査状況を尋ねていたことを明かした。指定弁護士側はこの点も確認する》
 指定弁護士「○○検事が実際に資料を取り寄せていたことは確認しましたか」
 証人「確認はしていません」
 指定弁護士「調べ官の横のつながりは定期的にありましたか。例えば、ミーティングとか」
 証人「ミーティングとかはありません。ただ、みな東京拘置所に出勤し、夜遅くまで缶詰なので、一緒に過ごす時間が多くなるわけですよね。私は△△検事(法廷では実名)とは面識がありましたが、○○検事と副部長の□□検事(同)とは面識がなかった。最初はぎこちないが、一緒に昼ご飯を食べるにつれ、いろいろと聞くようになる。与太話で『今どんな感じ。認めているの?』とかを自然と聞く。トイレで小用をたしているときとか、『割れた?』とかも聞く。割れないと思っているものの、割ってほしいというのが事実ですし」
 裁判官「前任の検事からの本件、政治資金収支報告書虚偽記載について、具体的にどのように引き継ぎを受けたのですか」
 証人「本件そのものの認否については、文言はどうあれ、留保しているという趣旨だった」
 裁判官「あなたが尋ねた際、(大久保元秘書は虚偽記載について)『思いだしているところだ』と説明したのですよね」
 証人「はい」
 裁判官「その後、認めた際には、どのようだったのですか」
 《問題の土地を購入する際、小沢被告は4億円の資金は用意していたが、その後、りそな銀行からも、定期預金を担保に、同額の4億円の融資を受けている。土地の登記は、代金を支払った翌年の1月にずらされている》 証人「結局、自分が考えたことではなく、『石川(議員)がこういうスキームを作った』と。石川(議員)いわく『これが小沢先生のためになる』と説明を受けたと話していました」
 《裁判官は続けて、佐久間達哉・東京地検特捜部長が東京拘置所を訪れ、事件についての見立てを説明した状況について尋ねていく》
 証人「(見立ては)妄想かもしませんが。小沢、小沢先生には申し訳ないが、検察はみな小沢と呼び捨てにしていますが、(特捜部長は)『小沢は当然分かっている』と。ダム工事の謝礼を秘書個人に渡すわけがない、そういう金だから(収支報告書の虚偽記載で)隠す、という見立て。だから(土地購入の原資が)業者からの4億円でなければ、見立ては崩れると」
 裁判官「(石川議員の取り調べを担当した)○○検事(法廷では実名)も聴いていたんですね」
 証人「会議室で。そうです」
 裁判官「今日は陸山会事件についての捜査の問題点を話されていましたが、何か言い残したことはありますか」
 証人「はははっ。抽象的な質問ですね。えーと…」
 裁判官「あ、なければ結構です」
 裁判官「弁護側が示したように、(前々日と前日の)21日と22日にも新聞報道がありました。見ていないんですね」
 証人「はい。新聞自体一切見ていないし、普段から買っていません」
 裁判官「インターネットのニュースでも見ていませんか」
 証人「当時一番関心があったのは(自身が捜査に関与していた)厚労省(の郵便不正事件)でしたが。それも見た記憶がありません」
 裁判官「事務室とか、他の検事が話題にしていませんでしたか」
 証人「当日までありませんでした」
 《大久保元秘書は証人尋問で、弁護士を信用しないよう繰り返し言われ、「マインドコントロール」を受けた、と話していた》
 裁判官「弁護士を信頼し続けると不利になると、大久保さんが印象を受ける言い方をしたことはありませんでしたか」
 証人「信頼してはいけないとは言っていません。ただ、小沢さんの記者会見で同席していた弁護士が、大久保さんの弁護士と一緒であることを知って、『利益相反』だということは言いました。私だけでなく、他の検事も言っていた。『なぜあなたの弁護士が小沢さんの弁護士をしているんだ』と大久保さんに言ったことはあります。それに…」
 裁判官「他にはありませんね」
 証人「ありません」
 裁判長「他の人がここまで話しているというのは、頭に置いて調べているわけですね」
 証人「『当て調べ』(他の被疑者の供述を聞かせる取り調べ手法)ということなら、それはやっていません。信用性の問題があり、(他の秘書らの)嘘の可能性もある。当てるのは怖い。大久保さんが言っていることも、合っているか分からないですから」
 裁判長「頭に入っていれば、心理として供述をぶつけることはありませんか」
 証人「心理としてはあるが、やってはいけないときもある。実際にやるかは別です」
 裁判長「小沢被告の会見をテレビで見てから、大久保さんに感想をぶつけたことはありますか」
 証人「会見に大久保さんの弁護士が同席していた。それを言ったのは間違いありません。中身で明確にこう言った、という記憶はありませんが、何か(感想を)言っても不思議ではない状況とは思います」
 裁判長「小沢さんや共犯の処分の見通しについて、大久保さんに話したことはありますか」
 証人「ないですけれども。大久保さんは私を見て、検察は小沢さんを起訴しないと推測したかもしれない。私がこれまでの検事に比べて『やる気ないな』という感じだったので。私が逆の立場ならそう思う。キリキリやらないので、小沢さんを起訴しないと考えられてもおかしくないです」
《大善裁判長は新たな公判期日として来年2月17日に審理を追加。指定弁護士が請求した石川議員、大久保元秘書、池田元秘書の供述調書の採否の判断を行う。次回公判は20日午後1時10分から。指定弁護士側、弁護側の双方が申請した会計学の専門家が証人として出廷》 ◆「特捜部は恐ろしいところだ」ストーリー通りの供述を取らなければ、という強いプレッシャー〈陸山会事件〉2011-07-11 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 NCNニコニコニュース 2011年7月11日(月)16時39分配信
 小沢一郎民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金規正法違反罪で起訴された小沢氏の元私設秘書、石川知裕衆院議員は2011年7月10日、ニコニコ生放送の特別番組に出演し、東京地検による取り調べの際、担当検事が「特捜部は恐ろしいところだ」と発言したときの様子を語った。また、元検事の市川寛氏は、自らの体験を基に同発言が出た理由を推測した。
 陸山会事件とは、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金収支報告書に虚偽記入や不記載があったとして、石川議員を含む小沢氏の元秘書3人が政治資金規正法の罪に問われている事件。今年の2月に行われた初公判では3人とも無罪を主張。裁判の行方が注目される中、東京地裁は6月30日、検察側が証拠請求した石川議員ら元秘書3人の供述調書の一部について「威圧的な取り調べや利益誘導があった」などと任意性を否定し、証拠として採用しないことを決めた。裁判所の判断の根拠となったのは、担当検事が発したとされる「特捜部は恐ろしいところだ」という言葉だ。
 石川議員は取り調べ中に東京地検特捜部の田代政弘検事から「特捜部は恐ろしいところだ。何でもできるところだぞ。捜査の拡大がどんどん進んでいく」と言われたと主張。これに対し、田代検事は否定したが、東京地裁は石川議員の主張を認め、「威迫ともいうべき心理的圧迫があった」として供述調書の証拠採用を却下した。決め手となったのは石川議員が保釈後の再聴取のときに録音していた取り調べのやり取りの様子。そこでは、田代検事が同発言を認める様子が記録されていた。
 田代検事がこのような発言をした理由について、個人的に田代検事を知っているという元検事で弁護士の市川寛氏は
「彼(田代検事)自身は追い込まれて、石川さんから所定の供述を取らなければいけないというプレッシャーがあったので、そういう言葉を使わなければいけなかったのではなかったのか」
と、検察官当時に自分が置かれていた立場に重ね合わせて語り、上層部が描いたストーリーに沿った供述を取らなければいけないという強いプレッシャーが検察内部にあることを指摘した。市川氏は冤罪事件として知られる佐賀市農協事件に主任検事として関わった際、事情聴取した元組合長に対して「ぶち殺すぞ!この野郎!」と暴言を吐いたことが原因となり検事を辞職している。
 市川氏の発言に対し、石川議員も
「罵倒して脅すように『恐ろしいところだ。何でもできる』と言ったわけではなかった。田代さんが私に言ったのは『(検察は)こういう恐ろしいところだから、どうなるかわからない。(特捜部を)止められるかわからない』というセリフ。恐らくそういう組織の中で、結果を出さなければいけない。一人一人が追い詰められていくのはそういうところなんじゃないか」
と述べた。(三好尚紀)
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小沢氏強制起訴/「4億円が汚い金というのは検察が勝手に言ってるだけ。証拠がない」と担当検事2011-02-02 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
 これを「誘導」「圧力」と言わずに何と言うのか。政治資金規正法違反罪で逮捕、起訴された石川知裕衆院議員(37)が「録音」した再聴取の全容が31日明らかになった。共同通信が報じたのだが、なぜか大新聞テレビは“黙殺”したままだ。
 繰り返し言うが、昨年5月に行われたこの再聴取は、石川議員を起訴し、その「保釈後」に行われた。起訴後の被告に対して検察が証言を強要したり、誘導したりすることは絶対にあってはならない。法治国家として当然だ。ところが、石川議員の再聴取では随所に検事の“問題尋問”が行われているのだ。東京地検特捜部の検事が話した内容はざっとこんな感じだった。
「従前の供述を維持するのが一番無難だって。今までの話を維持している限り、(小沢は)起訴にはならないんだろうと思うんだよ」
「ここ(再聴取)で全部否定することは火に油を注ぐことになるよね。ここで維持することが彼ら(審査員)の気持ちをどう動かすかだよね」
 石川議員に執拗に供述維持を迫る検事。これほど“強要”する姿勢は異常だ。筋書きありきで突っ走った検察捜査の正当性を保ちたいという考えがミエミエだ。続いて、検事は最初の供述の一言一句を確認する手段に出た。
「小沢先生が政治活動の中で何らかの形で蓄えた簿外の資金であり、表に出せない資金であると思った」などと調書を読み上げたのだ。しかし、これには石川議員が大反論した。
「4億円を隠したいがためっていうのがね、どうしても引っ掛かるんですよ。4億円がいかがわしいお金だなんて、実際どうつくられたかなんて私には分かりません」
「汚いお金だから4億円を何が何でも露見したくないっていうのは今でも違うと言いたい」
 こう石川議員が懸命に食い下がると、検事はこう言い切ってみせた。
「汚いお金だっていうのは、検察が勝手に言ってるだけで、別に水掛け論になるから相手にしなくていいんだよ。証拠ないんだから」
 自ら所属する検察に対して「勝手に言っているだけ」「証拠ないんだから」とは、あまりにデタラメ過ぎる。こんないい加減な聴取で国会議員を逮捕、起訴するなんて本当にフザケた話ではないか。こうまでもヒドイ人権侵害の話を報じないメディアの罪も重い。今の大手メディアは小沢一郎を抹殺するためだけに存在するのか。
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田代政弘検事 ウソの捜査報告書作成=検察審査会「起訴相当」議決に影響/小沢一郎氏裁判 第9回公判2011-12-16 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 

中国初の空母「ワリャーグ」 DigitalGlobeがウェブサイトで公開

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中国初の空母「ワリャーグ」、衛星画像を米企業が公開
2011年12月16日 12:30 発信地:ワシントンD.C./米国
 米衛星画像大手デジタルグローブ(DigitalGlobe)が撮影・公開した、黄海(Yellow Sea)を試験航行する中国初の空母「ワリャーグ(Varyag)」(2011年12月8日撮影、同15日公開)。
【12月16日 AFP】米衛星画像大手デジタルグローブ(DigitalGlobe)は15日、中国初の空母「ワリャーグ(Varyag)」が黄海(Yellow Sea)を試験航行している衛星写真をウェブサイトで公開した。撮影日は8日で、公開前に専門家が画像を精査したという。
 旧ソビエト連邦製の空母を改造したワリャーグは全長300メートル。中国政府は今月初め、ワリャーグが改修と試験を終えて2回目の試験航行に出たと発表していた。
 中国は海底資源に富む南シナ海(South China Sea)でベトナムやフィリピンなどと領有権を争っており、8月に行われたワリャーグの1回目の試験航行をきっかけに、国際社会では中国の海洋覇権拡大に対する懸念が強まっている。(c)AFP
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中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由2011-08-31 | 国際/中国
旧ソ連から買った中国の空母「ワリヤーグ」/有事の戦闘では弱いが、平時に発揮される中国空母配備の効果2011-07-14 | 国際/中国
バイデン副大統領訪中で米国が見せた中国に対する配慮/日米中のトライアングル、米中2国間の関係に2011-08-30 | 国際/中国
経済発展によるカネで軍拡を続ける中国 2010年度の国防予算は日本円で6兆292億円2011-01-10 | 政治〈国防/安全保障/領土〉

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